無料で読める家庭の医学  病気・疾患の解説、英語名、原因、症状、診断方法、治療方法、処方例などをわかりやすく記載
家庭の医学


肺炎pneumonia J819 市中肺炎・院内肺炎
誤嚥性肺炎・マイコプラズマ肺炎・クラミジア肺炎


■肺炎の原因と分類・症状
肺(呼吸した空気を含ませる袋である肺胞lumonary alveoliと、肺の機能を果たす細胞組織である肺間質) に起こる炎症を総称して肺炎と呼んでいます。 肺炎の分類の仕方のひとつに、一般社会環境の下で罹る市中肺炎(在宅肺炎)と病院で入院中に罹るいわゆる院内感染を院内肺炎と呼んで分けています。



●市中肺炎(しちゅうはいえん)
市中肺炎の中で代表的また定型的な感染細菌は肺炎球菌があります。 この菌による大葉性肺炎の病気は次のように分けられています。
①充血期(肺組織の顕著な充血)
②赤色肝変期(滲出液が凝固して肺が硬化し充血も顕著)
③灰色肝変期(充血は減退して白血球が集結する)
④融解期(繊維素及び滲出液が融解吸収されて肺は柔軟性を帯びる)



●院内肺炎(いんないはいえん)
院内肺炎は高齢者や糖尿病その他の疾患で免疫機能が低下している場合に、健康体では普通罹患しない細菌にかかって起こす肺炎です。
グラム陽性球菌に属する黄色ブドウ球菌は健康者では炎症を起こしませんが抵抗力が低下している入院中の患者であれば肺炎を起こす場合があります。



●誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
誤嚥性肺炎とは高齢者が嚥下反射(えんげはんしゃ)swallowing reflexや咳嗽反射(がいそうはんしゃ)の能力が低下するために、食べたものや口腔内常在菌を気道内へ誤って吸引してしまうことから引き起こされる肺炎です。
特に夜間に嚥下反射の機能低下がみられ、誤嚥が多発する報告があります。

非細菌性(非定型性肺炎)ではマイコプラズマ、レジオネラ、クラミジア、ウイルスなどによるものがあります。



●マイコプラズマ肺炎mycoplasma pneumonia
マイコプラズマMycoplasmaは自己増殖性の微生物の中で最小ですが、細菌やウイルスには属しません。マイコプラズマの種で病原性が確認されているマイコプラズマニューモニエMycoplasma pneumoniaeが肺炎を引き起こします。 どんな環境下でもほこりや患者が咳をする時の飛沫から感染し、症状は風邪のように咽頭痛、発熱、咳、痰などですが、酷い咳が続く場合はマイコプラズマ肺炎を疑います。



●レジオネラ症Legionnaires' desease:在郷軍人病(ざいきょうぐんじんびょう)
この病気の原因菌はレジオネラ菌legionella pneumophilaで、誰でも起こす可能性のある肺炎と考えるべきで、病院やビルの給水関係の設備風呂や温泉施設など水周りの部署に繁殖し易い菌です。 1976年夏にフィラデルフィアで開催された米退役軍人集会で200人以上が肺炎に罹り29人が死亡する事態を生じたのがきっかけで、この菌が分離(起因菌として判定)されました。
また、レジオネラ(在郷軍人会の意)Legionnaireからこの菌の名前と病名が起こりました。



●クラミジア肺炎Chlamydia pneumonia
偏性細胞内寄生性微生物であるクラミジアに起因する肺炎で、市中肺炎の5~10%を占めると言われていますが症状は比較的軽い場合が多いようです。同種のものでは鳥類から感染するオウム病が知られています。



■治療:
各肺炎の治療薬としてテトラサイクリンtetracycline系やマクロライド系抗生物質macrolide antibiotics(MLs)が有効です。 (マクロライドとは大きなラクトン環がある抗生物質のことで、当剤は14~16員環を有しています。 (14員環:エリスロマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン・15員環:アジスロマイシン水和物・ 16員環:ジョサマイシン、ミデカマイシン、ロキタマイシンなど)




塵肺症(じん肺症):pneumoconiosis

■原因・症状:
じん肺症とは無機粉塵を吸入(一般的に鼻や口から吸い込む事)することにより引き起こされるびまん性(広範囲性)の繊維増殖性疾患で、吸入した各粉塵の名前を頭に付けて珪肺、石綿肺、アルミニウム肺などと呼んでいて、じん肺はその総称になります。

●アスベスト吸入で胸膜中皮腫へ進行
今日では特に職業的起因の石綿(アスベスト)吸入による曝露後(以降)の進行性の繊維化が問題となっており、アスベスト曝露後約40年で中皮腫を併発することもあります。それは職業的曝露環境から離れた後も繊維化病変が徐々に進行する場合があるためです。
胸膜腫瘍のなかでも世界的に急増しているのがこの胸膜中皮腫という悪性腫瘍で、 発病初期には無症状ですが、やがて胸痛や咳が出始め、多くに胸水貯留を認め、呼吸困難の 症状も現われ、肺ガンを併発することもあります。

*中皮とは胸膜腔、腹膜腔、心膜腔などの体腔の最表面を覆う扁平かつ多角形の細胞でできた 単層扁平上皮のことで、そこから発症する腫瘍を中皮腫と呼んでいます。



■診断・治療・処方例:
職業性の粉塵曝露歴とX線所見でじん肺の特徴が出ていれば臨床診断は容易に行えます。 早期病変による特徴的な陰影として、背側下部の胸膜直下に細い帯状の繊維化巣 を確認できます。
また、肺生検や気管支肺胞洗浄中にアスベスト小体が検出されればアスベスト肺と診断出来ます。

治療に関しては肺胞内に沈着した粉塵を洗浄・除去することは不可能なため、肺機能を保持と症状軽減することと合併症の早期発見及び治療を行います。

・軽症の気管支炎症状に対する処方例(以下の2薬を併用)
カルボシステイン(ムコダイン錠500mg) 3錠 分3   テオフィリン(ユニフィル錠200) 1錠 分1
・気管支炎の症状が重い場合の処方例(以下の2薬を併用)
テオフィリン(テオドール錠100mg) 4錠 分3   プレドニゾロン(プレドニン錠5mg) 3-4錠 分3


じん肺:pneumoconiosis   中皮:mesothelium   中皮腫:mesothelioma    曝露:exposure   アスベスト(石綿)asbestos
びまん性:diffuse   アスベスト肺:asbest lung,asbestosis   肺胞:pulmonary alveoli    胸膜腔:pleural cavity




肺膿瘍はいのうよう・肺化膿症かいかのうしょう

■原因:
●肺の炎症から壊死を起こし崩れた膿瘍の空洞に膿汁や空気が溜まる。
肺膿瘍は壊死性の感染症で肺化膿症の特殊型と言えますが、同じ病気として置き換えられる場合も多くあります。普通この病気は意識障害があったりアルコールや違法薬物、鎮痛剤などで感覚が鈍っている場合に起こりやすく、また歯肉炎や歯周病など口腔衛生上問題がある高齢者などがその分泌物を誤嚥したために起こる場合もあります。

病原体はグラム陰性桿菌などの嫌気性細菌が最も一般的ですが嫌気性細菌と好気性細菌の両方が関係する場合もあります。好気性細菌ではレンサ球菌が多くみられます。

一般に肺炎から始まり、肺炎の慢性型のものが悪化して組織破壊(肺壊疽)がみられ、膿瘍が形成されます。その後膿瘍が気管支内部で崩れてその内容物が喀出されたあと空洞が出来、その中に膿汁や空気が溜まりニボー像を形成*します。また喫煙者などが肺腫瘍を起こしている場合、痰などと共に排出されるべき細菌が留まってしまう結果膿瘍を起こす場合もあります。

*ニボー像:気液界面、鏡面形成ともいい異常陰影内部に気体と液体が混在すると独特の 液面形成が見られます。原因菌は好気性菌が多く様々で、黄色ぶどう球菌や大腸菌、レジオネラ肺炎菌なども関係してきます。



■症状:
症状は肺炎とほぼ共通していて、慢性的に疲労感、脱力感、食欲不振、発熱、膿や血液の混じる場合のある喀痰(かくたん)、呼吸困難、胸痛などがあげられます。咳が激しくなると喘鳴(ぜんめい)も伴い、一層苦しくなります。膿性痰と言って痰に膿が混じることもよくみられます。そうなると口臭に膿臭い悪臭や味気を帯びます。



■診断・治療:
診断は上記の肺炎の症状(ニボー像)を観察するほか、胸部X線所見からも判断します。X線撮影では肺炎病巣の中に高密度の均等影か腫瘤状陰影が見られます。

痰が溜まっている場合は痰を吐き出しやすくするための姿勢や呼吸法を行う体位ドレナージを行いますが、それでもうまく排出されない場合はチューブを使ってはき出します。 治療薬は抗生剤が主体で、静注及び患者の熱がなければ経口投与が行われますが、遷延して症状が悪い場合には外科的切除も行います。


肺膿瘍:lung abscess  肺化膿症:lung abscess・pulmonary embolism  肺炎:pneumonia   ニボー:niveau
ニボー像:air-fluid level  発熱:pyrexia  喀痰:spitting  呼吸困難:respiratory distress  胸痛:thoracodynia
喘鳴:stridor  肺壊疽:pulmonary gangrene   レンサ球菌:streptococcus



肺癌(はいがん)lung cancer,pulmonary carcinoma,carcinoma of lung:
小細胞癌・扁平上皮癌・オカルト肺癌



■概要:
肺癌は気管支肺胞系の上皮細胞から発生するがんで、 日本に於いても年々患者数が増加し続ける病気です。 分類上扁平上皮癌squamous cell carcinoma(SCCと略される 場合もあり、小細胞癌と混同しやすい。) と腺癌adenocarcinoma,glandular carcinoma(粘液産生能があるものなどの癌) が肺癌の全体の約8割を占めています。



■原因:
●喫煙との関係:
上記の扁平上皮がんと小細胞癌の占める割合が高いのは喫煙との関係が深いためと考えられます。喫煙が原因視される場合、肺門部の中枢気管支に発生する率が高くなります。また別に発生の多い腺癌は非喫煙者にもみられます。
小細胞肺癌はクッシング症候群、SAIDH、Lambert-Eaton(ランバート-イートン)筋無力症症候群のような腫瘍随伴症候群を合併するリスクが高まります。

●クッシング症候群:
下垂体成形の過剰や下垂体腺腫によるクッシング病や副腎皮質の腺腫やがんなどが原因で副腎皮質から分泌される糖質ステロイドの過剰により引き起こされる症候群です。 成人女性に多くみられ中心性肥満、満月様顔貌(浮腫状で丸顔。皮下組織萎縮により毛細血管が透けてしまうため赤ら顔になる)、多毛、紫赤色皮膚線状(腹部などミミズが這ったような線が露呈する)などの症状があります。

●オカルト肺癌:
扁平上皮癌のひとつにオカルト肺癌occult lung cancer というものがあり、これはオカルト癌の一つで、悪性腫瘍が発見されたにも係わらず レントゲン撮影やCTスキャンでは原発腫瘍(転移増殖する前の最初に出来た腫瘍) や腫瘍の転移に関して不明な点がある場合にこう呼んでいます。 オカルトといっても心霊的などの意味ではなく、陰性のものもしくは隠れたものがある場合に この表現を用いています。 尚、気管支ファイバースコープで確認出来た場合には レントゲン・オカルト肺癌 roentgenographically occult lung cancerと呼んでいます。 転移も多くみられ、血行性、リンパ行性転移、隣接性進展があります。



■症状:
初期的な症状ではしつこい咳や胸痛、呼吸時にぜいぜい音がすること、息切れ、血痰、声枯れ、 首や顔のむくみなどに現われます。また場合によってはその症状が出る前に転移によって 頭痛、腰痛、胸痛、肩痛、などが現われたりどのがんでも共通していることとして疲労感、 倦怠感、食欲不振、体重減少なども現われることがあります。
小細胞がんの症状では顔がむくんで丸顔になったり、全身皮膚が黒ずんだり、高血圧、高血糖 などの症状もあります。



■診断方法:
鼻や口からファイバースコープを挿入して気管支内を観察、組織を採取して検査 したり、肋骨の間から針を差し込んで細胞を取り出して検査する穿刺(せんし)吸引細胞診という方法も とります。他にも癌細胞の疑いのある部位に器具を差し込んで細胞を採取、検査することが行われています。



■治療方法:
小細胞癌small cell carcinoma,SCC (正体不詳の未分化癌でよく肺に発生し、増殖のスピードが速めで、転移も起こしやすい) の場合には抗癌剤など化学療法や放射線療法がとられます。 非小細胞癌の場合には手術を含め免疫療法などが講じられます。 肺癌初期の場合の術後5年の生存率はおおよそ70%ですが末期の場合は5%程度になります。

肺癌に用いる抗がん剤の幾つかとその副作用のうち重大なもの
製品名 薬品名 重大な副作用
アルキル化剤
エンドキサン
Endoxan
塩野義
シクロホスファミド
cyclophosphamide(CPA)
ショック、アアナフィラキシー様症状。骨髄抑制。出血性膀胱炎、排尿障害。イレウス、胃腸出血。 間質性肺炎、肺繊維症。心筋障害、心不全。抗利尿不適合分泌症候群(SIADH) 。 皮膚粘膜眼症候群など。
アルキル化剤
エスキノン
Esquinon
三共
カルボコン
carboquone(CQ)
骨髄抑制、汎血球減少。ショック。間質性肺炎など。
UFT
大鵬
代謝拮抗剤
テガフール・ウラシル
tegfur・uracil
骨髄機能抑制、溶血性貧血。劇症肝炎などの肝障害。腸炎。白質脳症。狭心症、 心筋梗塞、不整脈。急性腎不全。ネフローゼ症候群。間質性肺炎など。
フィルデシン
Fildesin
塩野義
アルカイド系
硫酸ビンデシン
vindesine sulfate(VDS)
骨髄抑制。抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)。麻痺性イレウス、消化管出血。 間質性肺炎。心筋梗塞。脳梗塞。神経麻痺、痙攣、聴覚異常、筋力低下、知覚異常。 アナフィラキシー様症状。
アドリアシン
Adriacin
協和発酵
抗生物質
塩酸ドキソルビシン
doxorubicin hydrochloride
心筋障害、心不全。汎血球減少、骨髄機能抑制。ショック。萎縮膀胱。


肺癌:bronchogenic cancer;lung neoplasm  小細胞癌:small cell carcinoma,SCC  扁平上皮癌:squamous cell carcinoma
オカルト肺癌occult lung cancer   レントゲン・オカルト肺癌  roentgenographically occult lung cancer
クッシング症候群:Cushing syndrome   下垂体:hypophysis cerebri  副腎皮質:adrenal cortex   


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