仕事の帰りに、妻に今日は映画でも観て帰ろうかと誘った。

 最近は、いつも疲れ気味で仕事の帰りに映画館に寄るなど無かったが明日は土曜日で休みなのでたまにはとmovixへ行った。

 チケット売場のカウンターは閑散としていた。カウンターの上部にある上映スケジュールから観る映画を探した。

「明日の記憶」というタイトルを見つけた。渡辺謙が主演の若年性アルツハイマーをテーマにした映画である。つい最近、テレビ話題になっていたのでこの映画を見ることにした。

 渡辺が演じる佐伯は、ある広告代理店に勤めるバリバリの部長。職場は、ある大企業の社運をかけた大掛かりな宣伝の受注に成功してスタッフ全員が盛り上がっている。

 そんな中で、佐伯は人の名前を思い出せない。お客様との打ち合わせの時間を忘れて電話がかかってくる等の事態に陥っていた。でもその時は特に自分が病気であることには気が付いていない。
 
 だんだん症状が進み部下の顔と名前が分からなくなったり、今までは無かったいつもの道に迷ってしまう。

 妻に連れられて病院に行く。そこで若年性アルツハイマーと診断される。

 突然、もしこれが自分だったらと身に詰まされ、どうしようもない焦りが、映画とは解っていても自然に引き込まれて行った。ここからは自分がそうなったらと言う不安が自分を主人公に仕立てあげ孤独感にさいなむ。

 やはり、頼りになるのは妻か。なぜ、女はあんなに強いのだ。樋口加奈子が演じる枝実子にものすごさを感じる。

 病気と知りながらも会社で仕事をしなければならないとする佐伯と自分がダブる。男には仕事しかないのか。もはや、退職しかない場に及んでも娘の結婚式までは閑職に回されても会社人で無ければならない思う親ごころ。なんとなく解る。

 社会人とはこんなものなのだろう。

 そんな佐伯の結婚式での謝辞は見事だった。物忘れするからと折角準備した原稿を洗面所に忘れて即興で謝辞を述べる花嫁の父は病気であることを全く気にしていない正真正銘の父親だった。

 やがて、孫が増えて平穏なある家族の姿があった。

 何か映画の中の佐伯というある家族から勇気をもらったような気がする。

明日の記憶雑感

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