万引き


警備員>
あなたねぇ、いい歳して万引きなんて、
恥ずかしいと思わないの?

おばちゃん>
え?
万匹?
やだよぉ、こんなおばちゃんつかまえて。
恥ずかしいわぁ。
万匹だなんてとんでもない。
あたしゃ、せいぜい千匹だわよ。

警備員>
あ、そうなの?
でも千匹でも十分だよ、おばちゃん。
もっと自分に自信を持ったほうがいいよ。
って、誰がミミズの話をしてんだよ!
えーい、気色の悪い。
俺が言ってるのは、万に引っ張ると書く方の万引きなの!

おばちゃん>
え?
マンを引っ張る?

警備員>
だーかーらー、
そういうことじゃないの!
商品を盗んだだろ?
ってことを言ってるの!

おばちゃん>
商品を盗んだ?
このあたしが?
まさか。
あなたのハートを盗んだことは認めるけど、商品なんかは盗んでいないわよ!
失礼な!

警備員>
俺のハートは盗まれてねーよ!
これっぽっちも盗まれてねーよ!
そっちが失礼だよ!

おばちゃん>
あら、そう?
じゃあ、盗まれてないなら早く家に帰してよ。

警備員>
そうですね。
じゃあ家に帰ってもいいですよ、
ってなるか、ボケー!
あくまでもしらを切るつもりだな。
よーし、わかったよ。
それじゃあ、バッグの中身を全部ここに出しなさい。

おばちゃん>
え?
なんでバッグの中身を出したりしなきゃいけないの?
別にたばことか化粧品とか漫画とか入ってないわよ。

警備員>
たばことか化粧品とか、中学校の持ち物検査か!
ちゃんとレジを通っていれば、
別にたばことか化粧品とかは入っててもいいの!
レジを通ってない商品があるかないか調べるから
バッグの中身を全部ここに出しなさいって言ってるの!
何も盗んでいないんだったら、バッグの中身を出しても別に問題ないでしょ!

おばちゃん>
わかったわよ。
出すわよ。
でも何が出てきてもびっくりしないでよね。

警備員>
なんだよ、それ。
なんかびっくりするもんが入ってるのか?

おばちゃん>
まずはこれよ。

警備員>
髭剃り?
おばちゃん、女のくせに髭剃りなんか使ってるの?

おばちゃん>
次はこれよ。

警備員>
フーゾクの会員カード?
おばちゃん、女のくせにフーゾクとか行ってるの?

おばちゃん>
そしてこれよ。

警備員>
ん?
子供の写真じゃないか。
おばちゃんも人の親なんだな。
子供の写真を持ち歩くなんて。
あのね、おばちゃん。
こんなに可愛い子供がいるのに万引きなんかしちゃダメじゃないの。
おばちゃんが警察に捕まると、子供が悲しむんだよ。
こんなに可愛い・・・。
こんなに可・・・。
あれ・・・。
この子供、俺の子供に似てるなぁ・・・。
ん?
似てるっていうか、これ、俺の子供?
・・・
おばちゃん!!!!!
これ、俺のじゃん!
ちょっと、ちょっと!
あ!
それ、俺のカバンじゃん!
てんめー、いつの間に!

おばちゃん>
ほーら、びっくりした。

警備員>
当たり前だろ!
そりゃ、びっくりもするわ!

おばちゃん>
フーゾクの会員カードは、カバンの中じゃなくて
もっと別のところに隠しておいたほうがいいわよ。
そうしないと子供に見つかっちゃうわよ。
ほら。
例えば、こうやって財布に入れとくとか。

警備員>
そうか。財布に入れとけばいいのか。
って、それは俺の財布じゃないか!
このやろう!
なんでお前が俺の財布まで持ってるんだよ!
いつの間に俺のズボンのポケットからスリやがったんだよ。
まったく、油断もスキもねーな。

おばちゃん>
そんなにフーゾクが好きなら、あたしが相手してあげてもいいのよ。

警備員>
うるさい!
今はフーゾクの話は関係ないだろ!
もういいから、ちゃんと自分のバッグの中身を出しなさい!

おばちゃん>
わかったわよ。
そんなにガミガミいわないでよ。
今度はちゃんと自分のバッグから出すわよ。
えーっと、これとこれと、
はい。
出したわよ。
これで全部よ。

警備員>
どれどれ。
歯ブラシに歯磨き粉につまようじに糸ようじに胃薬、ね。
ほら。
見てごらん。
これらにはきっちり値札がついているよね。
目をそらさないで。
自分でよく見て。
ほら、ここね。
ここ。
これらはうちの商品だよね。
これらのレシートは持ってる?
ん?
持ってないだろ?
ほーれみろ。
やっぱり盗んでたじゃないか。

おばちゃん>
わーーーーー。
ごめんなさーい。
えーんえーん。
家ではお腹を空かした子供達が待っているの。
その子供達に何か食べさせてあげたくて、
それでつい盗んでしまったのよ。

警備員>
だったら食べ物を盗めよ!
歯ブラシとかつまようじとか、
全部食べた後に使うものじゃん!
食い物は別にちゃんとありますよ、
って言ってるようなもんじゃん!
それだけならまだしも、胃薬も盗むて、
どんだけ食べる気なんだよ!
準備万端じゃねーか!

おばちゃん>
じゃ、私はこれで。

警備員>
こらこら。
「これで」
じゃないだろ!
本格的な取調べはこれから始まるんだよ!

おばちゃん>
もうー、まったくしょうがないわねー。
こっちは時間がないんだからさ、
早くしてよね。

警備員>
あのなー、
お前が素直に言うことを聞けば早く済むんだよ!
じゃあちゃっちゃと済ませるからね。
まずは、住所と名前を言いなさい。

おばちゃん>
それは言えないわ。

警備員>
あーもー!
言ってるそばからー!
あのねー、おばちゃん。
それを言わないとさ、警察に連絡することになっちゃうよ?!
それでもいいの?

おばちゃん>
あら。
別に警察に連絡してくれてもいいのよ。
それでどっちがセクハラしたのか
警察に白黒つけてもらおうじゃないのさ。

警備員>
誰もセクハラなんかしてねーよ!
どっちかっつーとおばちゃんのほうがセクハラしてるよ!

おばちゃん>
あらまぁ。
フーゾクの会員カードとかを見せて
誘惑してきたのは誰かしら?

警備員>
それはお前が勝手に人のカバンをあけて、
勝手に見ただけだろ!
っつーか、お前はフーゾクの会員カードを
見せられると誘惑されちゃうのかよ!
わかったよ。
もういいよ。
警察を呼ぶからな。
後悔しても知らないからな。

おばちゃん>
わっはっはっはっはー!

警備員>
な、なんだよ、いきなり。
頭おかしくなっちゃったか?

おばちゃん>
はっはっはー!
別に頭がおかしくなったわけではないわ。
私は何を隠そう
「警備員Gメン」
なのよ。
最近は、万引きを見つけた警備員が
犯人を見逃してあげる代償として
体を要求するという事件が後を絶たないのよ。
そこで私がデパートの上層部から依頼を受けて
囮捜査をしてたってわけなのよ。

警備員>
本当ですか?
それは知らないこととはいえ、大変失礼しました。
それで私は何か問題ありましたか?

おばちゃん>
うん。
特に問題はないわ。
私のお色気作戦にも一切ひっかからなかったしね。

警備員>
そんな、あなたの色気になんて
惑わされるわけないじゃないですか。
色気を前面に出した囮捜査をするんだったら、
もっと若くて可愛い子を警備員Gメンにしたほうが
いいですよ。
ん?
そう考えるとちょっと変だなぁ。
こんなおばちゃんが警備員Gメンになれるのか?
あなた、本当に警備員Gメンなんですか?
何か証拠を見せてくださいよ。

おばちゃん>
証拠?
じゃあ、警備員Gメンの身分証明カードを見せてあげるわ。
ほらよっ!

警備員>
あ!
なんであんな遠くに投げるんですか。
全くもう。
・・・
よいしょっと。
・・・
おおおおおおおおおおおい!!!!!
これ、俺のフーゾクの会員カードじゃないか!
いつの間にまたスったんだよ!
って、あ、あれ?
いない!
どこにいきやがった!
くっそー、やられたー!
今のスキに逃げやがったな。
ちくしょう!
あいつめー。
今度見つけたらただじゃおかないぞー。
・・・
でもまぁ、盗まれた商品は置いていったみたいだから、
それだけでもよしとするか。
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
でも、俺のハートだけは盗んで行きやがったけどな。
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
おばちゃん、
また会えるかな。


店長>
・・・
・・・
・・・
お前、クビ。

警備員>
ノォーーーーーーーーーー!!!
店長ぉーーーーーーーーー!!!
いつの間にぃーーーーーー!!!