『スティーヴンソン』2014.4〜5

(1)びんの悪魔

 スティーブンソン作、おもしろかった。

 不死以外の望みは、なんでもかなえてくれる小瓶がある。ただし死ぬまで小瓶を持っていると死んだあと地獄に行く。地獄行きを免れるには、自分が買ったのよりも安い値段で小瓶を誰かに売らなければならない。

 主人公は小瓶を買って望みの家を手に入れ、友人に小瓶を売る。ところが結婚目前に伝染病にかかる。もう一度小瓶を買い病気を治し結婚するが、自分が買った値段より安く売ることができない。

 妻の助けで小瓶を売って、「二人はずっと幸せに暮らしている」で物語は終わる。どうやって難問を解決したかは、推理小説の結末を話すのと同様タブーだろう。

 結末を知って「皮肉だな」と思う。コロンブスの卵のようだとも思う。


(2)虜囚の恋

 スティーヴンソン作、主人公はフランス人の貴族、ナポレオン軍の兵士として戦い、捕虜としてスコットランドに囚われていたが、脱出する。

 スコットランドを旅してイングランドの大伯父のところまで行く。主人公は訛りなく英語を話せるので、英国人に成り済ます。主人公は英語を話せなければ冒険を成功させられないように思っている。55頁「異国語を訛りなくあやつる能力に運命を賭けなければならなかったのは、これがはじめてではなかった。」

 ここで、ダルタニャンを思い出す。

 『三銃士』では、全く英語がわからないのに、英国に行って冒険を成功させる。第二部の『二十年後』でも英国に行く。さすがに、英語の必要性を感じて、少しは話せるようになっているのかと思えば、全く英語を勉強していない。そして、英語がわからなくても冒険を成功させる。外国語を覚える能力がないわけでもなく、生まれたところがスペインに近かったせいか、当時スペインが大国だったせいかスペイン語は話せる。

 この英語に対する態度の違いは作者が英国人かフランス人かの違いだろうか。


(3)バラントレイの若殿@

 スティーヴンソン作、題名から想像する内容にいい意味で裏切られる。

 主人公がバラントレイの若殿で、さわやかで魅力的な人物が活躍する話の予感がする。

 確かに魅力的な人物だが、まじめな善人が退屈でつまらない人間と思われるのと裏返しの魅力だ。

 戦死したと思われた兄が突然帰ってくる。既に弟が兄の婚約者と結婚した後だ。

 この兄がこれからどうするのか、先の展開に期待が高まる。

 文学作品としておもしろく、作者の代表作になっていないのが不思議だ。


(4)バラントレイの若殿A

 ジャコバイトは、『誘拐されて』で知ったが、『バラントレイの若殿』でも出てくる。

 ジャコバン党なら聞いたことがあると思ったが、それならフランス革命でフランスの話になるので、無関係だ。

 ジャコバイトの乱は簡単に言うと、「1745年、名誉革命でイギリスを追われたジェイムズ二世の孫のチャーリー王子が王位継承を主張し、亡命先のフランスからイギリスに攻め込み、その際にスコットランドが王位を奪おうとする方に味方した」ということになる。ジェイムズ王(王位を奪おうとする方)対ジョージ王(現王)の対立だ。

 『誘拐されて』を読んだ時には、登場人物がどちらの側の人間か混乱してしまった。王対謀反人や王対革命軍ならどっち側かわかりやすいが王対王なのが混乱の原因のように思う。

 スコットランドの領主であるデューリー家は、兄弟のうち一人がチャーリー王子の側に参戦し、他方が家に残ることにする。

 当主、兄の婚約者、弟は、弟が参戦し、兄が家に残るものと考えたが、兄が我を通して戦争に行く。

 日本人には、薔薇戦争(『黒い矢』はこの時代)でもジャコバイトの乱でも誰対誰の争いで、それぞれ味方したのは誰かについてはなじみがない。そのなじみのなさがスティーヴンソンの小説の理解を妨げる。

 ただ、イギリス人なら読んですぐに理解できるのかどうかは不明だ。

 王対王という点では、日本で言うと南北朝時代のようなものだろうか。どっちが勝ったか思い出せない。結局、足利尊氏にもっていかれたという理解だ。

 豊臣家対徳川家も、武将の名を聞いてもどっちの側の人間かは、よくわからない。勝ちそうな方に寝返ったものもいたから余計わからない。状況に合わせて味方する側を変更したところは薔薇戦争も同様のようだ。

 
(5)バラントレイの若殿B

 若殿(兄)は戦死したと思われたので、弟が領地と称号の継承者になった。

 領地は抵当に入り、領地経営はうまくいっていない。弟は兄の婚約者と結婚し、妻の財産で領地を維持する。

 弟が兄の婚約者と結婚した後で、フランスに逃れていた兄から使者を介してお金の要求がある。

 兄は生きていたものの、戦争は現王の勝利に終わったので、反逆者となった兄がイギリスに戻れなくなった点は変わらないので、兄の地位は復活しない。

 兄は遠慮せずに弟にお金を要求するが、もともと自分がすべてを相続するはずだったという思いがあるためらしい。

 とはいえ、実は弟の結婚相手のお金であり、弟が領地経営に従事した結果のお金なので、「本来自分のもの」とは言えないだろう。

 ここで、「かまどの灰まで」という言葉を思い出す。日本も戦前の長子単独相続の時代なら、兄は弟に対して全部自分のものだという気持ちだったのかもしれない。

 兄は、その後も、何度も弟にお金の要求をしてくる。現在でも、兄が家を出て、家業を継いだ弟に、失敗するたびにお金を要求して、弟が縁を切ることもできずに苦しむというテーマの小説はあり得る。

 ただ、背景に同じ兄弟でも兄だけが領地も称号(名誉)も受け継ぐという制度がなければ、弟がまるで悪魔にとりつかれるように兄に苦しめられるという状況にはならないように思える。


(6)バラントレイの若殿C

 若殿は戦争に負けて、海賊船にのってアメリカ大陸に逃れ、そこに海賊の財宝を隠してから、フランスに渡る。

 フランスからお金を請求してきていたが、突然本人が家に帰る。読者にはその時点で兄の本性がわかっているので、兄がどういう行動に出て弟からできる限りのものを奪い返していくのか、それまでの話と比べ、行動面では地味で退屈になるにも関わらず、俄然スリリングになる。

 大人には派手な肉弾戦より地味な神経戦の方がおもしろい。

 海賊の宝が出てきて、『宝島』を思い出す。思い出すといっても、子供の頃一度読んだだけで、覚えているのは冒頭の宿屋の部分だけだ。

 子供の頃、世間の評判ほどには、おもしろくないと思った。最初のところは、いったいいつになったら宝探しが始まるのだろうかと退屈した。とはいっても、宿に泊まる船員が生み出すおどろおどろした感じは印象に残り、結局その部分をずっと覚えていたのだから、そこのところは面白かったということになるのだろう。

 今、改めて読んでみた。最初のところは、思ったほど長い気はしない。宿屋が襲われるところは、読んだ覚えがしてくるし、今読むとおもしろい。そのあとの部分は、まあまあおもしろいと思うが、完全に忘れていた。

 一本足の船員が、ワルだが、善人に見えて最初はみんなだまされる。人間的魅力はあって最後まで憎めない感じだ。

 女性は悪い男に惹かれるというが、若殿はまさにそんな感じだ。誠実さはないが、場を楽しませ、その人がいないとつまらないという人間がいるが、若殿はそういうタイプだ。弟にとっては疫病神だったが、どうも憎み切れない。




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