「横島十夜っす。今年から六道学園に入学しました」


俺は自己紹介を簡潔に終え席に戻る。平凡な第一印象……それが目的。


「芦 蛍です。横島君とはお隣さんです……」


蛍――ルシオラの自己紹介に周りがざわめく。

ルシオラが美少女である以上、人目をくのは仕方がない事だ。

数人がこちらに視線を向けてくるが、調べれば直ぐに判る事……問題ない。

机に肘をつき、組んだ手で顔の半分を隠す某髭親父のポーズで教室のざわめきを聞き流す。


「……芦 優華です……蛍とは親戚です……


優華の静かな声……ルシオラの時もそうだったが、男女問わず彼女達の立ち振る舞いは人を惹きつける……。

ただの美少女以上の何かが彼らを捉えるのだろう。これも何時もの事だ……問題ない。

俺はにやりと口元を歪めた(意味無し)。

……横島君とは同居してます……」


――――爆弾投下――――


「何ぃ〜!!!」×生徒数−2+先生


がこんという音と共に顔面を机に叩きつけた俺に、先生も含めた生徒の視線が集まる。


「……問題…………有り過ぎやぁ〜!!!


その騒ぎは、兄妹のように育った事を優華とルシオラが説明するまで終わらなかった……がくっ。




GS横島

 第一夜  その4 〜クラスメイト〜 




 

「……嘘は言ってない……」


今朝の自己紹介についての俺の問いに優華が答える。まぁ確かにそうなんだが……。


「て、言ってもな〜。苗字違うし黙っとけば……」

「嘘は……ダメ……」

「……………………」


返す言葉が無くなった俺は沈黙するしかなかった。

結局、騒ぎは二人の説明により一応の落ち着きを見せ、通常通りに自己紹介は終わり、休み時間となったのだが……。


「目立ってるよ……目立っちゃたよ……」


いきなり注目の的である。向うでヒソヒソ話しているのは何でせうか……。

隣の席の優華が静かに俺をみる。


「……注目の的……ソレはとても良い事……」

「よくねぇって! 只でさえ目立つ人間が周りに多いのに俺まで一緒にされるのは……」

「「私と一緒は……嫌(なの)?」」


いつのまにか背後に回ったルシオラが優華と共に悲しそうな目を向けてくる。


「そ……そうじゃないけど……あ〜もういいよ。うん、どうせバレタ(かも)だろうし」


……そう思うことにしよう。どうせ、この場合二人には勝てないんだし……。

頭を切り換えて周りを見回す。

このクラスには優華とルシオラ以外に知人は居ない。

エスカレーター式の学校では新入生は転入生と同じようなものだ。

すでに幾つかのグループになって話しあっているのは前からの――つまりエスカレータ組だろう。

それでも俺達と同じ、今年入学してきた奴もいるわけで。


「こんにちは。僕、ピエトロ・ド・ブラドー、ピートと呼んでください。横島さんも新入生ですよね。仲良くしましょうね」


爽やかな笑顔で話し掛けてくる少年……ピートと名乗った少年に、俺は反射的に敵意を覚える。

金髪でスラリとした体型、いかにも美少年という雰囲気、丁寧な口調。

俺が敵として認識するには充分すぎる好条件だ。

『2枚目は敵だ……顔のエエ奴は敵なんじゃ〜』

俺の脳裏にそんな言葉が右から左に流れていく……もちろん、何とか自制はしたが。

俺の周りには美人さんが多く、知人に美形が多い――それは即ち正確な審美眼を俺に与えてくれた。

即ち俺は美形ではない(泣)ということを。

優華やルシオラ達は『そんな事無い、かっこいいよ』なんて気休めの言葉を言ってくれるが……。

人間、顔ではない。顔ではないが美形が得する事も確かだ――身近に得している奴がいるし。

つまり美形(男に限ります)の得した分、俺達平凡な人間が損しているわけで。

つまり『美形(男限定)は抹殺対象』は当然の結論というわけだ。

俺がピートに多少殺意を抱いてもムカツいても仕方が無いだろう。

その点、向うに座っている小柄な目つきの悪い奴のほうが好感が持てる。

好き好んで関わりたくはないが。確か――


「雪之丞だ」


俺の視線に気付いて雪之丞が声を掛けてくる。

こっちに向かって来る所を見ると、案外寂しがり家なのかも知れないな。対人関係不器用そうだし。


「わっしもよろしく頼みますけん」


……いたのか……じゃなく、巨体の割には存在感が薄い――


「誰だっけ?」

「わっしじゃ、タイガー寅吉じゃー、横島どん、ちゃんと自己紹介したじゃろー」


はて? と首を傾げる俺に、タイガー(?)が半泣きになりながら訴えてくる。でも――


「……そだっけ?マジに記憶に無いんだが……」

「よ、横島さん……幾らなんでも……」


俺の返事にピートがフォローしようとするが……


「どうせ……どうせワッシなんか〜」


ぶるぶる震えながら暴走寸前っぽいタイガー。


「そうだぜ、横島。幾らいっていってもその言い方は……」


フォローのつもりの雪之丞の追撃……やっぱり対人関係苦手だろ、お前。

そんな俺の心の突っ込みを知らずに雪之丞はタイガーに追い討ちを掛けようと声を掛けようとする……が。


「しょうがないわよ。横島は昔っから、男の名前覚えるの苦手だもの」

「……憶えて数名……友達少なかったし……」

「こらこら、誤解を招くような言い方するな。いっとくけど昔は転校が多かったから友達作る暇が無かったんだよ」


ルシオラと優華のフォローに俺が苦笑して付け足す。

親の仕事と……霊的トラブル等で引越しの多かった幼少時代。

一番長く居たのは大阪で、親友と呼べる奴がいたが……元気かな……。


がっし


ん……? 昔の思い出に浸りかけた俺に――


「横島どん……ワッシのことを無視していたんじゃないんじゃの〜」

「ぐわぁ〜」


ばきばきぼきぐりごり……


タイガーの熱いおとこの抱擁で俺の身体が決して鳴ってはイケナイたぐいの音を奏でる。

そして俺の意識は闇の中へ……






GS横島十夜 第一夜 その 〜横島死す〜

長らくのご愛読有難うございました













終わってどうするよ……オイッ。

俺は何とかタイガーの抱擁から逃れ、臨死体験から復帰する。

後頭部から流血して床にうずくまり動かなくなったタイガーを意識の外に追い出す事に成功すると、ピートと雪之丞に目を向ける。

優華とルシオラは血に染まった机と椅子を片付けている……見なかったことにしよう。


「まぁ、クラスメイトだしな……よろしくたのむよ」


そう言って手を差し出した――普段の俺なら挨拶で済ますが、臨死体験直後の流血沙汰に動揺していた――

俺の手をピートが嬉しそうに握り返そうとして。


「……貴方……吸血鬼ね……」


優華の声にピートの動きが止まった……表情さえも固まった。

雪之丞も硬直している。だが俺は差し出され止ったピートの腕を取って握り返した。

ただの挨拶にピートの顔が驚愕に歪む。


「……なんだぁ、そんなに変か? ただの挨拶だろうが?」


憮然とする俺にピートが自分の掌、握り返された掌を凝視している。


「言っとくけど、手は洗ってるぞ」

「い……いえ、そうではなくて……」

「?? じゃあ、何か変だったか」

「いえ、そうじゃないんです……」


さっきと同じ言葉を繰り返しピートが俺に笑いかける。


「有難うございます、横島さん」

「……感謝されるような事はしてないぞ」

「それでも……有難うございます」


訳がわからない……そんな顔をしている俺にピートは笑い、雪之丞も硬直を解いた。


「改めて、よろしくな」


雪之丞の差し出された手をピートは嬉しそうに眺め……握り返す。


「よろしくお願いします」

「わっしも宜しく頼みますけんのー」


生きてたのか……タイガー……。俺の内心の呟き。

ピートの顔も引き攣っているように見える。

そんな俺達の様子にルシオラがピートに尋ねる。


「貴方、ダンピール(半吸血鬼=人間との混血の吸血鬼)ね」

「ええ、そうです。吸血鬼の血は引いていても吸血鬼そのものでは有りませんから……」


そんな会話が聞こえる。

まぁ普通の人間なら人と人以外の間に壁を作っちまうんだろうが、元々俺は気にしないタイプだった

のに加えて周りに人間離れした知人が多かった為、今更人外の存在が現れても驚くに値しない。

結局、自分にとってどうか……ぐらいだ。人だろうが人以外だろうがそれは変わらない。

多くの場合、美形(男限定)は敵で有る事が変わらないように……。


「それにしても……なんで俺の周りにオカルト科が集まるんだ?」


俺と優華、ルシオラは一般科だからいいとして、3馬鹿トリオピート・雪之丞・タイガーはオカルト科だ。

一年の一般教科は共通なのでクラスは一般科とオカルト科は混合となるのだが……。


「いや、横島さんは目立ってますから、僕達が側に居ても逆に僕達は目立たないかな……て」

「何じゃそりゃ〜」


ピートの返答に、俺は文句の声をあげる。

やはり美形こいつは敵か? 早めにシメルか? なんて考えていたら横から雪之丞が付け足すように話に加わる。


「エスカレーター組から見れば、俺達は転入生みたいなもんだからな。それにオカルト科は数少ねーし」

「俺は一般科なの、普通科なの、ただのパンピーなの!」

「十分イロモノだって……」

誰がイロモノじゃ〜


雪之丞の言葉に俺は反論する。


「わっしはワッシは……女子(おなご)が怖いんですジャー」

「だったら共学にくるんじゃねぇ〜……て女性恐怖症?」


いつの間にか復活して混ざってきたタイガーに反射的にツッコンでから疑問符を顔に浮かべる。


「今までワッシの周りには女子が居なかったんじゃ〜……だから……だから……」

「「「「「……………………」」」」」


コメント不能……てゆうかイロモノなのか俺? そうなのか? 大阪出身はイロモノの血が流れているとでもゆうのか……。

血の業に人生の深淵を覗き込みそうになった俺に『類は友を呼ぶ』――そんな言葉が浮かんだ。


「俺はイロモノじゃねぇ〜」


教室から駆け出した俺の眼に光るものがあったのは秘密だ。











タイガーごめん……(挨拶)

こんにちは、その4をお送りしました。

一応、次から第二夜になります。

初期出現キャラは、こんなモンです。


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