豊徳園おとぎ村

権現山とお坊さん

     第4話  吹野ヶ原

とちゅうで何度か休み、腹ごしらえをしてはまた歩いた。

細い三日月が天空にさしかかるころ、ようやく権現山をこえる峠についた。

今登ってきた村の方向も、今からおりていく吹野ヶ原の方向も、

うす暗い月明かりのもとでは、やみ夜の底の世界だった。

「お坊さん、峠についたよ。

ここからはなだらかな下り坂が続くだけじゃ。

あとは楽だよ。」

甚平さんはお坊さんに言った。

二人はほっとしたのか、峠を下りはじめると、

ようやくいろいろと世間話しをしだした。

お坊さんが迷ったのは、どうやらたちの悪い馬子につかまって、

目が不自由なのをいいことに、わけのわからないところに

ほうり出されたらしい。

おまけにありったけのお金を取り上げられた。

「それは災難(さいなん)でしたの。

なんちゅう、ひどいことをする奴じゃ。」

と甚平さんは怒った。

しかし、お坊さんはいっこうに気にしていないようすだ。

「いやいや、私はひどいめにあったとはちっとも思っていないよ。

それよりも、おかげさまで甚平さんのようないい人に会えて、

とても気持ちのいい一日じゃったよ。

あの馬子が私をあそこにおろしてくれたから、私は甚平さんにあえた。

そして甚平さんには、人のやさしさや心のあたたかさをじっくりと

味あわさせてもらったよ。

ありがたい、ありがたい。

とてもいい経験をした一日じゃったよ。」

お坊さんは甚平さんの手を取って感謝した。

甚平さんはお坊さんの話しを聞いて、

なんだか馬子を悪く言った自分をはずかしく思った。

そして、甚平さんも一晩ですごいことを教わったような気がして、

お坊さんの道案内ができたことが、ありがたいことだと感じた。

 やがて東の空が白みはじめるころ、

権現山を降り、ようやくふもとの吹野ヶ原についた。

「お坊さん、ここが吹野ヶ原の東の端じゃ。大きなもみの木の下についた。

あとは馬車も走れる大きな一本道が西へ向かっているだけじゃ。」

甚平さんは自分達のいる位置をお坊さんに教えた。

ここまで来ると、お坊さんも大体の様子はわかるらしい。

「ここからは私にも道はよくわかる。

甚平さん、あとは私ひとりでだいじょうぶ。

それにしても、予想以上にひどい道じゃった。

甚平さんの案内がなかったら、とてもこえられる峠じゃなかったよ。

甚平さん、本当に助かったよ。ありがとう、ありがとう。」

ちょっと間をおくと、

「ところで甚平さん、お礼にいいことをひとつ教えてあげよう。

今日から数えて百八十一日目の朝、あなたの村の小高い丘に登りなさい。

そして朝一番の朝日が当たる土地を手にいれるのじゃ。

そこを耕して田畑とするのじゃ。」

お坊さんはそう言った。

甚平さんには何のことかわからなかった。

権現山の向こうがわが紅色に染まりはじめた。朝日がもうすぐ昇る。

ここちよい風がふき、一面のすすきがそよいだ。

ちッちッと鳥たちの鳴き声も聞こえる。

「じゃあ、私は行くから。甚平さんも気をつけてお帰り。」

お坊さんは、吹野ヶ原の一本道を西の方へ歩きはじめた。

甚平さんと太郎はしばらくその後ろ姿を見送っていた。

お坊さんの背中をちょうど朝日が照らしはじめた。

輝くお坊さんの後姿に甚平さんは思わず手をあわせた。


     (つづく  次回をお楽しみに

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