「………で、なんで俺は生きてるんだ?」
傍から聞けば変な質問だが俺は大真面目だ。少なくとも、あの時死んだなと思っていたのだから。
「………普通は先に、その事を聞くものではないのか?」
俺の前の席に座り、額に掌を当てて呆れたような声を出しているのは謎の吸血鬼、いや吸血姫か?
まぁ、冒頭のセリフが出る前に気になったことを思いつくままに尋ねたのが気に入らなかったらしい。
我侭な奴だ。もっとも我侭っぷりは俺に勝てるとは思わない事だがな。
俺の自慢げな様子に、本日何度目かの溜め息を少女は盛大に吐き出した。
妖 ―あやかし―
〜ブラッドシード〜 その3
「しっかし、本物の吸血姫か………」
「普通は最初に、もっと驚くもの………いや、いい。気にするな、言った私が悪いのだな」
ようやく俺のペースにハマったのが判ったのかリュミエールが諦めたように言う。
深夜のファミレス、その奥の席で幾つかの注文を終え待つ間に、俺は前の席に座るリュミエールに色々尋ねた。
リュヌ=リュミエール、彼女の名前だ。本名では無く通称・・・と言うより本名は忘れたらしい。
「ボケか?」と聞いたら、「使わない名なので忘れた」と言ってちょっと睨まれた。
俺も、あだ名の方が呼ばれ慣れているから判らなくも無い。
公園の薄暗がりで見た目14、5ぐらいに見えた容姿は、照明のもとで見るともっと幼く見えたので尋ねたら、
「私は16で不死を得たのだ。そのまま容姿は固定している」との答えには驚いた。
まぁ、出る所はしっかり出ているので俺としては内心『さすが洋モノ』と密かに感心していたのだが、16歳!?
確かにタッパは160有るし、16歳と言われれば、そうかなと思わないでもないが13歳でも通用しそうだぞ!?
驚く俺に、リュミエールは「童顔なのだ………」と複雑な表情で答えた。気にしているらしい。
マニアには受けそうなのにな。
もちろん、俺は考えているだけで口には出さないが。
他にも色々尋ねたがスリーサイズ等のプライベートな事以外の質問には答えてくれた。
リュヌ=リュミエール――リュリュもしくはリュミの方が呼び易いかな?――吸血鬼の頂点とも言える真祖、
始まりの吸血鬼と呼ばれる者らしい。
色々説明を聞いたが、とりあえず強くて偉いらしい事が判ったぐらいだ。
眼の色は吸血鬼の能力を使えば紅く変るらしく、普段は今のように碧色。
この説明には「お約束だな」と言って俺は素直に納得したのに、何故かリュミが何か言いたげな眼差しで俺を見た。
ま、とりあえず思いついた事は粗方聞いたので、自分の事について尋ねたら盛大な溜め息が返って来たと言う訳だ。
「人の質問に溜め息で答えるとは失礼な奴だな」
「………ここは謝るべき所なのだろうが、何故か謝る気がせぬのは何故だろうな?」
俺の批難の声に、頭痛でもしているのか目頭を押さえて揉みほぐすリュミエール。
「まぁ、先程の無礼は許してやるから説明しろ」
「何故、命令口調なのだ?………まぁ、いい」
リュミエールは諦めたように首を振って気を取り直す。
「あのままでは、お前は――」
「夜伽総真、あだ名は天。呼び方はどっちでもいいが………とりあえず天でいいや」
「お前………いや、天か。自分の名を………ふぅ、気にするな。うん、気にするな私」
何か自分に言い聞かせているリュミエール。落ち着くためにコップの水を口に運んで一息ついて話し出す。
「とにかく、あのままでは死ぬ筈だったのだが、お………天が私の血を飲んだ事により状況が変わったのだ」
「へぇー、半ば自棄で特攻したのが良かったって訳だ。さすが俺、悪運はピカ一だな。やはり日頃の行い?」
「………天の日頃の行いは知らんが、結果的には死なずに済んだ。私の血の力によってな」
ここで『血の力!?』てな疑問の声を俺はあげない。
あげても無駄だからだ。なので、とりあえず要点だけ聞く。
「で、具体的には?」
「………人には有り得ない速度で身体が再生する」
なんとなく物足りなさそうな表情でリュミエールが話を続ける。
「それは判る。て言うか知ってる、体験したからな」
「身体能力が一時的に上昇する」
「………特に変わった様には思えんが?」
「すぐに判るだろう。だが肝心なのは、約7日で私の眷属と成ると言う事だ」
「当然、俺が御主人様だな」
「………違う、答えも違うが、何かが違う」
激しく脱力したように机に突っ伏すリュミエール。
「眷族って言うとやっぱり死人で血を吸って主の命に従う3つの下僕?」
俺のボケにも反応せず、顔を上げると淡々と話すリュミエール。バ○ル2世ネタは不発か………。
「………眷属になれば、主に従うしかない。眷属になるのを防ぐには主を、つまり私を滅ぼすしかない」
「自殺願望? それともバトル趣味か? 女王様と呼ばれてみたいのか?」
「そうではなくて………」
「で、他に選択肢は? 有るんだろう。もちろんオマエを滅ぼす以外で」
「!?」
俺の言葉が図星だったのだろう、リュミエールの動きが止まる。
俺を殺すつもりなら説明などしない筈だからな。
「………意外と鋭いのだな」
「お前も意外と胸が有るな」
「………セクハラ?」
「いや、正直なだけだが?」
見つめ合う俺達。実際にはリュミエールが睨んでるのだが。
「………ともかくそう言う事だ。後は、渇きを覚えるはずだ」
「渇き?」
そう言えば妙に喉が渇くような気が………
「そう、渇きだ。私は吸血種なのでな…普段の私には無いが、眷属に類する者ならば日常的に吸血衝動が有る筈だ」
「で、誰かの血を吸えば収まると?」
「一時的に渇きは収まるが症状は進行するぞ」
「他に何を飲めと?」
「私の体液だ」
「体液!? 恥かしい液とかか!?」
「なぜそうなる!? 普通は血だろうが!! いきなり、は…恥かしい………液などと」
顔を真っ赤にして立ち上がるリュミエールを見ながら、俺は表情を変えずにサラリと尋ねる。
「涙や汗や唾液の事だが、他に何か? ナニ考えたんだ?」
俺の問いに全身真っ赤に染まるリュミエールを見て俺は内心にやりと笑う。強力な吸血鬼らしいが、からかうと面白い。
「と、とにかく私の体液、私の血ならば僅かでも啜れば症状を進行させずに渇きだけは抑えられる」
テーブルに手をつき身を乗り出すような体勢で俺を睨むようにリュミエールが告げる。
まぁ照れ隠しの行動だろうが、睨むというより見つめられてるみたいだな………そういえば。
「唾液でもいいんだよな」
「え………」
俺の言葉に途惑ったような表情になったリュミエールをテーブル越しに引寄せると、いきなり唇を奪う。
「ふむぅ!? んっんん………」
突然の俺の行動に目を白黒させて驚くリュミエールの頭を逃がさないように片手で押さえ込み、もう片方で身体を支える。
きっちり時計の秒針が1周するまでリュミエールの口中を舐めまわす味わうと、ゆっくりと離れた。
ボンヤリした表情のリュミエールの様子に笑って「ご馳走さま」と告げると、益々紅くなって俯いてしまった。
「もしかして、初めてか?」
その初心な様子に俺が冗談半分で尋ねると、リュミエールの顔が益々真っ赤になった。
普通、吸血鬼って異性を誘惑して血を吸うんじゃなかったっけ?
うろ覚えの吸血鬼のイメージに疑問が浮ぶ。
「………吸血鬼だよな」
確認するように尋ねた俺に、耳まで真っ赤なリュミエールは「普段は必要ないから」と俯いたまま小さく呟いた。
実験的オリジナル作品その3です。リュミエール、天に振り回されて見ました(笑)
キャラクター設定 その2 ヒロイン?
リュヌ・リュミエール【lune lumiere】(リュミエール) 160cm スリーサイズ不明、推定Cカップ以上。
金髪、碧(みどり)の瞳、白い肌の美少女。キャラクターイメージ:ヴェ○ゴニアのモーラ嬢の成長した姿。
肉体年齢16歳で不老に成ったが、童顔の為14歳ぐらいに見える。中世より生き続ける年齢不詳の少女。
天(総真)に関わった為、不幸になりそうな吸血姫(誤字に非ず)。一応、真祖と呼ばれる始まりの吸血種。
錬金術と魔術の研究の果てに不老不死に到達した天才少女。その研究意欲は未だに消えず、今だ研究の徒である。
錬金術を基礎とした科学技術を使う錬金術師であり、魔法と呼ばれる術を扱う魔術師でもある。
多くの吸血種が死者で有るのに対し、貴重な生者の吸血種でもある。よって日中も行動可能なデイウォーカー。
変わり者の吸血鬼との自覚はあったが、自分より変わり者の天と出会い………世の広さを改めて知る(笑)