第1章 虚無なる日々と新たなる旅立ち
10月1日、タイから帰国した。
1ヶ月ぶりの日本、風は思ったより肌寒い。
タイでの刺激的な毎日、ナンプラーの臭気、絡みつくような熱気は此処には無かった。
急激な環境変化に体調を壊し、いつしか気力までが削がれていった。
目を開けたまま、眠っているような日々が続いた。
学校から帰り、漫画を読み、
腹がへればカップラーメンを食う。
ベットの上、湧き上がる焦燥感に胸が押しつぶされそうになる。
とめどない自問自答、酒でもあおって強引に就寝、翌朝学校へ遅刻・・・。
世にいう典型的ダメ学生。
「イッタイオレハダレナンダ?」
学校にもいかず、ゲームとマージャンに興じる先輩達。
隣の部屋からは昼夜絶え間なく牌をかき混ぜる音が聞こえてくる。
こんな二十歳、こんなオトナにはなりたくなかった。
「このままでは腐ってしまう」
俺は履歴書のペンを執った。
働いた。必死に働いた。
飲み屋に採用された俺は、週5日,1日7時間以上のペースで働き続けた。
学校との両立は大変だったが、肉体の疲労とは裏腹に、
心の贅肉はどんどん落ち、毎日の眠りは穏やかだった。
「忙しい方が楽しい」とは中学時代の恩師の言葉だ。
目標を見つけたとき、俺はニヤリと笑う。
それに向けて突っ走っているとき、俺は最高に気持ちがいい。
1月23日、パプアニューギニアへのチケットが取れた。
出発の日に向け、
俺は自分の人脈、経済力、行動力を冷静に分析し、
今の自分ができ得る最高のパフォーマンスを模索した。
2月19日夜、機体は成田を後にした。