第7章 目指すは「怪物の湖」、そして”最強の男”との出会い
幼稚園バスに翼が生えたほどの小さな飛行機は
緑のじゅうたんの上を飛んでゆく
離陸して数分後
「ガタガタガタ!!!」
扉がガタガタ鳴っている!!
乗客のPNG人が
「いおぎtkmwだこf@くぇ!!!」
とわめく
操縦士の1人が
「ワリィ、ワリィ」
と苦笑いで施錠した
どうやら機械ロックのみで手動ロックを忘れていたらしい
マジかよ・・・・この飛行機、大丈夫か・・・・?
運転手達は楽しそうにおしゃべり
時折前を見てない
落ちるなよ、マジで・・・。
もういちいち気にするのもよそうと思った。
なんともならんけど、どうでもいいや。
眼下には広大な湿地、デルタが広がる。
赤土の大地が見えた
隣のジョージさんがにっこり笑った
草原の中に
機体はズドーンと着陸した。
コンクリートの滑走路などない。
アリ塚があちこちに立っている
出国して8日目
終に水の国に着いたのだ!
村の人みんなで飛行機を出迎える。
久しぶりなのだろう、ジョージさんの家族も出迎えに来ていた。
ジョージさんが事情を説明すると、皆さん暖かく迎えてくれた。
そしてその場にいたジョージさんの甥っ子、ゴートンを紹介される。
雨季の今はワニ漁にはよくないらしく、毎日のんびりしてるのだそうだ。
「ワニ漁師のこいつなら、きっといい場所に連れてってくれるよ」
とジョージさん。
ドレッドヘア、イケ面のナイスガイ。
ボブ・マーリィみたいだな、と思った・
「よろしくな」とゴートン
「こちらこそよろしくお願いします」と俺
「タク、俺達の村に行けば魚はプレンティープレンティーだゼ!」
ゴートンは自信たっぷりだ。
午後の便に乗るお兄さんを見送り、それからジョージさん一家は「村」へ帰るという。
いてもたってもいられなくなった俺は水辺へと向かった。
ざばざばと水に入る。
絡みつくような、艶やかな水。
足元でピョンと小魚がはねた。
!?
もしや雷魚?!
必死でその魚を手づかみしようとする俺を
子供達は面白そうに見ていた。
「Snake Head!」
ま、まじか!PNGにも雷魚が!!
初めて知った事実に興奮する俺だった。
ちょこっと竿も出してみた
「日中はつれないよ〜」
「こんなところで釣りしなくても、村に帰ればプレンティープレンティーさ!」
うだるような熱さ、
たとえ水の国とて魚が沸いているわけではない。
ルアーがつれてくるのは水草と、子供達の笑い声だけだった。
午後、
ジョージさんのお兄さんを乗せた飛行機がイヤ村を後にした。
これでどう頑張っても1週間は帰る手段はない
飛び去る飛行機
もう後には引けない。
「OK、いこうぜ」
ジョージさん1家と俺はカヌーに乗り込んだ
この水路の先に楽園がある(のか?)
カヌーは進む
丸太をくりぬいただけ、シンプル極まりないカヌー。
50ccの小さなエンジンの音だけが響く
俺がおとずれたのは雨季。
水没したアシ原(?)はどこまでも続く
カヌーは進む
どこまでも続く緑
青い空がかぶさってくる
水鳥が飛び立ち
滴るしずくがキラキラ光った。
アシ原のわずかなきれめを縫うように
カヌーは進む
時折オールでアシ原を掻き分けながら
カヌーは進む
進む。あの青超えて
「タク!タク!」
呼ばれて振り向いた視線の先
背びれを出した魚がまるでイルカに悠々とライズしている
(後日ターポンと判明)
アシ原の奥からは不気味な捕食音
俺の気持ちを見透かしたかのように
「焦らなくても村まで行けばもっとすごいよ」
ジョージさんが優しくなだめた
カヌーは進む
澄み切った空気
熱くもさわやかな風
遠くのものがよく見える
なんだか少し目がよくなった気がした
地球は広いものなんだ
あぁ
なんだか眠たくなってきたよ
日も傾く頃、
俺達はジョージさんの家のある集落に着いた。
この村に来た日本人は俺が初めてとあって、
ジョージさんのご両親や村の皆さんも
ものめずらしそうに、そして暖かく迎えてくれた。
荷物を降ろすのも早々に
待ちきれなくなった俺はゴートンと共に夕焼けのクリークに釣りに出た。
流れに任せ、カヌーは下ってゆく
俺はピンスポットにルアーを打ち込んでいく。
小一時間経過
空が赤く染まってきた
何の反応もなかったけど
釣りが、安全に釣りができるだけで俺は幸せだった
「ゴートンそろそろ帰ろうか?」
「タク〜」
「・・・ガソリンタンクが空だよ〜」
「な、ナニィ!!」
・・・
俺たち二人は1時間半かけてパドルでクリークを遡上し、何とか村に帰りつくことができた・・・・。
二人とも疲れきっっていた。
汗だくになりながら
「ヘ、ヘ、ヘッ」
と互いに苦笑いした。
もうあたりは真っ暗。
この村に電気はきてない
日中充電しておいた太陽電池で、
小さな裸電球がひとつだけ灯っている。
無数の羽虫が部屋に舞う。
ここでも食事の前に神へのお祈り。
無事着いたこと、ジョージさん一族に、ゴートンに出会えたことに感謝し、俺も祈った。
神様なんて信じない俺だけど、
この日ばかりは少しだけ信じてみようかな、と思った。
パンをおかずにご飯を食べる。
紅茶に羽虫がポチョリと落ちる。
豊饒なり、豊饒なり
村での初めての夜は過ぎてゆく
マラリア薬の軽い頭痛がした。
翌日は日曜日
教会の村へ向かった。
クソ熱い中数時間にわたる牧師の演説、(軽く殺意を覚える 笑)
南国の、トタン小屋に賛美歌が響いた。
「早く魚の顔を見たい」
焦りがなかったとはいえない。
けれども俺はお尋ね者である。
金も払えない(汗)から、お客ではない。
人々の厚意で釣りをさせていただいているのだ。
郷に入りては郷に従え。
それが釣旅の難しさであり、魅力でもある。
節操のない俺はこのときだけはクリスチャンとなって祈った。
「アーメン、神よ、我が手に怪物を!」
午後
ある人物の元へ案内された。
ジョージ・ワイナさんの兄弟、(弟?)
ワビル・ワイナさんだ!(以後敬称略)
まだまだ若く、ワニ漁師として未熟なゴートンとは違い、
(ゴートン、ごめんね。ワビルと比較して、の話よ)
彼は熟練のワニ漁師、釣りをしたことはないらしいがここら一帯の水辺を知り尽くしている。
そしてジャングルでのサバイバルライフにおいて最強の男であろう。
昼飯を共に食い、これまでのいきさつを話した。
様々な世間話をした。
日本のこと、日本人のこと、PNGのこと、PNG人のこと・・・・
しばらくして彼は言った。
「お前は変なやつだな。話に聞く日本人とは全然違う・・・。
よし、分かった。気に入ったぜ!
今は雨季で仕事には不向き、タクの旅にとことん付き合ってやるよ!
俺の取って置きの場所へ、秘密の湖へ連れて行ってやるよ!」
そしてここに team Monster Kiss が結成された!!
右からワビル、俺、ゴートン。二人とも顔立ちが整ったイイ男。俺、明らかに見劣りしてるなぁ(汗
日々オールでカヌーをこぎ、
自然と共に生きる彼らは、皆たくましく、強く、そしてやさしい。
それにしても、ワビル、すごい体をしてる・・・
その後、ワビルに村を案内してもらった。
現地名カソワリ。
日本では火食鳥とよばれる。
ヒナの時、ワビルがジャングルの中で捕まえ、
育てたのだという。
「いざという時食うのさ」だって
小屋の奥にいるけど、結構でかい。
身長(?)は軽く1mを超える巨大な飛べない鳥だ。
日本のチョッキ銛タイプのワニ銛。巨大だ・・・
「釣り」より「突き」
「男」はワニを突き「漢」になるのだ!
女「突き」に線を出してる場合じゃないぜ!笑
「よし、タク、明日出発だ!
今日はお店も休み、
明日の朝一、必要な物資を買い込み、出発しよう
日本人未踏の地へ旅に出よう。
秘密の湖、×××湖のことは村人にも秘密だぞ。
また明日な!」
目指すはコードネーム レイク=イナリク。
「イナリク」とは現地語で「怪物」という意味だ。
翌朝の再会を約束し、俺達は一旦わかれた
夜
高ぶる気持ちを抑えられず、俺はジョージ家の外に出た。
すごい数の蚊に囲まれたが、そんなことなど気にならなかった。
現地式に葉タバコを新聞紙に丸め、吸う。
ジョージさんの娘が近づいてきた
「はい、これあげる♪」
そういって差し出した両手。
ゆっくり広げた掌・・・
それは蛍だった
ずいぶん小柄な2匹の Fire Fly
小さな2つの火の粉
夜空に一粒舞い上がった。
行方を追う
見上げた先、そこは満天の星空
小さな火の粉は星となり、熱帯の星空へすいこまれていった。
視線を降ろす。
もうひとつの星くずが、
俺の掌でまたたいた。
「行こうぜ、ピリオドの向こうへ」
by氣志団
向かうはワニの大生息地、
”怪物の湖”
レイク=イナリク
「釣り旅における釣り旅」が今はじまる・・・。
ワニの頭蓋骨と最終兵器「オリノコモンスター」