今回は今までのまとめです。




「なんやキーやん、こんなところで……何見とんのや」

「記録ですよ。前の……ね」


キーやんの手元を覗き込んだサッちゃんの顔がゆがむ。


「あれか〜……あんときはお互いボロボロになったな〜」

「ええ……私なんかせてしまって……」

「てゆうか、ミイラ寸前やったで」

「貴方も似たようなモンでしょう」


キーやんの顔も微妙に引きっている……。


それは一人の人間が未来に向けて旅立った記録。

キーやんとサッちゃんの手で未来に送られた一人の男の記録……。




GS横島

 序 章  〜失われたもの……そして〜 




それは横島達の魂を未来に送る事と同時に、失われる存在を補完する事を意味した。

禁術まで使用した術式は――それでも世界の均衡を崩さない為に――横島達の魂と呼ばれる情報しか

送ることが出来ないことは判っていた。

その為、術式にり込まれたのは、ダミーを代わりに差し替えるというものだった。

横島忠夫の魂のダミー……それは


――横島忠夫と同じ記憶を持ち――

――横島忠夫と同じ考えを持ち――

――横島忠夫と同じ能力を持ち――

――横島忠夫と同じ性格を有し――

――横島忠夫と同じ可能性を秘めるもの――

――しかし、決して横島忠夫の横島忠夫たるべき本質を持たない存在――


禁術と呼ばれる術の一つ。

そして世界は……それを許した。

横島忠夫が失われる事を……横島忠夫の望みの為に。


「彼は多くのものに愛されていたんですね」

「そやな……そのおかげで、えらい苦労したけどな」


今なら苦笑と共に語れるが……当時は簡単には死ねない身を呪う程の状況だった二人。

それは横島の旅の同行者の数であった。


横島に使われた禁術は


――対象の魂の情報を送ること。

――送り先は対象の望む世界に最も近い未来。

――対象の持つえにしによって世界を調える。

――送った禁術対象者には魂の模擬体ダミーを精製、代替使用。

――対象と世界の軋轢あつれきを防止する。


……であった。


横島に縁の深い者達が横島の喪失に、意識下無意識下に感付き、同行する事は予想内であった。

が、


「あないにるとは思わんかったな……」

「まさか、人以外にもあんなに多くの者が引きられるとはねぇ……」

「神魔人妖、その他大勢……魂あるもので横島はんに惹かれたもの……」

「更に直接面識が無くても深く関心を持っていた者まで対象になるとは……」

「さすが禁術っちゅうだけはあったもんな〜」

「制御しきれないという意味も含めてですけどね」


膨れ上がった同行者の数は二人の予測外であった。

その為、余裕を持って挑んだ術式に霊力魔力神力体力その他諸々を吸い取られ、


「おまけに書類整理の山やもんな……」

「調整事項の処理もありましたものねぇ……」


しばらく数字は見たくない、千年分……いや万年分は働いた……誰か助けて……そんな日々。


しみじみと語る二人の背中に哀愁が漂う。

おもわず『いいこと在るさ』と声を掛けたくなるほどである。


「それで、その後はどないしたん。詳しくは聞いとらんかったけど」

「この報告書によると……この世界の横島忠夫は……おや、美神令子と結婚してますね。

二人の間には子供が一人……横島ほたる、彼女はルシオラさんのダミーと言える存在ですね」

「本人とあまり変わらんけどな」

「ええ……その後、横島忠夫は天寿をまっとう……GSとしては良い人生だったようです」

「除霊中の事故や暗殺なんかはなかったんやな。そら、なによりや」

「娘の蛍は……こちらは半魔として覚醒……と言っても少し寿命が長く少し丈夫で少し力の強い……《人間》ですね」

「こっちは……戦闘中の怪我がきっかけかいな。父親が娘かばって怪我したのが、きっかけとは

……らしいといえば、らしいきっかけやな」

「……父親の死後……この時点で美神令子も天寿を全うしてますが……蛍は横島忠夫の転生体と出会います。

もちろんこの世界の横島忠夫の転生体ですが……」

「ある意味、執念っちゅうやっちゃな……ダミーとはいえ同じもんやからな〜女は怖いっちゅう事やな」

「一途で純粋なんですよ。まぁ、父親の転生体と知らず――

いえ、転生体の名前も横島忠夫ですから知っていたかもしれませんが……結婚、二人の子供をもうけます」

「で、はっぴぃえんどっちゅうわけやな」

「……いえ、この数年後、彼女の夫……横島忠夫は死亡します。

死亡というより、魂の消滅というべきですね……二人の子供を庇って」

「なんやソレは……どういうことや!」

「表向きは蛍さんを狙う者、半魔を人間と認めない者達の仕業となっています。

……が、影で魔族と……神族が動いていたようです」

「……で、子供は助かったんやろ」

「数年は……。遅効性の魔族専用の時限式ウィルスが仕込まれていたようです。気付いた時には……」

「……で、ルシオラ……いや蛍はんはどうしたんや」

「襲撃関係者を……人も魔も神も含めて制裁……死者は……ゼロです」

「死者がゼロ……」

「そうです。彼女の夫、横島忠夫が死に際の言葉が死者をゼロにしたようです。

まぁ死ななかっただけで死ぬまで病院暮らしだったようですが」

「何か……やるせないなぁ……こんなとき地位なんぞが邪魔に感じるわ」

「……後に蛍は自らの能力と父親の形見であった文珠を使用、寿命を除く身体能力の強化を実行。

不老にしてかぎりなく不死に近い身体を得て害を成すモノの討伐を開始します」

「天寿を全うするまで……これも旦那の遺言かいな……」

「そのようです。それに彼女は自身が壊れる事を恐れていました。人の精神に永遠の生は永過ぎますしね……」

「一人はツライもんな……」


目を伏せ物思いに沈むサッちゃん。

黙祷して再び紙面に眼をむけるキーやんは咳払いの後に静かに言葉を紡ぐ。


「そして蛍さんの死後、横島さんの血筋……魂の系譜は途切れ、世界の天秤は大きく傾きだす事になります」

「世界には『門にして鍵たる者』ちゅう奴が現れるけど今世では其れが横島はんやった……という事やな」

「ええ、彼は世界にも愛されていた……という事でしょう。

彼の喪失は……私の知る限り過去最大の影響力が有ったかもしれません」

「傾き始めた天秤を立て直す事が出来る者がおれへんのやったらデタントなんて関係なくなるわな」

「残念です……仕方のない事だとはいえ……」

「デタントも横島はんの影響力があってこそ……やったからな」


ゆっくりと日が沈む……。

世界が沈む……。


「ほな、いこか……今世最後の戦いや」

「そうですね……お手柔らかに」


まるで試合をするかのように……歩き出す二人。

今日世界は終わる。

あまたの神話に語られる日。

終末の刻

ラグナレク(神々の黄昏)

etcetc……

呼び名は数在れど繰り返されてきた消滅と再生。


「キーやん……わしなぁ、魂の牢獄に囚われて初めて良かったと思とんのや。

あいつに横島はんに会えるからな……借りを返さなならんからな」

「わたしもですよ、サッちゃん。アシュタロスを救ってくれたのは私達にとっても救いだったのですから」

「わしらが魂の牢獄に捕らえられてなかったら禁術で行けとったのにな」

「それは言わない約束ですよ」

「すまんなぁ……つい愚痴ってもうて」

「構いませんよ……それに私も楽しみなんですよ。

彼と再び会える日が、このかせさえ有り難く感じられることが……そして最後の戦いさえも……ね」

「わしもや……そろそろ時間みたいやし……本気でいくで」

「わたしもです。お互い頑張りましょう」

「キーやんのクロスカウンターは喰らわへんで〜」

「右の頬をぶたれたら左の頬にクロスカウンターは常識ですよ♪」

「………………」

「………………」


そんな声が……世界の終わりに響く。

其れは悲壮なものでも

あるいは激情に流されるものでも

運命に逆らえぬ自身を嘆くものでもなく

ただ、あらたな刻を迎える産声のようでもあった。

















夢シリーズ……ホントに完結……。

脳内プロット部分の序章に当たりますが完結しました。

詰め込みましたよ……めいいっぱいに(当社比90%)。

今までお付き合いしていただいた方々……ありがとうございます。

こんなんですが、今後ともよろしく?ナゼギモンケイ?

今回の話は世界も輪廻しているということが前提になってます。

つまり世界も死んでまた再び生まれ変わる……というわけです。

仏教系にそんな考え方があったと思ったのですが……忘れたのでえて説明いたしません(出来ないとも言う)。

つまり横島達は生まれ変わった世界に転生を果たす事になります。

ついて行った方々もいますので退屈のしない人生が彼を待っているでしょう。

この続きが気になる方、見てみたいとおっしゃる方、

かんそー下さい。頑張ります……いやマジで。




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