『ハリー・ポッター』2014.5〜6

(1)

 ハリー・ポッターシリーズの映画三作目までおもしろかったが、四作目の「炎のゴブレット」の最後のところで、とうとう犠牲者が出て楽しい映画ではなくなった。

 その後、話についていけなくなり、おもしろく感じないので、せっかくテレビ放映されたが、最後まで見る気にならなかった。

 ただ、ハリー・ポッターがなぜ生き延びられたか気になるので、本を読むことにした。

 三巻目の最後のところの謎ときで、映画を見てよく理解できなかったところが、本を読むとよくわかった。

 四巻目の最後の謎ときは、ほとんど推理小説の謎ときのようだ。映画でよく理解できなかったことが良く理解できた。四巻目の分量は、それまでの倍になっていて、最後の謎ときのために、それだけの記述が必要だったことがわかった。

 本を読むと確かにおもしろい。それと、気味が悪いものが出てきても、それを見ずにすむところがありがたい。


(2)

 映画がおもしろくなくなったのは、恋愛問題が入ってきたこともあると思う。

 本の方も、しょっちゅうくだらない嫉妬でツンケンした会話をしているのを読むのは不快だ。それでも気持ち悪いキスシーンを見ずにすむだけましだ。

 第六巻『不死鳥の騎士団』の前半は映画も本もあまりおもしろくないが、これは学校生活が全然おもしろくないせいだと思う。

 後半以降は、逆にストーリーの展開が気になり、読むのを止められなくなるほどおもしろい。

 ただ、映画で見た記憶がほとんどない。おもしろくないので途中で見るのを止めたのかもしれない。

 シリーズ後半になると、本を読んで予習復習をしないと、間をおいて映画を見ただけでは、理解できないことが多くなるように思う。

 
(3)

 映画が理解しにくいのは、呪文を聞いても即座に何をする呪文かよくわからないせいもある。英語を知っているとまた別なのだろう。

 魔法界のお伽噺が出てくるが男の子三人兄弟で、末っ子が一番うまくやるのは、非魔法界と同じだ。

 第一作目で男の子二人と女の子一人の友人なら、大きくなって三角関係になるのだろうと思ったら、これは定番とは違った。

 女性と女性を守る男性二人という伝統的な図式ではなく、ハリーを守る友人二人の図式だからかと思う。

 ディケンズの『二都物語』は、失恋した男性が愛する女性のために女性の夫の身代りになって死ぬ。片思いでも好きな女性を思い続けて自己犠牲をするのは定番だ。最後の最後になって、「やっぱりこのパターンを使うんだね」と思う。

 全部読みとおして、涙が出てきたのは、以外にもダーズリー一家との別れの場面だった。第七巻『死の秘宝』上55頁でいとこのダドリーが「あいつはどうして一緒に来ないの?」のところからかなり泣けた。

 
(4)

 第二巻『秘密の部屋』465頁、リドル(ヴォルデモード)の言葉

「そうか。母親が君を救うために死んだ。なるほど。それは呪いに対する強力な反対呪文だ。わかったぞ―結局君自身には特別なものは何もないわけだ。実は何かあるのかと思っていたんだ。・・・」

 第四巻『炎のゴブレット』上335、6頁、ムーディ(の偽物)の言葉

「・・『アバダ ケダブラ』・・・死の呪いだ」

「・・反対呪文は存在しない。防ぎようがない。これを受けて生き残った者は、ただ一人。その者は、わしの目の前に座っている」

 第四巻『炎のゴブレット』下452頁、ヴォルデモートの言葉

「・・俺様が力と身体を失ったあの夜、俺様はこの小僧を殺そうとした。母親が、この小僧を救おうとして死んだ―そして、母親は、自分でも知らずに、こやつを、この俺様にも予想だにつかなかったやり方で守った・・・」

「・・昔からある魔法だ。俺様はそれに気づくべきだった。見逃したのは不覚だった・・・」

 昔からあるという母親が使った死の呪いに対する反対呪文についての詳しい説明はこの後でも出てこない。

 最低でも誰かが身代りになって死ぬことが条件になっているように思う。狙われた人間自身が使える魔法ではなく、自分のために代わりに死のうとする人間を自在に用意できないのだから、忘れられた魔法になっても不思議はない。

 最初の四作の映画までは、最後まで見たにも関わらず、どうしてハリーが生き残れたのかよくわからなかった。

 それに、どうしてハリーが襲われたのか、ハリーの額の傷の意味、ハリーとヴォルデモードの間にあるらしい何らかのつながり、ハリーがどうやってヴォルデモードを倒すのか、依然として謎は残る。


(5)

 第5巻『不死鳥の騎士団』下650頁、ダンブルドアの話

「ヴォルデモートは、きみが生まれる少し前に告げられた予言のせいで、幼いきみを殺そうとしたのじゃ。・・」

 予言は闇の帝王を打ち破る力を持った者が生まれることを告げていた。予言がなされるのを立ち聞きしてヴォルデモートに予言の内容を告げた者は、予言の途中までしか聞いていなかった。

 ヴォルデモートが聞いていない部分で「闇の帝王は、その者を自分に比肩する者として印すであろう。」と予言している。

 予言の実現を阻もうとして、逆に予言の一部を実現させてしまう。

 ただ、これだけでは、ヴォルデモートとハリーの間に心のつながりができた理由はわからない。


(6)

 ヴォルデモートの肉体が死んでも魂があの世にもいかず、ゴーストにもならずに現世にとどまり、再び肉体を取り戻せたのは、前もって魂を分割して、その魂を別の物体(分霊箱)に納めたからだ。

 魂を七分割し、一つはもともとの自分の体にあるので、分霊箱は六個ある。第二巻に出てくるトム・リドルの日記帳、トム・リドルの母の父が先祖から受け継いだ黒い石を嵌めた指環、トム・リドルの母が受け継いだホグワーツの創始者の一人のスリザリンのロケット、同じく創始者のハッフルパフのカップ、レイブンクローのティアラ(髪飾り)、蛇のナギニだ。

 ヴォルデモートを完全に滅ぼすためには、分霊箱をすべて壊してからヴォルデモートの肉体を死なせなければならない。

 分霊箱を蛇を残してすべて壊したあとで、ハリーの母親が死んだときにヴォルデモートの魂の一部がハリーの中に入り、ハリー自身が分霊箱になっていたことがわかる。ヴォルデモートを死なせるために、ハリーがヴォルデモートに殺されなければならない。ハリーはネビルに蛇を殺すことを頼み、ヴォルデモートの前に姿を現し、死ぬつもりでヴォルデモートの死の呪いを受ける。

 しかし、死んだのはハリーの中のヴォルデモートだけで、ヴォルデモートの部分を取り除いたハリーは生き残る。ヴォルデモートが身体を作る時にハリーの血を使用したが、ハリーの血の中には母親がハリーを守った力が残っていて、ヴォルデモートの中のハリーの血がハリーを死から守ったのだ。

 ネビルは、組分け帽子からグリフィンドールの剣を取り出し、その剣で蛇を殺す。ネビルとハリーの味方をハリーはヴォルデモートの死の呪いから守る。これは、ハリーが自分が死ぬことでみんなを守ろうとしたことから、ハリーの母親がハリーを守ったのと同じ魔法が働いたのだ。

 ハリーとヴォルデモートが対決して互いの杖から出た光線がぶつかり、ヴォルデモートの呪いが弾き飛ばされて自分自身にあたり、ヴォルデモートは死ぬ。普通の死と同様肉体が死に、魂はあの世にいったと思われる。

 ヴォルデモートの杖は弾き飛ばされて、ハリーの手の中に入る。ヴォルデモートは伝説の最強の杖を求めて手に入れたと思っていたが、杖が魔法使いを選び、杖はハリーを選んでいたのだ。

 最強の杖を手に入れるには、杖の所有者から奪わなければならないと考えられている。ダンブルドアが前の所有者から決闘によって手にいれ、ダンブルドアはスネウプに殺され、ヴォルデモートがスネウプを殺したので、ヴォルデモートは自分が杖の所有者だと思っていた。

 ところが、ダンブルドアはスネウプに殺される前にドラコに杖を弾き飛ばされているうえに、スネウプに殺されることを望んでいた。また、スネウプはドラコの代わりにダンブルドアを殺した。このうちどれが決定的原因かはわからない。ハリーはドラコ自身の杖を奪ったので、最強の杖は、ハリーを選んだのだ。

 伝説では三人兄弟の長男が最強の杖、二男が死者をよみがえらせる石、三男が姿を消すマントを死神から貰ったとされている。死神から貰ったというところはお伽噺だとしても魔法の杖、石、マントを作ったのは本当のことのようだ。死者をよみがえらせる石は、分霊箱に使われた指環の石だったが、効力は、生身の体を持たないが、ゴーストよりは実体のあるものを呼び出すだけで、呼び出された者は、石を持っている者にしか見えず、石を手から離すと消滅する。会話はできるので降霊術のようなものだ。

 最初に読んだ時には、ハリーは一度死んで死者をよみがえらせる石によって生き返ったのかと思った。改めてじっくり読むとそもそも死んでいないとはっきり書いてある。どうして死ななかったのか、なぜ、ハリーは自分が死ななければならないし、死ぬだろうと思わなければならなかったのかが、改めてじっくり読むことでわかった。映画は最後の最後は見ていないが、多分見ても全部を理解できなかったろうと思う。

 いろいろなことをハリーは教えてもらえない。読者に秘密にしておく必要があるのだろうが、どうして秘密にしなければならないのか、納得のいく説明を用意するのは大変だったろうと思う。

 推理小説で探偵がなかなか推理したことを話さないのと同じ理由にすることができないので作者も大変だ。

 死者と会話できる石は禁断の森に転がしたままで、最強の杖はダンブルドアの墓に戻し、姿を隠すマントはハリーが持っているので、まだ何か起こる可能性はある。十九年の間、ハリーの傷は傷まず平和だとハリーは思っているが、ハリーの中のヴォルデモートの魂は消失(あるいはあの世にいった)と思われるので、仮に石を拾ったものがヴォルデモートの魂を呼び出して話をして悪影響を受けても、ハリーが気づくことはないように思う。

 ハリーの子供たちは伝説の英雄の子供として、大変なことがいろいろありそうだ。続編を書く要素はたくさんあるように思う。十九年後を最終章にしたのは、少なくとも十九年は続編を書かないぞという宣言かもしれない。


(7)

 第七巻『死の秘宝』、分霊箱を探す旅に出る。ダンブルドアが遺言でハーマイオニーに残した本が、死の秘宝に関したもので、ハリーは分霊箱探しと死の秘宝探しのいずれを優先すべきか迷う。

 上巻、ハリーがダーズリー家を脱出し、隠れ穴に行く。隠れ穴でのビルとフラーの結婚式の最中に、死喰い人の襲撃を受ける。

 ハリー達三人は逃れてブラック家に隠れる。そこで、分霊箱のロケットが魔法省に勤めるアンブリッジが持っていることを知る。

 魔法省に入り込みロケットを手に入れたが、分霊箱の影響を受けたロンはハリーと言い争いになり、分霊箱探しの旅から脱落する。

 ハリーとハーマイオニーは、ハリーの両親が死んだ家があり、ダンブルドアの故郷でもあるゴドリックの谷に行く。ダンブルドアの若いころを知る老魔女バチルダを訪ねるが、バチルダに化けた蛇に襲われる。逃走の際にハリーの杖が折れる。

 ロンが戻って来る。誰が出したのかわからない守護霊の牝鹿に導かれてグリフィンドールの剣を見つけ、ロンはその剣でロケットを破壊する。

 下巻、ルーナの父がダンブルドアが残した本について何か知っていると考え家を訪ねる。ルーナを人質にとられていたルーナの父は死喰い人に通報したが、三人はその場を逃れる。

 三人は、賞金稼ぎの人さらいにつかまり、死喰い人のもと(マルフォイ邸)に連れていかれる。そこに囚われていた他の囚人と一緒にしもべ妖精のドビーに救出される。その際にハリーはドラコの杖を奪う。

 マルフォイ邸で聞いた会話から、グリンゴッツ銀行の金庫に分霊箱が預けられていると推理し、銀行の金庫破りをする。そこで、分霊箱のカップを手に入れるが剣を小鬼に持ち去られる。

 分霊箱を奪われたと知り激怒するヴォルデモートの思念からホグワーツに分霊箱があることを知り、三人はホグワーツに向かう。




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