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すれ違いの我侭


 優しい顔して、貴方はホンット酷い。
「覚悟ならちゃんと出来てますよ」
 ご冗談でしょ?
「だから、いつでも言って下さい、蓮示さん」
 ああ、ダイスキなはずのその笑顔が、苛立たしくて目眩がする。
 
 おしておして、おしまくって、ようやく手に入れた貴方なのに、どうしてこんなこと言われちゃうの?
 貴方はオレなんか、本当はどうでもいいの?
 
 
 浮気疑惑が出たのは2日前のことだ。
 もちろん真相は浮気なわけはない。オレと一緒に歩いてたのは仕事仲間の女で、向こうにもこっちにもそういう気持ちは一切ない。
 でもすごく仲良さそうに歩いてた、しかも歓楽街方面で、という話に尾ひれ背びれがついて、彼女とオレが付き合ってるなんて噂に発展したようだった。
 
 その話が自分の耳に入ったとき、動揺したり怒ったりっていう気持ちはなかった。というかそういった噂の類には慣れているというのもあるのだろう。
 他人事のようにその話を聞き流したその内心で、それどころか、浅ましくもオレはそのとき期待していた。
 貴方が、オレに詰め寄ってくれるんじゃないか……そう、嫉妬して、怒ってくれるんじゃないか、と。
 
 そんなオレに向かって、貴方が言った台詞が。
「覚悟ならちゃんと出来てますよ」
 どういうこと? 意味がわからなくてオレは思わず首を傾げたのだけど、貴方が続けて口から紡いだ言葉に耳を疑った。
「別れたい、って言われるの」
 同時に悲しみと怒りが一気に押し寄せた。
 
 
 そりゃないよ。ねえ、あんまりじゃない。
 別れるって誰が? オレが、貴方と?
 離せるわけがない。オレが貴方にべた惚れなのは、貴方が一番わかってるはずでしょ?
 どれだけオレが付きまとって、貴方をおとしたと思ってるの。忘れているはずがないのに。
 
 逆に大声で詰め寄りたいのを堪えて、ああそうなの、とだけ言ったオレが、心の中でどれだけ泣きたかったかなんて、貴方は想像つかないんだろう。
 
 
 そりゃあオレは、そういった交流に関してはお世辞にも真面目な方じゃなかったと思う。
 何人とも付き合ったし、年上も年下も気にしない。必要とあらば性別だって無視するような稼業だし。
 でも貴方に対してだけは、オレは必死になった。今までに知らなかった自分の熱情を持て余す、そんな日々の中で縋って追って、貴方の隣にいることを許されたのは二ヶ月前。
 
 でも、貴方はオレがどんなに好きだ好きだと言っても、閨の中で甘い言葉を繰り返しても、赤くなって困った顔で笑うだけだった。
 それでも構わないと思っていた。赤面しているのを隠すようにあらぬ方向を見ようとするところとか、オレにかけてくれる声のあたたかさが、貴方の返事だと感じたから。
 
 だけどね。
 オレだって本当は思っている。
 怒ってほしい。そんなのいやだって、我侭言ってほしい。貴方の我侭をききたい。
 オレがいなくちゃダメなんだって言ってくれたら……独占欲をちらつかせてくれたなら、そんなふうにオレのことを好いてくれたら。
 
 ああ、辛い。恋人同士のはずなのに、オレはまだ片思い。
 貴方の心の奥底を求めて、彷徨い続けている。
 
 
 必死なオレの無言の抵抗、どうして縋ってくれないのとも、別れようとも言わないまま口を利かない一週間。
「大好きだから、嫌われたくないから、せめて物分りがいいと思ってほしいのに」
 ひどいと貴方が呟いて、オレの心が悲鳴をあげて。
 求め続けたすれ違いの我侭が、泣き虫な2人の間をゆっくりと満たすまで、そう、あと1時間。