第2章 なぜにパプアなのか?

 




翌朝、まだ薄暗い中、俺はジャクソン国際空港に降り立った。

いつの間にやら赤道を超え、俺は南半球の土を踏んだ。

朝の空港を、人がまばらに動き回っている。

アフロヘア、ドレッドヘア、真っ黒の肌。

「ずいぶん遠くに来てしまったなぁ」

まだ寝ぼけ眼の俺は、ベンチに腰を下ろしのんびりとタバコに火をつけた。

ポケットに入っていた分を吸い尽くしたころ、太陽が顔を出した。

ねっとりとした空気が心地よい。

朝日に敬礼し、俺は立ち上がった。

「そんじゃ、ぼちぼち行きますか。」









そもそもなんでパプアニューギニアなんぞに来たのか?

プロフィールにも書いたが自分が海外に飛び出すきっかけになったのは

世界怪魚釣行記の管理人の武氏、亜細亜釣行記の管理人の上等兵氏の影響が大きい。

飛行機が発達し、地球は小さくなった。

ズイ―ル柏木さんの「アマゾン大釣行」を読んだ小学生のとき、




「いつか、きっと・・・」


そう思いながら、クソガキは青年になる。

分でフィッシングツアーを調べてみる。・・・とても俺の払える額ではなかった。



「海外での釣り=VIP釣師の特権娯楽」




・・待ってられなかった。

俺が金を手にしたとき、この狂騒の火種は消えてしまっているのでは?

大学受験真っ只中、そのときに触れた「イイ男」の生き様は、

火種を炎にかえ、さまざまなしがらみを焼き尽くした。

タイでの経験は自信を与え、思い出は「次」を求める。










 

地図を広げ、さまざまな地域のチケット代を検討した。

と、日本の下に比較的手ごろな値段でいける島があった。

その国についてのほんのわずかな情報をかき集めた。

2004年カレンダー11月(ルアーマガジン付録)の村田さんの持つ真っ黒の怪物が、

ダイワさんのTHE FISHING〜フィッシング甲子園〜でみたバラマンディ

そしてバラより魅せられたサラトガが、頭をぐるぐる回る。

日本語のガイドブックはなかった。ツアーを組んでもらう金もなかった。

WEB上を探しまくり、得られた釣り情報は


「イヤ村に行けばつれる」



それだけだった。


iya」?「iyour」?「ia」?




ウェブ上ではカタカナで表記されたその村。アルファベットのつづりすらわからない。



「行ったろうやないか、まだ見ぬ土地へ」

 














航空会社に連絡、せめて出発前に詳細地図くらいは手に入れたい。

目的地の場所くらい、知っておきたい。

「イヤって村に行きたいんですけど、どこですか?」

「ニシ州のヘビー川中流域です。ちなみにそんなところまで何をなさりに?」


「釣りです」


「・・・・・それだけですか?」

「はい、それだけです」

「・・・。どこの旅行会社さんのツアーを御利用で?」

「いや、バックパッキングスタイルで行きたいのですが、どんなもんでしょう?」



「・・はぁ、あのですねぇ、ですから、

この国は手配無しでは動ける国ではないんですよ」



・・・・・・


はじめっからなんとなくこの電話先の相手の対応にムカついていた。

そして、頭ごなしの態度、可能性を見ない断定、俺はこういうものが大嫌いだ。




「個人では無理ですね」

・・・パタン。俺はケータイを閉じた。

 






本屋へ行き、題名に「パプア」と書かれたものはすべて買い込んだ。

ネットで更に本を注文、ガイドブックはないものの、

ある程度国の雰囲気を感じ取ることができた。

釣具の準備。新しいタックルを買うのは控えた。

どこに行こうと自分のスタイルは変わらない。

今あるものを、慣れ親しんだものを詰めた。




「与えられた条件の中で、最高のパフォーマンスを!!」



荷物を限界まで絞った。

15Lくらいの小型リュック&竹刀袋(ロッドが入っている)。それだけ。

着替えはない。出国の際に身につけているものがすべてだ。

危険に遭遇したとき、逃げるなり戦うなり即対応できるよう、機動力最優先。

マラリア薬を飲むころには、心はすでに赤道を越えていた。

(マラリア薬は出発2週間前ぐらいから飲み始めます)







 

出発前夜、池袋のラーメン屋、釣友達のDOZさんと飲んだ。

シャドーの話、TOPのバスの話、モンゴルの話、当然のように武さんの話題になった。

「武ちゃんと張り合うのはよしなよ。無謀だって〜」DOZさんは笑いながら言った。

「でも挑んでみたくなるでしょ?男なら!」俺は生意気をたれてみた。






 

個人釣行では未踏の地。

それだけで十分だった。

「釣旅は浪漫」とは上等兵氏の言葉だ。

そして自分は最高のギャンブルととらえる。

金、時間、体力、気力、知力・・・すべてを賭した確証のない挑戦だ。

まだ見ぬ土地を、きっとこの目に、

まだ見ぬ怪物を、きっとこの手に・・・。

 

 

・・・・ってなわけで、気づいたらパプアに来ちゃってたのよね(笑

注)PNG編で出てくる地名はすべて仮名です。以下の章も同じ。