【家庭の医学】総合目録
急性胃炎acute gastritis
現代人は食生活の乱れや、暴飲暴食、過度の飲酒、香辛料を過剰に含む食事、ストレス、 薬品の誤飲など胃を傷める機会は多分にあります。 それらは全て急性胃炎を引き起こす要因になっています。 つまり急性胃炎は機械的・物理的・化学的な刺激や細菌や毒素の刺激などが原因となって炎症を起こす胃粘膜の症候性疾患です。

胃粘膜に発赤、浮腫、びらん(皮膚、粘膜の表面のみの欠損)などの炎症反応が急激に発生するもので、この状態が激しいものを急性胃粘膜病変(きゅうせいいねんまくびょうへん)acute gastric mucosal lesionと呼んでいます。胃炎は急性単純性胃炎、急性腐食性胃炎、急性感染性胃炎、急性化膿性胃炎などに分類されています。しかし、家庭医学レベルでは詳細な分類は特に必要ではなく、これら全体を急性胃炎と考えてよいと思います。

●急性胃粘膜病変acute gastric mucosal lesion(AGML)
急性出血性胃炎、出血性びらん、急性潰瘍のそれぞれの病変は同一混在するケースが多く、一括・総称するほうが病態が把握しやすい場合もあるので急性胃粘膜病変の呼び方があります。急性胃炎は軽度の急性胃粘膜病変にはいります。

原因として重要なものには鎮痛薬(非ステロイド系消炎鎮痛薬)の長期服用があります。解熱鎮痛剤が胃を傷めることは一般的に知られていますが、それが重篤な障害の原因となることまでは考えていないかも知れません。また他の原因では大酒、強い刺激の香辛料の摂り過ぎとストレスなども多く見られます。 極度の緊張の時などに胃がきゅーっと痛むのもこの病変のきっかけになります。
  • ■症状・診断:
    過度の飲酒などを行った際、数時間から約一日でみぞおちから上腹部にかけて不快感、圧迫感、痛み、きしみ、吐き気などが生じます。十分な問診によって薬、嗜好品などによる化学的原因か、機械的原因か、寄生虫によるものかの判断を容易にすることが出来ます。

    状態が悪いと嘔吐や吐血を起こすこともあり、その場合は緊急に内視鏡検査をうけることが最善です。
■治療:
深刻な状態でなければ薬剤使用で治癒可能で、自然寛解も出来ます。 薬の種類では制酸薬、H2受容体拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬、胃粘膜保護薬などを数日服用でかなり改善されます。
以下を症状に応じて適宜選択:
ガスター錠20mg、ザンタック錠150 150mg、アシノン錠150mg
プロテカジン錠10 10mg、タガメット錠200mg パリエット錠10mg
ネキシウムカプセル20mg、オメプラール錠20 20mg

【経口摂取が出来ないとき】オメプラール注用20 20mg、ガスター注射液20mg 2mL
セルベックスカプセル50mg、ムコスタ錠100mg、アルサルミン細粒90%、ソロン細粒20%


胃潰瘍gastic ulcer・十二指腸潰瘍duodenal ulcer
潰瘍とは一般的に粘膜や皮膚の表面を越えて内部に組織の欠損があるもので、その欠損の深さにより4段階に分類されています。表面粘膜層の欠損のみの場合はびらん(糜爛)として扱われます。

胃潰瘍は、胃粘膜の一部が粘膜筋板を越えて欠損する病気で、 これが十二指腸内部の十二指腸壁の粘膜下層以深まで組織が欠損すれば十二指腸潰瘍になります。胃潰瘍は急性と慢性がありますが、通常は慢性の胃潰瘍をさしています。

急性胃潰瘍の場合は急性出血性胃炎、出血性びらんなどを包括・総称して急性胃粘膜病変acute gastric mucosal lesionAGMLと呼んで区別する場合もありますが胃及び十二指腸の病態の分類の方法によっては病名を異にする場合もあります。 また、胃と十二指腸の潰瘍をあわせて消化性潰瘍と呼んでいます。この病気は胃がんに比べると若い人に多くみられ、季節的には冬に発生する頻度が高いのが特徴です。
■原因:
胃は食べた物を殺菌・消化させるために胃酸やタンパク質分解などをする消化酵素ペプシンを分泌していますが、自分の胃粘膜は胃の粘液分泌や血流などで防御する仕組みが出来ています。しかしそれが何らかの理由でそのバランスが崩れ、胃が自分で出した消化液で粘膜に潰瘍を起こすことがあります。また*ヘリコバクターピロリ菌やストレス、喫煙、大酒、過労、消炎鎮痛剤などもこのバランスを崩す要因と考えられています。

*ヘリコバクター・ピロリ菌:発育に最適な温度は37°であることもあり胃粘膜表面の粘液内に感染し菌が増殖・活性化する。鞭毛のある螺旋状(らせん状)のグラム陰性桿菌。1983年に存在報告され 1984年に胃炎・十二指腸潰瘍との関連が確認される。

非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)の長期間の服用が原因で消化性潰瘍を起こす事も多分にありますので、リウマチその他でこの非ステロイド系消炎鎮痛剤を長期使用する場合には慎重でなければならないでしょう。 風邪などの一時症状で使用する場合には特に問題ありません。
■症状:
痛みの部位は心窩部(みぞおち)が代表的で背中の方まで痛みを感じる事もあります。 出血もよくみられ、一度に大量に起こると吐血(口から血を吐く)や下血(便に混じる)をみますが、少しずつ時間をかけて出血する場合は血液のヘモグロビンの影響で便が黒くなります(黒便)。

胃潰瘍の場合は食事をして胃に食べ物が入った時に痛みだし、十二指腸潰瘍の場合は空腹時や夜間に痛み出す場合が多くその時、食事をすることで痛みが軽減するという特徴があります。 お腹の痛みが急激な場合は胃や十二指腸の内壁に孔が開いて内容物が漏れて腹膜炎を起こしている場合が多くみられます。

また痛みを堪えていたり、痛みが弱いために放置しておくと潰瘍部分に厚みを生じさせ、狭窄してしまい食べ物の通りが悪くなることもあり、その場合には手術が必要になってきます。
  • ■検査:
    X線二重造影法double contract radiography:
    バリウムを飲んで行います。潰瘍部分にバリウムが停留するため、造影で診断出来ます。また潰瘍の跡がある場合にも変形が見られますから診断出来ます。
内視鏡検査(胃カメラ):医師がその場で潰瘍の状態を細かに光学的に肉眼で検査出来ますから、診断の精度は極めて高いといえます。内視鏡の検査機械は日進月歩で小型化していますので、痛みも少なく検査を受けられる事が出来ます。内視鏡に接続されている器具で出血箇所を止血することなどの治療も行われます。 更に病変部位の組織の一部を掻き出して病理検査をすることも出来ますから潰瘍箇所ががん化しているかも正確に把握できます。
■治療:
従来は手術による潰瘍部分の除去などが主流でしたが、 H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)や、更に強力な胃酸分泌抑制作用をもつプロトンポンプ阻害薬(PPI)の開発によって薬の治療だけでも大きな効果が期待出来ます。しかし、プロトンポンプ阻害薬は保険適用上8週間以内の投与しか出来ませんが、その後引き続いてH2ブロッカーを長期間使用することになる場合もあります。
ヘリコバクターピロリ菌はかなり高い確率でこの潰瘍に関係していますから、この菌の除去によって再発率を低下させた実績が蓄積されつつあります。

●除菌に用いる処方薬の一例:3剤併用療法
プロトンポンプ阻害薬(PPI)、アモキシリン、クラリスロマイシンの3剤併用療法を実施します。
ネキシウムカプセル20mg(他社製パリエット錠10mg、タケプロンOD錠30 30mg)、サワシリンカプセル250 250mg、クラリス錠200 200mg
(他に組み合わせされたパック製剤として、ランサップ400-800シート、
ラベキュアパック400-800シート)

クラリスロマイシン耐性菌の増殖で除菌不成功の場合には、クラリス錠に代わってフラジール内服錠250mgを処方。 他の処方薬の一例:タケプロンOD錠30 30mg(PPI)、グレースビット錠50mg(抗菌剤)、 パリエット錠10mg(PPI)、
【和英医学用語】
胃潰瘍:gastric ulcer;stomach ulcer  十二指腸潰瘍:duodenal ulcer 
急性胃粘膜病変:acute gastric  mucosal lesion (AGML) X線検査:x-rays examination
内視鏡:endoscope  胃酸:gastrichydrochloric acid 消化酵素:digestive enzyme

ペプシン:pepsin ヘリコバクターピロリ:helicobacter pylori 
びらん:erosion プロトンポンプ阻害薬:proton pump inhibitor (PPI)


慢性胃炎chronic gastritis
慢性胃炎は表層性胃炎、萎縮性胃炎、肥厚性胃炎、随伴性胃炎の4類に分類することが出来ます。表層性胃炎は胃粘膜表面に赤い充血をみる炎症で、萎縮性胃炎では胃粘膜が萎縮して薄くなってしまい血管が透けて見えます。

原因としては、食べすぎ、大酒、喫煙、ヘリコバクターピロリ菌感染、加齢、胃液、十二指腸液、栄養障害、抗胃抗体などが関与していると考えられています。 中でもヘリコバクターピロリ菌helicobacter pyloriは一般で認知されるようになり、慢性萎縮性胃炎の主な原因がこの菌の慢性的な感染と考えられています。

慢性胃炎は殆どの場合無症状で内視鏡検査でも発見が困難なほどです。 表層性胃炎の場合は上腹部の不快感や鈍痛や胸焼けなどを覚えることもあります。
  • ■治療:
    食生活の乱れがあるならば食事を規則正しくし、暴飲暴食を避け、大酒をやめ ストレスを溜めないように心がけることが大切です。安静も必要な場合があります。 ヘリコバクターピロリ感染胃炎では除菌治療が有効で、胃潰瘍の治療をご覧下さい。

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