刑務所から電話

 昭和36年の埼玉新聞将棋欄から、夏のアマチュア名人戦県予選のエピソードを一つ。
『A二段が”すまん、すまん”と遅刻の詫びを言いながら汗を拭きふきやって来る。
待ち構えていたB二段と早速取り組んでもらう。
12時を回れば失格(1回戦は10時開始)という規定なのだが、事前に申し出があったので
2時間経過していたが、各30分ずつの持ち時間をB氏30分、A氏10分ということで落ち着く。
前者が対等の持ち時間でいいと譲れば、後者は10分でももったいないくらいと恐縮する。
実は先日A氏の声で、刑務所から電話がかかってきた。
叩けばちっとは埃ぐらいは出るかも知れんが、さらばといってスネに傷もつというほどのことも
ないこの私(当時の観戦記者)でも、いきなりムショときいてはびっくり仰天。
次の瞬間、もらい下げかなと早合点して、大変失礼な想像にまで飛躍したが、何のことはない
A氏が興業の方に関係のある仕事だけに慰問の件で出向いていて、そこから私にこの日の
遅刻を事前に知らせてよこしたというわけであった。
当時の大会運営はどうもねえ。
Aさんに非はないと思うけど、ここだけ2時間も遅れたら他の選手が迷惑するだろうに。