「この段階で逃げるとゆーのはどーでしょう。この先、強い奴が出て来たら水の泡ですよ」
「何言ってんの! 私は最後までやるわよ!」
既に逃げ腰の俺。幾ら美神さんでも勝てる保証は無いと言うのに、このヒトは……。
「途中での試合放棄は認めません。パワーアップするか、死ぬか……それがここの決まりです」
「あっ! 出口が……!!」
小竜姫様の言葉が終わらぬ内に脱衣所に通じる引戸が消える。
「この世界に居るのは私達だけです。勝たない限り帰れませんよ」
「俺達だけ……他には誰も……」
このまま……美神さんと? それも良いかも――。
(兄さま)(横島)
ゾクッ
きょろきょろ
急に背中に走った悪寒に辺りを見回す……が特に何もない。
そんな俺の様子に美神さんが訝しげな様子で尋ねてくる。
「どうしたの? 横島君」
「いや……何か寒気が……」
それに誰かが呼んだ様な気が……。
GS横島十夜
第三夜 その5 〜竜へ至る道 其の四〜
「それじゃ次の試合を始めますけど……いいですか?」
「はいはいどーぞ♪」
小竜姫様の確認の言葉に美神さんが気軽に答える。いつもながら自信満々だな。
「
小竜姫様の呼びかけに現れたのは……四肢が刃、身体にも刃が生えた……怪獣?
「悪趣味ねー」
「な……なんか痛そーなデザインっスね」
美神さんと俺の感想……俺が相手するんじゃ無くて良かった。
「グケケケーッ」
キンッ
奇声を上げた
「本ッ当に悪趣味ねー……ほとんどバカ」
自分の力を誇示するためのデモンストレーションだろうが、実戦では意味が無い。
岩を割る事と、敵を倒す事はイコールではないからだ。
そんな
『あっ』
美神さんがおキヌちゃんの声に気付いた時には
ギンッ
「!!」
辛うじて直撃は躱したが、鎧の頭部、腕部、脚部に傷を受ける美神さんの『
「あーっ、きったねー! いきなり……!!」
「こらっ
俺の声と小竜姫様の叱咤の声が飛ぶが、
「私の言う事が聞けないってゆーの!? なら、試合は止めです!! 私が……」
「待って!!」
試合を止めようとする小竜姫様を美神さんの声が遮った。
「あんたがやっつけたら私のパワーアップには成らないんでしょ?」
「それはそうですけど、これでは公平な戦いには……」
「いーえ、やるわっ!! あんな奴に負けるもんですかっ……行くわよっ!! この……腐れ妖怪ーっ!!」
小竜姫様の静止を振り切って美神さんが『
しかし、素早い動きで
「くっ……!」
『「み……美神さんっ!!」』
美神さんの『
「やはり最初のダメージが大き過ぎましたね。仕方有りません、特例として助太刀を認めましょう」
荒い息を吐く美神さんを見て小竜姫様が俺に近づく……?
「え?」
「あなたの
「ちょ……ちょっと待っ……俺は見学……!!」
途惑う俺に構わず小竜姫様の手が俺の額に触れた。
ばしゅ……みょみょみょーん
奇妙な音と共に俺の身体から何かが飛び出し実体化する。
その姿は、まさしく横島の
絵にすると黒一色で描き易そうだ。
だが、一番の特徴はその顔に嵌められた仮面。
そこだけは影のような黒ではなく陶器のように白く浮かびあがっていた。
眼と口の部分だけが裂けた様に開いている仮面が、その顔に特徴を与えていた。
その姿はまさしく――
「あるるかぁーん!?」
俺、絶叫……そして落ち込み。
仮面には、まさしく『
「いくら、人生三枚目、道化が似合う男だとしても……こんなんあんまりやーっ!!」
意外な所で突きつけられた本性?の姿に、俺はガックリと
『小竜姫様っ! 出してくれて嬉しいっス! このお礼は身体でーっ!!』
「えっ!?」
飛び掛る俺の『
「ち、違うッスよ! 俺はそんな事しようなんて……」
小竜姫様の視線に慌てて俺が弁解しようとするが――。
『おおっ、美神さんの胸が揺れてる! あの胸であーんな事やこーんな事を是非っ!!』
「ええーい! 黙れっ! このっ」
俺は美神さんを見て叫ぶ『
『俺は正直に感じたままを言ってるだけや。黙る必要なんてあらへんなー』
宙に浮き、からかう様に振舞う俺の『
「こ……こんな情けない
「俺はちょっと変った力が有るだけの平凡な学生なんですよっ!! ここに来る他の連中と一緒にしないで下さい!」
呆然と呟く小竜姫様に俺は泣きそうになりながら答える。
『アネさん、コイツ買い被り過ぎやでー。このとーり、霊力は有っても制御するのが出来けへん。
『
気軽に俺の肩を叩きながら小竜姫様に話し掛ける『
『美神の姉さん、ええ乳してまんなー』
「邪魔しないでよっ 向こう行ってなさいっ!」
今度は美神さんの方にちょっかい出してるし。
「……情けなくないですか」
「無茶言わんで下さい……泣きたいのはこっちなんですから」
小竜姫様の声に、俺は既に泣いている。
「……………(私の見立て違いかな……? 素質有りそうに見えたけど……)」
『と……とにかく美神さんを助けて……』
おキヌちゃんが俺の『
『大丈夫! 美神さんなら平気や。それよりおキヌちゃん……巫女服姿も萌える!』
『え?』
きょとんとした顔のおキヌちゃん……さりげなく肩に手をやってる俺の『
『とか、言ってる場合じゃないです。美神さんがピンチにっ! こうなったら私がっ!』
『危ないっ、おキヌちゃんっ!!』
飛び出そうとしたおキヌちゃんを抱き締めて止める俺の『
「ああっ! おキヌちゃんの感触が俺にフィードバック!? じゃなくて……」
『自分に正直にならんかいっ!……大体、お前は我慢しすぎなんや』
「が、我慢なんて……」
急に説教モードに入った『
『身近に居る獲物に手を出さないのが我慢じゃないちゅーのか?』
「チョットマテ。イキナリナ二ヲ」
狼狽する俺に構わず『
『あぁん、しらばっくれてるんじゃねぇぞ。血の繋がらない妹の優華、幼馴染で隣人な同級生なルシオラ、
ちょっぴりおねぇさんな雰囲気のベスパ、幼さが可愛さに変ったパピリオ』
「な……なにを……」
『微妙な年齢の少女達……外見よりも中身が上のタマモと、外見よりも中身が子供なシロ』
「そ……それが」
『知り合いには芦家の妖華とかアレとかコレとか……』
「だから、それがなんだって……」
『学校では、冥子さんやエミさんの様なタイプが違うが綺麗どころが居て……しかもトドメに冷酷な女王様の美神さんまで!
知人関係だけでも選り取り見取りやんけー!!』
絶叫する『
「周りに居ても俺には何も……」
『とぼけても無駄や……前に、お前の魂を揺さぶったやろ……例えば、
朝、目を覚ましたらYシャツ一枚のみの優華――
幼馴染の気安さで擦り寄ってくるルシオラの柔らかいノーブラの感触――
普段クールなタマモが何故かメイド服で甘えたように擦り寄ってくる姿――
元気に飛びついてきたシロの無邪気な笑顔と、Tシャツ越しに腕に触れた膨らみ――
ぶっきらぼうにも思える態度のベスパが酒に酔って優しく俺に囁きかけた時――
いつまでも子供だと思っていたパピリオが女の子としての表情を見せた瞬間――
その時お前の意識は、優華の胸元に、ルシオラの感触に、タマモの――』
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
俺の絶叫を気にせず『
『気にせんでもええ、健康な男子高校生や当然の反応や』
「俺は……俺は……」
『そや、今こそ魂の叫びをもって自らを解放するんや』
「魂の叫び……?」
『
『「ちち・しり・ふとももーっ!!」』
「アホかぁーっ!!」
どばきっ
『「ぐふぅー」』
美神さんの一撃で倒れ伏す俺と『
「『
そこのところを魂に刻んでおきなさい……いいわねっ!!」
『ああっ、美神さんっ後ろ!!』
おキヌちゃんの声に目を向ければ……美神さんの『
「グケケケーッ」
「うるさいッ!! 邪魔よっ!!」
どげしっ
今までの苦戦が無かった事のように、美神さんの八つ当たり気味の一撃でひっくり返る
「あのコはひっくり返ったら自分で戻れないんです。勝負あったようですね」
小竜姫様の言葉通り、美神さんの『
「さっきから聞いてれば……アンタって奴は……」
「違うっスよ! 俺が言ったんじゃないっスよ! コイツが……」
「誰が冷酷な女王様だって?」
突っ込むところはソコですか……と言いたくなるのを抑えて俺達は正直に答える。
『「美神さん」』
美神さんの『
「なんで私だけ女王様なのよーっ!!」
『自覚無いんか……このヒト』
「むっきーっ!!」
『
その攻撃を必死で躱す俺と『
「ま、何はともあれ良いチームワークですね。仕上は私自ら本気で相手してあげましょう」
「え……?」
小竜姫様の言葉に美神さんが驚いたような声をあげる。
「最後の相手は私がやります、と言いました。何か不満でも?」
「い……いえっ別に……(まいったなー。小竜姫の霊格は桁が違うわ。
流石の私も、こんなのと正面から組んで勝てるわけ無いし……そうだ!!)
そんな小竜姫様の言葉に考え込んでいた美神さんだが、急に態度を改めて小竜姫様に向き直る。
「ねえ……小竜姫さん。しばらく私達だけにしてくれない? 次の戦いに負ければ私は多分、霊も残さず消滅するわ。
だから今の内に皆と話しておきたいの。あんなバカでも私には大切な仲間ですもの。お願い……」
『『「…………!!」』』
驚愕する俺達……美神さんが弱気なセリフを吐くなんて……。
「わかりました」
小竜姫様は美神さんの言葉に頷くと、この空間から出て行った。
『み、美神さん、そんなに弱気になっちゃ……』
「そーっスよ! らしくないなー。」
おキヌちゃんと俺の言葉に微笑む美神さん。
「横島君……き、キスしてあげる。これが最期になるかも知れないから……」
「な……なに馬鹿な事言うんですか!」 『キス!? 当然唇やろうな!? なっ!?』
「俺は……俺は……そんな弱気な美神さんは見たくないっスよ!」 『弱気な美神さんもまた良し!』
「勝つんです! 勝てばキスなんて、いつでも出来るじゃないっスか!」 『せっかくのチャンスや逃さへんでー』
「さよならのキスなんか、俺はしませんからね!」 『どーせならディープなヤツを頼むわ』
「必ず勝つと、それだけを言ってくださいっ!」 『なんなら、それ以上でもかまわへんで?』
俺の説得に美神さんが俺を見つめる。
「横島君……『
すぱーんと小気味良い音を立てて美神さんのハリセン突っ込みが俺に炸裂した。
「お前という奴わー!!」
『わいはワル無いで。素直な心で正直に言ったまでや、嘘吐くお前の方が悪い』
俺の怒声に『
『せっかく冷酷無情な女王様の仮面をかなぐり捨ててお前への愛を打ち明けてるのに……』
「誰が冷酷無情な女王様よっ!! キスしてやる代わりに言う事を聞けってつなげるつもりだったのよ!」
『
『その誘惑のった!!』
「ううぅ……俺って奴は……」
『
『な……なんか悪事の匂いがする……』
おキヌちゃんが小さく呟いた声は俺達には聞こえなかった。
「話は済みましたか?」
『うっしゃあ!!』
「うっしゃあ? 何であなたがそんなに気合入ってるんです?」
「あ、いえ。何でも無いんです!」
俺の『
そんな俺たちの様子を、さして気にした風でもなく小竜姫様は舞台に上がる。
「では……」
小竜姫様は一声告げると、一瞬にしてその姿が『
『用意は良い?』
「OK!」
小竜姫様の声に美神さんが短く答える。
『これは特別サービスです』
そう言って、小竜姫様が手を翳すと美神さんの『
『行きます!!』
短く告げた小竜姫様の声が、美神さんの『
長くなったので……次で妙神山篇は終了です。
でも第三夜は、もちょっと続きます。
夜:「次回で妙神山篇は最後だな」
今回は横島の『
夜:「能力的にも多少は違うようだが……やっている事はあまり変わらんな」
横島ですから(笑)
夜:「変更点は兎も角、コレが終れば……」
いよいよ出番ですね
夜:「うむ! 私の出番だ。私のシーンが増えるように脚本を頼むぞ」
急には無理ぐぎゃん
夜:「自分の限界を決めるのは、まだ早いとおもうぞ?」
言ってる事はかっこいいですが……釘バットかざしながら言うセリフではないと思いますよ?
暫しの沈黙の後、殴打音と絶叫が響いた。
そして再び、沈黙が訪れたのであった。 (終)
まだ終ってないです……がくっ