ベジタブルな密航者第1話

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貨物船が航海している。
日本を出発して三日目の朝。
キッチンにて。
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コック長>
さて、今日もまたお腹ペコペコの船員達のために
朝ご飯を作ってやるとするか。
おい!
鈴木!
鈴木はいるか!

鈴木>
へい。
なんでやしょう。

コック長>
今から朝食を作るから材料を持ってきてくれ。

鈴木>
へい。
わかりやした。
で、何を持ってきやしょう。

コック長>
おいおい。
しっかりしろよ。
そこに献立表が貼ってあるだろ。
それを見て、自分で判断して持ってくるんだよ。
積極的に自分で考えて動かないと、
いつまでたっても見習のままだぞ。

鈴木>
へい。
わかりやした。
えーっと、今日の献立は、と。
腹筋5回に、背筋500回に、

コック長>
おい!

鈴木>
腕立て伏せ20回に、

コック長>
おい!
鈴木って!

鈴木>
え?

コック長>
「え?」
じゃねーよ。
タメぐちやめろよ。

鈴木>
へい。
何でやんすか?

コック長>
お前、何読んでるんだ?

鈴木>
へい。
壁に貼ってある献立表を読んでいるでやんす。

コック長>
それ、
献立表は献立表でも、
運動の献立表じゃないのか?

鈴木>
あ!
そうでやんすね。
全然気付かなかったでやんす。

コック長>
何で全然気付かないんだよ。
普通は「腹筋」のところで気付くだろ。

鈴木>
そうでやんすね。
すいやせん。

コック長>
しかしここにこんなものを貼っておくやつも悪いよな。

鈴木>
そうでやんすね。

コック長>
鈴木よ。

鈴木>
へい。

コック長>
誰がここにこれを貼ったか知ってるか?

鈴木>
へい。
あっしでやんす。

コック長>
お前かよ!
自分で貼っといて間違うんじゃねーよ!
なんでこんなとこにこんなもんを貼るんだよ!

鈴木>
へい。
紙を見ながら運動しないと忘れちゃうもんで。

コック長>
お前、キッチンで運動してるのか。
全く、しょうがねーな。
運動するんだったら自分の部屋でやれよ。
わかったな。

鈴木>
へい。

コック長>
それから、なんで腹筋が5回なのに、背筋は500回なんだよ。
バランス悪すぎだろ。

鈴木>
へい。
それは、あっしがアルマジロみたいになりたいからでやんす。

コック長>
アルマジロ?
なんでお前、アルマジロみたいになりたいんだ?

鈴木>
へい。
コック長がいきなり包丁で襲ってきてもガードできるようにでやんす。

コック長>
なんで俺がいきなりお前を襲うんだよ!
しかもいくら背筋を鍛えても、さすがに包丁はガードできないと思うぞ。
背筋を500回やるよりも、その時間を利用して、
肌を角質化する方法を研究したほうがいいと思うぞ。

鈴木>
へい。
わかりやした。

コック長>
わかるなよ。
冗談なんだからよ。
あー、もう!
そんなことはどうでもいいんだよ!
そこにちゃんとした献立表があるだろ!
それを見ろよ!

鈴木>
へい。
わかりやした。
これでやんすね。
えー、目玉焼きにたまねぎの味噌汁にご飯に梅干でやんすね。
わかりやした。
さっそく材料をとってきやす。

コック長>
おお。
頼んだぜ。
あ、それから先に言っとくけど、たまねぎは冷蔵庫じゃなくて、
食料庫に置いてあるからな。

鈴木>
へい。
わかりやした。


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食料庫にて
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鈴木>
えーっと、たまねぎは、と。
このダンボール箱かな。
どれどれ。
よいしょっと。
(パカッ)

密航者>
うわっ!
まぶしっ!
閉めてっ!

鈴木>
え?
う、うん。
(パタン)
・・・
あ、あのー、すいやせん。

密航者>
・・・

鈴木>
すいやせん。
もしもし。
もしもーし。

密航者>
(パカッ)
・・・
何?

鈴木>
あ、あのー、その箱にたまねぎ、入ってないでやんすか?

密航者>
ああ、あるよ。

鈴木>
そのたまねぎを10個とってもらえないでやんすか?

密航者>
10個もねーよ。

鈴木>
え?
ないでやんすか?
じゃあ何個あるでやんすか?

密航者>
1個だよ。

鈴木>
そうでやんすか。
じゃあその1個をとってもらえないでやんすか?

密航者>
ダメだよ。
これは俺が食うんだからよ。

鈴木>
あ、そうでやんすか。
わかったでやんす。
どうもでやんす。


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キッチンにて
-----------

鈴木>
コック長。

コック長>
おう、鈴木か。
材料とってきたか?

鈴木>
それが、たまねぎが無かったでやんす。

コック長>
え?
たまねぎが無い?

鈴木>
へい。

コック長>
お前、ちゃんと探したのか?
日本を出てまだ3日しかたってないんだぞ。
無くなるわけねーじゃねーか。

鈴木>
へい。
それはそうでやんすけど、
ねーもんはねーでやんすよ。

コック長>
だからそんなわけないだろっ、てーの!
お前が見つけられないだけだろ?
まったくしょうがねーなー。
お前はよー。
材料もろくに探してこれねーのかよ。
もー、しょうがねーから俺がとってくるとするか。

鈴木>
へい。
いってらっしゃいやせ。

コック長>
「いってらっしゃいやせ。」
じゃねーよ。
お前もくるんだよ!
一緒に行って、本当にないかどうか確かめるからよ!
お前、あったらただじゃおかないからな。

鈴木>
へい。


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食料庫にて
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コック長>
ほら。
この箱に「タマネギ」って書いてあるだろ。
この箱をちゃんと見たのか?

鈴木>
へい。
ちゃんと見たでやんす。

コック長>
本当かよ。
どれどれ。
(パカッ)

密航者>
まぶしっ!

コック長>
うわーーーっ!!!!

密航者>
うるせーよ!
「うわー!」
じゃねーよ。

コック長>
・・・

密航者>
おいおい。
何ボーっと見てんだよ。
早く閉めろよ!
まぶしーって言ってるだろ!

コック長>
・・・
あ、すいません。
今閉めます。
(パタン)

鈴木>
・・・

コック長>
おい、鈴木。

鈴木>
へい。

コック長>
何だ、今のは?

鈴木>
へい。
人間だと思いやす。

コック長>
やっぱ人間だよな。

鈴木>
へい。

コック長>
お前が見てから俺が来るまでそんなに時間たってないのに、
こいつはいったいどこから入り込んできたんだろうな。

鈴木>
さっきもいやしたよ。

コック長>
え?
いたのか?

鈴木>
へい。

コック長>
いたのかよ!
いたのに何でその事を言わないんだよ!

鈴木>
へい。
ダンボール箱を開けるまで、すっかり忘れてやした。

コック長>
なんでこんなびっくりどっきりな出来事を忘れることができるんだよお前は!
お前の脳の中での優先順位はどんな感じになってるんだよ!
この人間のことは、たまねぎの事以下かよ!

鈴木>
そんなことはどうでもいいから現実を直視しやしょうよ、コック長。

コック長>
おお、そうだな。
とりあえずはこいつをどうするかが先決だな。
って、何でお前が俺を諭してるんだよ!
まぁ、いいよ。
じゃあさ、お前、船長呼んで来てくれ。

鈴木>
へい。

コック長>
まず船長の判断を仰ぐ必要があるからな。
俺はこいつがどこにも行かないように見張ってるからよ。

鈴木>
へい。
わかりやした。
では行ってきやす。

コック長>
おお。
頼んだぞ!
なるべく早くな!

鈴木>
へい。


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操舵室にて
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鈴木>
船長。

船長>
おお。
コック見習の鈴木じゃないか。
どうした?
こんなところまで入ってきて。

鈴木>
へい。
実は、たまねぎが無くなっちゃったんでやんすよ。

船長>
え?
たまねぎが無くなった?
うーん、それだけではうまく事情が飲み込めないな。
もう少し詳しく教えてくれないか?

鈴木>
へい。
実は、食料庫に保管していたたまねぎが一つも無くなっちゃっているでやんすよ。

船長>
え?
そうなのか?

鈴木>
へい。
なのでちょっと来て欲しいでやんす。

船長>
え?
なんで俺が?

鈴木>
いいからちょっと来るでやんすよ。

操舵手>
船長。
今は自動運転中ですし、天気も良好ですので、
行ってきてもらっても大丈夫ですよ。

船長>
え?
いや、そうは言ってもさ、たまねぎの有無は俺には関係ないことだしさ、
それはコック長に言って来てもらったほうがいいんじゃないの?

鈴木>
そのコック長が、
「船長を呼んで来い。」
って言ってるんでやんすよ。

船長>
え?
そうなのか?

鈴木>
へい。

船長>
もう、しょうがないなー。
じゃあちょっと行ってくるか。
おい。
ちょっと行ってくるからさ、
後は頼んだぞ。

操舵手>
はい。
わかりました。


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食料庫にて
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コック長>
ん?
なんだか急にお腹が痛くなってきたな。
ちょっとトイレに行ってくるか。
こいつも逃げたりしないだろう。

(と言って食料庫を出て行くコック長。
  代わりに、船長と鈴木が入ってくる。)

船長>
おい。
コック長がいないじゃないか。

鈴木>
あれ?
変でやんすね。
どこに行っちゃったんでやしょうね。

船長>
トイレにでも行ったのかな。

鈴木>
そうかもしれないでやんすね。

船長>
で、たまねぎが無いんだって?

鈴木>
へい。

船長>
ここに、「たまねぎ」って書かれたダンボールがあるじゃないか。
これをちゃんと見たのか?

鈴木>
へい。

船長>
どれどれ。
(パカッ)

密航者>
こらこら!

船長>
わっ!
なにっ!

密航者>
「うわっ!なにっ!」
じゃねーよ。
なんなんだよお前はよー。
さっきから何度も何度もいきなりフタを開けやがってさー!

船長>
え?
い、いや、私じゃないですよ。
私は何度もフタを開けたりしてないですよ。

密航者>
うるさい!
1回しか開けてなかろうが何度も開けてようが、関係ないんだよ!

船長>
え?
だってあなたが何度も何度もって言うから。

密航者>
いいか、お前。
もしお前がうんこしてるときにドアをいきなり開けられたらどうする?
ええっ!!

船長>
え?
そ、それは嫌ですけど。

密航者>
そうだろうが。
それは例え1回でも嫌だろうが。

船長>
はい。
そうですね。

密航者>
そうだろうが。
じゃあ次からはどうすればいいと思う?

船長>
ノックします。

密航者>
そうだ。
その通りだ。
ノックしろ。
わかったな。

船長>
はい。
わかりました。

密航者>
まったく、近頃のやつときたら・・・。

船長>
・・・。

密航者>
おい!

船長>
は、はい?

密航者>
何ボーっと見てんだよ。
フタを閉めろよ!
まぶしーだろ!

船長>
あ、ああ、すみません。
今閉めます。
(パタン)
・・・

鈴木>
・・・

船長>
おい、鈴木。

鈴木>
へい。

船長>
何だ。
今のは。

鈴木>
へい。
人間でやしょうね。

船長>
そうだよな。
人間だよな。
なんで人間がこんなところに入ってるんだ?

鈴木>
さぁ。
あっしにはよくわからないでやんす。

(そこにコック長がトイレから戻ってきた。)

コック長>
あ、船長。

船長>
おう。
コック長。

コック長>
もう来てたんですか?

船長>
ああ。
来てたよ。
コック長さぁ、

コック長>
はい?

船長>
お前、ここの箱の中に人間がいるの知ってたか?

コック長>
ええ。
もちろんですとも。
その事で船長を呼んだんですから。

船長>
え?
そうなのか?
鈴木はたまねぎが無くなったから来いと言ってたぞ。

コック長>
・・・

船長>
・・・

コック長/船長>
鈴木!!!

鈴木>
へい。

コック長>
なんで一番大事なことを船長に言わないんだよ。

鈴木>
たまねぎの事は言ったでやんすけど?

コック長>
なんで一番大事なことがたまねぎの事なんだよ!
あほか!
この箱の中に入っている人間のことが一番大事だろうがよ!

鈴木>
へい。
そうでやんすね。

コック長>
もう、しっかりしてくれよ。
鈴木。

船長>
おかげですごくびっくりしたぞ。

コック長>
どうもすみません、船長。
鈴木にはよく言って聞かせておきますから。
それはそれとしてですね、

船長>
こいつだな。

コック長>
そうです。
こいつです。
こいつ何者なんですかね。
船長、何か知ってますか?

船長>
いや。
俺にも全くわからないんだよ。

コック長>
そうですか。
ということは、

船長>
うん。
密航者じゃないかな。

コック長>
やっぱりそうですか。
だったら大問題じゃないですか。

船長>
そうだな。
大問題だな。

コック長>
どうしましょう。

船長>
どうしようか。

鈴木>
とりあえず、名前と密航した目的を聞いてみたらどうでやんしょ。

船長>
おお!
なかなか鋭いな、鈴木。
コック長!
ちょっと名前と密航した目的を聞いてみてくれないか。

コック長>
え?
俺がですか?
なんで俺なんですか?
船長が直接聞いたらいいじゃないですか。

船長>
だって怖いんだもん。

コック長>
いや、怖いのは私だって一緒ですよ。

船長>
そうか。
じゃあ鈴木に聞いてもらおう。
おい、鈴木!

鈴木>
へい。

船長>
ちょっとそいつの名前と密航の目的を聞いてみてくれないか。

鈴木>
へい。
わかりやした。
(パカッ)

船長>
あ!
ばか!
いきなり開けるなて

密航者>
こらっ!
ノックぐらいしろって言っただろ!
(と言って船長の胸倉につかみかかる。)

船長>
ぼ、僕じゃないですよ。
こいつですよ。

密航者>
ん?
お前か!

鈴木>
へい。

密航者>
お前ならしょうがねーな。
次はちゃんとノックしろよ。

鈴木>
へい。
わかりやした。

船長>
ん?
なんで鈴木ならしょうがないのかなぁ。

密航者>
あー?
何か言ったか?

船長>
え?
い、いや別に。

鈴木>
ねぇねぇ、密航者さん。
たまねぎはそこにあるでやんすか?

密航者>
ああ。
1個だけあるよ。

鈴木>
それ、もらえないでやんすか?

密航者>
だからこれは俺用だからあげれないってさっきも言っただろ!

鈴木>
へい。
そうでやんしたね。
失礼しやした。

船長>
・・・

コック長>
・・・

鈴木>
ね!

コック長>
「ね!」
じゃねーよ!
何を聞いてるんだよ!
たまねぎが無いことはわかったけどさ、
今はそれどころじゃないの!
そいつの名前と密航の目的を聞けって!

鈴木>
へい。
わかりやした。
あのー、密航者さん。

密航者>
ん?

鈴木>
名前はなんでいうんですか?

密航者>
名前?
名前はないなぁ。

鈴木>
じゃあ密航の目的はなんでやんすか?

密航者>
密航の目的?
それもないなぁ。

鈴木>
なるほど。
そうでやんすか。
わかりやした。

船長>
・・・

コック長>
・・・

鈴木>
だそうでやんす。

コック長>
「だそうでやんす。」
じゃねーよ!
何もわかってねーじゃねーか。
きっとこいつ、嘘ついてんだよ。
嘘つかせないで、ちゃんと本当のことを聞き出せよ。

密航者>
嘘じゃねーよ。

コック長>
あれ?
聞こえてました?

密航者>
あたり前だろ!
目の前にいるんだからよ!

コック長>
そ、そうですね。
ごめんなさい。

密航者>
おい!
船長さんよ!

船長>
え?
は、はい。
何か。

密航者>
というわけなんでよろしくな。

船長>
え?
よろしくって?

密航者>
なんだよ。
全部言わなきゃわかんないか?
俺の面倒を見てくれよ、って言ってるの!

船長>
うーん。
面倒見てくれっていきなり言われてもですねー。

密航者>
船で働くからさ、なんでもするからさ、
しばらく船においてくれよ。
一緒に航海させてくれよ。
きっと後悔はさせないからさ。

船長>
そうですねー。
海に放り出すわけにもいかないですしねー。
じゃあ、しばらく面倒見ましょう。
でも次の停泊地では降りてもらいますからね。

密航者>
ああ。
それでいいよ。

船長>
それから途中で記憶が戻ったら、ちゃんと報告してくださいね。

密航者>
え?
何?
記憶が戻るって。

船長>
え?
記憶喪失じゃないんですか?

鈴木>
コック長!

コック長>
なんだよ、鈴木。

鈴木>
「航海」で「後悔」って面白いでやんすね。

コック長>
うるさい!
だまってろ!
せっかくみんな無視してたのに。

密航者>
おい!

コック長>
え?

密航者>
無視してたってどうゆうことだよ。

コック長>
あれ?
聞こえました?

密航者>
だから聞こえるって!
こんなに近いんだからよ!

コック長>
そうですね。
ごめんなさい。

船長>
そんなことよりも記憶喪失じゃないってどうゆうことですか?
名前も密航した目的もわかんないんですよね?!

密航者>
わからないんじゃねーよ。
ないんだよ。
そう言っただろ!
ちゃんと聞いてろよ!

船長>
すいません。
そういえば確かにそう言ってましたね。
しかし、名前がないってどういうことですか?
親が名前をつけてくれなかったんですか?

密航者>
生まれたんだよ。

船長>
え?

密航者>
生まれたの!
生まれたてなの!
正確には二日前に生まれたの!
生まれたてのほやほやなの!

船長>
え?
生まれたって、何が?

密航者>
俺がだよ!

船長>
え?
そんなバカな。

密航者>
バカな、って何だよ。
俺が生まれちゃいけねーってのかよ!

船長>
いや、別に生まれてもらっても全然いいんですけど、
あなたが二日前に生まれたとすると、
おかしいところがたくさんあるわけですよ。

密航者>
そうか?
おかしいところなんて全然ないと思うけど。

船長>
ありますって。
例えばあなたの見た目ですけど、おっさんじゃないですか。
二日で見た目大人ってありえないじゃないですか。

密航者>
二日でこうなった訳じゃないけどな。

船長>
え?

密航者>
生まれたときからこうだったよ。

船長>
いやいや、
そっちのほうがさらにありえないですって。

密航者>
ありえてるじゃん!
目の前でありえてるじゃん!

船長>
そうですね。
ありえてますね。
あなたが言う通り、あなたが二日前に生まれたんでしたらね。

密航者>
なんだよ。
俺が嘘をついてるって言うのかよ。

船長>
え?
いやいや、そうは言いませんよ。
そうは言いませんけどね。
じゃあ、あなたを生んだ親はいったいどこに行ったんですか?

密航者>
俺を生んだやつ?
それなら目の前にあるじゃねーか。

船長>
・・・

コック長>
・・・

鈴木>
・・・

船長>
もしかして・・・・・・鈴木?

鈴木>
へい。

密航者>
鈴木じゃねーよ。
鈴木も返事するんじゃねーよ。
これだよ、これ。
このダンボールの箱だよ。

船長>
え?
ダンボールの箱?

密航者>
そうだよ。

船長>
この「たまねぎ」って書かれたダンボールの箱?

密航者>
そうだよ。

船長>
たまねぎがたくさん詰まっていたこのダンボールの

密航者>
だからそうだって言ってるじゃん!
しつこいな。

船長>
それ、さらにありえないですって。

密航者>
ありえてるじゃん!
目に前でありえてるじゃん!

船長>
いや、だからそれはあなたがそう言ってるだけで、
何の証拠もないわけですから。

鈴木>
まぁまぁ。
そうだっていう証拠もないけど、そうじゃないっていう証拠もないわけでやんすから、
もうこの話はいいじゃないでやんすか。
真相究明はこれからおいおいやっていけばいいじゃないでやんすか。
とりあえず名前をつけてあげやしょうよ。
名前がないと不便でしょうがないでやんすよ。

船長>
そうだな。
じゃあとりあえず名前をつけてあげることにしようか。
なんと言う名前がいいかな。

鈴木>
たまねぎのダンボールの箱から生まれたから、
「トマトのダンボールから生まれた太郎」
ってのはどうでやんしょ。

密航者>
長いよ!
しかもトマト関係ないじゃん!

コック長>
じゃあ、短くして
「から太郎」
ってのはどうでしょう。

密航者>
情報としては一番不要な「から」だけ残しちゃったよ!
だめだよ。
そんなんじゃ。

船長>
じゃあさ、たまねぎ太郎でいいじゃん。

密航者>
何で投げやりなんだよ。
二つの案が却下されたくらいで投げやりになるなよ。

船長>
すいません。

密航者>
じゃあ、たまねぎ太郎で決定ということで。

船長>
いいのかよ!!!




・・・ということで、密航者あらためたまねぎ太郎の冒険が始まるのであった。

第2話に続く。