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貨物船が航海している。
日本を出発して六日目の朝。
放送室に副船長がいる。
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副船長>
さて、それでは早速館内放送でもするか。
言うことをまとめておいたメモは、確かポケットに入れておいたはず・・・
あ、あったあった。
これだな。
よし。
(ピンポンパンポーン)
皆さん、
おはようございます。
副船長です。
今日は皆さんに大事なお知らせがあります。
え〜、
「オオアリクイっていうのはな、
背中の皮膚が角質化していて、
敵に襲われたりすると体を丸めて防御する動物だ。」
って言われたら、
「それはアルマジロでやんすよ!」
とツッコむべし。
って、うわっ!
なんだよ、これ!
なんでこんなわけのわからないメモが俺のズボンのポッケに
入ってるんだ?
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キッチン
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コック長>
鈴木。
鈴木>
へい。
なんでやしょう。
コック長>
なんで副船長のズポンのポケットにお前が書いたメモが入っているんだろうな。
鈴木>
へい。
なんででやしょうね。
コック長>
「なんででやしょうね。」って、
お前が入れたからだろ?
鈴木>
いいえ。
あっしは入れてないでやんすよ。
コック長>
あっ、そう。
じゃあ昨日の夜の出来事を順を追って話してみ。
鈴木>
へい。
わかりやした。
昨日の夜は大変蒸し暑かったでやんす。
なので、寝る前に水をたくさん飲んだでやんす。
そうしたら、つい寝小便しちまったでやんす。
あわててパンツは履き替えたでやんすけど、
ズボンの替えが見当たらなかったでやんす。
そこで副船長が枕元においておいたズボンをちょっくら拝借したでやんす。
それからまた寝ようとしたんでやんすけど、なかなか眠れなかったもんで、
暇つぶしに昼間コック長に言われたことをメモしたでやんす。
で、そんなことをしてたらまた眠くなってきたので、
メモをズボンのポケットに入れて寝たでやんす。
そして朝起きてから副船長が起きる前にこっそりと
ズボンを元に戻しておいたでやんす。
あ!
それであっしが書いたメモが副船長のズボンのポケットに
入っていたでやんすね。
へい。
あっしが入れやした。
コック長>
お前、名探偵に動かぬ証拠をつきつけられて、
それで観念して自供している犯人よりも
しっかりと白状しちゃってるじゃないか。
鈴木>
コック長。
例えが長いでやんすよ。
コック長>
うるさいよ。いいだろ、別に。
お前なぁ、勝手に人のズボンをはいちゃだめじゃないか。
鈴木>
へい。
すいやせん。
コック長>
次からはちゃんと替えのズボンを準備してから寝るようにしろよ!
鈴木>
へい。
わかりやした。
コック長>
っつーか、いい歳しておねしょするなよな。
まったく。
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放送室
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副船長>
えーっと、
皆さん、
もうしばらくお待ちくださいね。
こっちのポケットかなぁ。
ないなぁ。
こっちかなぁ。
あ、あったあった。
えー、では改めてご連絡します。
ここ2、3日でじゃがいも太郎さんとたまねぎ太郎さんと
牛太郎さんが新たな乗組員となったわけですが、
彼らは桃太郎の世界から来た人達だということがわかりました。
なので今後も他の登場人物があらゆるところから
出てくる可能性がありますので、皆さん、
十分に注意して驚かないようにしてください。
以上、副船長からのお知らせでした。
(ピンポンパンポーン)
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放送室
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船長>
なんだそりゃ。
たったそれだけのことが、メモがないと言えないのか。
まったく副船長は情けないなぁ。
しかも、桃太郎の世界から来たことは
あくまでも推測に過ぎないのに
勝手に事実であるかのように話しやがって。
もし間違えてたらどうすんだよ。
みんなもこんな言い方じゃわかんないだろうに。
もっと詳しく話せよ。
(ピンポンパンポーン)
船長>
お?
なんだなんだ?
詳しく話すのか?
副船長>
えー、言い忘れましたが、
本日、人手が足りていない部署の調査に
伺いますのでよろしくお願いします。
(ピンポンパンポーン)
船長>
だからそれもちゃんと詳しく話せよ!
いきなり結論だけ言ってもなんで
そんなことを調査するのか
みんな、わかんないだろ!
まったく。
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放送室
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コック長>
と、いうことで、だ。
鈴木よ。
鈴木>
はい。
なんでやしょう?
コック長>
砂糖が切れたので食料庫から
砂糖を一袋持ってきてくれ。
鈴木>
へい。
わかりやした。
コック長>
あ、それから、流れからするとたぶん猿かキジが
出てくると思うけどびっくりするなよ。
それから箱を開けるときはちゃんとノックしろよ。
鈴木>
へい。
わかりやした。
では、いってきやす。
コック長>
おう。
頼んだぞ。
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食料庫
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鈴木>
砂糖の箱は、と。
えーっと、あったあった。
これでやんすね。
よいしょっと。
(パカッ)
謎>
こらー!
鈴木>
うわっ!
びっくりしたでやんす!
謎>
びっくりするのはこっちだよ!
いきなりあけんじゃねーよ!
ノックしろよ!
鈴木>
へい。
すいやせん。
でも、まさか、
箱の中に人が入っているなんて
思わなかったでやんすから。
謎>
お前はアホか!
さっき船内放送で
「あらゆるところから人が出てくる可能性があるので
驚かないでください。」
って言ってたじゃねーか。
聞いてなかったのかよ!
鈴木>
へい。
聞いてやせんでした。
でも、コック長から、
箱をあける前にはちゃんとノックしろと言われやした。
驚くな、とも言われやした。
謎>
なんだそれ!
放送は聞いてないけど、
ちゃんと「ノックしろ」ってアドバイスもらってるじゃねーか!
なんで言われた通りにやらないんだよ!
鈴木>
それが、
「コック長がまたしょーもないこと言ってるなぁ。」
と思ったからでやんす。
謎>
コック長って、信用ねーからな。
お前がそう思うのも無理はないよな。
いいよ。
わかったよ。
ノックしなかったことは許してやるよ。
もう帰っていいよ。
お疲れさん。
鈴木>
へい。
ありがとうございやす。
謎>
おーっと。
お前、砂糖とりにきたんだろ?
鈴木>
あ、そうでやんした。
謎>
ほらよ。
これ持ってけよ。
今度来るときはちゃんとノックするんだぞ。
鈴木>
へい。
わかりやした。
では失礼しやす。
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キッチン
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鈴木>
コック長。
コック長>
おう、鈴木。
砂糖はちゃんと持ってきただろうな。
鈴木>
へい。
持ってきやした。
これでやんす。
コック長>
おう、これこれ。
ありがとな。
鈴木>
・・・
コック長>
で?
鈴木>
へい?
コック長>
出なかったのか?
鈴木>
出やした。
コック長>
そうか。
出なかったのか。
って、出たのか!!
やっぱ出たのか!!
何事もなかったかのようにボーっとしてるから
何も出なかったのかと思っちゃったじゃねーか。
鈴木>
へい。
すいやせん。
コック長>
で、猿だった?
キジだった?
鈴木>
へい。
猿でもキジでもなかったでやんす。
コック長>
あっそう。
じゃあおじいさん?おばあさん?
鈴木>
へい。
おじいさんでもおばあさんでもなかったでやんす。
コック長>
まじで?
じゃあ誰だったの?
鈴木>
へい。
青年でやんす。
コック長>
青年?
それは予想外だなぁ。
こりゃあ、船長の推理が外れたかな。
うーむ。
・・・
よし!
じゃあ、ちょっとそいつを見に行ってみるか。
おい!
鈴木!
ちょっと船長を呼んできてくれ。
俺は先に食料庫に行ってるからな。
鈴木>
へい。
わかりやした。
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食料庫
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船長>
よー!
コック長!
予想通り、また出たらしいな。
コック長>
あ、船長。
はい。
出たみたいです。
しかし出たものは予想通りじゃないみたいですよ。
船長>
うむ。
出てきたのは青年らしいな。
コック長>
はい。
どうやらそうらしいです。
な、鈴木。
鈴木>
へい。
そうでやんす。
船長>
そうか。
次は猿かキジだと思ってたんだがなぁ。
でもさ、コック長はまだ自分の目で
確かめたわけじゃないんだろ?
コック長>
はい。
そうです。
船長>
やっぱりこういうことは自分の目で確かめてみないとな。
鈴木が猿と青年を見間違えているかもしれないからな。
コック長>
そうですね。
船長>
じゃあ、コック長。
ちょっとあけてみてくれないか。
コック長>
え?
俺がですか?
嫌ですよ。
鈴木にあけさせましょうよ。
船長>
鈴木はだめだよ。
鈴木にあけさせると、
またノックしないであけちゃったりするだろ?
コック長>
いや、それはそうですけど・・・。
ちゃんと言い聞かせれば大丈夫ですよ、きっと。
船長>
いや、ちゃんと言い聞かせても鈴木はノックしないよ。
こいつはそういう奴だよ。
コック長>
船長!
鈴木のこと、馬鹿にしすぎですよ。
いくら鈴木でもしっかり教えてあげれば
ちゃんとノックぐらいできま
謎>
こらーっ!!!!!
コック長>
すうわーっ!!!!!
謎>
だからノックしろよてめーはよー!
コック長>
え?
なになに?
僕、何もしてないですよ。
謎>
何をー?
今、ノックしないで箱を開けたじゃねーかよ!
コック長>
え、えええ?
まだ誰も開けてないですって。
な、鈴木。
鈴木>
へい。
あけやした。
コック長>
ね!
誰も開けてない開けたのかよ鈴木!!!
鈴木>
へい。
コック長>
まったく、なんでお前はいつもいつもそういうことを・・・。
ということでですね、
こいつが開けたみたいです。
はい。
謎>
お前が開けようが鈴木が開けようが、
そんなことはどっちでもいいんだよ!
ノックしろって言ってるんだよ!
コック長>
え?
あ、はぁ。
すみません。
って、なんで俺があやまっちゃってるかなぁ。
謎>
で?
何の用なの?
船長>
えーっとですね、
あのー、
あなたは何者なんですか?
コック長>
船長。
聞いても無駄ですよ。
どうせ何にもわからないって言われるだけに
決まってるんですから。
謎>
俺か?
俺は桃太郎だよ。
コック長>
ね!
やっぱり何もわかってないでしょ、って、え?
桃太郎?
船長>
あの、桃から生まれた?
桃太郎>
ああ、そうだよ。
桃から生まれた桃太郎だよ。
「ひとーつ、人の世の生き血をすすり、
ふたーつ、不埒な悪行を三昧、
みーっつ、醜い浮世の鬼を退治てくれよう、桃太郎。」
の桃太郎だよ。
鈴木>
え?
桃太郎は桃太郎でも桃太郎侍のほうでやんすか?
桃太郎>
はっはっは!
冗談だよ、冗談。
桃太郎侍じゃなくて、ちゃんとした桃太郎だよ。
船長>
そういえば頭に桃の絵が書いてあるはちまきが巻いてあるなぁ。
コック長>
そうですね。
船長>
とするとだよ、今まで桃太郎だと思っていたたまねぎ太郎は
いったい何者なんだろうな。
コック長>
うーん。
確かにそうですね。
いったい誰なんでしょうね。
桃太郎には他にも若い男性は出てきてましたっけね?
鈴木>
昔、ドリフの西遊記というテレビ番組があったでやんすよ。
志村けんが孫悟空で、仲本工事が沙悟浄で、高木ブーが猪八戒で、
いかりや長介が三蔵法師でやんしたよ。
しかし加トちゃんにはうってつけの配役がなかったもんで、
加トちゃんはそのまま加トちゃんというキャラで出てたでやんすよ。
たまねぎ太郎は、その加トちゃんと同じような感じじゃないんでやんしょかね。
コック長>
なんだそれ。
そんなわけないじゃないか。
船長>
いや、鈴木の言うことにも一理あるかもしれん。
桃太郎が出てくるってだけですでに異常な世界になっちゃってるからな。
桃太郎にそういうキャラが出ていたとしても不思議はないだろう。
コック長>
なるほど、そうですね。
さすが船長はいいこと言いますねぇ。
鈴木>
コック長、
背中に「船長命」ってイレズミでもしたらどうでやんすか?
コック長>
うるさいよ、鈴木!
ちょっとだまってろ!
桃太郎>
なぁなぁ、そのたまねぎ太郎とやらが誰かなんてどうでもいいからさ、
俺の面倒をしばらく見てくんないかな。
船長>
いいですよ。
次に上陸するまではしばらく面倒を見ることにしましょう。
では、他のみんなにも紹介しますね。
犬とか鬼とか、きっと懐かしいと思いますよ!
たまねぎ太郎は何者なの?
と謎を残しつつ、第6話に続く。