宝物屋

客>
こんにちはー。

宝物屋のオヤジ(以下、オ)>
いらっしゃいませー。 

客>
あのー、ちょっとお伺いしたいのですが、
こちらのお店、看板に「宝物屋」って書いてありますよね。

オ>
はい、そう書いてあります。

客>
やっぱりそうですか。
私の見間違いや、書き間違いなんかじゃないんですね。
宝物屋ですか。
初めて聞きましたよ。

オ>
そうでしょうそうでしょう。
私も見たことないですから。
だから誰もまだやってない宝物屋なるものを
やったら儲かるかなと思いましてこのような商売をはじめた次第でして。
珍しさも手伝って、あなたみたいなお客様が実際にいらっしゃいますしね。

客>
いやぁ、確かにその通りですね。
宝物って聞くだけで興味をそそられますからねぇ。
では、興味をそそられついでに実際にどういう宝物を売っているのか、
ちょっと見させてもらってもいいですか?

オ>
はい。
どうぞどうぞ。
ご自由にご覧になってください。
もし気に入ったのがあったら購入してくださいね。

客>
わかりました。
ありがとうございます。
ではさっそく端から見させていただきますね。
どれどれ。
・・・・・・・
おや?
ちゃんと整理されて置いてあるんですね。

オ>
はい。
お客様が目的の宝物を探すのに便利なように
コーナー別に整理して置いてあります。

客>
なるほど。
それでは、まずは・・・「小学生コーナー」ですか。
ここを見てみますね。

オ>
はい。
どうぞ。

客>
これは、・・・
ビンのフタですか?

オ>
はい。
そうです。

客>
あ、やはりそうですか。
なんだかパッと見、普通のビンのフタに見えますが、
これは何か特別なものなんですか?

オ>
いえいえ。
特別なものではありません。
ごく普通のビンのフタでございます。

客>
あ、そうなんですか。
それなのに宝物なんですか?

オ>
はい。
小学生ぐらいの子供たちは、よくただのビンのフタや
釘とかを宝物にして集めたりしてますよね?!

客>
あ、なるほど。
確かにそうですね。
それで大人の目から見たらゴミにしか見えないような
物ばかりが小学生コーナーには並んでるんですね。

オ>
はい。
そうです。

客>
でもこれって売れるんですか?

オ>
それが全然売れませんね。

客>
ですよね?!
だいたいタダで簡単に手に入るようなものを
わざわざ買いに来る人はいませんもんね。
わかりました。
あまり面白そうなのもがなさそうなので、次の「中高生コーナー」を見てもいいですか?

オ>
はい。
どうぞどうぞ。

客>
はて?
このイスは何ですか?
なんか普通の中学校の教室で使っているイスのようですが。

オ>
これですか。
これは、憧れの佳代子ちゃんが使っていたイスです。

客>
佳代子ちゃんて、誰ですか?
そして、誰の憧れなんですか?
なんか急にエロくなってきましたね。

オ>
そうですね。
中高生ともなると、もうそれはそれは、頭の中は常にエロだらけですからね。
宝物というと必然的にそういうものばかりになってしまうんですよねぇ。

客>
なるほどー。
まぁ、そういうもんなんでしょうねぇ。
では、他には、・・・と。
なんかボロボロのエロ本とかがありますね。
モロですね。

オ>
はい。
モロです。

客>
これ、なんでボロボロなんですか?

オ>
これはリアリティを追求するために
河原などに落ちているのを本物のエロ本を拾ってきているからです。
だから風雨にさらされてボロボロになっちゃってるんですよねぇ。

客>
あ、そうなんですね。
さすが!
凝ってますねぇ。

オ>
ありがとうございます。

客>
他には、・・・と。
これはテストの答案用紙ですね。
点数が52点ですけど・・・。
これはどこが宝物なんですか?

オ>
これですか。
これは生まれて初めて52点という最高点をとることができた時の
記念として、宝物としてとってあるんですよ。

客>
まじですか?
52点で最高得点だなんて、その人相当頭悪いですね。
うははは。

オ>
それ、私なんですけどね。

客>
あ、そーなんですか?!
大変失礼しました・・・・。
えーっと、・・・・。
あ!
こっちにも答案用紙があるじゃないですか!
こっちは38点ですよ?!
これも宝物なんですか?

オ>
そうです。
これは、エンピツを忘れてきたときに、憧れの佳代子ちゃんが
貸してくれたエンピツを使って書いた答案用紙です。

客>
なるほどー。
その淡い恋心!
気持ちはよくわかりますよ!
・・・って、だから佳代子ちゃんっていったい誰なんですか!
しかも宝物は宝物でも、あなたにとっての宝物ばかりじゃないですか。
中高生コーナーの品も買う人はいないでしょ!?

オ>
はい。
いませんね。

客>
やっぱりそうですよね。
なんだかこんなのばっかりだと思うと
見る気がなくなって来ますね。
もう帰っちゃおうかな。

オ>
お客さんお客さん。
もうちょっと見ていってくださいよ。
次のコーナーは凄いですから。
きっと面白い宝物が見つかると思いますよ!

客>
次って、大人コーナーですか?

オ>
はい。
別名、アダルトコーナーです。
アダルトコーナーは18歳未満売買禁止になっています。

客>
またなんかエロそうですね。
まさかアダルトビデオが置いてあるだけとかそういうオチじゃないでしょうね。

オ>
オチって何ですか。
こちらはちゃんと商売をしているだけで別におとそうとかどうとか

客>
はいはい。
わかりましたよ。
で、何が置いてあるんですか?

オ>
裏ビデオです。

客>
一緒じゃん!
しかも法律に触れる分アダルトビデオより悪いですよ。

オ>
と言われましてもねぇ、大人ともなると、アダルトビデオぐらいでは
宝物にならないんですよ。
せめて裏ビデオでないと。

客>
いや、確かにそうでしょうけど、法律違反はダメですよ。

オ>
いやいや、全然大丈夫ですよ。
ちゃんと法律違反にならないように、18歳未満は売買禁止にしてますから。

客>
なるほど。
それなら安心ですね、って、
ダメですよ!
18歳とか、そういう問題じゃないですから。

オ>
じゃあ、100歳未満?

客>
だから年齢の問題じゃないんですって!
しかも100歳以上は売買OKて!
そんな爺さんいたら逆に見てみたいよ!

オ>
そうですか。
ダメですか。

客>
ダメですよ。
まったく。
でも私は警察に届けたりしないので安心してください。
その代わりに、なるべく早く処分してくださいね!

オ>
気を遣っていただいて、ありがとうございます。

客>
それでは、次は、・・・と。
ええ????
なんか透明のガラスケースの中に3歳児くらいの男の子が入って
わんわん泣いてますよ?!
これはいったい何をしているんですか?

オ>
これですか?
これはですねぇ、近所の公園で一人で遊んでいた子供なんですけどね、
こっそり連れてきちゃいました。

客>
こっそり連れてきちゃいました、て、あなた!
それ、誘拐じゃないですか!

オ>
いえいえ。
ちょっと話を聞いてくださいよ。
昔から「子はかすがい」って言いますよね?!
「かすがい」って現代でいう「宝物」のことなんですけどね。
つまり「子供」イコール「宝物」なのでこうやって販売しているわけなんですよ。

客>
いやいや、「かすがい」の意味なんかどうでもいいんですよ!
誘拐だって言ってるんですよ!
それ、犯罪ですからね!
しかも、だいたい、「かすがい」は「宝物」のことじゃないですよ!

オ>
あらら。
じゃあ私は大元のところを勘違いしちゃってたんですね。
失礼しました。

客>
そうですよ。
まったく。
でも私は警察に届けたりしないので安心してください。
その代わりに、なるべく早く処分してくださいね!

子供>
それは届けろよ!
しかも「処分」て!
裏ビデオと同じ扱いかよ!

客>
・・・・。

オ>
・・・・。

客>
なんかほんとに宝物と呼べるものが全然置いてないですね。
まじで帰っちゃおうかなぁ。

オ>
ちょっと!!
あとちょっと見ていってください!
最後のコーナーはまじで凄いですから。

客>
ほんとですか?
最後のコーナーはなんというコーナーですか?

オ>
最後のコーナーは「伝説の宝物」のコーナーです。
今までのコーナーなんて前座です。
お遊びです。
このコーナーがメインです。
このコーナーを見ずして帰れるか!って感じです。

客>
まじですか?
それはすごく面白そうですね。
伝説という言葉からすると、
今まで伝説だと思われていた宝物が実際にここにあるってことですか?

オ>
そういう事になりますね。

客>
いや、まじっすか!
それがまじだとしたら本当に凄いですよ!
いったいどんなのがあるんですか?
早速見てみてもいいですか?

オ>
はい。
どうそどうぞ。

客>
やややっ!
これはもしかしてもしてかして、玉手箱ってやつじゃないんですか?

オ>
はい、そうです。
浦島太郎がカメを退治したときにそのお礼として
乙姫様からもらったという、あの伝説の玉手箱です。

客>
ちょっと話間違ってますけどね。
まぁ、いいです。
これって、開けると中から白い煙がぶわっと出てきて、
お爺さんになったりするんですよね?!

オ>
さぁ。

客>
さぁ、て!
確認してないんですか?
確認しないと本物かどうかわからないんじゃないですか!

オ>
確認はしましたよ。
うちのお婆さんが開けたところ、
中から白い煙が出てきてお婆さんになりましたからね。
本物に間違いありませんよ。
でも男性では試していないのでお爺さんになるかどうかは
ちょっとわからないんですけどね。
そういう意味で「さぁ」なのです。

客>
いやいや。
それ、確認になってないでしょ?!
だってお婆さんがお婆さんになったって、
全然変化なしってことじゃないですか!

オ>
いえいえ。
言葉でいうとお婆さんがお婆さんになったということで
全然変化がないように思いますが、お婆さんと呼ばれる年齢は幅広いですからね。
一般的には60歳以上の女性はだいたい「お婆さん」って呼ばれるわけですから。

客>
なるほど。
では何歳くらいのお婆さんが、何歳くらいのお婆さんになったんですか?

オ>
72歳のお婆さんが、68歳くらいになりました。

客>
若返ってるじゃん!
しかも72が68て!
それって見た目ほとんどかわらないですよね!?
どうやってそのくらいだっていうのがわかったんですか?

オ>
それはお婆さんが「68歳くらいかのぅ。」って言いましたから。

客>
自己申告かよ!
めっちゃ適当じゃないですか。
その婆さん、ボケてるだけじゃないんですか?
こんなんじゃ本当に確認したとは言えないでしょ。

オ>
では、お客様が開けて確認してみます?

客>
いや、いいですよ。
遠慮しときます。
万一本物だったら嫌ですからねぇ。

オ>
そうですか。
わかりました。
せっかく本物かどうか確認できると思ったのに。

客>
え?
何か言いましたか?

オ>
いえいえ。
別に。
じゃあ気を取り直して次を見てみましょう!

客>
次のですか?
ん?
これは、木槌ですか?
もしかして、打ち出の小槌ってやつですか?

オ>
そうです。
一寸法師がカメを退治したときにそのお礼として
乙姫様からもらったという、あの伝説の打ち出の小槌です。

客>
今度はさっきよりもだいぶ間違ってますね。
まぁ、いいです。
で、これは今度こそ本物なんでしょうね?!

オ>
はい。
これは間違いありません。
本物です。
実際の人間で大きくなることをちゃんと確認しています。

客>
それは身長が低い人間が、高くなったということですよね?!
いったいどのくらい伸びたんですか?

オ>
そうですね。
打ち出の小槌を使う前には身長が139cmだった小学生が
10年後には178cmになりました。
約40cm伸びました。
正確に言うと39cmですが。
ね!
凄いでしょ?!

客>
別に凄くないですよ!
それを凄いと言ってしまえるあなたの頭の中が凄いですよ!
それは打ち出の小槌のせいではなく、
普通に成長しただけじゃないですか!

オ>
じゃあ本物かどうかわかりません。

客>
「じゃあ」て。
何で半切れなんですか。

オ>
お客さん、実際に試してみませんか?

客>
いや、いいですよ。
試さないですよ。
これも、万一本物だったら怖いじゃないですか。
身長が3mとかになっても嫌だし。

オ>
わかりました。
すごく残念ですね。
では、次のを見てみますか?
これはお勧めですよ。

客>
本当ですかぁ?
どれどれ。
これは・・・・・
大きなつづらと小さなつづらですか?

オ>
はい、そうです。
舌切り雀を助けたお爺さんがカメを退治した時に
そのお礼として乙姫様からもらったというあの伝説の
大きなつづらと小さなつづらです。

客>
うわっ!
またまた思いっきり間違ってますよ!
その爺さん、雀を助けるんだったら亀も助けてやれよ!

オ>
なるほど。
そういえばそうですね。

客>
納得しないでくださいよ、全く。
じゃあ、話を元に戻しますけど、
大きなつづらには、お化けやゴミが、
小さなつづらには、金銀財宝が入ってるんですね?!

オ>
さぁ。

客>
さぁ、て!
またですか!
これも確かめてないんですか?

オ>
はい。
すみません。
いろいろと忙しくて。
では私が小さいほうを開けますので、
お客さんは大きいほうを開けてもらえます?

客>
バカかお前は!
そんなの嫌に決まってるでしょ!

オ>
何を言ってるんですか!
小さいつづらを開ける私のほうも怖いんですよ?!
ほら、フタのすきまから奇妙な手がちょっとはみ出てるのが見えるでしょ?!

客>
うわっ!
ほんとだ!
こえーーーー。
というか、そんな変な手が覗いてる時点で
偽モノじゃないですか。

オ>
やっぱりそうですかねー。

客>
そうですよ!
常識で考えたらわかるでしょ!

オ>
まぁまぁ、そんなに気を落とさずに。
次を見てみましょうよ。

客>
別に気落としてねーよ!
注意してるだけじゃん!
まぁ、いいよ。
今度のは期待できるんでしょうねぇ?!

オ>
はい。
今度のは、お勧めですよ。

客>
おまえ、さっきも同じこと言ってたじゃん!
まぁ別にいいけどね。
じゃあ見てみるか。
どれどれ。
ややややややや!!!
こっ、これは、
「アラジンと魔法のランプ」
のランプじゃないですか?!

オ>
はい、そうです。
アラジンがカメを

客>
凄い凄い!!
これが本物だったら凄いですよ!
これ、こすっちゃってもいいですか?

オ>
いやいやいやいや、
それはダメですよ、お客さん。
こするんだったら買ってからにしてください。

客>
そうかー。
それはそうですよね。
でもめちゃめちゃ高いんでしょ?!

オ>
高いですねー。
3000億円です。

客>
さ、さんぜんおくえんて!
めちゃくちゃですね。
でも魔人が出てきた後で3000億以上のお金を出してもらえばなんてことはないのか。
そう考えると値段なんてあってないようなものか。
でもなぁ、最初の3000億が用意できないからなぁ。
買えないよなぁ。
ところで失礼ですが、このお店はそんなにお金持っているようには
思えないんですが、いったいどうやってこんなに高いもの入手したんですか?

オ>
これですか?
これはですね、魔法のランプを出してくれるように魔人にお願いしたんですよ。

客>
なるほど!
その手があったか!
・・・って、え?
その元の魔人はどこからやってきたんですか?

オ>
もちろん魔法のランプですけど。

客>
じゃあそのランプはどこから入手したんですか?

オ>
それは魔人が魔法で

客>
いや、だから、いったいどこまでさかのぼるんですか!
途中は別にいいから、最初はどっちだったのかを教えてくださいよ!

オ>
そんなのわかるわけないでしょ!!
じゃあ聞きますが、にわとりと卵はどっちが先なんですか!!
あなたにそれがわかるとでも言うんですか!!

客>
いやいや、それはわからないですけど、
それとこれとは違うでしょ?!
まったく。
もういいです。
と、みせかけて・・・えいっ!
(と、ランプをこする)

オ>
あっ!
(と、あわてて付け髭をつけて)
こんばんは。
魔人太郎です。

客>
どうせそんなことだろうと思ったよ。
なんだよ、そのベタな名前は。
もういいよ。
この店にはまともな宝物は一つもおいてないことが
よーくわかったよ。

オ>
はい。
実はまともな宝物はひとつもないんですよ。
貴重な時間を無駄に使わせてしまって
本当に申し訳ありませんでした。

客>
な、なんか凄い低姿勢だなぁ。
今までの流れからすると、
ここは無茶苦茶なこと言って逆切れするとこなんじゃないの?

オ>
いえいえ。
逆切れなんかしませんよ。
私は自分が悪いと思ったら素直に認めますよ。
そういう人間です。
そして、そういう素直な心を持つことが、
実は人間にとって、一番の宝物ではないかと

客>
さようなら。

オ>
こらーっ!!
最後まで聞けぼけーっ!!