(2000/12/20最終改訂)
(2004/09/21HPにアップ)


<<<第1章>>>

燃燈道人の朝は普通の仙人とはすこし違う
まず弟子を2人見つける事から始まる

宝貝の百霊藩(のちに呂雄と呼ばれる)は弟子と言うよりも元始天尊からの預かりものの宝貝だが、
長年自然界の気を吸収したせいであと数100年もすれば妖怪仙人のように人型をとるはずだ
しかし、今は目の開かない子犬程度である

最近は私の傍が気に入ったらしく、どこに置いても気がつくと足元に転がっている
ベッドの下をのぞくと、まるでそこに置き忘れたかのように百霊藩が転がっていた
まだ3cm以上の段差は超えられないので、床から60cmのベッドの上に来ることができなかったらしい

百霊藩を私の膝の上に置くと喜んで鈴を転がしたような音をたてはじめた
もし、百霊藩が一人前の仙人に成長すれば、封神計画の実行者となれる能力を身につけることだろう、
しかし、元始天尊は封神台の部品に使うつもりのようだ
「はやく一人前の仙人になってくれよ そうしないと どうなっても私には何もできないのだから」
百霊藩が私の言葉を理解できたかどうかはわからない
百霊藩をベッド脇の棚に置くと静かになった

次は蒼尚を探さないと

妖怪と人間のハーフである蒼尚は、
常に不影の術で目には見えないので気配だけで探さなければならない

台所の隅に手を伸ばすと暖かい肌の感触があった、
「蒼尚 朝食にしようか?」
条件反射で右腕を動かすと、1秒前に私の右腕があった場所で歯がかみ合う音がした
この子とはまだ1度も人間らしい会話をしたことがない
気に入らない事があると噛み付くのがこの子の唯一の感情表現なのだ
今回はおなかがすいたのだろう

この2人の弟子が来て以来、私の生活も変わった
一番の変化は食事を作ることかもしれない
もうほとんど食事を採る必要のない私はここ数100年食事を作ったことがなかった

しかし、蒼尚は食事を採る必要がある、
百霊藩はまだ食事を採る必要がないがその内に何か食べるようになるだろう

蒼尚が朝食を食べる様子は見ていておかしなものだ
蒼尚が触れた皿は不影の術の影響で上に載った食事ごと消えてしまう
ただ食事の音だけが聞こえる

この子は触った時の感触は身長100cmの子供だが、どんな顔なのかまだ見た事がない
不影の術はこの子が生まれつき持っている珍しい能力とはいえ
そのせいで両親から充分な教育を受けることができなかったことは悲しい事だ

蒼尚が皿をカチャカチャかじりはじめた

「やめろ 蒼尚 おまえは皿まで消化できないだろう」

蒼尚にかじられないように注意しながら皿をもぎとると、皿が私の目にも見えるようになった
にんじんだけ皿の上に残っていた、

「食べなさい 全部食べるまで見てるからな」

本当は見えている訳ではないので蒼尚がふてくされて皿をかじる音だけが聞こえる
私が小さかった頃は好き嫌いなどなかったのに、、、、、

誰の言葉なのか忘れたが『弟子をとって一番大変なのは食事の時』とはよく言ったものだ
最初蒼尚に無理に野菜を食べさせようとした時についた歯型は私の左腕にまだ残っている、

この子にはいろいろと教えなければならないことがある
こういう事は、子育て名人の玉鼎真人あたりに聞けばいいのだろうが
まだ人型のとれない蒼尚を洞府から外に出すわけにはいかない
この子が妖怪の血を引く事は誰にも気づかせてはならないのだから

「まあゆっくりやっていくさ」

ふと気づくと蒼尚が皿をカチャカチャかじる音がいつのまにか消えていた
まさか と思ったが事態を把握するのにはわずかな時間が必要だった
考え事をしていたせいもあるが身をかわすのが1秒遅れたのが命取りとなった

がぶうっ

崑崙山一帯に、絹を引き裂く男の悲鳴がこだました、
同僚達は、「あいつも弟子をとったんだな」
と一言つぶやいたが、それ以上は何も言わなかった


負けるな燃燈道人! 禁鞭を素手でつかみ取りできるようになるその日まで



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