2時半ごろホテルに到着した我々は市内観光は一切せず、夜8時からの 試合に備えて部屋で休憩することにした。 私もやはり疲れていたのか熟睡したようだ。 夜8時から第一試合。緊張は全くない。 対戦相手は黒人の大男ルイス・リチャード。 レーティングを見ると私より100点以上低い。 啓 「まあ何とかなるだろ」 対局席について握手を交わす。 啓 「ん?何かうるさいな」 なんと対戦相手のリチャードは、ヘッドホンでジャズを聴き始めた。 それにしてもすごいボリュームだ。隣のオジサンも露骨に嫌な顔をしている。 大山十五世名人もまっ青の盤外戦術だ。 啓 「マナーの悪い奴だなあ」 ゲームは序盤早々相手にポカがでて、こちらがピースアップ(駒得)となる。 するとリチャードは突然すごい形相で考え始めた。 なぜかジャズも聞こえなくなっている。 リチャード 「いけねえ、いけねえ。ジャズで相手の思考を乱す作戦が うるさ過ぎてこっちがミスっちまった」 しかしいくら考えても挽回の手立てはなく、最後は綺麗なメイト(詰み)で 私の勝ち。 リチャード 「参ったぜ。俺のジャズ戦法を破ったのはお前が初めてだ。 次はもっといい作戦を考えてくるぜ」 啓 「頼むからやめてくれ」 |