(2000/12/20最終改訂)
(2004/09/21HPにアップ)


<<<第2章>>>

その日の夕方になっても、私の左腕の傷はふさがらなかった
通常の傷ならすぐにふさがるというのに
妖怪仙人から受けた傷は治りにくいというのはどうやら本当のようだ

私の洞府にある薬は、もう数100年以上使っていないのできっと腐っているだろう
しかたなく雲中子に治療を頼む事にした

雲中子は私の腕を見るとうれしそうな顔をして治療してくれた
「君の弟子もなかなかやるねぇ」
「まあな」
「おやっ 上顎乳中切歯が抜けているじゃないか」
「なんだ?その歯は」
「ここだよ」
雲中子が指差した私の左腕には、はっきりと歯型がついていたが、前につけられた歯型と比べると
確かにあるべき場所に歯形がついていない場所が1ヶ所存在した

「君、自分の弟子の乳歯が生え変わり始めたのにも気づかなかったのかい?
 自分の弟子のことをもっときづかうべきじゃないのか」
その時、本当は一言言い返したかったのだが
たしかに雲中子の方が私より多くの弟子を仕上げたのは認めたくない事実だった

帰りの道中、どうしても気にかかることがあった
子供の成長を祝う習慣がなにかあったような気がするのだが思い出せない
もう2000年以上前の事になるのに、あのいやな歯の痛み以外はどうしても思い出せない
抜けた歯をどこに投げ入れればよかったのだろうか?
仕方がない、あとで異母姉様に聞こう

「蒼尚! 百霊藩! 帰ったぞ」
出迎えなぞ期待しているわけではないが、人間らしい生活を維持するための努力を惜しむ気はない

ベッドのシーツが子供1人分膨らんでいる所を見ると、蒼尚の居場所はすぐにわかった
しかし、百霊藩はいつも置いてある場所には居なかった
最近は1日に10mほど移動できるようになったからこれは当然だろう
百霊幡が1000ヘルツの音を上げているのが聞こえた、これはどうやら喜んでいる音のようだ、
帰ってきたことを喜んでいるのか?子供じゃあるまいし
しかし、どこに行ったんだ?

ベッドの下をのぞき込んだ時、後頭部に鈍い痛みが走った
しまった、百霊藩をベッド脇の棚に置いたままだった、
あいつは棚から飛び降りてぶつかる(人間の子供で言うところの抱きつく行為に相当する)
ことを3日前に覚えたんだ

脳震盪を起こして薄れゆく意識の中、
耳元で百霊藩が1000ヘルツの音を発しながら転がる音が聞こえた


がんばれ燃燈道人! 君の弟子達は将来封神計画の重要な要となるんだから


<<<第2章解説>>>
上顎乳中切歯    :人間の乳歯の上の前歯のことです、一般的に最初に生え変わります。
1000ヘルツの音    :ピアノの鍵盤の中央にある「ド」のことです、
人間は20〜20000ヘルツの音が聞こえます


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