第4期五段位争奪戦

 ちょうど30年前、新棋戦の五段位争奪戦がスタートした。
昭和53年から平成6年まで17年間続き、平成8年に発展的解消して今の彩の国名人戦
になっている。
優勝者には五段の免状が授与され、また前年の優勝者が翌年の準決勝にシードされる
おいしいシステムだったため、連覇が5回も出ている。
今考えれば、五段の免状をもらった人が翌年また出てくるのはどうかと思うが、学生だっ
た当時は何の疑問も抱かなかった。
 今回は昭和56年に行われた第4期のハイライトシーンをご紹介しよう。
初日を終え、勝ち残ったのは柴紀曙四段(大宮)、植原正則四段(行田)、田中昭利五段
(大井)、乳井柾雄四段(川口)、本田洋治郎四段(朝霞)、佐藤茂和四段(熊谷)の6人。
さらに2日目の準々決勝で、柴、田中、本田の3人に絞られた。
この3人に前年覇者の橋立雅明五段(秩父)が加わり準決勝がスタート。
組み合わせは、橋立−本田、柴−田中。
どちらも終盤にドラマがあった。
まずは橋立−本田戦から。第1図は先手が▲2一竜と桂馬を取って王手したところ。
              
 ここで△3四玉なら後手の勝ち筋だったが、本田さんは合い駒でしのぐ。
【第1図以下の指し手】 △2二歩▲1二竜△3四玉▲1六竜△6六角(第2図)
              
 先手がボロッと金を取れば、後手もボロッと角を取る。
これが次に△3九角成以下の詰めろで後手有望か。
答えはNO。 実はこの局面で後手玉に即詰みが生じている。
橋立さんは詰ましにいった。
【第2図以下の指し手】 ▲4五金△4三玉▲4四金打△同角▲同金△同玉▲4六竜
               △4五歩▲1七角(第3図)
              
 途中の▲4六竜で▲4五歩なら詰んでいた。本譜は詰まない。
ところが・・・
【第3図以下の指し手】 △3四玉▲3五竜△2三玉▲1五桂△1三玉▲1四歩△同玉
               ▲2五竜△1三玉▲1二桂成(第4図)まで橋立五段の勝ち
              
 最後の場面、浅子さんの観戦記にはこうある。
『時間があればじっくり読むところだが、一、二、三・・・・・の声に追われて後手△3四玉と
 逃げる。これが敗着。この手で△2六桂と打って▲同角と角を香の陰にしておけば即詰
 みの順はなかったのだが、このあと▲3五竜以下あっという間の九手詰め。スリル満点
 の終盤の攻防はまことに見事だった。』
九手詰めではないが、最後の部分は全く同感。
 もう1局の柴−田中戦も劇的な幕切れだった。第5図は後手が△6六歩と打ったところ。
▲6六同金と取るのは△5七銀と絡まれて攻める番が回ってきそうにない。
そこで柴さんは・・・
              
【第5図以下の指し手】 ▲4二金△6七歩成▲同飛△6六歩▲1五桂△1三玉
               ▲3一角(第6図)まで柴さんの勝ち
              
 ▲4二金が結果的に勝着になった。
一瞬、詰めろになっていないようにも見えるので、田中さんに油断が生じたかもしれない。
再び浅子さんの観戦記から。
『後手自玉に詰みなしと即断して△6六歩と打つ。先手桂をつまんで▲1五桂と打つ。
ここで後手自玉の即詰みに気づいて、さっと顔面そう白。△1三玉に▲3一角打ちで
合い駒が金気ではそれまで。 (中略) △6六歩では先に△2二金と打っておくところ
だった。』
 スリリングだった準決勝に比べると、決勝はやや盛り上がりに欠けた。
第7図が最後の局面。
              
 優勝した柴さんは、翌年も決勝で加村栄彦四段を破り(反則勝ち!)、岩沢健作五段に
続く2人目の連覇を達成している。