ガリレオ



交番にて

警察官>
ほら。
お茶だ。
飲みなさい。

ガリレオ>
ゴクゴクゴク。
はぁー。

警察官>
どうだ。
少しは落ち着いたか?

ガリレオ>
はい。

警察官>
全く。
いい歳した大人が昼間っからケンカなんかしてちゃダメじゃない。

ガリレオ>
はぁ、申し訳ないです。

警察官>
じゃあ、書類を作るのに一通り聞いていくんで、正直に答えてね。

ガリレオ>
はい。

警察官>
名前は?

ガリレオ>
ガリレオ・ガリレイです。

警察官>
ガリレオンダー・ガレリン、と。

ガリレオ>
うわぉ!
ちょっとちょっとお巡りさん、お巡りさん。
全然違いますよ。
「ガリレオ・ガリレイ」
です。
いったい誰ですか。
「ガリレオンダー・ガレリン」
て。

警察官>
ごめんごめん。
ガリレオ・ガリレイ君ね。
いやー、
「モレキサンダー・ポレリン」
と似てるから間違えちゃった。

ガリレオ>
全然似てないですよ!
誰ですか!
「モレキサンダー・ポレリン」
て!

警察官>
え?
知らないの?
前田日明の引退試合に出場した、
「人類最強」と呼ばれるロシアのレスリングの選手だよ。

ガリレオ>
それは、アレキサンダー・カレリンですよ!

警察官>
あ、そうそう。
カレリン、カレリン。
わははは!
いや、参ったね。

ガリレオ>
参ったのはこっちですよ。

警察官>
で、そのガリレオ君がなんでケンカなんかしたのかな?

ガリレオ>
いやぁ、僕はケンカする気なんか全然なかったんですけどね、
向こうが先に手を出してきたもんですから。

警察官>
向こうは理由もなく手を出してきたの?

ガリレオ>
いや、その前に話をしていて。

警察官>
それはどんな話?

ガリレオ>
地球は太陽の周りを回っているっていう話です。

警察官>
地球は太陽の周りを回っているって?
もしかしてあんた、今巷で有名なあのガリガリ君?

ガリレオ>
ガ、ガリガリ君て!
俺はソーダ味ですか!
変な省略の仕方しないでくださいよ。

警察官>
だって世間ではみんな「ガリガリ君」って言ってるよ?!

ガリレオ>
ま、まじですか!?
うわっ。
ショックだわー。

警察官>
ねぇ、ガリガリ君。

ガリレオ>
いや、あのー、そのガリガリ君って呼び方、やめてもらえませんか?

警察官>
え?
何で?

ガリレオ>
何で、って、そんな名前、嫌に決まってるじゃないですか。

警察官>
そうなの?
じゃあ、ブラックモンブランにしとく?

ガリレオ>
しとかないです!
なんでアイスクリームの名前で攻めてくるんですか!
普通にガリレオ君でいいですよ。
最初そう呼んでたじゃないですか。

警察官>
わかったよ、モレキサンダー君。
次回からガリレオ君って呼ぶことにするよ。

ガリレオ>
モレキサンダーじゃないって!
しかも次回っていつだよ!
今この時点からガリレオ君って呼んでくださいよ!

警察官>
はいはい。
ガリレオ君ね、ガリレオ君。
でさぁ、ガリレオ君さぁ、なんで地球は太陽の周りを回ってるとか
変なことを言ってるわけ?

ガリレオ>
それはそれが事実だと思っているからです。

警察官>
そんな、思っているだけで人民の心を惑わしちゃだめだよ。

ガリレオ>
いや、思っているというのは私の言い方がまずかったですね。
私はいろんな観測を行っているんですが、
その結果が、地球が動いているとしか考えられないような結果ばかりなんですよ。
だから思っているんじゃなく、確信ですね。

警察官>
あ、そうなの?
じゃあその観測ってどんなの?

ガリレオ>
観測ですか?
うーん、説明してもいいですけどね。
難しいですよ?!

警察官>
じゃあ、いいや。

ガリレオ>
え?
いいんですか?
あきらめるの早っ!!
もっと食いついてくださいよ。

警察官>
いいよ、別に。
だって難しいんだろ?!
俺、難しいの嫌いだもん。
だからさぁ、もし話たいんだったら
俺にもわかるように例え話で説明してくんない?

ガリレオ>
例え話ですか?
うーん。
いいでしょう。
やってみます。

警察官>
おう、よろしくな。

ガリレオ>
駅のホームに、乗っている電車が止まっているときに、
「あ、動き出したな。」
と思っていると、実は反対側の電車が動いているだけだった、
っていう事があるでしょ?!

警察官>
ああ、あるね。

ガリレオ>
つまり、見てる対象が動いていると、自分のほうが動いているような
錯覚に陥ってしまうわけですよ。

警察官>
そうだね。

ガリレオ>
そこで、この現象を太陽と地球に当てはめて考えてみると、
見ている対象、つまり太陽が動いていると、自分が乗っている電車、
つまり地球が動いているかのような錯覚に陥るということになるわけです。

警察官>
だから、お前が地球の方が動いているような錯覚に陥っているわけだね。

ガリレオ>
そうですね。

警察官>
お前、バカだろ。
自分で、地球が動いているように感じるのは錯覚です、
って言っちゃってるじゃん!

ガリレオ>
あ、ほんとだ!
これは例え話がおかしかったですね。

警察官>
おいおい!
しっかりしろよ!

ガリレオ>
はい。
しっかりしますしっかりします。
では、改めて話をしますね。

警察官>
今度はちゃんと話してくれよ!?

ガリレオ>
はい。
わかりました。
えーっと、地球の地面の下には3匹の象がいて、
さらにその下には大きな亀がいるのはご存知ですよね?!

警察官>
え?
「ご存知ですよね?!」
は、おかしいだろ。
「亀がいるとしますよね?!」
じゃねーのかよ。

ガリレオ>
いえいえ。
これは事実なのでこれでいいんです。

警察官>
事実?
お前は何時代の何インド人だよ!

ガリレオ>
え?
何時代の何インド人て、
そんなの、現代の日本人に決まってるでしょ!
まったくもう、しょうがないですねー。
こんなことも知らないようじゃ話ができないじゃないですか。

警察官>
おいおい!
なんだか「お前バカだなぁ。」みたいな雰囲気になってるけど、
お前のほうがおかしいんだからな!

ガリレオ>
はいはい。
わかりました。
じゃあ、それはそれでいいです。
では、例え話ということで話を進めますが、
その一番下の亀もお腹が空いたりするわけですよ。
そしてお腹が空くとエサを求めて動き回るわけですよ。

警察官>
まぁ、その亀がお腹が空くという例え話だとするならそうだろうね。

ガリレオ>
で、亀が動き回るとその上に乗っている3匹の象もグラグラ揺れるわけですよ。
そうなると当然象の上に乗っている地上も揺れますよね。
これが地球に地震が発生する理由なんですよ。

警察官>
なんだよそれ!
誰も地震が発生する理由なんか聞いてないだろ!

ガリレオ>
あ、そっか。
えへへ。

警察官>
おいおい、しっかりしろよ!
全く。
地球の代わりにお前を太陽の周りに回したろか!

ガリレオ>
すいません。
別の話をしますから。

警察官>
えー、もういいよ。
なんかお前の話を聞いているのは時間の無駄のような気がしてきたよ。

ガリレオ>
まぁまぁ、そう言わずに聞いてくださいよ。

警察官>
ええー、もう、しょうがねーな。
今度はちゃんと話せよ!

ガリレオ>
はい。
ちゃんと話します。
えーーーー、昔々あるところに、
おじいさんとおばあさんが住んでいました。

警察官>
ちょっと待て。
もしかしてそのおじいさんは山へ芝刈りに行ったり、
おばあさんは川へ洗濯に行ったりしないだろうな?

ガリレオ>
もちろん行きますが。
な、なんでそれを?

警察官>
そんなの、日本人だったら誰でも知ってるよ!
それ、桃太郎だろ!?
なんでここで桃太郎の話とかするんだよ。

ガリレオ>
え?
だってお巡りさんが別の話を聞きたいってグズるから。

警察官>
誰もグズってねーよ!
俺はなかなか眠れない5歳児か!
お前が別の話をしたいって言い出したんだろ!

ガリレオ>
だから別の話をしたんじゃないですか。

警察官>
別の話は別の話でも地動説を説明するための話をしろよ!

ガリレオ>
そんな横暴な。
別に私が地動説に関係ある話をしようがしまいが
そんなの私の勝手でしょ!!

警察官>
なんだとこのやろー!
(ポカッ!)

ガリレオ>
い、いたっ!
な、なにするんですか!
警察官のくせに暴力をふるうなんて!

警察官>
うるさいっ!
お前がわけのわからない話ばっかするからだろ!
叩かれるのが嫌だったら、もっとまともな話をしろよ!
なんか、お前が最初に殴られた理由がわかったような気がするよ。

ガリレオ>
わかっていただけたようで私も嬉しいです。

警察官>
じゃあねぇ、もういいよ。
書類は一通り書き終えたから、もう帰っていいよ。

ガリレオ>
ほんとですか?

警察官>
ああ。

ガリレオ>
わかりました。
いろいろとご迷惑をおかけしてすみませんでした。

警察官>
うむ。
もうケンカとかするなよ!

ガリレオ>
はい。
では失礼します。

警察官>
ああ。
気をつけてな。

ガリレオ>
あ!
最後に一言だけいいですか?

警察官>
ん?
なんだ?

ガリレオ>
それでも地球は回っているし、地球の下の亀はエサを探している。

警察官>
はいはい。
じゃーね!