第8章 古代魚が空に会い、大河に円を閉じること
米、缶詰、小麦粉、電池・・・・
翌朝、となりの村に1件だけある雑貨屋で買い物をする俺達。
これから約1週間の旅に必要な物資をそろえるのだ。
基本的に蛋白源は俺の釣る(であろう)魚。
開店時間が2時間遅れ、
暇をもてあましていた時に村人が見せてくれた一枚の写真。
そこには1メートルを楽に越すバラマンディーと、にっこり微笑むオージーが写っていた。
もう、いてもたってもいられない!
店の主の家に行き、たたき起こしたのだ。
そして最重要課題のガソリンである。
気化したガソリンで充満した小屋の中、
サイホンの原理でドラム缶からポリタンクへガソリンを注ぐ。
汗だくになりながら、俺はドラム缶を持ち上げ、
ワビルはそれをホースを使い口で吸い出した。
作業が終わるころ、おれは半分ラリっていた(汗
ちなみに
なんと
1リットル5キナ
約185円!
(当時日本では120円前後)
日本より高いのだ!!
意外に思われるかもしれないが、
輸入品に関しては日本より物価が高い!
遠隔地である事、自国産業の未発達により輸入品に頼っている事等、
とにかくPNG、特に地方都市や村は物価が高い!
必然的に自給自足しかないのだ。
この時点で有り金を8割以上費やした。
もう、後戻りはできないぜ!
でもなんだろう、この妙な快感は!
ワビル製作の大型カヌー(長さ7メートル、幅80センチ・・・安定性無し)に次々と積み込まれていく荷物
ブルーシート、ムシロ、食料、ポリタンクに入った水とガソリン、ワニ突き銛、ワラビー弓、そして釣具・・・・
荷物でいっぱいになった船上で、俺はにんまり笑った。
苦しかったバイト生活。
高校まで、本当に俺はただの甘ちゃんだった。
今思えば、定められたレールの上、なんと楽な日々だったろう。
そして「そんな生活、毎日がつまらない」と少し道を踏み外してみた俺。
「毎日が面くない」そんなこといってる時点で尻の青いガキだったのかもしれない。
そして知った社会の厳しさ。
過酷な肉体労働
その苦労はここPNGで「モノ」として、「出会い」として形になった。
いや、正確に言えば「なりつつある」
ここまで段取りを整えられた事、ここまでこぎつけられた事
それだけで既に満足だった。
既に日本からこの遠征は始まっていたのだ
お膳立ては整った。
あとは実を結ぶだけだ。
「さぁ、行こうか?」
支流を大河に向け下っていく。
時折ターポンがライズし、ナマズがジャンプした。
その度に竿を握り締める俺
「まぁ、まぁ、早まるなよ、タク」
とワビル。
1時間ほど走ったろうか?
川が大きく蛇行している地点に差し掛かる。
「なんと・・・まぁ・・・」
俺は「クククッ」と笑い、「ケケケッ」と笑った。
もう笑わずにはいられなかった。
そこには見たこともない光景が広がっていた。
せいぜい学校のプールほどの瀬
ライズがひっきりなしに起こり、
あちこちで炸裂音が鳴り響く。
水は渦を巻き
うっそうと茂るヤシが川に影を落としていた。
カヌーを岸に寄せ、震える手でルアーを結ぶ。
焦ってうまくいかない。
その間にも何度となく炸裂音がおれの耳に届いてくる。
「ヘッ、ヘッ、ヘッ」
俺は一度大きく深呼吸し、竿を振りかぶった。
ラインの先はもちろん”オリノコモンスター”
「行っけぇぇぇぇぇぇえええええ!!!」
真っ赤なオリノコは真っ青な空に弧を描き
弱肉強食の舞台へ飛び込んだ
「ザバッ!」
「FISH ON!!」
赤いウロコが宙に舞う
俺はしゃかりきにリールを巻いた。
気づいた時
船底には憧れの古代魚
その目には空を映していた。
「うぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
ヤッタゼ、俺!!
PNGバスよりバラマンディよりも、そのルックスにより心の中で一番釣りたかった魚。
ザ・フィッシングを見てからずっと憧れていたこの魚
PNG初魚がこいつだったことは本当に、本当にうれしかった!
写真ではうまく分からないけど、尾びれ付近のウロコは赤く彩られ、
めっちゃくちゃ綺麗!!
俺は高々と手を、竿を天に掲げた。
ゴートン撮影の傾いたアングルもなんかいい感じ!!
ブサイクだけど、ほんといい顔してるなぁ、俺。
ルアーはオリノコ、すべてが完璧!(DOZさん、ありがとうございます!!)
ほんとよかった!最高じゃぁ〜!!
ワビルと握手し、ゴートンと抱き合った。
「これぐらいで喜んでちゃいけないよ!まだまだいるぜ!」
と二人は水面を指差した。
俺は興奮覚めやらぬまま釣りを続行した。
そして・・・・・
オリノコやSスプークに何度かアタックはあるものの、乗らない!
俺はルアーのサイズを下げ、ポップRを結んだ(こいつも賜・DOZ兄)
その1投目・・・き、きたーーーーー!!
が、船に上げた後もこいつは暴れ周り、
俺のルアー入りタッパーを撒き散らした挙句、体にラインを巻きつけ、竿の先端を折りやがった・・・
普段はこの背びれをイルカのように水面にだし、優雅に泳いでるやつらだが、
フックアップ後は壮絶なファイトを見せる!
ターポンじゃぁぁああ!!!
ルアーに走る閃光、
直後、ものすごいスピードで疾走
そしていきなり1メートル近いハイジャンプ!
す、すごすぎるぜ、PNG!!
俺は口元まで出てきていた心臓をゴクリと飲み込んだ。
ポリタンクの中の半分お湯になった水をゴクリと飲み込んだ。
足元には2種類の「アコガレ」が今、息を引き取ろうとしている。
心臓が所定の位置でなお、飛び出すぐらい激しく脈を打つ。
「俺が釣ったんだ、俺が釣ったのか?俺が・・・」
俺はもう一口水を飲んだ。
得意顔のワビルとゴートンは言った。
「そろそろ移動するか?今日の野営地はまだまだ先だからな。
それにまだまだレイク=イナリクはこんなもんじゃないゼ!!」
カヌーは岸を離れた
うしろでまた馬鹿でかい捕食音が聞こえた。
カヌーは更に下流へと向かう。
本流が見えた
な、なんて広いんだ・・・・
水の色も変わった。
コーヒー色の支流がミルク色の本流と混じり、混じわらず
うねる水面が辺りに広がっている。
俺達は丁度その河口の上流側にカヌーを止め、
釣りを開始した。
最強の集魚力の「オリノコ」をしても渦の中、広大なこの場所では太刀打ちできなかった。
俺はポートモレスビーで買ったハルコを結び、持久戦を覚悟した。
が、
数投目
いきなりリールが逆転した!
で、で、で、でかい!!!!!!!
タイでのシャドー7kgの時にあみ出した「ぬかに釘、のれんに腕押し対処法」で時間をかけて戦う。
リールを押さえる指がやけどしそうになるほど
強引な力が俺を支配する。
下へ、下へと引き込んでいくファイト。
ジャンプはない。
「ブラックバース!!」
ワビルとゴートンが叫んだ!
浮いた!
モワリと船べりの水を持ち上げ、
奴はまた底へと突っ走る。
銀色の腹が見えた。
緑がかった、銀色の腹が見えた。
船べりで暴れまわる奴に疲れが見えたその一瞬、
ゴートンがそっと腹の下に手を入れ、カヌーの中に放り込んだ!、
「YES!!!!!」
「うぉおおおおおおおおおお!!!!!」
この魚に会いに俺ははるばるやってきたのだ!
まだ色が変わる前、ブラウンの体、黄色のヒレが美しい。
67センチ、終にやったぞ!!
俺の叫び声は
大河に消されていく
だから何度でも、俺は叫んだ!!!
とりあえず
円は閉じた。
完結
さて
ドでかい円を描きに
さぁ、行こうか?
レイク=イナリクまではまだまだ遠いぜ。