第4章 英語の通じぬ町で、人生最幸の誕生日を迎える事

 

 

次の日の朝、俺はウボンラットという田舎町にいた。

カオレム出撃まではまだ数日ある。

一切情報なしの場所で、己の力で、なんとか「俺のサカナ」を釣り上げたかったのだ。

コーンケンからバスに揺られて1時間、本当に「歩き方」のも載ってない超田舎に来た。

さて、これからどうやってウボンラットリザーバーに行こうか?

まずこんな辺境の地では英語が通じない。

ウボンラットリザーバーなんて、

ガイドブックにも載ってない=観光地ではないのであるから、

バスもあるかどうかわからない・・・

機動力+英語力=警察署

俺は町の警察署に向かった。

「ウボンラットリザーバーで釣りがしたいんだ!どうやったらいける?」

こんな平和など田舎に事件などあるはずがない。

暇をもてあましている警官達は、あほな外国人に興味津々だ。

「わかった。連れてってやるよ!」

ってことに話が進むのに時間は1分しかかからなかった。

そうして、記念すべきバイク二人のり(ノーヘル)初体験は白バイであった

(白くなかったけどネ)



 

はじめに連れて行ってくれたところは水面から20メートルくらいのウボンラットリザーバーに流れ込むかわにかかる橋の上であり、

ルアーでは無理すぎる。

橋ゲタにスプーンを上下させるのが精一杯。

当然つれなかったが、ちっちゃい淡水ダツのチェイスが見え、興奮した!

「サラウット(運んでいただいた警官の名前)、もっと水の傍までいけるとこないの?」

 

次に連れて行ってくれたところは傍にレストランのある、ダムの放水口付近だった。

どうやらここはタイ人のリゾート地で日本の軽井沢のような場所らしい(?)。

きれいなゴルフ場があった。

「用事があるから、一旦戻る。困ったときや、帰る際ここに電話しろ」

そう言って電話番号を教えてサラウットは帰っていった。

 

ウボンラットリザーバーはとりあえず見える範囲は岩だらけだった。

ちょっとした磯のような雰囲気。

日本で言えば、琵琶湖湖北の岩礁地帯のようなイメージである(行った事ありませんが 汗)

山間のダムではないので、歩いて周囲を回れるが、

もしこけて骨が折れたら、毒蛇にやられたら・・・そう思うとゾッとした。

だが、「釣欲」という自分の4大欲のひとつが圧倒的に高まっていた俺は

ブッシュの中にサンダルで突入した。

そして見つけたナイスポイント!

放水口付近の小さなシャローワンド。

唯一葦が生えていて、周りの波が砕けるようなラフウォーターのなか、

このワンドだけは静かであった。

岩の上に立ち、ペラをつけたケロール(ラッキークラフト)

を足元でアクションチェックをした。

と、そのときいきなり岩の下から魚が飛び出した!

ルアーを追ってきたのか、ルアーに驚いて逃げたのかはわからなかったが、

ドキがムネムネしていた。


しばし水面を攻めるが反応はない。ショアラインシャイナーR40にチェンジ。

その1投目!ものすごい速さで魚がチェイスしてきた。

ビデオでみた、メッキのチェイスににていた。

サッととびだしてきて、サッともぐっていった。

フッキングにはいたらなかったが、確実にフィッシュイーターはいる!

100円スプーンにチェンジした。



その数投目。

水面をもじらせながらアクションさせていたスプーンが周囲の水ごと盛り上がった!

が、乗らない・・・と思った瞬間、水面が炸裂した!

数秒後俺の手に収まったのは、現地でプラーカスープと呼ばれる、獰猛なニゴイであった。

その日は自分の19歳の誕生日であった。朝11時ごろのできごとであった。


「やったぜ俺!!!」


サイズ未計測。ネィティブな魚としては、タイ初魚!
画像悪いですが、赤い尻尾が美しい!!




19歳、この年齢には特に感慨深いものがある。

釣りばっかりしていた中学生時代。

そんな中ではじめて聞いたCDが「19」という19歳のアーティストのものであった。

(というか、中3までCDの一枚も聞かず、

すべての時間を部活と釣りにつぎ込んでいた俺っていったい・・・)

自分が音楽にハマるきっかけとなった「19」、

当時14歳だった俺は思ったものだった

「大して年齢も変わらない人が、こうして人を感動させる音楽を作っている。

果たして、俺が19になったとき何をしているんだろう??」

「ハイ、言葉の通じぬ異国の水辺で己の力で魚を釣り上げました!!」



渋すぎると思った。






午後からは岩礁帯をせめた。

というのも、漁師が俺を見てニヤリと笑いながら

「プラーブク?(メコンオオナマズか?)」

と聞いたからだ。

「おっさん、ここに天然のブクがいるんか?」

おっさんはにやりと笑った。

「・・・でかいのか!?」

おっさんは今しがた手入れしていたボートを指差した!・・・やるしかねぇ。

とは言うものの、ここには釣具店はない。当然練り餌も、食パンも、あんこもないのだ!(笑

そのとき、前日の釣堀でのことを思い出した!!

NONが小型メタルバイブレーションをボトムパンピングしていたことを!!

そして、プラーブク、プラーブクといいながらにやついていた(様な気がする)ことを。



リアクションバイト



かつて、フナをバイブで釣ったことを思い出した。

でっかい岩の上、80ポンドPE直結で俺は小型バイブを投げた

釣れろ!とおもった。釣れるわけねぇ、とも思い、釣れるな!とも思った。

・・アタリ一つなかったのは言うまでもない。

 



ウボンラットリザーバー。
ここでメコンオオナマズを追いました。ま、茶番劇でしたけどネ(汗











夕まず目、ミノーとポッパーで計2匹カスープを追加した。

日は傾いていた。


警官サラウットに電話をかける。

町(といっても、実家の町内会程度のレベル)に戻り、宿を探さねば!!

さすがに異国で野宿は恐ろしいのでネ。

サラウットの教えた番号は職場の警察署の番号であった。

受付のタイ人に英語で今朝のいきさつを理解してもらい、

サラウットを読んでもらうのは無理というものである。

異国の湖畔で途方にくれた。






 

午後7時半、真っ暗になっていた。

とぼとぼと歩いていた。いくら野宿とはいえ明かりの下で寝たかった。

寝袋もない、今夜、いくつ蚊にさされるのかな?

そんなかにマラリア持ったやついるかもな。

でも逆に「マラヤ・キャリー(carry:運び屋)」




とかいって帰国後のいいネタになるな(笑。

でも野犬に襲われたら・・・狂犬病はやばいな。

あれって発症したら100%死ぬらしいし。

やっぱ湖畔のレストランが閉店したら、その軒下を貸してもらおう。

あ、でも朝を迎えてもどうやったら町まで行けるのかな?

・・・・こんなことをつらつら考えながら

裏腹にこの絶体絶命の状況を楽しんでる俺がいた。

「全部、ネタにしてやる」

・・・・あかん、真性の阿呆や。







 

しばらくいくと街燈があった。

その下、3人のおっさんが座って、なにやら遊んでいた。

おぉ、カブトムシで相撲とってる!

「!?」いや、無理やり交尾させようとしとる!

Make LoveMake Love

中の一人が指を組み、手のひらで拍手(?)した。

「パン パン パン パン・・・」・・・その音、やめて〜!!(爆笑。

「・・・・ところでおっさん、近くにホテルないか?」

「お前もコレか?」

おっさん達はまた変則拍手(?)をしながら笑った。

「あほ!ソレ目的ならわざわざこんな田舎に来るか!」

「ハハハ。それもそうやな。お前、日本人か?ホテルならすぐそこにあるぜ」


ちょっと奥まった木の陰になかなか立派なホテルがあった。

助かった・・・・。

荷物を置いて湖畔の唯一のレストランへ。

・・・・すでに閉まっていた。

19の誕生日、俺のサカナを釣り上げた日、

・・・にもかかわらず俺は美酒も飲めず

ホテルのロビーで買ったカップメンだけの貧相な食事であった。

・・・激マズだった。

あんなに屋台料理はうまいのに、インスタント麺だけは何であんなまずいんだろ?

 


激マズカップメンを食ってから散歩した。

さっきの変態オヤジたちはまだいた。

なんと、今度は4,5匹で強制乱交パーティーだ!!

メスのカブトが「ギィギィ」と鳴き、自己主張して抵抗してた。

オスのカブトは角も短く、フンコロガシのようで、大和カブトと違ってやる気が感じられない。

しっかりものの女性と、適当な男・・・。

虫までタイ式、なんか妙におかしくて笑ってしまった。

おっちゃんたちと馬鹿話をした。

ヤモリが街燈に寄ってきた虫をとらえた。

すぐ傍でカマキリが蛍光灯の影から獲物を狙っている。

タイでも、東北地方の夜は涼しい。

HAPPY BIRTHDAYCONGLATULATION, TAKUYA」









 

翌朝、3時。深夜

野犬、マラリヤ、毒蛇、強盗、すべての恐怖を払拭し、

昨日カスープを釣ったディープ隣接のシャロー、夜の湖に立ちこんでいた

ホテルのエアコンが調節できず、寒すぎて眠れなかったの!!

狙いは・・・釣れればなんでもいい。

たとえプラーブクとて、餌を食うに来るならこのエリアしかない、と思った。

ビーフリーズ65をトウイッチした。

何回投げたろうか。

「コツン」


半信半疑であわせを入れる。

プルプル、あまりにも頼りない引きが伝わってくる。

たいした抵抗もなく釣れたのは、小さな鯰だった。

が、俺は喜びを爆発させた!

終に、見たことも聞いたこともないない珍魚を釣り上げたぜ!

(後に餌釣りで釣り上げたプラー、コッという魚に似ているが、

尾びれの大きさ、口の大きさなどから違う種ではないかと思われる)

トップウォーターの釣りも僕は大好きだ。水面爆発、あの興奮はたまらない。

しかし、水面下、想像力のみを働かせるつりも、同じかそれ以上に興奮する。

更に「異国」「夜釣り」の味付けがされていればなおさらである。

 


深夜の湖、正直こわいっす!
ぶっちゃけ、この後カオレムでシャドーもつるのですが、
タイ遠征でこいつが一番思い出に残った魚かも!
アップ画像は恥ずかしいので、加工!(笑







空が白み始めていた。

今度は強烈なバイトがあった。・・・が、すぐバレた。

カスープだろうか、それともメコンオオナマズ?新種の怪魚?!

それはわからない。

すべてのアタリに夢がある。

可能性は0じゃない。それだけで十分だ。

最高で、最幸だった。最輝の朝日だった。

ウボンラットに日が昇る。

今日も暑くなりそうだ。

 



少し明るくなってから、1匹プラーチョンを釣った。

ホテルに戻り、ベットに溶けた。

 チョン。ケロール&ペラにて。
この後、更に大きいチョンをかけ,このルアーをロスト・・・
不細工を隠すなら、より不細工に!(笑

 



数時間後、目覚めた俺はレストランに向かった。

今日はウドンターニへ移動せねばならない。

そして、その前に「気になるあのコ」に会わねばならないのだよ!

そう、昨日から昼間、メコンオオナマズを狙う・・・といいながら、

1時間に1回湖畔のレストランでコーラを飲んでいた。

というのも、そこのホールで働いているコがかわいいのだ!(笑

俺が行くと、いっつもその子が注文をとりにきた。

ここで、声を大にしていっておきたいことがある!

過去の言動により周囲より「変態」と思われている俺だが、

れっきとした恋の戦国時代(なんじゃそりゃ?)に生きる、清く正しい19の青年である!
(日記に忠実に書いてるのだが、これを編集している2005年の4月現在、読み返してみて全く意味不明だ 汗

その子の態度が、なんとなーくおかしいのに気づくのに時間はかからなかった。


そのコが注文をとりに来る。

そのコと一緒に働いている友人と思わしきコが、からかっている。

そのコは英語が全くしゃべられないようであった。

友人Aがタイ語でなんか言った。

そのコはあわてて友人Aの口を押さえにかかった。

と、そのとき再び友人Aが口を開いた。

「アイ ラブ ユー シー セイ」

顔を真っ赤にしたそのコは店の奥に逃げるように入っていった。

しばしボーゼン・・握っていたコーラをグビリと飲んだ。

コーラはぬるくなっていた。

タイの殺人的暑さのせいか、それとも・・・?!


タイ美人、キョンちゃん!だらしなくにやけてるワタクシ。
ハニカミながら2ショット写真に応じてくれました!
コップンカップ!!





 

次の日の午後、俺は年取った白衣の天使達に囲まれ、ウドンターニへ向かうバスに揺られていた。

今日の朝、チョンを釣った後、ホテルへ仮眠をとりに行く途中に出会ったタイ人のおばちゃんたちに

(彼女達はみんなナースで、俺の泊まっているホテルに研修旅行に来ていた)


「私達は今日の夕方にはウドンターニに帰るんだけど、一緒にどぉ?」

昨日のあのコのことを思うと、

もう少しここにいたい気がしたが、

自称「硬派」のワタクシ、(反論は聞かんぜ!!笑)

「いたいけな女の子の気持ちをもてあそんではいかん!!」

と、立つ鳥あとを濁さず、移動を決意したしだいである!

(実際は、この話を逃したら町までいける手段がわかんないからである!)


 

数時間仮眠をとった俺は、「時間がねぇ」と

今度はダムの放水口下のプールで竿を出していた。

放水が始まったら世界一不幸な川下りのはじまりである。

灼熱の太陽に寝不足、美女からのラブコールで、

もともと弱い脳みその回転が錆びた太鼓リールレベルになっていた俺は、

危機感0、ひたすらルアーを投げた。

ちっこい小魚はいっぱいいた。

小さな針や、毛ばり等、反則技はぜんぶエディの家に預けてきていた。

あのコのレストランでご飯粒なんて分けてもらうなんていう男前の廃ることなど、できるはずがない!!

この小魚を狙うフイッシュイーターのみに狙いを定めた。





投げた、投げた

ワームを投げた。ボロボロになって帰ってきた。

スピナーを投げた。ボロボロにならずに帰ってきた。

投げた。投げた。


バズベイトを投げた。飛翔をあげて帰ってきた。

フロッグを投げた。飛翔をあげて・・・

 

「ドバン!!」

 

強烈なアタックがあった。

が、竿に重荷が乗ることはなかった。

あとにも先にもソレっきりであった。

足元に20センチはあろうかというヤスデが死んでいた。

「暑っつーーーー!!」

俺はまたあのコのレストランへ向かった

「立つ鳥あとを濁さず、ってどうなった?おい!!笑」

 


幸いにも(?)、あのコは今日は休みらしい(まことに残念だ)。

現在正午、午後2時の出発までには時間がある。

連日の暑さで(ということにしといてくれ!)完全にアホになっていた俺は、

日本ならぜーーーーったいとらないあほな行動に出た。

ビザ取得ように持ってきた証明写真を取り出し、

相棒レザーマンのはさみをセットした。

切り取った写真を裏返し、

お別れのメッセージを書こうとした・・・・・・・・・


「やめてーー!、日本の恥さらしーーー!!by現在の俺




まさにそのとき

「タクー!出発するよー!!」

     ・・バスは一路ウドンターニへと走り出した。

さよなら、キョン。
(ナースの皆さんありがとうございます、ナイスタイミングです 汗)






 

途中、もう1箇所、どこかの施設に寄り道、看護の研修が始まった。

この研修旅行、50人ほどの大人数で行動しているわけだが、

自分に声をかけてきてくれた4,5人のおばちゃんグループは、

バスの中で待ってようと思った俺を

その研修室へ連れて行き、

前で講演しているおっさんを無視して自分に話し掛け捲ってきた。

デジカメで写し合いをして大笑いしたり、

お菓子をぽりぽり、ずっと雑談し、話が終わると適当に拍手。

次の講演が始まると

「あーめんどくさい、タク、外でお茶でも飲もうよ!」

とさっさと席を立つ。・・・まぁ、こんな感じである。

40前後のいい年したオトナがこうである。

みんな、中学生のいたずらっ子のようだ。

おいおい、さすがに看護婦さんだろ、技術研修はしっかりやらなきゃ・・・。

タイで病院にかかることだけは避けよう!と思ったのは言うまでもない 笑。


でも、なんかこのいい加減な感じ。大好き!

 



その後、さすがに

「研修はしっかりやりなよ」とおせっかいをはいた俺は、

バスに戻った。と、見覚えのある顔。

カブトムシのスーパーフリー(笑、あの変態オヤジどもだ!

「あんたら、バスの運転手やったんかい!」

その後、そのオヤジたちと無駄ばなしをしながら、

親父たちの弁当、東北部の郷土料理をご馳走になった。

プラー・ブーの半生焼き、生内臓肉のタイ風ユッケ、

生魚のバナナの葉っぱにくるんで発酵させたもの・・・

それらをニャオとよばれる蒸したもち米を握り、

そいつの上にすしのように乗っけて素手で食べるのだ。

「さすがにアタるかな?」

香草をそのままむしゃむしゃ食べた。

不思議と下痢はしなかった。

何をしゃべったか覚えてない。そもそも、会話が成立していない!

でもね、おいしかった、楽しかった、それだけでいいじゃん♪

 

ようやく研修も終わったらしい。

バスは再びウドンターニへ向けて走り出した。

巨大なウボンラットリザーバーのどこでいったい自分は糸を垂れていたのか。

マイペンライ、マイペンライ。

そんなことはわからない。

一期一会、一魚一会・・・

車内のテレビでは大音量でタイの音楽番組をやっている。

右手が少しナンプラーくさかった。




ウドンターニに向かうバスの中の白衣の天使達。
一番右の人、なんちゅー顔してんだか(笑