(客がタクシーを止める。乗り込む客。)
客>
すいません。
東京駅までお願いします。
タクシー運転手(以下、運)>
はい。
東京駅ですね。
かしこまりました。
今ですと、ちょうど道路が混んでいる時間帯ですので
30分ほどかかりますが、よろしいですか?
客>
はい。かまいません。
特に急いでないですし。
運>
わかりました。
ちなみに徒歩だと40分くらい、自転車だと10分くらいかかります。
客>
はい?
運>
飛行機だと2秒くらい、光だと0.00003秒くらいです。
客>
はぁ。
運>
人力車だと20分くらい、カタツムリだと1年と3ヶ月くらいです。
客>
運転手さん運転手さん。
運>
はい?
客>
十分わかりましたから。
もういいですよ。
運>
そうですか。
わかりました。
・・・・
あっ!そうだ!!
大事なことを言い忘れていました!
客>
な、なんですか?
大事なことって。
運>
タクシーだと車で15分です。
客>
あのー、運転手さん。
三つ!
三つツッコむところがありますよね。
まずひとーつ!
それ、全然言い忘れてませんよ。
さっき言いましたよ。
ふたーつ!
「タクシーだと車で」て、意味わかりません。
そしてみーっつ!
さっきは30分くらいかかるって言いましたよね。
いったいどっちが本当なんですか?
運>
あ、すみません。
間違えました。
空いてたら車で15分って言いたかったんです。
客>
どんな間違い方ですか!
しかも全然大事なことじゃないですよ!
運>
そう言われてみればそうですね。
失礼いたしました。
客>
いや、別にいいですけどね。
・・・・
おや?!
ここに
「このタクシーはサービス・タクシーです。」
って書かれたシールが貼ってありますよね。
これはこのタクシーのキャッチフレーズか何かですか?
運>
はい、その通りです。
でもこれはキャッチフレーズだというだけではなく、
実際にいろいろなサービスを行ってくれるのですよ。
客>
あ、そうなんですか。
しかし自分で
「サービスを行ってくれる」
っていうのはどうかとは思いますけどね。
運>
そうですね。
そう言われてみれば確かに言い方が変ですね。
でもサービスを行うことは確かなんですよ。
客>
ほうほう。
例えば?
運>
それでは早速実行に移して参りましょう。
まずは、はい。
おしぼりのサービスです。
客>
おやおや。
ありがとうございます。
これはいいですね。
気が利いてますよね。
ひんやり冷たくて、気持ちがいいです。
運>
喜んでいただけてるようで嬉しいです。
フトコロで冷やしていた甲斐がありました。
客>
そうですか。
フトコロであっためてくれていたんですね。
どうりでほかほかと、て、
え?
フトコロで冷やす?
運転手さんはもしかして冷凍人間ですか?
運>
またまた、お客さん、冗談ばっかり。
私は、冷凍人間でも雪女でも
ましてや、怪奇!冷蔵庫男!でもありませんよ。
フトコロというのは実はおしぼりを冷やすための
クーラーボックスの名前なんですよ。
客>
へー、そうなんですか。
しかし、クーラーボックスに「フトコロ」なんて名前をつけて販売するなんて
メーカーも何を考えているんでしょうかねぇ。
運>
お客さん、勘違いしてもらっては困ります。
商品名は「冷える君」です。
「フトコロ」は私が勝手につけた名前です。
客>
なんですと?!
勝手に変な名前をつけて、その名前で話をしないでくださいよ。
誰でも変に思うじゃないですか!
運>
やっぱりそうですよね。
前々からそうじゃないかとは思っていたんですが・・・。
わかりました!
ではこれからは、「おでん鍋」って言うようにします。
客>
なるほど。
「おでん鍋」って言うようにすれば、客もすんなりと話の流れに乗って、
これるかーーーー!!
「フトコロ」よりたちわりーよ!
商品名の「冷える君」でいいじゃん。
運>
やっぱそうですよね。
自分で言っててそう思ってました。
では次からは「冷える君」でいきますね。
ところで、お客さん、
飴はいかがですか。
客>
いいですねー。
ちょうどノドが痛くなってたところでしたから。
え?なぜかって?
それはさっき出さなくてもいい大声を出したからですよ。
運>
まぁまぁ、その話は置いといて。
飴は何味がいいですか?
客>
あれ、置いとかれちゃった?
まぁ、いいですけどね。
そうですねぇ。
イチゴ味とかあります?
運>
ないです。
客>
じゃあ、オレンジ味は?
運>
ありません。
フルーツ系の味はないんですよ。
客>
あ、そうなんですか。
だったらイチゴ味って言った後にすぐそう言ってくださいよ。
っていうか、それよりもまず「何味がいいですか。」
っていう前に言ってくださいよ。
運>
わかりました。
次からそうします。
では何がいいですか?
客>
そうですねぇ、コーヒー味なんてあります?
運>
ありません。
客>
じゃあ、ミルク味とか。
運>
ないです。
飲み物系の味はないんですよ。
客>
だからそれはコーヒー味って言った時点で言ってくださいってー!
わかりました。
じゃあそっちから言ってください。
何味があるんですか?
運>
そうですねぇ、いろいろあるんですが、
一番人気があるのはガム味ですねー。
客>
な、なんですか?その「ガム味」て。
ガム自体がいろいろな味がありますよね?!
いったい何ガムの味なんですか?
グリーンガム?クロレッツ?
運>
いえいえ。
そういう味ではありません。
いいですか。
ガムをずーっと噛んでいるとだんだん味がなくなってきますよね?!
味もそっけもなくなってきますよね?!
その味です。
客>
「その味です。」て!
お前が自分で「味もそっけもない」って言っているように
味なんかないんじゃないんですか?
運>
はい。
確かにそうですね。
なんでそんな味の飴が人気No.1なんでしょうね。
客>
知らねーよ!
だいたい人気No.1ってのが嘘なんじゃねーの?
運>
いえいえ。
それは嘘ではないです。
確かに人気No.1なんです。
うがー!
客>
わかった、わかりましたよ、うるさいなー。
じゃあ、他には何味があるんですか?
運>
他はですねぇ、ゴキブリ味とうんこ味と
実の娘にまるで虫けらを見るかのような目つきで見られる50代のオヤジが
1週間履きっぱなしにした靴下味の3種類です。
客>
お前はバカか!
運>
はい?
客>
誰がそんな味の飴なんか食うんだよ。
ガム味が人気No.1になる理由もわかるだろっ!
運>
では、お客様はガム味の飴ということでよろしいですか?
客>
はいはい。
もういいですよ、それで。
それが一番まともみたいだし。
でも実はそのガム味にちょっとだけ興味があったりはしますけどね。
運>
でしょー?
皆さんそうおっしゃいます。
では、はい、どうぞ。
客>
これかぁ。
見た目は普通の飴と変わらないですねぇ。
どれどれ。
ペロペロペロ。
うわっ!
味気ねー!
口に入れたとたんに紙に包んで出したくなりますねー。
しかし、メーカーもよくこんな飴を作って
売り出そうなんて思いましたよね。
珍しいもの好きの人が買うとでも思ったのかな?
運>
いえいえ。
これは市販されているわけではないんですよ。
私の自家製です。
私がガムを噛んだ時の唾液を固めて、
客>
ペペペペペペッ!
きっ、きたねーな!
バカかお前は!
そんなもん客に舐めさすなよ!
もしくは舐めさせてもいいけど、作り方まで言うなよ!
運>
では、気を取り直して、飲み物なんかいかがですか?
客>
え?
飲み物もあるの?
なんだー、それならそうと早く言ってくださいよー。
飲み物があるんだったら飴なんか舐めなかったのに。
運>
では、どんな飲み物がいいですか?
客>
またガム味とかあるんじゃないんでしょうね?!
運>
今度は変な飲み物はありませんのでご心配なく。
あ、そして最初に行っておきますが、ジュース系はありません。
客>
お?!
さっき言ったこと覚えてますねー。
その調子でお願いしますよ。
運>
ゴキブリ味とうんこ味と
実の娘にまるで虫けらを見るかのような目つきで見られる50代のオヤジが
1週間履きっぱなしにした靴下味
もありません。
客>
そりゃそーでしょ。
今、自分で変な飲み物はないって言いましたもんね!
運>
コアラ味もエンピツ味もいとこ味もありません。
客>
なんですかそれは。
それらも変な飲み物の部類に入るでしょ?!
運>
タニシ味もお風呂のフタ味もアフリカ味もありません。
客>
いや、だからそれらも変でしょ?!
運>
時計味も毛糸味もイトケ味も
客>
だーーーー!もう!うるさいよ!
いつまで変なものシリーズを続けるんだよ!
無いものはいいから、ある物を言えよ!
で、最後のイトケ味てなんだよ。
時計、毛糸ときて、イトケって言いたかっただけだろ!
運>
違いますよ。
イトケって、あれですよ。
セーターとかマフラーを編むときの材料でふわふわしてて、
で、漢字で書くと糸車の糸に毛虫の毛で糸毛、
客>
だからそれは毛糸だろっ!
イトケの前に、お前自分で「毛糸」って言ってるじゃん!
もうそんなこともどうでもいいから、早く何か飲ませろよ!
ノドがガンガンに乾いてきただろー!!
お前がいろいろしゃべらせるからよー!!!
運>
わ、わかりましたお客さん。
落ち着いてください。
では、耳の穴かっぽじってよーく聞いてくださいね。
客>
なんかむかつく言い方だなぁ。
まぁ、いいや。
ちゃんと聞きますよ。
はい、どうぞ。
運>
コーヒー、
客>
・・・・・・・
運>
・・・・・・・
客>
お、終わりかよ!
運>
はい。
客>
なんだよ!
コーヒーしかねーのかよ!
だったら「飲み物はいいかかですか?」じゃなくて
「コーヒーはいかがですか?」って言えよ!
運>
そうですね。
次からそうしますね。
客>
そうしろ!
まったく・・・・・。
じゃあ、そのコーヒーをいただこうかな。
運>
はい、わかりました。
ちょっと待ってくださいね。
コップに注ぎますから。
客>
おや、ポットに入ってるんだね。
缶コーヒーかと思ってたのに本格的なんだね。
運>
はい。
家でドリップしたものを詰めて持ってきてますので
かなり本格的ですよ。
客>
ほほう。
なかなかうまそうですねー。
運>
はい、どうぞ。
客>
これはこれはすみません。
運>
お客さん、砂糖は?
客>
いえ、いいです。
ブラックで飲みます。
運>
さとうきびからとれるんでしょうか?
客>
何だよ、その変なタイミングでの変な質問は。
何か間違えて答えちゃった俺が恥ずかしいだろ!
そうなんじゃないの?
さとうきびからとれるんじゃないの?
運>
やっぱそっすかねー。
では、ミルクは?
客>
ミルク?
ミルクは牛からとれるんじゃないの?
運>
そのくらい私だって知ってますよ。
バカにしないでくださいよ。
私が聞いているのはコーヒーにミルクを入れるか入れないかという
客>
なんだよ!
今度は普通の質問かよ!
紛らわしいよ!
ミルクもいらねーんだよ!
ブラックで、っていっただろーがー!!
運>
さて、美味しいコーヒーも飲んだところで、次のサービスに参りましょうか。
客>
自分で「美味しい」って言うなよ。
しかもまだ全然飲んでないよ。
まぁ、いいや。
で、次のサービスって何?
運>
はい。
次のサービスは新聞の朗読サービスです。
客>
こらこら!
運>
はい?
客>
運転中に新聞読んだりすんなよ!
あぶねーだろっ!
運>
あ、これは言葉足らずで誤解を与えてしまったようですみません。
朗読といってもこの場で新聞を読むのではありません。
私は読んだ新聞を完璧に覚えることができるという素晴らしい頭脳を持っています。
そこで、私は新聞を目で追いながら読むことなしに、
今朝読んで頭に詰め込んできた内容をソラでお客さんに伝えることができるのです。
客>
あ、そうなの?
じゃあ別に危なくないか。
それじゃあ、昨日行われた相撲の結果を教えてもらえる?
運>
はい。
了解しました。
では行きますね。
えー、昨日行われた大相撲夏場所、千秋楽の結果ですが、
ん?千秋楽だっけかな?14日目だったかな?
今日は、えーと、月曜日だから千秋楽か・・・
千秋楽だな、うん。
で、えー、その千秋楽の結果ですが、
14勝0敗で・・・・
13勝?・・・・
12?・・・
ん?
やっぱ14か?
あー、もうわかんねーな。
えーい。いいや。
じゃあ間をとって13勝にしとくか・・・
えー、13勝1敗の大関、山田山と、
ん?
大関?
それとも横綱?
横がこうで縦がこうだから・・・・
あ、大関か、大関で合ってるな。
その大関、山田山と、縦綱、北洋海の・・・
た、縦綱?
縦綱はいくらなんでもないだろう。
横綱、横綱だよな、うん。
その横綱、南氷洋の
客>
えええええええーい!
もういいよ!
うっとーしい!
全く覚えてねーじゃん!
どこが、素晴らしい頭脳を持ってる、だよ!
運>
はぁ、すみません。
では、気分直しにラジオで流れていたニュースの朗読を
客>
一緒だろ!!
どーせ覚えてないんだろ!
朗読とかしてくれなくていいから。
普通にラジオのニュースを聞かせてくれよ。
運>
はい。
わかりました。
ではラジオをつけますね。
(あちこちのチャンネルにあわせる運転手。
しかし、どこの局もニュースはやっていない。)
ニュース、どこもやってないみたいですね。
どうしましょうか。
客>
じゃあ、何か適当な音楽番組を流しといてくれる?
運>
かしこまりました。
(適当な局を探す運転手。
うまいことに、曲がながれている局を発見。
そこにチャンネルをあわせる。)
ここでいいですか?
客>
ああ、いいよ。
運>
♪ふんふんふーん、ダバダバダー
客>
(ん?とした顔をする。)
運>
♪シャラリラシャラリラー、そーりゃそーだー
客>
ちょっとちょっと!
うるさいよ。
何ぶつくさ言ってるの。
運>
これですか。
これは鼻歌サービスになっております。
客>
なんだよ、それ!
いらねーんだよ、そんなサービス。
運>
お客さん、
鼻歌サービスだけではないんですよ!
実は合いの手サービスも入ってたんですよ!
「そーりゃそーだー」
の部分がそうです。
客>
そんなの入ってても入ってなくても一緒だわいっ!!
鼻歌も合いの手も、そんなんがサービスになるかー!
運>
なりませんかー。
そうですかー。
いやぁ、実はね、私もそう思ったんですけどね、
うちの社長が、
「なんでもかんでも最後にサービスってつけときゃ、サービスになるんだよ!」
って言うもんですから。
客>
内情をばらすなよ!
それは客に聞かせることじゃないだろ!
運>
そーですよね。
それはそーですよね。
お客さん、さっきからすごい切り替えしばっかで
とても頭がいいんですね。
羨ましいです。
そんなお客さんの爪の垢でも煎じて飲みたいもんです。
客>
そ、そーかなー。
そうでもないよ。
いやぁ。
てへへへ。
運>
よいしょサービス。
客>
だからそういうことは口に出して言うなー!!
運>
あああああ、つ、つい。
し、失礼致しました。
・・・・・・・・・
あ、お客さん!
とか言っているうちに、
東京駅に到着しました!
客>
あ、そう!
着いたの!
意外と早かったね。
運>
そうですね。
実際にはやはり30分くらいかかっているんですけど、
私の面白いトークのおかげで時間があっという間に過ぎ、
思ったより早く到着したように感じたって事なんでしょうね。
客>
なるほど!!
そうかもねー。
でももし本当にそうだとしても、お前が自分で
「面白トーク」
とか言うな!
腹立つわ!
運>
お客さん!
「面白トーク」ではなく「面白いトーク」です。
客>
うっさい!
どっちでも一緒だろっ!
まったく。
全然面白トークじゃねーよ。
不機嫌トークだよ。
運>
だから面白トークではなくて面白いトー
客>
はいはい。
もういいよ。
で、いくらだよ!
運>
はい。
5000円になります。
客>
え?
それはちょっと高いんじゃないの?
運>
はい。
サービスで割増料金のスイッチを入れておきましたので。
客>
なんだよ、それ!!
勝手に割増料金とかにするんじゃねーよ!
それ、いったい誰に対するサービスなんだよ!
運>
また、それに加えてサービスの料金として、
全体の料金の20%ほどを追加させていただいております。
客>
結局金とるのかよ!
それ、サービスでも何でもねーよ!
ただの押し売りじゃん!
サービス料とかとるんだったらなぁ、
もっと美味しい味の飴くらい置いとけよ!
運>
お客さん。
黙ってましたけど、
実は、お客さんの気付かないところで
これら以外にもたくさんのサービスを行っていたんですよ!
客>
ほんとかよ!
信じらんねーよ!
いったいどんなサービスをしてたというんだよ!
運>
はい。
まずは、敬語サービスです。
お客さんとずーっと敬語でお話させていただきました。
客>
当たり前だろっ!
客と敬語で話すのは!
サービスでも何でもねーよ!
他には?
運>
他には、よいしょサービスです。
客>
それ、知ってるよ!
さっき自分で言ったじゃねーか!
他には?
運>
晴れサービスです。
雨が降ってこないように、心の中でずーっと祈ってました。
客>
意味ねーことすんじゃねーよ!
お前が祈ろうが祈るまいが雨が降るときは降るんだよ!
運>
後は幸せサービスですね。
見た感じ、すごく不幸そうなお客さんのために
早く幸せになれるよう祈ってました。
客>
ほっとけよ!
大きなお世話だよ!
自分の幸せを先に祈りやがれ!
で、他は?
運>
他はもうないですね。
客>
ねーのかよ!
やっぱり思ったとおり、ろくなサービスしてなかったじゃねーか!
サービスと言えないようなものばっかり本当にもう!
そんなんでサービス料とか払えるか!!
納得いかねーんだよ!!
運>
あーーーーーーっ!!!
一番大事なサービスを忘れてましたーーーー!!
客>
なんだよ、うっせーな。
どーせたいしたサービスじゃねーんだろ!
運>
いえいえ。
これはすごく重要なサービスです。
題して、運転代行サービスと申しまして、
タクシーの運転手の代わりになって運転するというサービスでして。
客>
お前はいったい誰なんだよ!!