ルミルミはいつもぼんやりしていて、
どちらかというと、ひっこみじあんのおとなしい女の子でした。
ほんとうの名前はルミというのですが、名前をよんでも一回では気づかず、
たいていニ回、三回とよんでようやく気がつくので、
結局はじめからくりかえしてよぼうということで、
先生もともだちもみんな、ルミのことをルミルミとよぶのです。
さて、ようやくあたたかくなってきた春のことです。
ルミルミが学校の帰りに教会のうらがわにある森の方へちょっとまわり道をした時です。
ルミルミはすれちがったおばあさんからガラスのちいさなボトルをもらいました。
ボトルはすきとおっていて、中の水がピンク色にキラキラとかがやいていました。
それは、まるでボトルの中に幸せがとけこんでいるようにルミルミには見えました。
あまりにもきれいなので、ルミルミはそのボトルを家にもちかえり、
ずっとじぶんの部屋にかざっていました。
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ある日ルミルミはボトルの水をちょっとのんでみようかなと思いました。
でもふとおばあさんの言ったことを思いだしたのです。
「これをのむと一生こどものままでいられるんだよ。」
と言われたからです。
「こどものままだと、いつまでもお母さんにあまえられるし、
お父さんもかわいがってくれるし、あそんでばかりいられるし、
いいことがたくさんあるよ。」
でも、ルミルミはやっぱりまだけいけんしたことのない
お兄ちゃんやお姉ちゃんの世界、
それにお父さんやお母さんの世界をけいけんしてみたいなと思いました。
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つぎの日、ルミルミはおばあさんとであった教会うらの森で
おばあさんがあらわれるのをまちました。
さいしょのうちはいっしょにいたお友だちも、
ひとりふたりとおうちへ帰りはじめました。
そしてとうとうひとりっきりです。
そういえば、まわりはすこしうすぐらくなり、
森のはずれの家ではぽつりぽつりとあかりがつきはじめました。
「もうおばあちゃん、来ないね。来ないはずよね。約束してないもの。」
ひとりごとをいってルミルミが立ちあがろうとした時です。
「やあルミルミかい。ずいぶんまたせたね。」
あのおばあさんがまるでさっきからそこにいたようにとつぜんあらわれたのです。
どうしてルミルミの名前がわかったのでしょう。
どうしてルミルミがおばあさんをまっていたなんてわかったのでしょう。
ルミルミはふしぎにおもいました。
おばあさんは魔法つかいなのかもしれません。
なんだか気持ちがわるくなってきました。
でもルミルミはえがおでおばあさんに言いました。
「おばあちゃん、わたしこのボトルいらないわ。
わたしだって、お姉ちゃんやお母さんみたいに大きくなって、
いろいろなことやってみたいの。
いつまでもこどもなんていやだわ。
だからこのボトルかえすわ。ごめんなさいね。」
おばあさんは
「ああ、そうかい。気にすることはちっともないよ。」
といってルミルミからピンク色のボトルをうけとり、
さっさとポケットにいれてしまいました。
豊徳園おとぎ村(オリジナル童話)