一人の少年が願った。幸せになることを。
一人の少年は願った。誰もが幸せになることを。
一人の少年は知っていた。幸せになる為には代価が必要だと。
それでも少年は望まずには要られなかった。皆が幸せになる事を。
例え自分を犠牲にしても……それが矛盾を含んでいても…………
―――――彼は―――――
GS横島十夜
第一夜 その2 〜六道学園入学〜
朝の日差し、爽やかな風、本日快晴。
高校生活の初日には最高の天気だ。
私立六道学園……幼・小・中・高・大に大学院、更に系列の六道財閥関係の企業へも就職可能となれば、
入学=エリートコースとなるわけで、その受験倍率は毎年数十倍から数百倍にもなるという超エリート校。
が、それだけでは無く、世間でも珍しいオカルト学科の充実度も国内トップクラスであり
学園の名を更に広める結果になっている。
だが門戸は広く出口は狭しと云われるほど卒業生は少ない。
しかも文武両道の精神に基づき、例えオカルト学科でも最低限の学業レベルがあり、
卒業は一般科よりも厳しくないとはいえ、エリートコースを進めるのは本人の努力があってこそでブランドでは無い。
故に裏口入学は出来ても卒業出来ない者は六道学園生では無い。
それが六道学園の誇りであり精神でも有った。
つまり能力や努力が結果に結びつけば誰でも入れ進学できる――事を意味し、
それ以外は比較的に融通が利く自由な校風が人気の理由でもあった。
更に性格や家柄等の書類審査は比較的重視されない為、雑多な人間が集まる事も魅力の一つでもあり、
オカルト学科に至ってはコスプレーヤーが跋扈しているのは当たり前の世界である。
だが、近年の人気が大幅に上がった最大の理由――
それは、一昨年まで私立六道女学園だった事である。
去年の受験生、つまり共学一年生は多数の男子生徒の応募があり、
選考基準が一時的に上がった――と噂されるほどの入学希望者数であった。
それは今年も変わらなかったらしい。
なにせ、昨年は最大男子20%女子80%の比率の一般科、最大男子2%女子97%不明1%のオカルト科が
今年は一般科男子29%女子70%不明1%、オカルト科男子5%女子93%不明2%と
男子の受入率が増えれば男子の入学希望者も増えるだろう。
勿論、入学試験は男女平等に行なわれており、
元女子校目当てだけの入学希望者が如何に多いかを示す値ともいえる。
特にオカルト学科は霊的な能力の関係上――一般的に女性のほうが男性より霊的特性が高い事が多い――
の理由で女性のほうが多くなるのは仕方のない。
その結果、現在女性比率が高い共学という状態になっている。
それが私立六道学園、横島達が通う学校だ。
横島としては高校など何処でも良かったのだが、
定期試験さえ上位を取れれば出席日数は問わない事、
オカルト学科があるため何か有っても騒ぎに成り難い事、
なにより六道学園に在学していれば親に面子は立つ事
――以上の事により、六道の難関を乗り越え入学。
勿論、優華やルシオラも一緒だ。
それに――
「おにーちゃん!おっはよー」
「げふぅー」
ぼんやりと歩いていた横島の身体が、普通の人間には危険な角度『く』の字に曲がり
左に2メートルばかり滑って止まった。
「ナイスリバーブロー……」
半ば朦朧としながら、それでもボケずにはいられない横島。
そんな彼の右脇に殺人タックル抱きついたのは……
「えへへ〜、今日から同じ学校だね。ひのめ、楽しみにしてたんだよ♪」
嬉しそうに笑う少女――美神ひのめ、六道学園中等部の一年生。
発火能力者の為、オカルト学科に在籍。
横島とは、ひのめが赤子の頃からの知り合いになる。
紅い髪が特徴の少女……いや美少女と呼ぶべきか。
性格は明るく、いつも元気で快活。
性別年齢層問わず、幅広く人気があり美少女ランキングでは常に上位にあるらしい。
今日は後ろで編み上げた髪を大きめの蒼いリボンで結んでいる。
横島にとって可愛らしい妹分だ。
「優華お姉ちゃん、ルシオラお姉ちゃん、おっはよー」
「……おはよう……ひのめ」
「おはよう、ひのめちゃん」
いまだに顔面蒼白な横島を横目で見つつ、優華とルシオラがひのめに挨拶を返す。
彼女達にとっては、ひのめの殺人タックル挨拶はいつもの事だ。
そんな微笑ましい(?)朝の通学路の光景。
「ひのめ……いつまで抱きついてんの。横島君が『く』の字に曲がったままでしょう」
そう言って、少し離れた所から、ひのめに良く似た少女が呆れたような声を出す。
「み……美神さん……お……おはよーございま……す」
切れ切れな声を絞り出すようにして、ようやく回復した横島が挨拶する。
「もぉーおねぇちゃんたら……朝のスキンシップだよ。そんなに怒らなくても……自分が出来ないからって……」
「何か言った……ひのめ?」
「何も言ってないよっ……ホントだよ」
聞こえるはずの無い小声に反応した姉にひのめがプルプル震えながら答える。
ひのめの姉、美神令子は紅い髪を靡かせながら振り返ると
「いくわよ」
そう言ってスタスタと歩き出す――が、くるりと振り向くとぶっきらぼうに、
「入学おめでとう……横島君……と他2名」
そう言って、先程より早くなった歩調で歩き去る……耳まで真っ赤になりながら。
ひのめの姉、美神令子。
オカルト学科高等部2年に在籍、容姿端麗成績優秀。
美少女ランキング高等部の座『TOP3位』以内の実力者(?)であり、横島とは幼少時からの知り合い。
いわゆる幼馴染的関係である……普通の場合。
なにせ彼女は横島に初対面時に『下僕宣言』を、
しばらく後に『奴隷宣言』を、
さらに『愛奴宣言』を高らかに宣言した強者である……たとえ6つの時とはいえ……。
だから、普通の幼馴染といって良いかは微妙なところだと横島は思っている。
ひのめを名で呼ぶのに対し令子を『美神さん』と呼ぶのは無意識の刷り込みだろう。
勿論、不器用な美神令子の性格にもよるのだけれど。
「おねぇちゃん、まってよ」
慌てて後を追うひのめ。彼女にとって姉の行動は照れ隠しであり、追わないと後が怖い事は周知の事実である。
横島にちらりと視線を向けると、横島はゆっくりと頷き優華もルシオラも微笑む。
「俺達も行くか」
横島たちは令子の後を追う為に少し歩調を速めた。
横島たちは少し早く正門に辿り着いた。
元々早めに出ていた事と『競歩並』になっていた令子に追いつく為に急いだ結果である。
始業式には未だ時間があり、生徒の数は疎らである――筈だったが。
「横島君、とうとう来たね。君が入学できるとは、今年の試験は甘かったようだね」
立ち塞がるロンゲの青年……今まで待っていたのだろうか。
「西条……先輩」
横島が何時もの彼のノリに溜息のように応える。
西条輝彦、私立六道学園の共学1期生であり、高等部二年生。
訳有って美神より一つ年上だが、女子の人気はまずまずで容姿成績とも優秀な部類に入り評判は悪くない。
……横島以外には。
西条が中学2年、横島が小学6年の時に初めて会った時から、何故か昔から西条は横島をライバル視し、
事あるごとに突っかかってくるのだ。
勿論、妹のように慕ってくれていた筈の令子が、横島に向ける視線に気付いてからの事では有るが。
きっかけは兎も角、西条としては横島の性格や態度が気に入らない。
周りの羨ましい環境も気に入らない。
なにより周りが横島に向ける視線や態度、好意に横島本人が気付いているのかいないのか。
西条としては優れている筈の自分が劣等感を抱く相手……それが横島であった。
横島としては嫌わないまでも鬱とおしい。優華やルシオラにすれば論外である。
だから出来る限り接点を持たないようにしていたのだが。
「どうしたんだい? 呆然とした顔をして。僕の顔に見とれたのかい。無理もな――」
「忘れてた……」
横島の一言に堂々と語る西条の顔が引きつった。
もちろん横島に悪気は無い。
本当に忘れていたのだ。西条がココに在籍している事を。
優華とルシオラに関しては眼中に無かった為、気にもしていなかっただけだ。
「君と言う男は……どうして、この僕をココまで怒らせるのが上手いんだろうね……」
「いや、べつに怒らせるつもりは無くて、すっかり忘れてたんであって他意は無いッすよ」
「き……きみというおとっ……うわぁっ!!」
怒りにプルプル震え始めた西条を押しのけるようにして十数名の男子生徒が現れた。
「……なんだぁ?!」
突然の乱入者に横島は疑問の声をあげる。
おそらく高等部の二年生だろう生徒達が横島を取り囲む。
その様子に優華達が初めて警戒を見せた。
そんな横島たちの様子に彼らは目で合図しあうと――。
「我ら一般、オカルト科含め、高等部二年男子…………君を心から歓迎しよう!
有難う、入学してくれて。有難う、ありがとう、アリガトウ、ありがとぉ〜…………」
いきなり歓迎され感謝され、おまけに感極まって泣きはじめる様子に横島は呆然となる。
「……はぁ……???」
「……よっぽど肩身が狭かったのね……」
「……泣く程の事なのかしら?」
呆然としたまま感謝される横島に、ポツリと呟く優華。
ルシオラが不思議そうに呟くのを見て、苦笑混じりに令子が答える。
「共学って言っても1期生はテストケースみたいなモノだったし、女子校のノリが彼らには衝撃だったみたいよ。
まぁ、数じゃ負けるしね。でも肩身が狭かったのは事実だけど、根性の有る奴が少なかったのも事実ね。
女子高のノリって言ってもココは比較的大人しめだから、問題は無いはずだったんだけど……。
まぁ、女子校に理想と妄想を持ち込んだ奴が多かったのも一因の一つかしら……」
「今年も確か男子は少なかったっすよね?」
横島の言葉に令子だけでなく、周りの男子生徒が一斉にうなずく。
どうやら彼らは朝から新一年生に対し、こうして歓迎の挨拶をするつもりらしい。
気が付けば西条の姿はなく――男子生徒の足元に何か見える気がするが――無く、
次なる獲物新一年生を待つべく去ってゆく二年生の男子生徒達。
確かに、色々な意味で変わった学校だ。
「とりあえず、掲示板見てクラス確認したら、体育館行くか」
本日は入学式&始業式だ。その為に新一年生は少し早めに集合する事になっていた。
「おにーちゃん、おねーちゃん達、私、もう行くね」
中等部は高等部の隣とはいえ、掲示板の位置も校舎の入り口も違う。
ひのめは手を振りながら元気よく駆け出していった。
「じゃあ俺達も行こうか」
「……うん」
「そうね」
「あ……あれ? ちょっと……」
歩き出した横島達に美神が怪訝そうに声をかける。
「なんすか? 美神さん」
「オカルト科の掲示板はこっちよ。そっちは……」
「一般科でしょ、別に間違っちゃいないっすけど?」
「へ?」
「あれ? 言ってませんでした? 俺達一般科ですよ」
「……ルシオラ……言ってない……?」
「……そういえば……聞かれなかったから」
「ちょっ、ちょっと待ってよ。ママが推薦状を書いた筈じゃあ」
慌てる美神に横島は平然と、
「だって、推薦状でオカルト科だとズルしたみたいですから」
と、さも当然とばかりに答えた。
彼にとっては自力で入学する事は、自分に課した課題の一つであり推薦状は断ったはずだ。
彼女の母親であり現オカルトGメンの役員である美智江から聞いていなかったのだろうか――。
「聞いてないわよ〜!!」
聞いていなかったようだ。
まぁ、一般科にもオカルト科レベルの人材はいるし、逆もまた然り。
美神にすれば横島が一般科に入れるとは思わなかったのだ。
少なくとも彼女の評価では横島の学業レベルでは推薦状付でオカルト科がやっとのはず――なのに。
「いや〜苦労したっすよ。徹底的な受験用スケジュールで、頭の中が問題集で埋め尽くされましたから」
「……マンツーマンで……兄さまと……(ぽっ)」
「勿論、無理はさせないように休息もちゃんと考えて……ね(赤)」
美神の誤算……それは優華とルシオラの存在を忘れていた事に有る。
二人がオカルト科向けの能力者で有る事が油断に繋がったかもしれない。
が、二人の成績を考えれば、予想されるべき事態といえるだろう……しかし。
「なんで貴方達が赤くなってるのよ!」
「「それは……秘密……(です)」」
「ムキィ〜なによそれ、なによそれっ、どーいうことなのよー」
何故か赤くなってる二人に、こちらも負けずと赤くなる美神……理由は違うが。
もちろん、横島と二人っきりで受験勉強(科目毎、日替わり、時間別)した事や、
疲れを取る為にマッサージや膝枕や気分転換に外出(デートとも言う)事を思い出しただけなのだけれど。
美神にとっては思惑――オカルト科は一般科に比べて数が少ないので全学年合同授業がある――が外れた事や、
意味ありげな二人の赤面は神経を逆撫でするには十分で――。
「……て、アレ? 横島君は……?」
「「え?」」
気が付くと横島の姿は無く――
「私たちも行こうか」
「……うん……」
ルシオラ達は去り――
「……………………」
怒りの捌け口を失った美神は――
「……ぜったいぶん殴る!……」
理不尽な怒りを横島にぶつける事を決意していた。
西条ごめんよ(挨拶)。
その2でございます。いや〜思ったより進まない事、進まない事。
書いても書いても話が全然進まない……(涙)。
まぁ、オープニングなので舞台説明が要るかなぁとは思ってたんですが……ココまで進まないとは(悲)。
まぁ、二人追加しましたので良しとしましょうか……ホントは、あと二人ぐらいは出す予定だったんですが……。
一応、戦闘っぽいシーンの前振りも考えていたんですが……入りませんでした。
無駄に長くなったような気がします……ごめんなさい。
反省はココまでにして……設定です。
六道学園のカリキュラムでは一般教科とオカルト教科がありまして、一応オカルト教科は選択科目のような扱いになってます。
つまり一般学科もオカルト学科もクラスは混合です。
選択科目の時に分かれる事になります。学園としては一般クラスにもオカルトの存在を知ってもらおうという狙いですね。
オカルト学科は全体数から見れば少なく、実技が特殊なので、学年問わず合同で行うことが多いです。
一般学科とオカルト学科を分けるのは進級する為の単位の取り方が違う為で
一般科の方が通常科目が多い為、オカルト科より卒業が難しいです。
なお掲示板には学科ごとに説明があるため入学式は学科ごと、始業式はクラス毎に整列することになります。
六道学園の設定の一部を後悔公開しました。