第14章 エッソ&ヤウオー〜Funky Day's Lullaby〜
帰りの空港にて
村に帰って3日後、何とか動き回れるまでに回復した。
48時間や72時間周期に起こるというマラリア感染を示す発熱の再発もない。
峠は越えたか?
釣りはもう満足していた。
むしろ、本気の釣りはこれ以上しないでおこうと思った。
梅干の種をしゃぶるように
あの怪物の後味をずっと楽しんでいたかった。
村を去る日が近づいていた。
俺は村の生活をすべて楽しもうと思った
ミミズで餌釣りをしてみた。
小さな宝石たちがいっぱい釣れた。
左
現地名:ギナ、グング。コトヒキの仲間だろうか、グゥグゥなく。「グング」はその鳴き声からついた名前らしい。
こいつがかかったとき、「ダ、ダトニオ!!!」とかなり興奮した!!
美味しい魚らしく、ジョージさんの奥さんがやいて食べていた。
中央
現地名:イール、クルクリ。いかにも気の荒そうな顔してる!15センチくらいまで育ち、
小魚を食うそうなので、メバル釣りの感覚で遊んでみたら楽しいかも!
あまり美味しくはないらしく、ペットのワニの餌になった。
右
現地名:イートンクレイクラー
こいつの更に小さい奴らの群れが無数に泳ぎまわり、子供達の網にかかっていた。
これ以上大きくならないとか。こいつもワニの餌に。
またあるときはボーット時間をすごす。
草サッカー観戦。
日曜日、村人は礼拝の後、サッカーしたり、バレーしたりラグビーしたりしてすごしてます。
今回は体調悪くてできなかったけど、次は是非一緒に汗を流したいです!
(村の若者達とのラグビーだけは勘弁かな。体がいくつあっても足りんね 笑)
女の子も、男の子も裸足でボールを追う。
なんとも気持ちのよい時間が流れていた。
近場に夕飯を釣りに行く。
ターポンを釣るゴートン。
釣りははじめてだそうだが、スジがいい。
「タクをみてたら俺もやりたくなった!次来る時は俺の分も釣具持ってきて!」だってさ。
んでもって
せいやっ!
そして俺はターポンの今回最大魚となる57センチを釣り上げた!
もんのすげ〜引くぞ!!
(なんだかんだ言って釣りしてますね 汗)
そして終に!!
完全天然バラマンディー!!
大型は産卵で河口に下ってるらしく会えなかったけど
やんちゃ坊主がまだ村に残っていた!
天然ラテスはやっぱ最高にかっこいい!
ターポン狙いのオカッパリで、ポッパーにカボッとでた!
タイのよりいくぶんスマート、精悍&可憐!
淡く緑に輝くその背中、真っ赤な目、もう目がウルウル!
ここでバラマンディ、パプアンバス、サラトガ、ターポンと
PNG四天皇をコンプリート達成!!!
これ以上望んだらバチが当たるってもんだ
帰り道
セイゴと呼ばれる彼らの日常食作りの現場を通りかかった。
サゴ椰子の幹を砕き、上写真のようにもみ洗いして幹に含まれる澱粉を集めるのだ。
ワビルいわく「俺達の力の元はセイゴだ!タクも強くなりたいならいっぱい食え!」だそうだ。
園芸用の赤土ぐらいまで水分を切ったものを、そのままフライパンで焼く。
なんだろう、甘くないトチ餅を干物にし、粉っぽくしたもの(なんじゃそりゃ?)みたいな、
失礼ながら日本人の口には合わないものが出来上がる。
俺達は先端部分の柔らかい幹にトラディッショナル・ソルトなる粉をまぶしたものを分けてもらった。
コノトラディッショナルソルト、アミラーゼなにかの分解酵素が入っているのだろうか?
口に木片を入れ、噛む。
スポンジ状の木片から、甘いジュースが染み出してくる。
PNG人たちのおやつらしい。
甘露飴みたいな、やさしい味がした。
またあくる日は
ジョージさんとゴートン一緒にワラビー狩りに同行した。
ジョージさんの農場でキューカンバー(でかいキュウリ)で喉を潤し、休憩。
鹿対策に柵を作ってあるのだ。
先を行くジョージさん。
野に生きる男の風格が漂う。
俺とゴートンが待ち伏せし、そこにジョージさんと犬達がワラビーを追い込む作戦だ。
俺達は息を殺し、「その時」を待った。
が・・・
「ワン、ワン」
手持ち無沙汰のワン公たちが戻ってきただけだった。
帰り道、目の前を黒い影が横切った。
ゴートンが咄嗟に発射する。
犬が猛烈な勢いで追ってゆく。
・・・どうやら逃げられたようだ。
「ベンディクー!!!」
イタチとタヌキとドブネズミの中間のような有袋類の動物だった。
悔しがる二人
はじめてみる命の駆け引きに、俺はなんだか熱いものを感じていた。
蛇足
このベンディクー、後日、俺が寝てる夜間にジョージさん獲ってきたのを食ったが・・・
だ、だめすぎる!
ワラビーをも圧倒的に凌ぐ強烈な激臭
思い返せば容姿はスカンクそっくりだ!
屈辱にも出された料理を食いきれなかった・・・。
無人島のウミウシ以来、
俺の嫌いな食べ物がまた増えてしまった。
ゆでた肉を摘んだ手が、1日たっても匂いがとれなかった・・・
ちなみに今回、弓はあまりにも強く、
俺の筋力では引けなかった。
筋トレをして、次回のリベンジを誓う!
遠出ができる最終日、
なんとしても「まだ見ぬ怪魚」を、
誰も見たことのない魚をルアーで釣り上げたかった。
ワビルいわく、付近にはもう1種、雷魚に似た肉食魚がいるらしい。
そいつに会いたい!
ドラマを起こすのは、やはり大河本流だろう。
ぼろぼろの体で、俺はカヌーに乗り込んだ。
そしてその時はきた
流れを横切るミノーの自由を、何者かが奪った!
やりましたっ!
!?
なんか鰯っぽい魚が釣れた(笑)
やったぜ!またもやわけ分からん魚をルアーでしとめたぜ!
ワビルいわく「網で取れたのは見たことがあるけど、つれたのは見たことないよ」という、珍魚、ワークリー。
「締めの一匹」としてはなんとも俺らしいな(笑)
それより何より、こんな空の下で竿を振るえただけで、俺は幸せなのだ!
「ハッ、ハッ、ハッ」
俺は笑った
「俺らしいフィナーレだぜ」
この川ともお別れの時間だ
空の青さよ、尊さよ
豊な水よ、命のゆりかごよ
先のことなどわからない。
だけど俺は「必ずや戻る」と大河に告げた
俺は小さくなっていく大河から、目を離す事ができなかった。
・・・・・・と思っていたら最終日、
なんと村の中でPNGバスが沸いている場所がある、との情報をGET!
またいそいそと竿をセットする俺(汗
節操ねぇなぁ
まぁいいや
そして・・・
ゴートンも釣る!が、小さいのしかランディングできない・・・。
この日、俺がパプアンを手にすることはなかった。
障害物の多いこのポイント、
残っている竿で奴らのファーストランを止めることはできなかった。
即効で障害物に巻かれ、多くのルアーが藻屑となった。
ワイヤーリーダーが引きちぎられた
もう、肉体的にも、装備的にも満身創痍だった。
しかもなんと、夜になって俺のルアーを口につけたバラマンディーが付近の村の岸に漂着してたという情報が入ってきた!
軽く70センチはある大きさだったらしい(未確認だけど)
「タクよ、求めよ、もっと、もっと貪欲に」
奴らの挑戦状、しかと受け取った!
今回はこれ以上は闘えないけれど、いつかまた闘おう!
その日の午後、おれはゆっくりと水浴びをした。
青い空、木漏れ日
緑の葉を渡る、黒いシルエット、赤とんぼ、
ぷかりと浮かびながら、流されながら、
俺は全身をPNGにゆだねてみた。
紅茶のような紅い水。
満身創痍の体にしみこむ
やわらかな水。
水の国はどこまでもやさしかった。
そして別れの朝がきた・・・
いつものようにセイゴと温かい紅茶をすする
村から空港まで数時間の道のりを、ワビルも、ゴートンも、ジョージさんは一家総出で見送りにきてくれた。
チーム・モンスターキスも”一時”解散だ。
俺の右腕にはゴートンの腕輪。
ワビル、ゴートン(親愛をこめて、敬称略)、最高だったぜ!
エッソ、エッソ、ありがとう!
ジョージさんの愛息、レンちゃんと奥さん。
南国の赤ちゃんは、とにかくかわいい!
次に訪れるまでに見違えるほど大きくなってんだろうな〜。
写真をお土産にまた遊びにいきます!
奥さんも寝込んだ俺に気を使っていただき、ほんとに感謝感激エッソエッソです!!
レンちゃん、またね〜!!
そしてジョージさん。
やさしさ、強さ、知性、ほんとかっこいい方でした。
2週間も居候させていただいたり、この方と出会わなかったら今回の旅は成り立たなかった。
俺も10年後、20年後、こんな人になれるのかな?
エッソ、エッソ、ありがとうございました!!
そしてヤウオー、さようなら・・・。
しかしなんだろう、あまりに過酷だった日々、
村の人々との別れは切なかったけど、
早く文明社会に戻りたいという気持ちの方が大きかった。
みんなとPNG式握手をし、
飛行機に乗り込む。
安堵で放心状態の俺を乗せ、
飛行機は草原を走り始めた。
そのときになって俺ははっと我に帰った
ガラス窓という名の境ができたとき、
クーラーから流れでる文明の空気を身にまとったとき、
水の国は猛烈な哀愁を帯び、
窓の向こう、よりいっそう輝いてみえた。
そして離陸
俺の体は水の国を離れた
もう、どんどん水の国は小さくなる。
ワビルとはじめて会った時のこと
やさしいジョージさんの語り口
一緒に水浴びした時の輝く雫とゴートンの笑顔
様々な思い出の中を
黒い悪魔が、いや黒い天使が悠々と泳いでいく
セピアの光に照らされて、奴は思い出としてまた一回り大きくなった。
エッソ&ヤウオー!!!!
ありがとう、そしてさようなら
俺の叫びは、上昇中のエンジン音にかき消されていく
手に残るベンディクーの匂いが悲しかった
やさしい子守唄。
Funky Day’s Lullaby
楽しかった日々よ、
宝石となった思い出よ、
おやすみなさい
青と緑、カワセミ色の世界
水の国
青が青であり
雲にくもりがないことを
緑が緑であり
そこに命のドラマが続いてゆくことを
風が吹くだろう
雨が降るだろう
そして、人は笑うだろう
笑顔あふれ、
涙を拭いて・・・・
思い出たちよ、おやすみなさい
また会う日まで。
きっと、また会えるよね?
きっと・・・。