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貨物船が航海している。
日本を出発して五日目の朝。
キッチンにて。
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コック長>
さて、今日もまたお腹ペコペコの船員達のために
朝ご飯でも作ってやるとするか。
あのー、たまねぎ太郎さん。
朝食の材料をとってきてもらえませんか?
たまねぎ太郎>
俺が?
なんで?
俺じゃなくて、
新入りのじゃがいも太郎にいかせればいいじゃん。
コック長>
あ、そうですね。
じゃあ、じゃがいも太郎さん、
朝食の材料をとってきてもらえませんか?
じゃがいも太郎>
俺が?
やだよ。
お前が行ってこいよ。
コック長>
そ、そんなぁ。
昨日の夜に船長と四人で話し合って、
最終的に、じゃがいも太郎さんもしばらくの間、
コック見習として働いてもらうことにしようって決めたじゃないですか。
じゃがいも太郎>
うん。
それはそうだけどさ、
俺はたまねぎ太郎の下っ端でもなんでもないわけだからさ、
たまねぎ太郎の仕事をこちらにまわされても困るわけよ。
な。
コック長>
そ、そうですよね。
あ、あははは。
じゃあ最初の予定通り、たまねぎ太郎さんに
とってきてもらうということで。
たまねぎ太郎>
だからなんでじゃがいも太郎じゃなくて俺がいかなくちゃならないんだよ!
「最初の予定通り」って、お前が勝手に決めた予定だろ!
じゃがいも太郎>
うるせーなー。
ぶつぶつ文句言わないでさっさと行ってこいよ。
たまねぎ太郎>
なんだとこの野郎!
お前のほうが新入りなんだからお前が行けよ!
じゃがいも太郎>
あー?
たった一日早く見習いになったくらいで偉そうにするんじゃねーよ!
ボケがー!
ぶっ殺すぞ!
たまねぎ太郎>
なんだと!
こっちこそぶっ殺すぞ!
コック長>
あ、あはははは。
はいはいはい。
わかりましたわかりました。
今朝はとりあえず鈴木に行かせることにしますから、ね。
殺し合いとかぶっそうなことはやめましょうね。
えへへ。
・・・
おい!
鈴木!
鈴木>
へい。
何でやしょ。
コック長>
ちょっくら朝食の材料をとってきてくれないか。
鈴木>
へい。
わかりやした。
で、材料は何をとってくればいいんでやんすか?
コック長>
おいおい!
だから何度も言わすなて!
そこの献立表を見ろよ!
鈴木>
へい。
これでやんすね。
えーっと、
まず、アリ塚を見つけます。
そして木に隠れてアリ塚をこっそり見張ります。
アルマジロがアリを食べにきたところをいっきに捕まえます。
コック長>
鈴木。
鈴木>
へい。
なんでやしょ。
コック長>
その紙、自分の部屋に貼っとけ、な。
鈴木>
へい。
わかりやした。
コック長>
それから、それ、
アルマジロじゃなくて、オオアリクイ、な。
オオアリクイの捕まえ方、な。
まぁ、捕まえ方っつってもずいぶん大雑把な捕まえ方だけども、な。
鈴木>
え?
オオアリクイ?
オオアリクイってなんでやんすか?
コック長>
お前、オオアリクイも知らないのか。
いいか、オオアリクイっていうのはな、
背中の皮膚が角質化していて、
敵に襲われたりすると体を丸めて防御する動物だ。
鈴木>
へー。
そうでやんすか。
コック長って物知りでやんすね。
たまねぎ太郎>
あのさー、鈴木。
鈴木>
へい。
コック長>
「それはアルマジロでやんすよ!」
ってつっこんでくれよ!
って、そんなこと言ってもお前には難しすぎるか。
鈴木>
へい。
難しいでやんす。
せいぜい、
「それはダンゴムシでやんすよ!」
くらいまででやんす。
コック長>
そのツッコミ、間違ってるから。
鈴木>
あ、そうでやんすか?
すいやせん。
たまねぎ太郎>
おいおい。
いつまでくだらないことしゃべってるんだよ。
早く材料をとってこいよ。
コック長>
は、はい。
そうですね。
おい、鈴木。
早く材料をとってこいよ。
鈴木>
へい。
じゃあ早速オオアリクイをとってくるでやんす。
コック長>
違う!
オオアリクイじゃねーよ。
そこの献立表を見て、朝食の材料をとってこいって!
鈴木>
へい。
わかりやした。
えーっと、
パンと牛乳と目玉焼きとサラダでやんすね。
今日は洋風でやんすね。
コック長>
そうだ。
たまにはパンを食べたい船員もいるからな。
鈴木>
なるほど。
そうでやんすね。
では材料をとってくるでやんす。
コック長>
あ、それから牛乳は家畜舎に行って、
直接牛から絞ってくるんだぞ。
鈴木>
へい。
わかりやした。
いってきやす。
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家畜舎
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鈴木>
えーっと、牛乳をしぼるのは、この白と黒のブチの牛でやんすね。
バケツを置いて、と。
じゃあ早速絞るでやんすよ。
よいしょ。
(ジャー)
よいしょ。
(ジャー)
よいしょ。
(ジャー)
よいしょ。
(ポコンッ)
・・・
ん?
今、なんか、「ポコンッ」って変な音がしたでやんすよ。
何でやんすかね。
犬>
おい。
鈴木>
ん?
う、うわっ!
な、なんでやんすか!
い、犬がバケツの中にいるでやんすよ!
犬>
おい、お前、何してくれてんだよ。
鈴木>
へい?
犬>
牛のおっぱいから出ないように出ないようにと
必死で堪えてたのに、お前がおっぱいを絞るから
耐え切れずに出ちゃったじゃないか。
鈴木>
あ、そうでやんすか。
犬>
「あ、そうでやんすか。」
じゃねーよ。
どうしてくれんだよ。
鈴木>
そんなこといわれやしても、
まさか牛のおっぱいに犬が入っているなんて
思いもよらないでやんすもん。
犬>
うーん。
そっか。
まぁ、そうだよな。
普通は牛のおっぱいの中に犬がいるなんて思わないよな。
鈴木>
もし入っていると知ってたら、そーっと絞ったでやんすよ。
犬>
そっか。
うん。
それならいいや。
次から気をつけろよ。
鈴木>
へい。
犬>
ところでさ、お願いがあるんだけどさ。
鈴木>
へい。
なんでやしょ。
犬>
しばらくこの船に俺をおいてくれるように
船長に頼んでくんないかなぁ。
鈴木>
へい。
おやすい御用でやんすよ。
じゃああっしの後についてくるでやんすよ。
犬>
おう。
わりーな。
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キッチン
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鈴木>
コック長!
コック長>
おう。
鈴木か。
材料はとってきたか?
鈴木>
へい。
とってきやした。
これでやんす。
コック長>
おお。
ちゃんと牛乳を絞ってきたな。
ごくろうさん。
鈴木>
へい。
コック長>
で、鈴木よ。
鈴木>
へい。
コック長>
その、牛乳が入ったバケツを持っているのは何だ?
鈴木>
へい。
犬でやんす。
コック長>
それは見ればわかるよ。
その犬、どうしたんだよ。
鈴木>
へい。
この犬でやんすけど、コック見習として
ここで働きたいそうでやんす。
コック長>
鈴木。
鈴木>
へい。
コック長>
誰もそんなことは聞いてないんだよ。
いったいどこから来たのか聞いているんだよ。
鈴木>
へい。
牛のおっぱいの中からでやんす。
コック長>
そうか。
牛のおっぱいか。
鈴木>
あれ?
全然驚かないでやんすね。
コック長>
それくらいじゃ別に驚かないよ。
驚くんだったら、二本足で立って、
片手でバケツを持っているその犬を見たときにすでに驚いてるよ。
一昨日から不思議なことばっかりだからね、
もう慣れっこだよ。
鈴木>
なるほど。
そうでやんすね。
コック長>
で、その犬の名前は牛太郎でいいかな?
犬>
え?
牛太郎?
犬なのに?
コック長>
うん。
犬なのに。
だって、流れから行くと牛太郎にすべきじゃん?
犬>
そっか。
確かに一昨日からの流れから行くと牛太郎にすべきだね。
鈴木>
あれ?
なんで一昨日からの流れを知ってるでやんすか?
犬>
うるさいなー。
別に知らないけどさ、
いちいちつっこむのが面倒くさいから流しただけだよ。
鈴木>
なるほど。
そうでやんしたか。
すいやせん。
コック長>
じゃあ犬太郎には早速明日から働いてもらうとするか。
牛太郎>
ありがとう。
鈴木>
コック長!
さっそく名前、間違えてるでやんすよ!
コック長>
いいんだよ。
別に犬太郎でも牛太郎でも。
わかれば。
鈴木>
そうでやんすか?
それは牛太郎さんに失礼なんじゃないんでやんすか?
牛太郎>
別にいいけど。
鈴木>
そうでやんすか。
じゃあ、猫太郎さんがいいっていうんならそれでいいでやんす。
牛太郎>
だ、誰が猫太郎じゃい!
猫太郎>
それでいいにゃー。
牛太郎>
な、なんだお前は。
猫太郎>
私かにゃ?
私は平コックの猫太郎だにゃー。
どうぞよろしくにゃー。
牛太郎>
あ、猫太郎ってあなたのことなのね。
はいはい。
ならいいよ。
俺の名前を間違えたんじゃないのね。
でもさ、鈴木よ。
なんで猫太郎がいいっていうならいいんだよ。
猫太郎に何の権限があるんだよ。
鈴木>
牛太郎と猫太郎を間違えただけでやんすよ。
犬>
結局間違えてたのかよ!
だめじゃん!
しっかりしろよ!
鈴木>
へい。
すいやせん。
猫太郎>
「平コック」
という言い方には誰もつっこんでくれないのにゃん。
悲しいにゃん。・・・
・・・ということで、たまねぎ太郎、じゃがいも太郎にくわえ、牛太郎まで登場だ!
今後の展開は、どうしたらいいでしょうか。
第4話に続く。