(2004/06/12完成)

開戦の162日目前
D.R.N003〜008の兄たちが皆集まった
普段は別々の企業に雇われている兄たちは
(ロボットなので本当は所有者と所有物の関係だが あえて雇用関係があるような表現を私達は好んで使った)
雇用主の許可をもらって集まった

2日後に全世界規模のロボットサッカー大会があるので練習のため集まったのだ

兄たちは口々に
「俺達が本気を出せる場はこれだけだからな」と
ある者はさびしげに ある者は嬉々として集まった

1年おきに行われるその大会は
どう見ても工業用ロボットの私には参加できそうもないくらい激しいものだった
まあバスターや刃物が飛び狂う戦いに比べれば平和的なのかもしれない

ライト博士は最近ベッドで静養する時間が長くなっていたので
私とユプシロンとライトットで 兄たちの体のネジを締めなおした

「じゃあちょっと関節をあたためてくる」
そう言って1キロ先の練習場に向かった兄たちを送り出すと
私達は博士の所有する論文を整理し始めた

最近はネットで論文を落としているので
新しい論文に関してはデーター整理は楽なのだが
ライト博士が若い頃に大学で書いたノートや資料
ロボットがまだ背中にコードをつけて歩いていた頃の論文は紙に印刷されていた

しかもライト博士は1度読んだ論文は元の場所には絶対に戻さなかったので
整理しても整理しても いつのまにか書庫は乱雑な状態に戻っていた
いや混沌たる状態と言った方が近いかもしれない

本当は私達の目でスキャンしてデーターバンクに保存すればいいのだろうが
ライト博士は
「紙の質感が失われることはデーターが劣化することと同じなのだよ」
と言っては紙の印刷物を集め続けた

3日前に届いた古い学術雑誌を紙がこれ以上劣化しないように薬品で燻蒸すると
室内に薬品の匂いが充満したので窓をあけた

風が私の通信ケーブル(髪)を揺らした
大気中の水分量から判断すると今日中は雨が降る可能性が低い事がわかった
風の音に耳を傾けると遠くの小鳥の鳴き声に混じって・・・・・・

ドガァッ
  バキッ     ザシュッ
ダンッ
      ザザー

「ねえユプシロン 兄さん達はサッカーの練習に行ったんだよねぇ」

「ラストナンバー それがどうかしたの?」

「何か変な音が練習場の方から聞こえるんだけど・・・・」

「大丈夫 兄さん達がはしゃいでるだけよ」

「そうダス そうダス みんな試合が近いから気合が入っているんダス」

「そうなの?」

「そうよ 去年もそうだったもの」

「毎年ダス ユプシロンさん」

私は起動して半年しかたっていないのでどうも兄達の流儀に馴染めずにいた
ユプシロンは起動して21ヶ月たっているので前の年しか知らない
ライトットはそれよりも長くDr.ライト研究所に居るのだ

 ガキッ           ゴーーー
      ドスッ 
ドーン       キュッ

「それよりも ラストナンバー どの音が誰の音だかわかる?」

「ええ!! ユプシロンはできるの?」

「なんとなくね」

私とユプシロンは同じ設計図から造られたので性能は同じはずなのに
どうしてもユプシロンにはかなわない
『経験』というものがロボットとっていかに大事なことか

ガシュッ            バチッ
  ゴガァッ           ピキーン
            ズドーン

「さあ ライトット! ラストナンバー!
 兄さん達が帰ってくるまでに この紙の束をかたずけましょう」












夕暮れが迫る頃 兄達は帰ってきた
その姿はサッカーの練習をしていたと言うよりもどちらかと言えば 
砂漠の砂嵐の中をさまよった旅人のようだった(実際に見た事ないけど)
なぜかボディにへこみやキズがないのが不思議だった

「兄さん達!! そんなに汚して!!!!
 洗浄するの私達なんですからね!!!」

「わりー わりー ユプシロン
 こんのくらい自分で落とすから大丈夫だよ」

「内部まで砂が入ってたらどうするんですか!!!
 カット兄さん! 逃げるな!! ファイヤー兄さん!カット兄さんを捕まえて!!」

「許せカットマン」

「いーやーだー」 ずるずるずる・・・・・・・


「ガッツ兄さんどこ行くんですか??」

「いや 風呂に行こうと なあ
 ラストナンバー オレ土木作業用だからこんのくらいなら大丈夫だって」

「研究室に行って下さい 検査しますから」

「あきらめろ ガッツマン 妹達にさからうな」





私とユプシロンとライトットで 兄たちを全部ひっぺがして外装を全部洗浄した・・・
洗浄中 兄たちはバツの悪い顔でハンガーにつり下がっていた

「なあ ユプシロン ここまでやらなくても・・・・」

「だめです! 私の目の前では直径1ミクロンの砂粒一つ
 兄さん達の体の中に入れる訳にはいきません」

「ねえ ユプシロン・・・・」

「なあに ラストナンバー?」

「直径3ミリの小石が入ってたんですけど・・・・・」

「あっ これ磁鉄鉱(磁気を帯びる石)ダス!!」

「ボンバー兄さん!!!! 何してたんですか!!
 まだ中に入っているかもしれませんから分解して調べます

「わー ユプシロン ドライバーはよせ!! あやまる! もうしないから!
 だからそのプラスドライバーをおろせぇ!!」

研究室に悲鳴が轟いた!!

研究室の奥に置かれた「D.R.N.x0017」とラベルが貼られた
ガラスケースの中では電子回路がチカチカと光っていた






兄弟の毎年恒例行事になるはずだった
次の年はなかった 戦争が始まったのだから


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