日本性科学会
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論 文
腟ダイレーター 
-- 適応疾患と使用の実際 --
東京大学大学院医学系研究科健康学習・教育学分野 高橋 都
 
The indication and use of vaginal dilators
 Miyako Takahashi
Department of Social Gerontology,
School of Health Sciences amd Nursing, University of Tokyo
 
抄録
腟ダイレーターは、医療者の指導のもと患者自身が使用する医療器具であり、その使用目的は1.骨盤領域の放射線療法や外科手術に由来する腟内瘢痕形成や腟狭窄の予防、2. ワギニスムス・性交痛に対する腟周囲筋のリラクゼーション法の習得、3.腟欠損症における皮膚伸展による腟腔の形成、の3点に大別される。腟ダイレーターの具体的使用方法は、使用の目的や個々の患者の状況などによって異なる。効果をあげるためには、ただ器具を渡すだけでなく、使用法に関する詳しい説明と継続的使用に向けた動機づけが不可欠である。医療者は、患者の実際の使用状況を確認し、良好なコミュニケーションを保ちながら長期的にフォローアップすることが肝要である。
 
Abstract
Vaginal dilators are smooth plastic or rubber cylinders made in graduated sizes. The purpose of vaginal dilators include; 1. To prevent vaginal stenosis caused by radiation therapy in the pelvis, vaginoplasty for gynecological cancers and sex reassignment surgery, 2. To learn to relax the pelvic muscles to prevent dysparuenia caused by involuntary contraction of the muscles, 3. To create a new vaginal cavity for women with vaginal agenesis by stretching the skin of the vaginal dimple. The usage of vaginal dilators varies according to need and the individual patient's conditions. In prescribing vaginal dilators, medical professionals need to explain in detail their usage and any associated complications to the patients. To be effective, it is extremely important to keep motivating the patient and to continue follow-up over a long period.
Key Word: vaginal dilator, indication, post-treatment care
 
I はじめに
腟ダイレーター(vaginal dilator)は、腟内腔の狭窄、ワギニスムス(腟痙攣)、腟欠損症などの治療に効果的な医療器具である。しかし、その具体的使用法を詳細に述べた文献は少ない。本稿では、先行文献や海外の医療機関がインターネット上で公開している情報を参考にして、腟ダイレーターの適応疾患や使用法の実際についてまとめた。
 
II 腟ダイレーターの効用
腟ダイレーターは尖端が丸みを帯びた筒状の医療器具であり、プラスティック製またはゴム製で、腟狭窄予防用の場合、通常長さは約14-18センチ、太さは1センチ程度から数センチまで3、4段階に分かれている(写真1)。
 使用の適応となる疾患を表1に示す。使用目的は、1.骨盤領域の放射線治療や外科手術に由来する腟内瘢痕形成や腟狭窄の予防、2. ワギニスムス・筋緊張による性交痛における腟周囲筋のリラクゼーション方法の習得、3.腟欠損症における皮膚伸展による腟腔の形成、の3点に大別できる。放射線治療後の腟狭窄予防を目的とした使用は国内では少ないが、欧米では術後ケアの一環として一般的に用いられている1-4)
 
写真1日本性科学会製の膣ダイレーター
(長さ14cm、4サイズセット)
 
表1 腟ダイレーターが適応となる疾患や状態
■ 骨盤領域の放射線治療後
■ 婦人科がん手術における腟形成術後
■ 男性から女性への性別適合手術における腟形成術後
■ ワギニスムス(腟痙攣)・筋緊張由来の性交痛
■ 腟欠損症
 ・ 外科的腟形成術後
 ・ 皮膚伸展による腟腔形成時
 
III 腟ダイレーターの使用法
腟ダイレーターを「いつから」「どの位の頻度で」「どのように」「いつまで」使用するかは、使用の目的や患者の医学的状況などによって異なる。以下、各使用目的別の使用法について述べる。
 
(1)骨盤領域の放射線治療に由来する腟狭窄の予防
 放射線治療のあとには長期に渡って瘢痕形成が生じ、進行すると腟狭窄に至って性交や婦人科内診に大きな苦痛を伴うことが少なくない。腟ダイレーターを用いて腟壁の瘢痕収縮を予防することで、腟内腔の幅と深さが保持され、性交や内診に伴う苦痛を緩和することができる。性交を望まない場合でも、内診の苦痛を減らすことによって婦人科受診に対する患者の抵抗感を減じることができ、診察を容易にするとともに治療後の受診率の改善が期待できる3)表2は、骨盤領域の放射線治療に伴う腟狭窄予防を目的とした腟ダイレーターの使用について、欧米のいくつかの医療機関や非営利患者支援団体がインターネットで公開している患者向けの記載を比較したものである。 
 なお、腟-ペニス性交は腟ダイレーターと同等の腟狭窄予防効果を持ち、放射線治療後のケアに関しては「週2、3回性交がある場合には腟ダイレーターを使う必要はない」とする記載が多い1,3,6,7)
 
表2 骨盤領域放射線治療後の腟ダイレーター使用法
  オハイオ州立大病院5)
(アメリカ)
ロイヤル・マーズデン病院6)
(イギリス)
クイーンエリザベス2世病院7)
(カナダ)
プール 病院8)
(イギリス)
アメリカがん協会1)
(アメリカ)
開始時期 放射線治療終了後
2-4週間後
放射線治療終了後
4週間後
放射線治療終了後
1-2週間
放射線治療終了後
4週間後
放射線治療による腫脹が改善した後早期に
使用頻度
狭窄度に応じて
a) 10日連続→週3回
b) 30日連続→隔日
c) 週3回
週3回 1ヶ月連日
その後半年間週5回
その後週2回
定期的に
(性交が週2回以上
あるなら不要)
週3回
使用方法 挿入して数分そのままにし、出して再挿入を数回くりかえす 挿入して3-5分そのままにし、出して再挿入を数回くりかえす 数度出し入れする
(全体で10-15分間)
数度出し入れした後
3-5分間入れたままにする
挿入後10分間そのままにする
使用期間 生涯 生涯 -* -* 生涯
* -:記載なし
 
(2) 外科手術に由来する腟狭窄の予防
 婦人科がん・腟欠損症における腟形成術や、男性から女性への性別適合手術(Sex Reassignment Surgery: 以下SRS)における腟形成術の後にも、瘢痕形成から腟狭窄に至ることが少なくない。外科手術に由来する腟狭窄は、術式、手術の成功度、感染症の合併などによって、その程度や術後ケアが大きく異なる。SRSの術後ケアの使用例として、一日4回15-20分の拡張を1ヶ月、その後2ヶ月は一日2-3回、さらに3ヶ月は一日1回、半年をすぎたら拡張の必要はないとする例9)や、2-6ヶ月間一日3-4回30-60分の拡張を推奨する例10)もある。外科手術後の使用法を一般化することは困難であり、医療者は個々の患者の状態を重視するとともに、手術後も長期にわたって経過観察をし、腟ダイレーターの使用を推奨して患者を動機づけることが重要である。
(3) ワギニスムス・性交痛における腟周囲筋のリラクゼーション法の習得
 腟ダイレーターは、腟周囲の筋肉が不随意に攣縮をおこすワギニスムスの治療にも用いられ、国内では従来この目的に使用されることが多かった。ここで重要なのは、腟ダイレーターの使用目的が腟の物理的拡張ではない点である。ワギニスムス治療は、自律訓練法などによる全身のリラクゼーション、患者自身やパートナーによるタッチング、自分で行う挿入練習、パートナーによる挿入練習、ペニスの挿入練習など、多段階から構成される一連のプロセスである11)。挿入練習は、筋の不随意的な緊張だけでなく、その背景にある患者の性器への嫌悪感や挿入への恐怖なども解消することを目指しているため、治療場面では患者の不安、躊躇、恐怖が自然な形で取り上げられて対処される必要がある11)。実際の挿入練習にあたっては、通常はまず綿棒から始め、タンポンのアプリケーター、自分の指などを用いたあと、サイズの異なる腟ダイレーターを使う。まずもっとも細いサイズが無理なく挿入ができるようになったら、一段階ずつサイズをあげていく。練習はケーゲル体操と併せて行われ、腟周囲の筋の緊張と弛緩をくりかえし、腟を弛緩させたタイミングでダイレーターを挿入するようにする。このような練習によって、患者は筋の緊張と弛緩を意識し、自らコントロールできるようになる11, 12)。腟ダイレーターを用いた同様の手法は、筋緊張に由来する性交痛全般に対しても応用できる。
(4) 腟欠損症における皮膚伸展による腟腔の形成
  腟ダイレーターは、腟欠損症の治療において、外科的手技によらず皮膚を伸展させて腟腔を形成する目的で使用されることもある。この場合、腟部分の皮膚に圧力を加えて徐々に腟腔を形成するため、当初は幅1.5センチ、長さ2-3センチ程度のごく小型のダイレーターを用い、サイズを増していく。使用前に入浴して伸展部の皮膚を柔らかくするとよい13)。使用の開始年齢は、患者自身が自分の状態を理解して腟ダイレーターを使用できる年代が好ましく、思春期以降(性的関係を持つ時期)が適切である14,15)表3にいくつかの医療機関における使用方法を示す。
 
表3 腟欠損症に対する腟ダイレーター使用法
  ボストン小児病院13)
(アメリカ)
ハマースミス病院グループ14)
(イギリス)
ミシガン大学病院15)
(アメリカ)
使用頻度 1回20分挿入 1日に3回、10-15分間ずつ挿入
→2-4週間後、日に2回
→正常サイズに拡張後は週1回
(性交があれば不要)
日に2-3回、20-30分挿入
正常な大きさに
伸展するための使用期間
3-18ヶ月
(使用頻度による)
6-12週間 14-16週間
 
 患者自身による挿入の方法について、アメリカがん協会は患者配布用冊子1)の中で表4のように記載している。この方法は、ワギニスムス・性交痛や外科手術後のケースにも応用できると考えられる。(SRSにおける腟形成術を受けた患者向けのさらに詳細な挿入法については、引用インターネットサイト16)を参照。)挿入時に用いる潤滑ゼリーは必ず水溶性のもの(リューブゼリー®、K-Yゼリー®など)を用い、ワセリンなどの使用は避けねばならない。
 表5に示したような症状が出現した場合は、腟ダイレーターの使用を中止して医療者に相談するよう指示する。特に放射線治療後の場合、腟ダイレーターの使用開始後に少量の出血が続くことがあるが、出血量が増えたり長期間続いたりする場合には医療者に連絡する。挿入時の鋭い疼痛や物理的抵抗がある場合には、無理に押し込むことをしない。帯下の増加や発熱など、感染症を疑う症状が出現した場合も、連絡が必要である。
 
表4 腟ダイレーターの挿入の実際
  1. 腟ダイレーターに水溶性のゼリーを十分ぬります。
  2. 少なくとも15分はプライバシーが保てる時間を選んで、ベッドに横になります。腟ダイレーターを、優しくゆっくり腟に挿入します。腟がきつく感じるときには無理に入れず、その場所で挿入を止めたまま、腟筋肉の緊張とリラックスをくりかえします。
  3. 腟の力が抜けたら、腟ダイレーターを奥にすべりこませます。腟ダイレーターをすっかり挿入するまでに、腟筋肉の緊張とリラックスを数回くりかえす必要があるかもしれません。排便するときのようにしゃがみこんで腟の筋肉を外に押し出すような姿勢をとると、楽に挿入できる人もいます。
  4. 腟ダイレーターをできるだけ奥まで挿入したら、少なくとも10分間はそのままにしておきます。その間は本を読んだり、テレビを見たり、誰かと電話で話をしたりするのもいいでしょう。もし腟ダイレーターがすべり出てきたら、もっと奥に、そっと挿入してください。
  5. 腟ダイレーターを取り出したら、刺激の少ない石けんと水で洗います。石けんはよく洗い流して下さい。石鹸の成分が腟ダイレーターの表面に残っていると、次に挿入したときに腟に刺激を与えてしまうことがあります。
文献1(日本語版p76-77)より引用
 
表5 使用を中止するとき
■ 多量の出血
■ 鋭い疼痛
■ 挿入への物理的抵抗
■ 帯下の増加
■ 発熱
 
IV むすびにかえて
 腟ダイレーターは患者自身が自宅で使用する医療器具であり、継続的使用に向けて患者を動機づけることが不可欠である。医療者は単に器具を渡すだけでなく、使用方法や注意点について患者に詳しく説明し、実際の使用状況を確認する必要がある。最大の効果をあげるためにもっとも肝要なのは、患者と良好なコミュニケーションを保ちながら長期的にフォローアップすることであろう。
 
謝 辞
 本稿を準備するにあたり、貴重なコメントを下さった、岡山大学泌尿器科永井敦先生、埼玉県立医科大学総合医療センター形成外科高松亜子先生、国立千葉病院婦人科大川玲子先生、日本赤十字医療センターカウンセリングサービス金子和子先生、東京家庭裁判所医務室技官針間克己先生に深謝致します。
引用文献および引用インターネットサイト
 
1) American Cancer Society: Sexuality & Cancer: For the Woman Who Has Cancer, and Her Partner. 1999 ( 高橋都・針間克己訳: がん患者の幸せな性 - あなたとパートナーのために. 春秋社, 東京, 2002)
2) Gosselin TK and Waring JS: Nursing management of patients receiving brachytherapy for gynecologic malignancies. Clinical Journal of Oncology Nursing, 5: 59-64, 2001
3) Schover L: Sexuality and Fertility After Cancer. John Wiley & Sons, New York, 1997
4) Schover L: Sexual Dysfunction. Psycho-Oncology. Holland JC ed., Oxford University Press, New York, 494-499, 1998
5) The Ohio State University Medial Center“Health For Life: Vaginal Dilator”
www.acs.ohio-state.edu/units/osuhosp/patedu/Materials/PDFDocs/women-in/gynecolo/vag-dil.pdf
2003年 5月1日アクセス
6) The Royal Marsden Hospital NHS Trust“Feminine care (during and after radiotherapy to the pelvis) -- A guide for women with cancer”
http://www.royalmarsden.org/patientinfo/booklets/femininecare/index.asp 2003年 5月1日アクセス
7) Queen Elizabeth II HEALTH Sciences Center“Use and Care of Your Vaginal Dilator”
www.cdha.nshealth.ca/patientinformation/nshealthnet/0180.pdf
2003年 5月1日アクセス
8) Poole Hospital NHS Trust“Treatment and Advice: Vaginal Dilation”
http://www.poolehos.org/gynae%20cancer/treatment.htm#Vaginal%20Dilation 2003年 5月1日アクセス
9) Dr. Chettawut Tulayaphanich Cosmetic and Sex Reassignment Surgery in Thailand “SRS aftercare and dilating”
http://www.chet-plasticsurgery.com/
2003年 5月1日アクセス
10) Yanhee General Hospital“Sex Reassignment Post-operation care”
http://www.yanhee.net/serv_sexreass.htm 2003年 5月1日アクセス
11) 野末源一、金子和子: 女性の性器能障害: 腟痙. 日本性科学会監修,セックスカウンセリング入門.金原出版, 東京, 148-152, 1995
12) Women's Health Info“How To Use Vaginal Dilators”
http://www.lovecorporation.hypermart.net/articles/women/dilator.htm
2003年 5月1日アクセス
13) Center For Young Women's Health, Children's Hospital of Boston“Instructions on the Use of Vaginal Dilators for the Treatment of Vaginal Agenesis - A Guide for Teen Girls”
http://www.youngwomenshealth.org/instructions.html
2003年 5月1日アクセス
14) Hammersmith Hospitals NHS Trust“Vaginal Dilator Therapy”
http://www.femgenab.org.uk/dilator.htm
2003年 5月1日アクセス
15) Foley S and Morley GW: Care and counseling of the patient with vaginal agenesis. Female Patient 17:73-80, 1992
16) “Zen and the Art of Post-Operative Maintenance”
http://www.intelleng.com/zen1.html
2003年 5月1日アクセス