目の前にいるのは信じられないほどの美少女。

キスできるほど間近にある顔、俺の胸にあたる彼女の胸、抱き締めるように俺の背に回された腕。

甘いような香りが彼女からする。夢でもこんな状況は見た事が無い。

名も知らぬ彼女は、俺の耳元にささやくように告げる。


「悪いな………眷属を増やす訳にはいかぬのでな」


色気の無い唐突なセリフと冷たい眼差し。彼女の紅いが俺を見つめ、白い牙が俺の目に映った。




 ―あやかし―

ブラッドシード〜 その1




「ふざけるな……っ!!」


俺の低く押し殺した声があたりに響く。

周りの視線が一瞬だけ俺をとらえるが、すぐに何も無かったかのように離れていく。

自分のセリフに驚きつつ、気が付くと俺はファミレスらしき場所にいた。ここは知っている店だ。

店の奥の比較的目立たない場所、4人掛けのテーブルを挟んで俺の前に少女が一人。

深い濃紺のワンピースを着た14、5ぐらいの少女だ。

首辺りまでのの髪と色の白い肌、そして今はみどりにみえるが俺を見つめていた。

テーブルの上には水の入ったコップが2つとメニューが2冊。

俺はとりあえず、気になったことから聞いてみる。


「………注文は済んだのか?」


目の前に座る少女は不思議そうな表情で俺とメニューを見比べた。


「普通は慌てたり、取り乱したり、私に疑問をぶつけたりすると思うのだが………」


外見にたがわぬ綺麗な声と似合わぬ口調でそう言うと、「つくづく変っている」そう言って少女は俺をみつめた。


「そうか?」


俺は素っ気無く答えた。短い会話。ボンヤリとした頭で何かを思い出そうと、コップの水を口に含む。

口の中に広がる水の味と、口の中に残っていた鉄錆のような独特の刺激、そして記憶の味。

喉を流れる水の冷たさが俺の頭をハッキリさせていく。

――突然、降って来た少女、背後に現れた黒服の男、響く銃声、剣戟けんげきの響き、非日常の音と非現実の存在――


「思い出したか?」


思い出した途端、不機嫌そうな表情になっただろう俺の顔を、不安そうに見ながら少女が尋ねてくる。

――俺の背後から俺ごと少女を剣で貫いた男を、御丁寧にもう一つ、俺の体に風穴を開けて男を素手で貫いた少女――

思い出すほどに夢だったように思える記憶。

――俺の目の前に座る少女を、襲ってきた男は『ヴァンパイア』と呼んだ――

そこまで思い出し、ふと自分の姿を見おろす。ユ●クロで売っているような水色のシャツに紺のジーンズ。

それ自体は珍しくはない。

ただ、服は既に乾いているが破れてまみれ、だが傷も痛みも無い。

触れてみると、胸に大きな風穴………は無く、それどころか擦り傷すら無いようだ。

少女のほうは黒っぽい服の所為か目立たないようだが破れている筈だ。当然、俺のも………


「一つ質問がある」

「疑問に思うのは当然だ。私に答えられる事なら教えよう」


俺のセリフに、ようやく話が出来るとばかりに少女が大仰にうなずく。

だが今の俺は少女の仕草よりも気になった事で頭が一杯だった。だから尋ねた。


「どうやって俺を運んだんだ?」

「………は?」


なにか違う質問を期待していたのか少女が奇妙な返答を返す。

「なんで騒ぎになってないんだ? この服で騒がれないのは変だ」

かまわず続けた俺の問いにようやく少女がポツリと答える。


「………普通は自分の身体の事が気にならぬか?」

「そんなのは後回しだ。何故だ?」

「そんなの………」


少女は俺の返答にしばらく絶句していたようだが一つ咳払いすると姿勢を改めた。


「私がココまで運んだ。騒ぎにならないのは、この格好が自主制作の映画撮影の衣装と言ってあるからだ。

更に私の力によって周りの人間の意識を私達からそらし………」


そういって俺を運ぶ仕草をしつつ説明をする少女に、特に気になる事があった。


「ちょっと待て………。今、なんて言った?」

「私の力で………」

「その前!! 運んだって辺りだ」

「私がココまで運んだのだが………」

「………その手つきは何だ?」


少女の身体の前に曲げられた腕は、どう見ても背負っている体勢ではなく………


「こう………お姫様抱っこと言うのだったかな」

「公園からココまで………か?」

「私にすれば大した距離と重さではない。気にすることは………?」


俺が落ち込んでいるのを見て少女が判らないまでも慰めようと声をかけてくる。

しかし俺には少女の声よりも頭の中に広がる光景に打ちのめされていた。

――180近い身長の男が、160前後の少女にお姫様抱っこ――

――そのまま公園からファミレスまで徒歩15分の距離をお姫様抱っこ――


「コレは悪夢か………?」

「………微妙に感じ方が間違っているような気がするのは私の気の所為か?」


頭を抱えてうめく俺に少女が呆れたような声をだした。









面白そうと感じていただけたらレス下さい。

続けます。でもどこまで続くかは不明です。

それでもよろしければ是非。




キャラクター設定 その1 主人公? 

名前:夜伽 総真(よとぎ そうま) 通称:天(てん) 17歳、高校2年。179cm、成長中。

口癖:うぜぇ、だりぃ、めんどくせぇ。

人に『夢は』と聞かれたら『一攫千金』『ハーレム』と適当に答える性格。

我侭でひねくれた所があり、通称の元が『天上天下・天邪鬼』の天から来たとの噂。

スラリとした外見に似合わず怠惰が好きな無気力人間っぽい雰囲気を漂わせる困ったひと。




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