ベジタブルな放浪者第1話
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前回までのあらすじ

たまねぎの入れてある箱から生まれたたまねぎ太郎と
コック見習として働いている鈴木が
銀行強盗に人質として車でさらわれた。
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強盗>
よーし!
ここまで来たらもう大丈夫だろう。
警察も追ってきていないようだしな。
お前ら!
ここで降りろ!

たまねぎ太郎>
え?
降りていいんですか?

強盗>
ああ、降りていいよ。
それから俺たちのことを警察にしゃべったりするなよ。

鈴木>
そんなこと言われても、覆面してて顔なんか
さっぱりわかんないのに
警察にいったい何を言うっていうんでやんすか。

たまねぎ太郎>
ばか!
鈴木!
変なこというな!

強盗>
はっはっは!
そうだな。
覆面しているから何を言われても大丈夫だよな。
さぁ、早く降りろ。

たまねぎ太郎>
はい。

鈴木>
へい。

強盗>
じゃーな。

(遠ざかっていく車)

たまねぎ太郎>
・・・

鈴木>
・・・

たまねぎ太郎>
なんか助かったみたいだな。

鈴木>
へい。
そうでやんすね。
しかしここはどこなんでやんしょうね。
真っ暗で何もわからないでやんすよ。

たまねぎ太郎>
そうだな。
山の中にある道路であることは間違いなさそうだけどな。

鈴木>
そうでやんすね。

たまねぎ太郎>
とりあえずはこの道をくだっていってみるしかないか。
そしてもし車が走ってきたら事情を説明して
乗せていってもらうことにしようか。

鈴木>
へい。
そうでやんすね。
そうしやしょう。

たまねぎ太郎>
じゃあ、行こうか。

鈴木>
へい。

たまねぎ太郎>
・・・

鈴木>
・・・

(10分経過)

たまねぎ太郎>
なぁ、鈴木。

鈴木>
へい。

たまねぎ太郎>
車、全然通らないな。

鈴木>
へい。
そうでやんすね。

たまねぎ太郎>
・・・

鈴木>
・・・

(10分経過)

たまねぎ太郎>
なぁ、鈴木。

鈴木>
へい。

たまねぎ太郎>
なんか二人で黙って歩いているのはちょっと寂しいな。
何かやりながら歩かないか。

鈴木>
それはグッドアイデアでやんすね。
で、何をやるでやんす?

たまねぎ太郎>
うーん。
じゃあしりとりなんかどうかな。

鈴木>
いいでやんすね。
やりやしょう。

たまねぎ太郎>
じゃあ、俺からな。
しりとりのり。

鈴木>
しりとりのり?
何でやんすか?
しりとりのりって。
味付けのりみたいなもんでやんすか?

たまねぎ太郎>
違うよ!
しりとりのり!
りから始まるものを言えっていうのを強調してるんだよ!

鈴木>
別に強調はいらないでやんすよ。
しりとりって言ってくれればわかるでやんすよ。

たまねぎ太郎>
しりとりのりとしりとりのりは
イントネーションが違うから、わかるだろ!

鈴木>
わかりづらいでやんす。

たまねぎ太郎>
ああ、はいはい。
わかったよ。
じゃあしりとり、な。

鈴木>
しりとりな?
それは野沢菜みたいな

たまねぎ太郎>
しりとり!
しりとり!
りー!

鈴木>
ん?
盗塁中でやんすか?

たまねぎ太郎>
それは「リーリー」だろ!
もういいよ!
しりとりはやめだ!

鈴木>
あれ?
やめちゃうでやんすか?
じゃあ次は何をやるでやんすか?

たまねぎ太郎>
もういいよ!
何もやんねーよ!
黙って歩け!

鈴木>
へい。
わかりやした。

たまねぎ太郎>
・・・

鈴木>
・・・

(10分経過)

たまねぎ太郎>
おや。
何か家の明かりっぽいのが見えてきたぞ。

鈴木>
そうでやんすね。

たまねぎ太郎>
よし!
行ってみよう!

・・・

たまねぎ太郎>
おい!
山中旅館って書いてあるぞ!

鈴木>
そうでやんすね。

たまねぎ太郎>
よし!
行ってみよう!

鈴木>
へい。

・・・

たまねぎ太郎>
すいませーん。

・・・

聞こえないのかな。
すいませーん。

旅館の主人>
はい。
いらっしゃいませ。

たまねぎ太郎>
あのー、ここに泊めてもらえませんか?

旅館の主人>
はい。
ご予約のほうは?

たまねぎ太郎>
予約はしてないんですよ。

旅館の主人>
さようですか。
では二名様のご宿泊ということでよろしいでしょうか?

鈴木>
タロさん、タロさん。

たまねぎ太郎>
なんだよ。
人をタモさんみたいに呼ぶなよ。

鈴木>
何で普通に泊まる交渉とかしてるんでやんすか。
あっしたちは、お金は1円も持ってないから泊まれないでやんすよ。
まずはあっしたちの困ってる事情を説明するでやんすよ。

たまねぎ太郎>
そうだな。
よし。
まずは事情を説明するか。

鈴木>
へい。

たまねぎ太郎>
あのー、

旅館の主人>
はい。

たまねぎ太郎>
実はですね、私たちは今日、銀行強盗にあったんですよ。

旅館の主人>
銀行強盗・・・ですか?
ああ。
もしかしたらテレビでやってた大阪での事件のことですか?

たまねぎ太郎>
そうそう!
たぶん、それ!
でね、私たち二人はね、その銀行強盗に人質として
連れていかれちゃってね、ここからちょっと山に登った
ところで解放されたんですよ。

旅館の主人>
あ、そうなんですか。
うーん。
でも変ですねー。

たまねぎ太郎>
え?
何が?

旅館の主人>
テレビのニュースでは人質がいたとは言ってなかったですよ。

たまねぎ太郎>
ま、まじで?

旅館の主人>
はぁ。

たまねぎ太郎>
さては船長たちめ、
俺たちを見捨てていきやがったな。

鈴木>
タロ、タロ。

たまねぎ太郎>
なんだよ。
人を飼い犬みたいに呼ぶなよ。

鈴木>
もしかしたら人質の安否を気づかって
テレビでは人質のことについて
触れていないのかもしれませんよ。

たまねぎ太郎>
あ、なるほど。
そうかそうか。
あのー、ご主人。

旅館の主人>
はい?

たまねぎ太郎>
ちょっと警察に電話して
人質について確認してもらえます?

旅館の主人>
はぁ。
ではしばらくお待ちくださいね。

・・・はい・・・はい・・・あ、そうですか・・・
はい・・・はい、わかりました。
失礼します。

たまねぎ太郎>
なんだって?

旅館の主人>
やっぱり人質はいないって言ってます。

たまねぎ太郎>
ね、人質はいるって言ってる、
人質はいないってー?

鈴木>
やっぱり船長たちに見捨てられたんでやんすね・・・。

たまねぎ太郎>
そうだな。
ちっくしょう!
船長のやつめ!
よーし!
こうなったら船長に文句言いに行くぞ!

鈴木>
へい。
それはいいでやんすけど、船長たちは大阪にいるでやんすよ。

たまねぎ太郎>
そんなことはわかってるよ。

鈴木>
ここは大阪じゃないでやんすよ。

たまねぎ太郎>
だからそんなことはわかって・・・え?
ここは大阪じゃないの?

鈴木>
銀行強盗にあったのが午前中で
今は夜で、その間ずーっと車で移動してたんで
いくらなんでも大阪ってことはないと思うでやんすよ。

たまねぎ太郎>
なるほど。
そうだな。
じゃあここはどこなんだろう。
ねー、ご主人。
ここはどこですか?

旅館の主人>
ここですか?
ここは箱根ですよ。

たまねぎ太郎>
箱根?
うわー、遠いじゃん。
歩いていくわけにはいかないじゃん。

鈴木>
そうでやんすねー。
となるとあっし達は一文無しなんで、
ヒッチハイクでいくしかないでやんすねー。

たまねぎ太郎>
そうだな。
よし!
ヒッチハイクで大阪を目指すぞ!
そうと決まれば出発だ!

鈴木>
ロさん、ロさん。

たまねぎ太郎>
なんだよ!
名前を省略しすぎだよ!
人を呂明賜みたいに呼ぶなよ!
って、呂明賜なんて今時だれもしらねーよ!

鈴木>
お腹が空いたからなんか食べたいでやんす。

たまねぎ太郎>
そうだなー。
朝から何も食べてないからな。
あのー、ご主人。

旅館の主人>
はい。
なんでしょうか。

たまねぎ太郎>
ということなんで、ご飯を食べさせてもらえませんか?

旅館の主人>
いやいやいやいや、
「ということなんで」
と言われましてもねー、
うちも商売ですからねー、
タダで食べさせてあげるわけにもいかないですねー。

たまねぎ太郎>
えー?
なんだよー。
冷たいなー。
こちとら困ってるじゃん。
ちょっとぐらい何か食わせてくれたっていいだろー?

旅館の主人>
いやー、そう言われましてもですねー。

老人>
待ちなー。

旅館の主人>
あ!
これはこれは昨日からうちにお泊りいただいている
日本で10本の指に入る大金持ちの大金持三さん!

老人>
話は途中から全部きかせてもらったよ。

たまねぎ太郎>
なんだよ、「途中から」て。
「最初から」じゃねーのかよ!

老人>
主人、
私がお金を出すからこの頭の可愛そうな人達に
食事をさせてやってくれないか。

たまねぎ太郎>
「頭の」は余計だよ!

旅館の主人>
はい。
大金さんがそうおっしゃられるのでしたら。

たまねぎ太郎>
え?
メシくわしてくれんの?
じいさん、ありがとう!

老人>
ただし、タダではないぞ。

たまねぎ太郎>
いやいや。
タダじゃないって言われても
俺たち1円も持ってないぜ?!

老人>
いや、お金をもらおうとは思っておらん。
お金のかわりに、ひとつわしの頼みを
聞いて欲しいんじゃがのう。
どうかのう。

たまねぎ太郎>
ああ、いいよ。
メシが食えるんだったら頼みの一つや二つくらい
聞いてあげるよ。
で、その頼みって何?

老人>
それはメシを食ってから言うことにするかの。
それでいいかの?

たまねぎ太郎>
ああ。
別にいいよ。

老人>
よし!
では交渉成立じゃ。
主人、ではこの二人に食事の準備をしてやってくれ。

旅館の主人>
はい。
わかりました。
では、こちらへどうぞ。




ということでメシを食えることになった二人であったが、
謎の大富豪の大金持三翁の頼みとは
いったい何なのでしょうか。
第2話に続く。