タイ編9 シャドーハント再開!withワンチャイ&・・・
ワンチャイは朝早くから次々とボールを見つけた。
ADDYと違い、岸際ではなく、
湖の真ん中の,水面には何も見えないウィードエリアを熟知していて、
そんなポイントのベビーボムは活性が高く、朝から数バイトがあった。
「いくらADDYが年の功といっても、現地ガイドにはかなわない」
オール裁きも見事だった。
「今日1日楽しんで、明日にはここを去ろう。ラオス、カンボジアも行ってみたいしな」
昨日一匹釣り上げている余裕からか、のんびりモードで釣りをする。
が、午後になってバイトはやんだ。
またもや苦行がはじまった。
それでも夕まず目、20分以上かけてイラつかせたボールで連続バイト、
そしてラストキャストには見たこともないサイズが
魚体をあらわにして襲い掛かってきた。
ワンチャイは太ももをたたいて見せた。
俺の闘志に再び火がついた!!
もう1日やってみよう。
夜、ADDYからミッソンパンに電話があった。
「タク、釣れてるか?」
「今日はまた坊主だったよ。」
「そうか。タクは合わせが弱いからな。明日もがんばれよ」
その小さな心遣いがうれしかった。
次の日、朝7時前には湖に出た。
今日はフェンも一緒である。
今日はワンチャイもキャストする。
二人で魚をイラつかせようという作戦だ。
9時ごろ、終にミノーをジャークさせていたワンチャイにヒット。
とんでもなく力強いアワセ、強引過ぎるファイトに見とれていると、
竿を渡してくれた。
日本では屈辱として、絶対断るが、せっかくの好意、
シャドーの引きを堪能させてもらった。
やわらかいスピニングロッドは今にも折れそうだ。
冷静にファイトを楽しんだ。
やはり、この魚の突進はものすごい。
水面での反転突っ込みのパワー、スピードは日本の雷魚の比ではない。
ネットインして、ワンチャイと握手した。
そして10時半ごろのこと
今朝出船前に苦戦続きの俺にサンゴップ親父さんが貸してくれた
旧ADDYに着水同時に水面が炸裂した!
過去に10キロの大物(ホントか?)をしとめたというサンゴップさんの魂のこもったこのルアー。
絡んだ水草を解き、ネットに滑り込んだそいつは72センチの良型だった。
ワンチャイは4キロと言った。
見たことのないでかさの頭だった。
「俺のカオレムは終わった」
やりましたっ!!
このときはそう思った。その後、とんでもない事態が待っているのだが・・・。
大きなママを水に帰す。
ファイト中、ラインを体に巻きつけて切ろうとしたのだろうか、
腹にラインが食い込み、内臓が出ていた。
ワンチャイに聞くと「マイペンライ(問題ない)」という。
僕の手をすり抜けて、ママは威風堂々消えていった。
罪悪感が胸に残る。
釣師の原罪、だが止めることはできない。
釣り上げられた後も、歯をガチャガチャ言わせて抵抗したあいつ。
ワンチャイは大丈夫といったが、きっと死んでしまうだろう。
でも、それでも、アイツは子供が大きくなるその日までは、
きっと守り抜く。きっと・・・・。
俺は心の痛みにそっと言い聞かせた。
目標の70オーバーを手にし、心は穏やかだった。
この地に来て本当によかった。
水牛が水浴びをしている。
快晴の中、走るボート、風が気持ちよい。
が、情報交換のためすれ違ったタイ人釣師がキープしていたシャドーに俺は衝撃の光景を見た。
80オーバーのデブシャドー。
さっき自分が釣ったのとは、決定的に太さが違っていた。
「・・・カオレムはまだまだ終わらない・・・」
俺は言った
「ワンチャイ、ビッグワンオンリー!OK?レッツゴーー!!!」
キャストを繰り返す。
この日はバイトが連発した。
ワンチャイがまた1匹追加した。
まずまずのサイズだったが、さっきのシャドーの後ではすべてがかすむ。
俺はポイント移動中も、徹底的に針先を磨ぎ、「一撃」に備えた。
そしてそのときは来たのだ。1時過ぎ
ペラ→ミノー→ペラとイラつかせ、もう一度ミノーに変えたその1投目。
「ガコッ」
手首が返され、竿を落としそうになった。
俺は渾身の力で2度、3度とあわせた。とてつもない重量感だった。
この時点で、相当のでかさだとわかった。
かなり手前でのバイト。
モンスターは何が起こったかわからない、といった風に抵抗することなく水面に浮かび上がった。
「ボカッ」
それは潜水艦が浮上したかのように、目の前10メートルに怪物が姿を現した。
さながら、ラグビーボールが浮かんだかのような巨大な頭。
視線が合った
そして状況を理解した怪物は、一気に湖底へと反転した。
俺は引きずられた。竿を放しそうになった。
だがその中で、どこか冷静だった。
即座にクラッチを切り、指ドラグに変更し、状況を分析した。
30ポンドPEにリーダーは80ポンドPE、
ウィードもまばら、奴との距離はせいぜい10メートル。
魚体も見えている。
急な突進さえかわせば勝てると思った。
強引にポンプアップし、クラッチを切って「その時」を待つ。
反転ダッシュした瞬間にスプールを離した。
「のれんに腕押し、ぬかに釘」ファイト法だ。
ものすごいダッシュも、海の魚のようにどこまでも走るわけではない。
時間をかけて戦った。
数分のファイトの末
奴はワンチャイの差し出すネットに収ま・・・・・・
その時!!
・・・一瞬何が起こったかわからなかった。
ワンチャイは自分のルアーだけが絡んだネットを持ち上げ、笑ってみせた。
俺も笑った。
何が起こったかわからなかった。
しばしのボーゼン、そして俺は吼えた。
「ウオオオオオーーーー!!!」
ワンチャイも吼えた。
「ウォオオオオオオオオオーーーー!!」
フェンも吼えた。
3人はひっくり返り、天を仰いだ。
風のままに、波のままに、3人の雄たけびを乗せてボートは湖面を漂った。
しばらくして、ようやく事態を飲み込めた俺が口を開く
「今ので何キロだ?」
ワンチャイは左手を広げてみせた。
「あれで5キロか・・・」
が、次の瞬間、ワンチャイは右手でVサインを作った。
「7キロだ」
3人はまた吼えた。ボートの上でもだえ、転がった。
吼えた。笑った。そして俺は叫んだ!
「テンキロー、テンキロオーバーオンリーー!!」
(10kg以上だけを狙うぞーーーー!!)
」
ワンチャイも、フェンも笑った。
「オケーオケー、テンキロー!」
(OK,OK、10kg獲るぜ!)
だが、冷静になった今思う。
ワンチャイ兄貴、これだけは「マイペンライ」では済まされませんぜ!
早急にもっとでかいネットを用意しなさい!!!
一度は閉じたかに見えた円を強引にこじ開け、
モンスターは消えていった。
「円を閉じるにはまだ早い!」
ボートにエンジンがかかった。俺たちはまた吼えた。
「テンキローーーーーーー!!!!!!」
その後、65センチを追加した。
ワンチャイは言った「ベビー」
俺は写真をとる気にもならなかった。
更にワンチャイが1匹追加して、この日の釣りを終えた。
帰り道、俺は怪物を手にするまでカオレムに居座る決意を固めた。
そしてミッソンパンに帰ってみると・・・・
「武兄!!!」
モンゴルから中国を経由して、武兄がカオレムに到着した。
久しぶりに話した日本語、俺は武兄にしゃべり続けた。
130タイメンの写真を見て、俺もアドレナリンでまくり。
例のタイ人のキープした80オーバーのデブシャドーを見て、武兄も闘志満々。
夜遅くまでルアーのチューニングをし、明日に備えた。
「武兄マジックで、“俺に”モンスターを呼んでくれ!」
左武兄、右俺。現地式日焼け止めクリームをつけてみた。
なんじゃこりゃ・・・(笑
この日から、俺は武兄の金魚のフンと化す(笑
が、次の日はバイトが全くなくなった。
俺だけではない。武兄ですら、どうしようもない。
その次の日も、状況は変わらなかった。
その日はDOZさん&にーしこさんもカオレム入りし、
「昼飯洞窟」の日本人密度は驚きだった。
釣りバカ丸出しの昼食会
飯が美味い。
ビールがスルスルのどを通る。
が、いかんせん状況が渋い。
そんな中、武兄のバッククラッシュの隙にうまい具合にキャストが決まり(笑、
「一投目系」の70が釣れた。絵に描いたような、美しいバイトだった。
棚からぼたもち(笑)こいつが一番美しい色だった!
だがやはり厳しい状況は変わらない。
二人して「マイルドにね。殺気を消さなきゃ」とか何とか言って、
ビール飲みまくりの酔拳釣法を続けた(笑。
軽く書いてはいるが、灼熱の日差しの中、1日10時間以上竿を振るのはもはや修行であった。
飲まなきゃやってられん状況だったのだ。
が、この日のラストに壮絶な戦いが待っているとはこのときは誰も思いもしなかった・・。
日も西に傾いてきたころ・・・
「ウッ!!!」
おれは強烈な便意をもよおした。
武兄、ワンチャイの前でスカトロショーをお見舞いするわけにはいかない。
限界に達するのに、そうは時間がかからなかった。
俺はパンツで湖に飛び込んだ。
20メートルほど泳ぎ、立ち泳ぎしながらパンツを脱いだ。
足のつかない深さのポイントだった。
この立ち泳ぎというのが厄介、泳ぎながらクソをたれるのはなかなかに難しい。
右腕は前に回しながら、左腕を後ろ回しにするようなじれったさに似ている。
更に上昇水流が香ばしい物体を上昇させる。
わが人生において、最「香」の体験となったのは言うまでもない。
そんでもって、
そんな自分目掛けて笑顔でルアーを投げる人物がいたことは是非とも書き留めておかねばなるまい。
俺はふざけてそのルアーにバイトしてやった。
ラインの先にある、帽子の下のメガネの奥に満面の笑顔が見えた。
この日、二人とも坊主
・・・疲れた。
ウガーーーーーッと。さっきの70センチ。
いや〜おとろしいわ(=恐ろしいby富山弁)
後ろにいるのがワンチャイ兄貴。