「で、その少年は何者だ?」


ちっ、憶えていやがったか。


「……今、舌打ちをしなかったか?」

「いや、してない」


舌打ちしたのは心の中でだ。

もっとも、表情を隠す気は無かったから俺の顔に出たのだろう。


「ただの人間に私が背後を取られるなど有り得ん。説明してもらえるのだろうな?」


祝詞のりとに剣呑な視線を向けながらリュミエールが――


「その前に、言っておきたい事がある」


――訊いてきた事に答えずに、俺は言わねばならない事を思い出した。


「なんだ?」


ちょっと意表をつかれたような表情のリュミエールに、俺は前から気になっていた事を宣言した。


「リュミエールと呼ぶと長いので、リュミと呼ぶことにする」


リュミが何か言おうとして口を開きかけたが、諦めたように溜息をつき沈黙した。

祝詞のりとが、共感の眼差しをリュミに向けているようだ。

そんな二人を見やって、俺は祝詞のりとのことを――


「説明しろ」


と、祝詞のりとに短く告げて、俺は洗面台に向かう。

本人に説明させるのが一番(楽)だし。歯を磨いてさっさと寝るか……。


「ねるな!! まだ、天にも聞きたいことが有るのだ!!」


……はぁ、めんどくせぇ……。




 ―あやかし―

ブラッドシード〜  日曜日 その3




「え……と、それでは天さんに代わり、僕が説明しますね」


歯磨きを終えた俺は、しかたなくリビングに戻ると席についた。

祝詞は全員の前にお茶を用意すると、居住まいを正した。

と言っても、詳しく自己紹介するだけの事だ。

まぁ、神威の家は一癖有るから退屈な自己紹介にはならないだろうが。

確認を取るように俺に視線を向けてくる祝詞に俺は『構わないから話せ』と視線で促す。

しばし迷っていた祝詞だが、俺に説明フォローの意思がない以上、正直に話すしかない。

目の前に居る眼の少女が、うかつな嘘で誤魔化されない相手だと直感的に気付いているからだ。

ひとつ深呼吸すると、覚悟を決めた祝詞は


「僕の家、家業で暗殺業をしていまして、僕もそれなりに体術は学んでいるんですよ」


と、あっさり告げた。一般社会では冗談と聞き取れる自己紹介だ……ソレが事実としても。

もちろん、相手がただの一般人なら冗談だろうが、リュミもただの一般人ではない。

……ヒトですらないか。


「ほぅ……この国の暗殺者。忍者と呼ばれる類の家系か?」

「いや、どちらかというとアサシンの方ですね。諜報活動より暗殺活動が得意分野ですから」


もっとも僕、家業は継いでないんですけどねと言って微笑む祝詞にリュミは成る程と納得している。

俺としては、目の前で繰り広げられる非日常的な会話に――はなから参加する気は無い。


「成る程、私に気付かれず背後にまわる事が出来る人間か。油断していたとはいえ、なかなかの体術だな」

「でも、先ほどのリュミエールさんの動きも鋭かったですよ。僕が2mも手前で気付かれるなんて、ほとんど無い事ですし」


誉めるリュミに、祝詞が照れながらリュミに尋ね返す。


「む……」


さすがに、自分が人外の者だとは言い辛いのか、リュミが口篭もるが。


「吸血鬼で真祖で童顔で意外とが有り、からかうと 非常面白い逸材だ」


早く寝たい俺が仕方なくリュミの代わりに説明してやる。


「ちょっとマテ。いくら何でも、その説明は――」

「ええぇっ!! と言う事は、アノ真祖『リュヌ=リュミエール』さんですか!?

真祖の中でも魔術に長け、『教会』のリストの中でも特別視されているアノ!?

吸血鬼なのに昼間も活動でき、その卓越した魔術師としての能力からか、

闇に生きる吸血鬼なのに『光』の二つ名をもつアノ!?」

さらにマテ。何故そんなに詳しいのだ? しかも驚く場所が違うであろうが!?」


祝詞が驚いた理由が気に入らなかったらしいリュミが、適度なツッコミを入れる。

俺としてはリュミのツッコミタイミングに磨きがかかりつつあることに満足していたのだが。


「え、いや商売柄、人間離れした方の相手をする事がたまに有りまして……。

その、吸血鬼の方とお会いするのは初めてなんですが」


そういって、珍しく慌てたような口調の祝詞。どうやらリュミは有名人らしいな。

そんな祝詞の様子を見ながら訝しげな表情のリュミ。何故知っていると言わんばかりの表情だ。


「その、僕、御爺おじいさまが言うには歴代当主の中でも5指に入る程度には

体術を習得しているんですけど、情報収集にも才が有ったみたいです。

本来、神薙かんなぎ家が得意としてる分野なんで、さすがに神薙の人脈には勝てませんけど。

僕自身、主にネットを使って、個人で情報収集しているんですよ。

で、ですね。一応商売柄、使えそうな情報を集めているんですが、その中で人外の方の情報もありまして、

その中にリュミエールさんの事が有ったという訳です」


まぁ、実際神薙家とは親戚関係だから、血脈に才能が受け継がれていても不思議ではない。

リュミは祝詞を警戒するように見つめていたが、暫くすると緊張を解いた。


「どうやら『教会』関係者ではないようだな」


そう呟くとリュミは、よく冷えた麦茶を一口、口に含んだ。


「いくら闇の家業といえど、人外の者を知る者は少ない。

まして、人間離れした者ではなく、人間ではないモノを本当の意味で知る者は特に……な。

私が知る限り、私自身の事を知る者は『教会』関係者か、ごく一部の狩人、そして一部の同族のみだ。

さすがに、このようなところで私を知る者に出会う事になるとは思わなかったぞ」


そう言ってリュミは微かに笑みを口元に浮かべた。


「僕もまさか、こんなふうにお会いする事になるとは想像もしていませんでした」


祝詞も、やや緊張した面持ちでリュミに笑いかける。


「へぇ……リュミ、おまえ有名人なのか?」

「まぁ、闇に属するもので私を知らぬものは雑魚ざこといえる程度には知られておる」


俺が尋ねると、ようやく自分のペースを掴んだとばかりにリュミが偉そうに告げる。


「真祖であり、魔術師でもある『光のリュミエール』っていったら、業界のトップランクですよ」

祝詞の言葉にリュミが、ますます笑みを深くして俺をみる。


「で、感想はどうだ。私の偉大さが少しはわかっただろう?」

「オチが弱い、ひねりが足りん、30点?」


自らの評価を聞いてきたので、俺的評価を出す。


「新人賞ですか!?」

「30点って何!? しかも何故疑問系?」


 

祝詞とリュミのツッコミに満足を覚えた俺は、用が済んだとばかりに寝室へ――。



「まだ話が終わってはおらぬぞ……」

「頑張ってください、リュミエールさん」


疲れたようすのリュミに祝詞が慰めの言葉をかけている。


「私は本当に有名なのか?」

「元気出してください。天さん以外になら充分通用しますから」


がっくりと肩を落としたリュミを祝詞が応援する。

やはり、からかうと面白いな。

それが有名らしいリュミに対する俺の総評だ。











話が進まない〜(泣)

天が動き出すと………いや、ほとんど動かないし、喋らないんですが。

事情説明しようとすると、すぐに脱線してリュミをからかいだすし……

なんとか早く話を進めたいです。いや、マジで(汗)




キャラクター設定 その5

神威 祝詞(かむい のりと)。神威家次男。14歳、155cm。

神威家は表向きは武道の家柄。裏は暗殺業が生業。暗殺を専門とした家系。

一見、普通そうな少年に見えるが、その体術は歴代の当主にも遜色がないほどの能力を持つ。

そのうえ、情報収集能力に長けており、ネットを介しての情報操作は神薙家にも匹敵する。

そういった意味で、神薙家三女、雀とはライバルとして――強敵ともとしての間柄。

表の武道家として兄、静哉せいや(18)が、次期当主として 姉、鏡華きょうか(16) がいる為、本人は気楽に趣味にはしっている。

総真=天とは10歳の時に出会い、それ以来の付き合い。

持ち前の情報能力で、天の株取引と、マンション設計を請け負った。

天のマンションのセキュリティ管理者でもある。




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