ベジタブルな密航者第2話

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貨物船が航海している。
日本を出発して四日目の朝。
キッチンにて。
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コック長>
さて、今日もまたお腹ペコペコの船員達のために
朝ご飯でも作ってやるとするか。
おい!
たまねぎ太郎!
たまねぎ太郎はいるか!

たまねぎ太郎>
ああ?
なんなんだよお前は。
偉そうによー。

コック長>
え?
い、いや。
えーっと。
あのー、ちょっといいですか?

たまねぎ太郎>
何?

コック長>
昨日の夜に船長と三人で話し合って、
最終的に、たまねぎ太郎さんにはしばらくの間、
コック見習として働いてもらうって決めましたよね?!

たまねぎ太郎>
え?
そうだっけ?

コック長>
そうですよ。
それで、
「では早速明日からお願いしますね。」
って事になったじゃないですか。

たまねぎ太郎>
うーん。
そうだったかなぁ。
そう言われてみればそういう気もするなぁ。

コック長>
もうー、しっかりしてくださいよー。

たまねぎ太郎>
はははは。
そうだな。
確かにそんな話をしたな。
いや、ごめんごめん。
ほら、俺の名前ってたまねぎ太郎じゃん?
だからたまねぎと一緒で脳みそも空っぽなんだよ。
ってことで許してよ。

コック長>
ははははは。
うまいこと言いますねー。

鈴木>
コック長。
全然うまくないでやんすよ。
たまねぎは中身はぎっしりでやんすよ。
中身が空っぽなのはピーマンでやんすよ。

コック長>
うるさい!
お前は黙ってろ!

鈴木>
へい。

コック長>
えー、では、たまねぎ太郎さんにも納得していただけたということで、
あらためてコック見習の仕事を指示しますね。

たまねぎ太郎>
うん。
指示して。
でもさ、コック見習の仕事をやるってのは納得したけどさ、
タメ口で指示されるのはカチンとくるからさ、
敬語で指示してね。

コック長>
え?
敬語で?
でも、そうすると俺の仕事がやりにくくて
しょうがないんですけど・・・。

たまねぎ太郎>
あ、そうなの?
でもそれは俺には全然関係ないからさ。
お前の仕事のやりやすさと、
俺の機嫌を損なわないのとどっちが大事なのかをよーっく考えると
自ずとどうすればよいか、わかるよね?

コック長>
そうですねぇ。
大事なのは、仕事のやりやすさですかねぇ。

たまねぎ太郎>
あっ、そう。
あっ、そう。
じゃあさ、
腕の骨が折れて仕事がやりにくいのと
敬語で指示を出して仕事がやりにくいのとでは
どっちのやりにくさがいい?

コック長>
えーっと。
敬語で指示します。

たまねぎ太郎>
うん。
そうして。

鈴木>
コック長、それでいいの?

コック長>
しょうがねーだろ!
だって、敬語で指示しないと腕の骨を折られるんだもん。
痛いの嫌じゃん。
で、なんでお前までタメ口なんだよ。
お前は敬語で話せよ。

鈴木>
へい。
わかりやした。

コック長>
では、たまねぎ太郎さん。
早速ですが、朝食の材料を持ってきてもらえますか?

たまねぎ太郎>
うん。
いいよ。
朝食の材料って、何を持ってくればいいの?

コック長>
何を持ってくればいいのかは、
そこの壁に貼ってある献立表に、今朝のメニューが書いてあるので、
それを見て判断してください。

たまねぎ太郎>
献立表ってこれかな?
えーっと、モチ粉、糠、塩、消石灰、

コック長>
え?
消石灰?
あのー、たまねぎ太郎さん。
ちょっと待っててくださいね。

たまねぎ太郎>
ああ。

コック長>
おい!
鈴木!

鈴木>
へい。
なんでやしょう。

コック長>
お前、またここに変な紙を貼っただろ。

鈴木>
へい。
貼りやした。

コック長>
お前なー、
ここに勝手に変な紙を貼るなって
昨日注意したばっかりだろ!
すぐはがしなさい!

鈴木>
へい。
すいやせん。
(ベリッ)

コック長>
で、その紙は何なんだ?

鈴木>
へい。
これは、背中の皮をアルマジロみたいに角質化するための薬の作り方でやんす。

コック長>
ほー。
よく調べたなぁ、ってあほか!
何で俺が昨日冗談で言ったことを真に受けてんだよ!

鈴木>
へい。
すいやせん。

コック長>
で、この薬を飲むと、本当に背中の皮は角質化するのか?

鈴木>
飲むんじゃないんでやんす。

コック長>
あ、そうなの?
じゃあ、背中にでも塗るの?

鈴木>
そうでやんす。

コック長>
そうか。
じゃあ、背中に塗るとどのくらいで角質化するの?

鈴木>
それが、薬を塗っただけではまだダメなんでやんす。
背中にこの薬を塗った後で、アルマジロの皮を背中に貼り付けるんでやんす。
そうするとアルマジロの皮が背中にぴったりと貼りついて、
少々のことではとれなくなるんでやんす。

コック長>
あ、そうなんだ。
・・・
その薬、ただの糊じゃないの?

鈴木>
へい。
そう言われればそうでやんすね。

コック長>
じゃあさ、その背中に貼るためのアルマジロの皮はどこから入手するの?

鈴木>
あ!
それを考えてなかったでやんす。

コック長>
やっぱりね。
そうだろうと思ったよ。
糊の製法よりも、
まず、アルマジロを捕まえる方法を考えろ。
な。
そうするとうまくいくから。

鈴木>
へい。
そうするでやんす。
ありがとうございやす。

コック長>
だから、
「ありがとうございやす。」
じゃねーよ!
冗談を真に受けるなって言ってんだよ!

鈴木>
へい。
すいやせん。

たまねぎ太郎>
おい!

コック長>
は、はい。

たまねぎ太郎>
もういいか?

コック長>
あ、はい。
お待たせしました、たまねぎ太郎さん。
献立表はこちらになります。

たまねぎ太郎>
ああ、これね。
今日の朝食のメニューは、
目玉焼きにじゃがいもの味噌汁にご飯に梅干か。
うん。
おっけーおっけー。
じゃあ持ってくるよ。

コック長>
はい。
よろしくお願いします。
あ、それからじゃがいもは冷蔵庫ではなくて、食料庫に置いてありますので。

たまねぎ太郎>
あ、そうなの?
じゃあその食料庫はどこにあるの?

鈴木>
お前が生まれたところでやんすよ。

コック長>
ばか!
鈴木!

たまねぎ太郎>
ん?

コック長>
あ、いや、あのですね、
たまねぎ太郎さんがお生まれになったたまねぎのダンボールが
置いてあったところです。
その箱の隣にじゃがいもが入ったダンボールが置いてあったと思うので
その箱の中に入っているじゃがいもを持ってきてください。

たまねぎ太郎>
ああ、あそこね。
はいはい。
わかったよ。
じゃあちょっと行ってくるよ。

コック長>
はい。
気をつけていってらっしゃいまし。


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食料庫
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たまねぎ太郎>
どれどれ。
おっと、これだな。
この箱だな。
(パカッ)

?>
うわっ!
まぶし!

たまねぎ太郎>
ん?
なんだ、おまえ、わっ!
うわわっ!
鬼!

鬼>
「うわっ!鬼!」
じゃねーよ。
いきなり開けんなよ。
まぶしーだろ!

たまねぎ太郎>
うわっ!
鬼がしゃべった!

鬼>
いやいやいや。
普通鬼はしゃべるだろ。
昔話とか読んでみ。

たまねぎ太郎>
そ、そう言われてみればそうか。
鬼は普通しゃべるか。

鬼>
わかったら早く閉めろよ。
まぶしんだよ!

たまねぎ太郎>
そ、そうですね。
すみません。
あ!
その前にちょっといいですか?

鬼>
なんだよ。

たまねぎ太郎>
その箱にじゃがいも入ってませんか?

鬼>
じゃがいもなんか入ってねーよ。
俺が全部くっちまったよ。
まるで人の頭をぱっくりと食べるようにね。

たまねぎ太郎>
は、あはは、あははははは。
おじゃましました。
(パタン)


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キッチン
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たまねぎ太郎>
コック長!

コック長>
あ、たまねぎ太郎さん。
じゃがいも持ってきてくれました?

たまねぎ太郎>
持ってきてないよ。

コック長>
あ、そうですか。
どうもありがとうございました。
・・・

鈴木>
コック長!

コック長>
・・・

鈴木>
コック長ってば!

コック長>
ん?
なんだよ。

鈴木>
こいつ、とってきてないって言ってるでやんすよ。

コック長>
ん?
そんなことはわかってるよ。
でもそれをいきなりつっこむと逆切れされちゃうかもしれないだろ!
だから逆切れされないような言い方を今一生懸命考えているんだよ。

鈴木>
なるほど。
そうでやんしたか。

コック長>
えーっと。
・・・
うん。よし。


鈴木>
お!
何て言うか決まったでやんすね。

コック長>
たまねぎ太郎さん。

たまねぎ太郎>
ん?

コック長>
なんでじゃがいもくらい持ってこれないんですか?

鈴木>
うわー!
一生懸命考えた割りにはすごい言い方しちゃったでやんすよー!
そんな言い方すると、逆切れ間違い無しでやんすよー!

たまねぎ太郎>
いやぁ、ごめんごめん。

鈴木>
うわー!
素直に謝っちゃったでやんすよー!
全然逆切れしねーでやんすよー!

コック長>
鈴木!
うるさいよ!
ちょっと黙ってろ!

鈴木>
へい。
すいやせん。

コック長>
で、なんで持ってこれなかったんですか?

たまねぎ太郎>
いや、それがね、
じゃがいもが無かったのよ。

コック長>
ん?
じゃがいもがない?
ちゃんと「じゃがいも」って書いてあるダンボールの中を見たんですよね?!

たまねぎ太郎>
ああ、開けてみたよ。
だけどなかったんだよ。

コック長>
たまねぎに続いてじゃがいもも無しかぁ。
はっはーん。
さては今度はじゃがいも太郎の仕業かな?

たまねぎ太郎>
え?
じゃがいも太郎て?

コック長>
いや、冗談ですよ。
今度はじゃがいものダンボール箱の中に人がいたのかと思ったんですよ。
昨日のあなたみたいにね。
で、もし人がいたとするとそれはじゃがいも太郎という名前になるのかなぁって。

たまねぎ太郎>
ははははは。
なるほどね。
もし人がいたとすると100%じゃがいも太郎っていう名前になるだろうね。
でもさ、そんなことが二日続けてあるわけがないよ。

コック長>
そうですよねー。

たまねぎ太郎>
でも人はいないけど鬼はいたよ。

コック長>
そうですか。
鬼はいましたか。
わははははは。
・・・
え?
鬼?

たまねぎ太郎>
うん。
鬼。

コック長>
え?
鬼?

たまねぎ太郎>
うん。
鬼だよ。

コック長>
え?
鬼?

たまねぎ太郎>
だー、もう、しつこいな。
鬼だよ、鬼!
ツノを生やした、体の赤い鬼だよ。

コック長>
え?
鬼って、ツノを生やした、体の赤い?

たまねぎ太郎>
そうだよ。
だからそう言ってるじゃん。

コック長>
ま、まじっすか?

たまねぎ太郎>
まじだよ、まじ。
何だよ、その疑わしそうな目は。
俺が嘘をついているとでも言うのかよ。

コック長>
いやいや、そうは言いませんけど・・・。
今の時代に
「鬼」
ってねぇ。
ぷっ。

たまねぎ太郎>
あ、お前今笑ったな?
よーし!
そこまで馬鹿にするんだったらみんなで一緒に確認に行こうじゃないか!

コック長>
いいですよ。
行きましょうか。

たまねぎ太郎>
証人は多いほうがいいから
ついでに船長も呼んだらどうだ。

コック長>
そうですね。
そうしましょうか。
おい!
鈴木!

鈴木>
へい。

コック長>
ちょっと船長を呼んできてくれないか。
今度はちゃんと
「鬼がいたからきてください。」
って言うんだぞ!

鈴木>
へい。
わかりやした。
では行ってきやす。

コック長>
俺たちは先に食料庫に行ってるからな!
船長は直接食料庫につれてきてくれ。
いいな!

鈴木>
へい。
わかりやした。


------------------
操舵室
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鈴木>
船長!

船長>
ん?
なんだ、またお前か。
今日はいったい何の用だ?

鈴木>
それが、今日はじゃがいもが無くなっちゃったんでやんす。

船長>
え?
今日はじゃがいもが無くなったの?
お前そんなこと言って、またダンボールに人が入っていたりするんじゃないの?
ははははは!

鈴木>
へい。
今日は人は入っていないでやんすよ。

船長>
ははは!
鈴木。
何もそんなにマジで答えなくてもいいよ。
二日続けてそんな馬鹿なことがあるわけがないからな。

鈴木>
へい。
じゃあ、ちょっと来てくれでやんす。

船長>
「じゃあ」
って何が「じゃあ」なのかよくわかんないけど、
なんでじゃがいもがないことで俺が行かなきゃいけないわけ?

鈴木>
それは、コック長が船長を呼んで来いって言ったからでやんす。

船長>
まじで?
コック長ってば、何かっていうと俺に頼るんだから。
もう、しょうがねーな。
じゃあ、ちょっと行ってみるか。
おい!
ちょっと行って来るから後は頼んだぞ!

操舵手>
はい。
わかりました。


--------------------
食料庫
--------------------

船長>
なんだ。
誰もいないじゃないか。

鈴木>
あれ?
変でやんすね。
船長とたまねぎ太郎が先に来てるはずなんでやんすけどね。

船長>
あ、そうなの?
何かの理由で遅れてるのかな。
またトイレかな。

鈴木>
そうでやんすね。
またトイレかもしれないでやんすね。

船長>
じゃあ、ぼーっと待っててもしょうがないから
とりあえずじゃがいもの箱の中身でも確認しとこうか。
よいしょ。
(パカッ)

鬼>
こらこら!

船長>
え?
う、うわっ!
鬼だ!
たっ、食べられるー!

鬼>
「食べられるー!」
じゃねーよ!
うるせーよ!
お前なんか食べないから落ち着けよ!

船長>
うわー!
ぎゃー!

鬼>
だから、うるせーってば!
あんまりうるさくすると、本当に食っちゃうぞ!

船長>
は、はい。
静かにします。

鬼>
よし。
静かになったな。
あのさぁ、お前さぁ、なんでノックしないで開けるわけ?

船長>
えー、だって、二日連続で箱の中に人が入っているなんて思わないですもん。

鬼>
俺は人ではなく鬼だけどな。
まぁ、別にいいけど。
じゃあさ、今後は常に
「もしかしたら鬼が入っているかも。」
と思って、ちゃんとノックするようにしろよ!
わかったな!

船長>
はい。
わかりました。

鬼>
じゃあ、閉めて。

船長>
え?

鬼>
フタを閉めるんだよ!
もう用はないだろ?!

船長>
あ、ああ、はいはい。
閉めます閉めます。
(パタッ)

鈴木>
・・・

船長>
・・・
鈴木よ。

鈴木>
へい。

船長>
お前、鬼がいるの知ってたろ。

鈴木>
いいえ。
知らなかったでやんす。

船長>
ほんとか?

鈴木>
へい。
たまねぎ太郎さんが「鬼がいる」って言ったのは聞いたんでやんすが
コック長が「そんなバカな」って笑ってやしたし、
あっしは実際に見たわけではないでやんすから、
本当にいるとは思いやせんでした。

船長>
あほか!
それは「知ってる」って言うんだよ!
なんでそういうことがありましたっていう話を先に俺にしとかないんだよ!

鈴木>
へい。
すいやせん。

船長>
まったく、もうしょうがねーなー、鈴木は。

(そこへコック長とたまねぎ太郎が登場)

コック長>
あ!
船長!
早いですねー。
もう来てたんですね。

船長>
俺が早いっていうより、そっちが遅いと思うんだけど。
今まで何やってたの?

コック長>
ちょっとトイレにおしっこをしに行ってました。

船長>
やっぱり。

コック長>
で、俺がおしっこをしてたらたまねぎ太郎さんが、
「俺もおしっこしたい。」
って言いだしたんで、一緒に連れションしたんです。

船長>
あっそ。
連れションに「一緒」っていう修飾語は必要ないけどね。

コック長>
そしたらたまねぎ太郎さんのおしっこがはねて、
俺の目に入っちゃって、しみるのなんのって。
さすが、たまねぎ太郎さんのおしっこ。
たまねぎの汁みたいにしみるなぁって。
そう言って二人で笑いあったりしてたんですよ。
それで遅くなりました。

船長>
別に遅れた理由をそこまで詳しく言わなくてもいいよ!

コック長>
はぁ。
すみません。

船長>
それから、たまねぎ太郎のおしっこじゃなくても、
誰のおしっこでもしみると思うぞ。

コック長>
ですよねー。

たまねぎ太郎>
船長!!

船長>
ん?

たまねぎ太郎>
鬼、見た?

船長>
うん。見たよ。

たまねぎ太郎>
どうする?

船長>
どうしようか。

たまねぎ太郎>
箱をロープで縛って逃げられないようにしといて
海に捨てる?

船長>
そうだなぁ。
そうしたいのはやまやまなんだけどさ、
鬼のパワーが予想以上だったらさ、
ロープなんか簡単に引きちぎりそうじゃん?
それで結局は俺たちが殺されることにはならないだろうか。
俺はそれが心配なのだよ。

たまねぎ太郎>
じゃあ隙を見て、殺しちゃう?

船長>
殺すにしてもさ、ナイフやピストルも効かない可能性もあるしさ、
そうするとまた俺たちが殺されることになりそうだよね。
だからできればさ、なんとか穏便にすますことができる対応をとるようにしたいよね。

たまねぎ太郎>
うるせー!
なんだよ、このやろー!

船長>
え?
な、なに。どうしたの?
俺、なんか気に触るようなこと、言った?

たまねぎ太郎>
ちょっと人が甘い顔してればつけあがりやがって。

船長>
え?
なにが?

たまねぎ太郎>
「なにが?」
じゃねーよ!
なんでずーっとタメ口なんだよ!
お前は敬語を知らないのかよ!
ちゃんと敬語でしゃべれよ!

船長>
えっ、えー?!
まじで?
だって、俺、船長だよ?!
俺がこの船で一番偉いんだよ?!

たまねぎ太郎>
それがどうしたんだよ。
誰が偉いかなんて関係ないんだよ。
誰が一番強いかが大事だろ?
お前、あんまり俺様のことなめてると、
鬼より先にお前を海の藻屑にしてやるぞ。

船長>
はい。
わかりました。
敬語で話します。

たまねぎ太郎>
うん。
そうして。

鈴木>
ねぇねぇ、船長。
とりあえず鬼の話を聞いてみるってのはどうでやしょ。
もしかしたら悪い奴じゃないかもしれないでやんすよ。

コック長>
バカ!鈴木!
相手は鬼だぞ!
悪い奴に決まってるじゃないか。
聞こうとして、いきなり噛み付かれでもしたらどうするんだよ!

鈴木>
なるほど。
そうでやんすね。
変なこと言ってすいやせん。

船長>
いや、待て待て。
俺は鈴木の言う通りだと思うぞ。
もしかしたらこの鬼はいいやつなのかもしれん。
ひとつ話を聞いてみるとするか。

コック長>
そうですね。
船長の言う通りですね。
とりあえず話を聞いてみましょう。
また、本当に噛み付くようだったら、
たまねぎ太郎さんや船長が既に噛み付かれているはずですよね。
だから噛み付かれることはなさそうですよね。

鈴木>
コック長、
船長にゴマすると何かいいことでもあるんでやんすか?

コック長>
うるさい!
鈴木!
黙ってろ!

船長>
じゃあ、えーっと。
コック長。
ちょっと鬼と話をしてみてくれないか。

コック長>
え?
お、俺ですか?
嫌ですよ。
いきなり噛み付かれたらどうするんですか。

船長>
いきなり噛み付いたりしないって。
お前がたった今自分でそう言ったばかりじゃないか。

コック長>
いや、それはそうですけど・・・。
でもねぇ、やっぱ怖いですって。

船長>
大丈夫だよ。
俺、さっき見たんだけどさ、全然怖くなかったよ。
ツノには可愛いピンクのリボンつけてたし、
おっぱいもFカップくらいあったよ。

コック長>
え?
もしかして、この鬼、女性ですか?

船長>
うん。
そうだと思うよ。

コック長>
ま、まじっすか!!
わかりました。
じゃあちょっと話をしてみます。

船長>
うん。
頼んだよ。

鈴木>
コック長、エロエロでやんすねー。

コック長>
うるさい、鈴木。
黙ってろ。
じゃあ、開けますよ。
よいしょっと。
(パカッ)

鬼>
うらららーーーー!
(ガブッ)

コック長>
うわぁっ!
いきなり噛み付かれた!
痛い痛い!
は、離して!
しかもオスじゃん!
リボンないじゃん!
Fカップじゃなくて胸毛ボーボーじゃん!

鬼>
(鬼、噛み付くのをやめる)
胸毛ボーボーで悪かったな。
なんで噛み付かれたかわかるな。

コック長>
は、はい。
えっと、ノックしなかったからですね。

鬼>
そうだよ。
ノックしなかったからだよ。
わかってるならちゃんとやれよ。

コック長>
はい。
すみません。

鬼>
で、何?

コック長>
え?

鬼>
何か俺に用事があって開けたんじゃねーの?
ん?
まさか何の用事もないのに開けたんじゃ・・・。

コック長>
あ、はいはい。
ありますあります。
ちょっといろいろお話でも聞かせてもらえたらなぁって思ってます。

鬼>
話?
何?
何の話?

コック長>
えーっとですね、
名前は何ていうんですか?

鬼>
名前?
そんなものはねーよ。

コック長>
あ、そうなんですか。
では密航の目的は?

鬼>
密航の目的?
それもねーよ。
気付いたらこの箱の中にいたんだよ。
多分二日前くらいにこの箱の中で生まれたんだと思うよ。

コック長>
あ、そうですか。
わかりました。
ありがとうございました。
ちょ、ちょっと待っててもらえますか?

鬼>
ああ。

コック長>
船長!!

船長>
なんだ?

コック長>
またです。

船長>
まただな。

コック長>
どうしましょうか。

船長>
じゃあさ、たまねぎ太郎さんと同じでいいんじゃない?

鈴木>
船長、なげやりでやんすねぇ。

船長>
いいじゃん。
別に。
もうめんどくさいよ。
名前もじゃがいも太郎ってことでいいでしょ?!

鬼>
なんでそんなに投げやりなんだよ。
そんなに投げやりになるなよ。

船長>
すいません。

鬼>
じゃあ、じゃがいも太郎で決定ということで。

船長>
いいのかよ!




・・・ということで、密航者あらためじゃがいも太郎の冒険が始まるのであった。

第3話に続く。