(2004/06/06完成)


開戦から92日目
Dr.ライト研究所には連日のように傷ついたロボットが搬送されてきた
D.R.Nを持つ兄達
ライト博士の設計図を元に大量生産されたロボット達
そして他の科学者達の手によって作られたロボット達もいた

人間のライト博士なら過労で倒れていただろうが 
ありがたいことに私はロボットだ
私が起動した時にはすでに
ライト博士は3時間連続で作業をこなすことすら出来なくなっていた
私を組みたてたのは実質ユプシロンとライトットだったらしい

政府とのエネルギーと物資を無制限に要求できるという契約を
フル活用して私は政府に
ネジ1本から通常ルートでは出回っていないパーツまで大量に要求した
その一部をユプシロンの元に送っても軍は何も言わなかった

工場で働くロボットならどの部品を・どれだけ・どの用途に使ったか
明細書を書かされるのだろうが、そのような書類は1回も要求してこなかった
軍の連中は私が修理した後の結果だけが欲しかったのだ
その証拠に修理が終わったロボットを渡す時に
連中は笑顔で必ずこう言うのだ

「さすがラストナンバーさんは優秀だ
 『ライト博士の技術を完全に受け継いだロボット』
 というのは本当だったんですね」

皆 私の限界を知らない 私は『完全』ではないのだ

ユプシロンは起動してから1度も
このDr.ライト研究所から外に出された事はなかった
そして今はライト博士といっしょに隠れ家にこもって
エックスのテストを繰り返している

逆に私は起動した次の日には全世界のTVカメラの前に立っていた
私の横でライト博士は熱い口調で私の性能を語っていた

全ては茶番劇だった
私を世間と政府に『売る』代りに
ライト博士はエックスを開発するための場所と物資
そして時間を手に入れたのだ

今、私の所有者はライト博士という事になっている
しかし、ライト博士の肉体が死んだ瞬間私の所有者は政府なのだ
弁護士が作成したライト博士の遺言書にもそう書かれている

人間の子供なら怒り出したに違いない
しかし『限界』を持つロボットである私にとって
『無限大の可能性』を持つエックスは『希望』だった
エックスを完成させるためだったら
私はロボット3原則に違反しない限りなんでもする覚悟はできていた

ライト博士はエックスが完成するまで自分の命が持たない事を悟った時
記憶や人格をコンピューターに移植する研究を極秘に開始していた

私が起動した時 記憶の70%はコンピューターに移植が完了していた
私の記憶はコンピューターから再移植された物である
私の最も古い記憶はライト博士がはじめて
子供向け科学雑誌のおまけを自分一人で組みたてた時のものらしい
子供のライト博士は人間の形をした玩具に色々な事を語りかけては
周囲の大人に笑われていた

しかし記憶装置の情報を自在に検索できるようになった私に
ライト博士はこう言った
「ツェット 記憶と経験は違うのだよ
 おまえは私よりも長く生きるだろう
 しかし最後は おまえが自分の目で見て 耳で聞いて 心で感じた事から
 おまえの進む道を決めなさい」

夕方ビートがユプシロンからの手紙を持ってきた
手紙には一言「眠り姫にナイトがついた」と書いてあった

エックスに関する情報はユプシロンと私にしか
わからない暗号で書く約束になっていた、意味は
「開発中のエックスに武器を取り付ける事が決まった」という事である

・・・しかし『眠り姫』とは・・
・・・・・ユプシロンの命名センスに疑問を持たずにはいられなかった
おとぎ話のとおりに100年も眠り続ける事になったらどうする気だ


戦時下とはいえ 
当時の私はたしかにエックスに武器をつけることを歓迎した
しかし遥か未来に私はこの決定を後悔する事になった



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