第11章 ミルクとコーヒーの境、丸太カヌーがクルクル回ること
日の丸色の小魚は 大河の渦に吸い込まこまれた
程なく落雷のような衝撃 黒い悪魔が襲い掛かる
カヌーは大河の流芯へとひきずらていく
闘いが始まった・・・・
イナリクから戻り、
昨晩のキャンプ地で野宿。
背中が冷たかろうと、ワニが出ようと、そんなもの気にならなかった。
そして夜は明ける
運命の朝が来た
ガソリンの予備も残り少なくなってきていた。
今日、明日と釣りをし、
礼拝のある日曜に間に合うよう
明日の夜には村に戻る予定だ。
俺達は村へ戻りつつ、開拓を進めることにした。
もう釣りは満足していた。
満足しきっていた。
俺はワビルの雑用に付き合いながら
この旅を、水の国の生活を楽しんでいた
「家の壁にするのさ!」と「セイム」と呼ばれる木々の皮をはぐワビルとゴートン。
おれはそれらを折りたたみ、せっせとカヌーへと運ぶ役目を努めた。
ワビルは現在新居建設中。
「次に来る時は新しい家に招待するよ!お前の建てた家だ!」
うれしいこと言ってくれるじゃん!
ヤシの実ジュースで喉を潤す。
大量の木の皮
バナナの群生地ではバナナを獲り
川の駅ではかぼちゃを摘んで
唯でさえ広くないカヌーは自然の恵みでいっぱいだ。
数日前、あれほど入れ食いだったPBGバスポイントは、今日はなぜか不発。
60センチほどの魚を数匹バラし、
気まぐれなPNGナマズが水面を割って釣れただけ。
ターポンもすべてバラしてしまった。
この日は正午を回ってPNGナマズ1匹のみ。
集中力、釣欲が失せていた。
釣れないのは嫌だが
釣れすぎるのも困りものだ
この日、この時点で唯一の魚
ポッパーにバコッ!とでたPNGナマズちゃん。
ブサイクな顔しとるのぅ。
え?俺のことじゃないよ!(汗
注目すべきは、狭く、細い丸太カヌー。
ローリングしまくり!落ちれば翌朝にはワニのウ○コでしょうな。
俺達のカヌーは進む
と
水の色が変わった。
いくつもの小河川が流れ込み、複雑な流れを作る。
周囲の景色から、シャローエリアであることが予想された。
ミルクとコーヒーが混ざり合い、
無数の渦を巻いている。
「でるな」
直感的に思った。
さっきまでのダラダラモードは吹き飛び、
俺の拳は竿をグッと握り締める。
シックスセンスとでも呼ぼうか。
全身を支配する微弱な痙攣
緊迫感
Sスプークはもちろんオリノコですらここではアピールが足りなすぎた。
水面の引き波で魚を寄せることはできない。
俺は水中での強い波動効果に賭けた。
結んだのは17センチのシャローミノー。
俺の持っていた、最大のルアーだ。
でかければでかいほどよい。
日の丸色の小魚は
リールに巻かれた50メートルのラインををすべて引き出し、
渦の向こうへ飛び込んだ。
一つ一つ、渦の中にルアーを通していく。
何投目だろうか?
落雷のような衝撃
終その時は来た。
シャローエリア、
「バラマンディーーーーッ!!」
ワビルが叫ぶ。
重量感で言えば楽に1メートルを越すと思った。
興奮しながら、俺は何処か冷静だった。
ファーストランをかわしたものの
スプールには後5メートルもラインがない。
ゆらゆらゆら、と大物特有の強烈に水を押し、次のダッシュに備え力を充電している様子が手に取るように伝わってくる。
じわりじわりとカヌーが流芯へと引きずられていく
そして終に
「ジ、ジ、ジジジジジジ・・・・・」
ぬかに釘ファイト法もクソもなかった。
ドラグを閉め、更に指で押さえるスプールを、それをも突破し、奴は疾走した。
ム、ムリだ・・・
そのとき、不思議なことが起こった!
魚が手前に向けて疾走してきたのだ!
俺は大急ぎでリールをまき、糸を約25メートル、全体の半分近く回収した。
希望が見えた
戦える!
サンチャゴよ、お前もこんな気分だったのだろう
「大丈夫か?まだ闘えるか?」
不思議と相手を気遣う俺がいた。
俺は相手との不思議な一体感を感じていた。
ジャンプはない。
バラではないと思った。
下へ、下へ、
潜水艦のように沈んでいくこのファイトはPNGバス特有のものだ。
俺はPNGバスだと確信し、そして先日の81など比べ物にならない重量感に耐えた。
2ピースロッドの継ぎ目を握り、竿が裂けるのを防ぐ。
バットから、というか、グリップから曲がっていた。
ギシギシ音を立てる相棒達を気遣いながら、
俺は慎重に、慎重に闘った。
浮いた!
10メートル先、
水面が大きく盛り上がり、
尾びれが見えた。
そして見た。
緑がかった灰白色輝くその体。
凍りつくような衝撃。
緑の大きな大きな目玉が睨み付ける
「お前は俺が殺す」
そう思いながら、なぜか穏やかで、でも体は震えていた。
船べりの攻防
大量の積荷をしておいたのが幸いした
カヌーが横倒しになりそうになりながら、それでも倒れることなく
何度となく突っ込みを交わした。
俺の自作のギャフをゴートンが打ち込む
首ふり一発、ゴートンは手首を返されギャフは吹っ飛んだ
「モリだ!ワニ銛を打ち込んでくれ!!」
だが今度は大量の荷物が災いした。
「荷物の底で取り出せない!」
とゴートン
船首で狼狽する俺達二人
俺は覚悟を決めた
一瞬でST46を曲げるこいつらの顎
無数の牙
そして口元のST46・・・
だがこいつを獲らなければ、俺は一生後悔する。
「お前は俺が殺す」
この手が裂け、骨が砕けようと、
10秒、いや5秒でいい、こいつを船に引きずり上げるまで、
俺の手よ、耐えてくれ・・・・。
「俺が殺すと言った以上、お前の死は絶対だ!」
カオレムの7キロの二の舞など、二度と、二度とするものか!
あの時、何故俺は己の腕で鷲掴みにしなかったのか?
後悔するのはもうたくさんだ!
俺はハンドランディング体勢に入った
その時
見かねた”最強の男”ワビルが船尾から駆けつけた。
そして彼は奴にそっと目隠ししたかと思うと
そのまま目玉に指を突っ込み、むんずと持ち上げた。
カヌーの幅を余裕で超えるその怪物を、
丁寧にカヌーに寝かせる。
腰が抜け、座り込む俺
バタン、バタン、振動がケツに伝わってくる
闘いは終わった
サンチャゴ爺さんよ、
俺は勝ったぜ!