「ここは……?」


天井が見える。旧日本家屋のような天井。

気付くと俺は何処かの家に寝かされていた。

頭が少しボーとするが血が足りない所為だろう。

和室にひかれた布団に寝かされている事を確認し、起き上がって身体を診る――


ふにゅ


「あん♪」


――つもりで動かした俺の手が柔らかな感触を伝えた。

すぐ側から、そんな声も聞こえた……。




GS横島

 第二夜  その4 〜タマモとシロ(後編・前半)〜 




「…………」


お約束ですか?


誰かに聞きたくなるような……そんな俺の心の声が聞こえたのか布団が、もそりと動いて。


「ヨコシマ……おはよう」

顔を出したのは……タマモ!? しかもですか!?

俺は……着てる。トランクスだけだが。

ほっとした俺に構う事無くタマモが俺を押し倒す――って、ええっ!?


「ちょっ……と待て……なんで……」

「身体が冷えてたから温めてた」


混乱しそうになる俺にタマモがさらっと答える……顔は紅かったが。


「そ……そっか、ありがとなタマモ」


俺の言葉にタマモが「借りは作りたくないから」と言って顔を伏せる。

紅くなったタマモの顔をみながら、照れているんだろうかと思う。

そんなことを考えながら今の状況を考える。

大量出血で体温の下がった俺を暖めてくれていたのは判った。

俺の心の混乱は収まったが、とにかく現状を聞かないとサッパリ判らん。


「ところで此処は何処だ? 何か結界の入り口みたいなのを潜ったとこまでは憶えてるんだが」

「それは――」

「あぁーっ!! 何をしているのでござるか!?」


不意に聞こえた声に俺達が目を向けると……シロが居た。

手に椀を持っている……飯だろうか……そういえば腹減った。

空腹と貧血で再び布団に沈み込んだ俺の上でタマモとシロが何か言い合っている。

でも何故、俺の上でなんだ……???


―――しばらくお待ちください―――


盛大な俺の腹の虫に、シロタマの口喧嘩(?)も終了し飯を食いながら現状把握の為に説明を聞く。

もちろんタマモは裸のままではなく着物を着ている……シロに借りたらしい。

ここは人狼の隠れ里。俺達が通ったのは各地に在るらしい入り口だそうだ。

偶々シロが京都の山奥の入り口を知っていた為にここに入れたらしい。

妖狐のタマモを見た村人達相手に村の入り口で一悶着起こりかけたのだが

シロがタマモを庇って騒動に成らずに済み、俺の傷がシロの所為だと言う事を村人に説明し、

その傷を治療する為という事情で特例として犬塚の家に招待された結果が今の状況らしい。


「道理で……」

「なに? ヨコシマ」

「何でござるか?」


俺の呟きに不思議そうに聞き返すタマモとシロ。

俺は何でもないと答えるが――この家の周りに数人の気配がある。

恐らく監視だろう……それもそれなりの腕の。

何せタマモとシロの両方に気付かせない隠形術の持ち主がそう居るとは思わない。

俺で無ければ判らない程の実力の持ち主が只の村人とは考え難い……ん?


「おお、気が付かれたか」

「父上っ」


かけられた声にシロが元気よく反応する。

父上――つまりシロの親父さんか。


「どうも、世話になります。横島十夜っす」

「ああ、まだ寝ておられるが良かろう。傷そのものは深くは無かったが、かなりの出血だったのだ。

無理はせぬほうが良い」


そう言って起き上がろうとした俺を制してシロの親父さんが言う。

武士、武人……そう言った雰囲気を身に纏った人物。只の村人の雰囲気ではないな。

そういえばシロが『刀守』って言ってたよな。

何かの役職みたいだけど俺がココにいるのは不味いんだろうな。

そんな俺の考えを察したのか親父が少し困ったような顔で俺に言う。


「本来、この人狼の隠れ里には人は入れぬが定め。

然れども横島殿の傷は、シロによって付けられたもの。

聞く所によると横島殿はシロに武士の何たるかを説いて下さったと聞く。

そのような方を放って置くなど武士の風上にも置けぬこと。

よって犬塚の名に於いて滞在を許されました。

滞在中は不便な事もあるやも知れぬがご理解くだされ」

「そんな大層な事は言って無いっすよ。

俺はただシロの勘違いからタマモが傷つくのを庇っただけです。

結果、怪我したけど大した事無かったし、事情は何と無く判りますから」

「かたじけない」


そう言って犬塚の親父が頭を下げる。俺は慌てて親父の頭を上げさせようとして――


「一つ聞いていいっすか」

「……なんでしょうか」


尋ねた俺に訝しげに顔を上げる親父。俺は親父に尋ねながら『眼』を凝らす。


「『刀守』って何すか」

「刀守……ですか」


親父は少し考え込むような仕草をする。まぁ、いきなり聞かれたらそうだろうな。


「無理に答えなくっても良いっすよ。ちょっと気になっただけで」


そんな俺の言葉に親父は苦笑のような表情で首を振って答える。


「いや、大した事ではござらん。刀守とは犬塚の家が代々継いで来た役職の名であり使命なのでござる」

「使命?」

「そう……横島殿なら話しても良かろう。我が犬塚は代々妖刀と呼ばれし刀の『守り』を仰せつかっているのでござる」

「……妖刀」


俺の呟きに親父が頷く。

妖刀……封じる以外にすべが無かったあやかしの刀。

それが犬塚に生まれた者の宿命ということか。


「それって普段は封じられて居るんすよね」

「うむ、場所は教えられんが厳重に封印されておる。その封印を護る事が犬塚の――」


親父の説明を聞きながら周りの気配の変化を探る。


「その封印の場所って犬塚の家の者しか知らないんすか?」

「いや、他の役職で数人の者は知って居るが……?」


遮るような俺の質問に親父の顔が訝しげに曇る。

だが俺は聞かなくてはならない。


「その知っている者の中で刀の腕の良い奴っています?」

「質問の意図が判らんのだが……」


親父の顔が益々曇る。どちらかと言えば不愉快より不可解の表情だが。


「まぁ、いきなりこんな事聞くのも何ですけど、聞いときたくて。何せ――」


目線で親父に背後の相手を告げる。

背後に迫る影。だが俺の合図で親父が気付く方が一瞬早い。


シャッ


背後に抜けた刃を親父が身を捻ってかわす。

親父の背後に見知らぬ男が一人、抜き身の刀を手に持ち立っていた。


かわしたか……かわさねば楽になれたものを」

「犬飼!?」

「犬飼殿!! 父上に何を」


男の言葉に親父とシロが男の名を呼ぶ。

現れた男、犬飼は手に持った刀を軽く振ると正眼に構える。素人目にも隙の無い構えだ。


「犬飼!? その刀は……まさか!?」

「そうよ……犬塚。これが『八つ房』。犬塚が封じてきた妖刀の中でも最悪と呼ばれた刀よ」


親父の言葉に犬飼は妖刀――八つ房――を手にニヤリと笑う。


「何故だ……何故!!」

「くっくっく、知れた事。武士が刀を求めて何の不思議がある。俺は前から犬塚の『刀』に興味があった。

……いや、妖刀が欲しかった、力が欲しかったのだ」

「どうして……何故、今……」

「今だからだ。幾ら俺でも妖刀の封じられし『塚』に迂闊には近づけん。他の目も在ったしな。

だが今、この村の目の多くはその人間と妖弧に集まっている。この時を逃すほど俺は愚かではない」


悔しげに顔を歪ませる親父に自慢げに語る犬飼。

そんな犬飼に俺は気になったことを聞いてみる。


「周りの見張りはどうしたんだ?」

「ほぉ……気付いたか。無論片付けた。

こちらに気を取られていたとはいえ俺が近づいた事にも気付かなかった奴等では在るが……邪魔になるのでな。

それに刀の飢えを満たさねば為らぬ……よって……な」


邪悪……そう表現するのが正しい表情かお。それが犬飼の顔に浮かぶ。


「で、次の獲物は俺達って訳か」

「察しが良いな。なら大人しく喰われてくれるな」


犬飼の振りかざした刀に――


「おのれ、人狼の……武士の恥がぁーっ!!」


シロが飛び込んだ。


「シロ!?」

「お前では無理だ! 下がれ!」


俺と親父の声が振り下ろす刀の煌きと重なる。

俺はシロの身体を庇うように無理やり身体を動かす。

犬飼の躊躇いの無い斬撃がシロを襲って――


ガキィ……ン


犬飼の刃を何時の間にか抜刀した親父の刀が止める。


「今のうちに……」


そう言い掛けた親父の声を


「甘いな」


犬飼の声が遮る。

俺がその声を理解する前に――


ザシュッ


一瞬の斬撃。だが俺達の身体を切り刻んだのは――。


「妖刀の……力か」

「くくくくく……そうよ。此れが『八つ房』の力。一撃で相手を文字通り八つ裂きにする、この力こそ妖刀と呼ばれし所以ゆえんよ」


親父が止めたのは八つ房の刀身――刀から放たれた斬撃までは止められ無かったと言う事か。

だが傷は浅い。これ位なら……あれ? 力が……抜ける!?

体調の所為かと思ったが、ふと気が付くと親父が膝を突いている……シロも辛そうだ。

掠り傷程度なのに何故!? 俺の眼に視えるのは深くは無い傷……霊気が……まさか!


「くっくっくっくっくっくっくははははははははっ、気付いたか。八つ房の力は、それだけでは無いのだ。

どんな小さな傷であろうと傷つけさえすれば、そこから相手の霊気を喰らう。それが真の……妖刀の妖刀たる能力ちからよ」


悪役らしく解説してくれる犬飼。今のうちに――。


「逃がすと思うか?」

「ダメっすか?」


ちっ、と舌打ちする俺に、口の端を歪めて笑いの形のまま犬飼が振りかぶる。拙いな、このままだと。


「くくくく……犬塚のついでにお前達を始末するつもりだったが……貴様の霊気の質と量、俺の目的に相応しい。

思わぬ獲物だ、じっくり切り刻んでやろう」

イヤです」


犬飼の目が俺を見る。

……うぅ嫌だなぁ……いい年したおっさんに見詰められても。しかも眼が欲情したように潤んでるし。

鳥肌モンだよホントに。美人のねーちゃんなら良いのに……現実は厳しーってことっスか。

犬塚の親父の方は膝を突いたまま動かないし、シロの方は動かないが動けない訳では無さそうだ。

俺は……ちょっとヤバゲな感じ。なにせ貧血気味だったのに、また血、出てるし。

普段の生活で造血能力が上がってなかったらとっくの昔に倒れているだろうな。

無事なのはタマモだけだが……無理するより逃げてくれた方が……。

振り翳された刀を凝視しながら俺は隙を窺う……少なくともシロとタマモは逃がさねば。


「…………?」


いつまで経っても振り下ろされない刀に犬飼の方を伺うと……小刻みに震えている?


「………ぐ………が………あ………」

「なんだ? どうしたんだ??」


俺達が見つめる中……犬飼は『八つ房』を振り翳したままの姿勢で白目を向いていた。口からは唸り声が漏れている。


「……気絶っすか?」


妖刀に負けて自滅? と俺が考えた時――。


「……ググゥ……ガガァ……」


白目を向いたまま犬飼が俺を見つめる。唸り声を上げながら、口から泡を吐きながら。


「グググ……オ……オマエ……キニ……イッタ……ク……クラウ……オマエヲクラウ!」


斬撃と共に犬飼が飛び込んでくる。


「のぉわああああ」


俺が華麗(?)に躱すと、犬飼はそのままの勢いで壁にぶつかる……と思われたが。


ズバッ


「壁が!? 壁を切り裂きやがった……」


犬飼が、振るった刀は壁を切り裂き……何事も無かったかのようにコチラを振り向く。

まるで刀に振り回されている妙な動き。


「操られてるのか?」


犬飼の瞳に意思の光は無い……て言うか白目だし。『視』なくても丸判りっぽい。


「オマエ……ウマイ……オマエ……ホシイ……オマエ……ホシイィィィィィー」

「勘弁して欲しいっすー!!!」


言わせているのが妖刀だとしても……オッサンにこのセリフで迫られたら死ぬ気で逃げますよ。

例え瀕死の状態でも飛び起きれますよ。人間の限界超えますよ。


「男は嫌じゃ〜!!」


死の恐怖が、死を超えた恐怖に変った俺に犬飼のオッサンが迫る……うぅ嫌ですぅ〜。

が、妖刀に操られた犬飼の動きがぎこちなくなる。


「ヨコシマ!!」

「タマモ!?」


タマモの幻術……か。俺に迫っていた犬飼の動きが鈍る。

その隙に逃げる為、戸口を向いた俺の横を誰かがすり抜ける。


「シロ!?」


犬飼の動きが鈍ったのを見てシロが飛び出そうとするのを俺は腕を掴んで止める。


「離してくだされ。今がチャンスでござるよ。今なら犬飼の奴も……」

「馬鹿野郎!! 現状を見ろ。体勢を立て直すのが先だろうが。第一、今のお前では無理だ」

「拙者には犬飼は倒せぬと……」

「父親に倒せなかった奴を今のお前が倒せると?」


頭に血が昇ってシロは気付かなかったようだが親父の方は結構傷が深そうだ。

至近で斬撃の殆どを受け止めたんだ……シロを庇って。先程から動かないのも無理は無いだろう。


「今の俺達に出来る事は、これ以上の犠牲を増やさない事、つまりココから移動する事だ」


タマモや軽傷のシロは兎も角、俺や犬塚の親父はまともに戦えそうに無い。

シロタマだって犬飼相手には戦力としては俺を含めて期待できないだろう。

しぶしぶと言った感じでシロが親父殿の方に向う。

俺も手を貸す為にシロの後に付いて戸口へと向う。

一瞬の隙……その隙に刃が潜り込む。


ザシュッ


「ぐぅ……」

「ぎゃん!」

「ヨコシマ!?」

「シロ!!」


俺の口から漏れた声とシロの鳴き声、タマモの声と犬塚の親父の声が同時に響いた。

刃は俺を狙わずシロを狙って振り下ろされ、俺はシロを庇う為に飛び出し……結果、両方斬られた。

簡単に説明すればこう言う事だ。簡単でないのは、今の攻撃が操られた者の一撃ではなかった事。


「ふっ、礼を言わねば為らんな妖狐の小娘よ。今の幻術で妖刀の意識が揺らぎ俺に意識が戻った。

おかげで小僧と犬塚の小娘、両方を斬る事が出来たわ」


正気に戻ったらしい犬飼が俺達に歩み寄る。

その前に立ち塞がる……シロの親父!?


「犬飼は拙者が! シロを……頼みます」

「父上……」


犬塚の親父はシロに一瞬だけ顔を向けて頷くと犬飼に向って構える。


「行くぞ! シロ! タマモ!」

「父上〜!!」

「…………」


俺はシロを小脇に抱えタマモと共に走り出す。親父の死を無駄にしない為にも――。


「まだ死んでないでござるよ……」


シロが何か呟いた気がしたが……ぐったりしたまま……か。急がなければ――。




「どけ、犬塚。今の貴様を切っても大して妖刀の糧にならん。退けば命だけは、」

「何故、この様な事を……本当の目的は何だ!」

「流石は犬塚……気付いたか」

「貴様が力を欲していたのは知っていた。だが武人なら多かれ少なかれ力に惹かれるのは詮無き事。

しかし妖刀を使ってまでとは……」

「貴様には判らぬ事だ……例え親友の貴様でもな」

「何故だ……犬飼……犬飼ポチ!」

ポチって言うな!!

「ま……まさか……!?」

「ふっ……そのまさかよ」


青ざめる犬塚……自嘲気味に口を歪める犬飼。二人の間に妙な緊張が生まれる。

フッと遠い眼をして犬飼が犬塚に語りかける。


「犬塚……貴様には判らんだろう。俺の苦しみが……俺の絶望が……俺の望みが!!

俺は昔から力に惹かれていた。誰よりも強く在りたかった。

だから村でも一、二を争う剣の腕になった……が、しかし俺はポチと呼ばれた。

ポチと呼ばれるたびに俺は何故か自分が他者より下の存在の様な気持ちに襲われた。

どんなに皆が俺を畏怖しても、どんなに皆が俺を敬っても!!

だから俺は妖刀を手に入れたのだ。そして俺は伝説の力で俺の名を轟かせるのだ。

全ての者が俺の名を畏怖すべきものと……魂にまで刻む為に!!!」

「犬飼……」

「貴様には判らんだろう……俺の気持ちなど……」

「……判る」

「何が判ると言うんだ!! 貴様に!!」

「俺には……判る。俺は……俺には……





















名前すら無いんだぞぉーーーー!!!(血涙+エコー)」


二人の間に妙な沈黙が降りた。


「……ふっ……所詮、貴様と俺は行く道を違えた。それだけの事よ」

「今、哀れみの目で見やがったな。ちくしょー、名前が有るからって見下しやがって!」

「ふんっ、名も無き男に用は無いわ」

「……ガクッ……無念」


力尽き、崩れる犬塚を尻目に犬飼は狩人の表情を浮かべ歩き出した。




「ここなら暫くは大丈夫だろう」

「どれくらい持つかな……」


不安げなタマモの声に頭を撫ぜて落ち着かせる。少し嫌そうな顔をしたが払い除けないので撫ぜ続ける。

緊張してるか……仕方ないな。正直、俺も怖いし……色んな意味で。

刻は夕刻。俺達は京都の山奥、芦家の別荘に居た。

とりあえず隠れ里から脱出し京都に戻って駆け回る内に妙な結界を発見、よく見たら芦家所縁ゆかりの別荘だった……と言う訳だ。

運の良い事に鍵は貰ってあったので使わせてもらう事にした。

ここは普段は無人の為、例え犬飼が襲ってきても余計な被害は出ないだろうし、結界が侵入を阻んでくれるだろう。

……時間稼ぎでは在るが。少なくとも侵入すれば判る筈だ。それに――


「たぶん半日から一日ぐらいは持つと思う」

「なんで?」

「なんとなくだけどな」


タマモの問いに俺の曖昧な答え……最低半日の猶予。

これは根拠と言うより予想だが、犬飼の力が妖刀と馴染むまでの時間……えた力から予想した答え。

妖刀の力を無理に取り込もうとすれば、また操られるだろう。犬飼も愚かでは無い筈だ。


「まぁ、どっちにしても休まないと持たなかったしな」

「……まぁね」


壁にもたれて座る俺とタマモの視線が俺の脚……正確には膝の上の着物を着た子犬、シロに向けられる。

里の結界を抜けるまで意識は有ったが抜けたと同時に意識を失い姿が変ったのだ。


「いきなり縮んだ時は驚いたけどな」

「この姿の方が傷の治りが早いのよ」


タマモの説明に俺が了解し、今は俺の見様見真似のヒーリングでシロの治療中だ。

タマモは犬飼相手に幻術を使い疲れていた。

霊力だけは多い俺と、多少、術は使えるが疲労しているタマモ。

と言う事でタマモには出来るだけ休息してもらって、俺が治療係。

一応基礎的な事は、優華やルシオラ、美知恵さんから教えられていたので何とかなる。

まともな霊能力は使えない俺だがヒーリングもどきぐらいなら何とか出来る。

まぁ美知恵さんが特訓と称して……は置いといて、自分の命に関わるから使えるようになったというべきか。

おかげで助かっているといえば言えるし……な。


「ゆっくり休めよ」

「ヨコシマも無理しないでね。私が代わってもいいから」

「借りが出来ちまったな」

「庇ってくれたでしょ……」

「あぁ、変質者達の件か。あれはもう――」

「犬飼……妖刀から……よ」

「気にするな」

「借りは作らない……主義だから……」


俺の言葉にタマモが呟く。

気付いてたか……まぁ犬飼の斬撃が行かない様に立ち位置を変えていた程度なんだけど。

プライドの高そうなタマモには気に入らなかったかな。

笑って流した俺に、タマモが「もう寝る」と言って横になる……俺にもたれるように!?。


「た……タマモさん!?」

「側に居たほうが何かあった時に都合が良いでしょ……それだけよ」


そう言ってタマモは目を瞑ると直ぐに寝息を立て始める。

普段の俺なら興奮モノかもしれんが……シロの治療に集中せねばならんし正直気を緩めると眠ってしまいそうだ。

……考えたら貧血気味だった所を襲われて血噴き出して、そのうえ走り回ったんだよな。

よく倒れないな俺。まぁシロの治療が済むまでぐらいなら……持つかな。

俺は夜の闇の中、二人の寝息を聞きながら窓の外の星を眺めた。






一寸、泣きそうです(挨拶)

長くなりました……原因は親父とポチです。

脳内で増殖しました(泣)。

まさか後編を前半・後半に分ける事になるとは。




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