「と、言うわけで私がココに居る訳だ」
「なるほど、そういうことですか。非常に珍しいことに、天さんが厄介ごとに関わっているのは」
リュミの説明に祝詞が納得したように頷いた。
普通なら吸血鬼なんてモノの存在から納得しなくてはならないところだが、
裏の家業を受け継ぐ神威の家の人間、すぐさま順応している。
「ノリトが人外について詳しいから、天も私をみて驚かなかったのだな」
「いえ、それは単純に天さんの性格ゆえですよ。吸血鬼についてなんて知らなかった筈ですし」
そんなオカルトかファンタジーな世界の住人には興味がなかった。
害さえなければ、居ても別にどうという事も無いし。
「だが、天は何か特殊な武術を習得しているという話ではないか。一族として対魔に関わっておるのだろう?」
「ウチは商売柄関わる事も有りますけど。それ以前に天さんが、わざわざ、対魔なんて事に関わると思いますか?」
俺のは武術というより、身体を鍛えるためにやらされた体操みたいなモノだしな。
当然、なんで俺が化け物相手をしなけりゃならん? そういうのはしたい奴がすればいい。
「だが、ただの人間がいきなり戦いの場に巻き込まれて冷静に居られるわけは無かろう?」
「いや、天さんですから……細かい事は気にしない性格のヒトなので気にしなかっただけなのではと」
祝詞の言葉に「細かい事なのか?」と自問しているリュミ。
俺は自分に面倒が無ければナニが居たって気にしないだけだ。
出会うかどうかも判らない連中について学ぶ気も無かったし。
そんな祝詞とリュミの会話を聞きながら、時計をみると1時を過ぎ、いつもなら寝ている時間だ。
「面倒そうな表情
リュミが、そう言ってくるが、面倒なものは面倒だ。ソレが例え自分の命に関わる事でも……な。
「駄目ですよ。天さんの性格は、ある意味『天然無敵勝敗なし、けれど唯我独尊』なんですから」
祝詞
「なるほど。いくら財産や能力があっても本人が欲しがらねば、たいした価値はないということか」
「自分の命でさえ、面倒の一言で切り捨ててもおかしくないような性格ですからね」
二人の会話を聞きつつ、時計の針を見るのに飽きた俺は一言付け足しておく。
「自殺願望はないが、必要がなければ別に気にしない。どうせ人間、いつかは死ぬしな」
爺さんとの約束もあるし、わざわざ死のうとは思わない。
なにより知り合いが面倒な事をしてくれるので今までは特に面倒な事は無かった。
「たしか、こういうのを『宝の持ち腐れ』というのであったかな?」
「天さんに、もう少しやる気があったら………怖い事になるでしょうけどね」
好き勝手言っている二人を無視して、というより気にせずボンヤリすることに――
「では、本題に入るぞ。天が儀式に使える場所があると聞いていたが、ココがそうなのか?」
リュミの声にボンヤリも出来ず、無視しても話が進まない事に、俺は溜息をつき、
「祝詞
そう言って退場しようとしたのだが、
「天
リュミの静かな声に滞在を余儀なくされた。
……はぁ、すげぇだりぃ……。
すげぇだりぃけど、とっとと説明して終わらせるか……めんどうだが。
妖 ―あやかし―
〜ブラッドシード〜 日曜日 その4
「では、このマンションは遺産の一部か?」
「いえ、天さん、個人の所有物ですよ」
リュミの質問に祝詞が答える。
「?」
疑問を眼差しに乗せ見つめてくるリュミに、俺は面倒だが答えてやる。
「言っただろ。爺さんの残した財産は賭けの資金にするって。もっともギャンブルではなく株だがな」
「株………株式投資か」
「そうだ。俺の知り合い――つまりソコに居る祝詞の事だ――が、そっち方面に強くてな。
そいつが微妙な株があるって言うんで、それに投資した」
「微妙とは?」
リュミが、いい所を訊いてくる。俺はリュミの言葉にニヤリと笑うと簡潔に答えた。
「当たれば高配当、外せば無駄金」
「………それはギャンブルではないのか?」
「なにせ傾きかけていた会社の株だからな。作ってるモノは次世代のソフトだかハードだかの業種でな」
「投資する会社の内容も知らずに投資か。で、いったいいくら投資したんだ?」
「財産の9割」
「………」
呆れたような呆然としたような表情のリュミの顔を眺めつつ、水を飲んで口を潤おす。
「正確には財産の9割をその会社に、残り5分を他の会社に、5分だけは残してもらいました」
祝詞の注釈に、リュミは何も言う事がないのか沈黙したままだ……なにか言いたそうではあったが。
「そのときは僕、止めたんですけどね。いくらなんでも無謀すぎるって。でも結果は――」
ソコまで言って祝詞が言葉をとめる。その時のこと思い出したのか非常に面白い表情だ。
たとえるなら昨日の夜、夕食に口に入れたものが甘いのか辛いのか、野菜なのか肉なのか、
それ以前に食べ物だったのだろうかと思い出して考えこんでいる――いまさら考えても無駄な事を
無駄と判っていながら考えずには要られない――表情でいる祝詞の代わりに俺が説明してやる。
手っ取り早く説明して早く寝たいし。
「結果、それが当たってな。俺としては予想以上に株価が上がったんで適当に売ったら元手より増えた」
「そういえば、1年程前、株価がかなり変動した時期があったな。多くの資本投資家が大泣きした時期が………」
何かを思い出したのかリュミが眉を僅かに傾けて思案顔になるが、俺は気にせず話を続ける。
「で、元手を紅葉
「いくら儲けたのかは知らんが、間違いなく株価に影響が出る金額だな」
呆れたように肩を竦めて見せたリュミだが、俺の個人資産
「まぁ、その時点で俺の預金残高はゼロに近かったんだが、下の階に住人が何人か入ったんで
生活するには困らない程度の金はある」
「儲け方も派手だが、使い方も派手……というか豪快というか、計画性が無いと言うか……」
俺の簡潔な説明に、リュミは呆れたように感想を述べた。
ちなみにマンションの設計は俺好みにしている。
と言っても、俺は希望を言っただけで、その他の面倒は祝詞たちに任せただけだ。
管理は、ちょっと前に知り合った爺さんに管理人を任せているので面倒と問題は無い。
20階建てのマンションは階が上にいくほど部屋数が少なく、変わりに部屋の大きさが大きくなる構造になっている。
俺が自宅としている19階に至っては、2階建て構造になっているため20階も自宅の範囲になっている。
おまけといってはなんだが、屋上には全天候型のプールがある―――のは俺の趣味ではない。
言いそうな人間に心当たりはあるが、有っても無くても問題は無いし、問題があっても苦労するのは俺じゃない。
地下は駐車場になっているが、地下1階のスペースで住民の総ての車を駐車できるスペースがある。
それが地下1階………だけでなく2階まである。
まだあまり住民の入っていないマンションの駐車場は1階だけでも十分だ。
地下2階は実質、俺の個人所有状態
高校生がドリフトの自主練習するには最高の場所と言えるだろう。
「つまり地下2階を儀式に使えるということだな」
「床にタイヤの跡が有るけど消せば問題ないだろう?」
消すのは俺じゃなければ問題ないしな。
各階には防犯用にシャッターが付いているし防音もしっかりとされている。
「広さはどれくらいだ?」
「この建物の立っているスペースとほぼ同サイズの面積で、高さは2フロア分だな」
「………大型トラックでも駐車するつもりだったのか?」
「一応、高級マンションだからな。住民のニーズに応えるためには………とかの理由で予算が許す限り広くした」
下手な体育館より広いぞ、という俺の言葉にリュミが苦笑のような表情で応えた。
「………半ば道楽な、贅沢な造りだな」
今度こそ呆れたような顔と声でリュミが感想を言う。
「天さん、こちらが止めないと稼いだお金、全部使い切るつもりだったみたいですから」
その時の事を思い出したのか祝詞が溜息まじりで付け足した。
「別に大金に興味ないからな。株に手を出したのも気紛れだしな」
俺ひとりなら使い道を考えるなんて面倒なことになっていた筈だが、
知り合いに金の使い方が上手い奴――祝詞や紅葉――が居たので問題は無くなった。
土地の購入、マンションの設計、建築管理等、祝詞に任せてあったので俺は何もしなくて済んだ。
面倒な税金関係や残りの資金運用は紅葉に任せたので、こちらも俺にとっては問題は無かった。
「おかげで、現状で考えられる条件を満たす場所を簡単に用意できた訳か」
「俺のおかげで、問題なく事が済みそうだろう? 感謝するように」
なんとなく複雑そうな表情のリュミに俺が感謝の念を自覚させてやる。
「天自身は、ほとんど何もしていないような気がするのだが?」
「あたりまえだろう? なぜ俺が面倒ごとに関わらねばならん?」
俺のまっとうな返答に、リュミは完全に言葉を失い、
俺は、ようやく安眠することが出来たのだった。
そして祝詞は徹夜でセキュリティの登録と、儀式の為の準備などの為にリュミの手伝いをさせられていた。
やっと日曜日終わり〜〜。でも日付変わってますね(汗)
次回は月曜日、学校の時間です。
天の学校生活とは……まぁ、彼が学校に行くこと事体が驚きですが。
きっと何か有る事でしょう。それは作者にも判らない事です(オイ
願わくば、もう少し天が動いてくれますように……無理だろーな(泣)。
世界設定 その3
この世界には人外と呼ばれる存在に関わる者達が居ます。
大きく分類すれば、
個人ではなく組織化された集団の者達。有名な組織としては『教会』があります。
組織ではなくフリーで雇われたり、個人的な事情で関わる者達を『狩人』と呼びます
彼らは理由はどうあれ、本物の人でないモノと関わる者達として、
通常の傭兵、暗殺者等の堅気でない職種とは区別されています。
なぜなら、薬や機械などによる肉体改造で人間離れした者と、
ヒトでないモノ、ヒトでなくなったモノとの間には大きな違いが存在するためです。
よって、一般社会では非日常的な世界に生きる者であっても、
本物のヒト以外のモノを知る者はごく僅かと言う事になります。