『行きます!!』


掛け声と共に小竜姫の斬撃が私の『影法師わたしに迫る。

私は咄嗟に武器で小竜姫の攻撃を受け止めると体勢を入れ替え間合いを開ける。


『防戦一方では勝てませんよ! 打ってきなさい!』


小竜姫の言葉を聞き流し、私はチャンスを待つ。

相手は小竜姫……まともに戦っても勝ち目は無い。

防御に徹すれば暫くは持ちこたえられる。一瞬でいい! 相手に隙が出来れば……。

そう考えながら私は横島に目を向ける。

彼の『影法師』は私の見たところ『煩悩』が大半を占めているように見えた。

思った通り、横島の『影法師』はキス目当てで私の指示通りに動いてくれているようだ。

それに私の作戦も彼の『影法師』を動かすには十分な内容だった。

後はタイミング次第!




GS横島

 第三夜  その6 〜竜に至る道 其の終〜 




  

「行くぞ!」

『応よっ!』


横島の言葉に『影法師』が頷き返し、静かに小竜姫の死角に回り込む。


『……どうやら防御に徹する気ですね。でも、そう何時までも続きませんよ』

『セクハラ、じゃなく反則御免―っ!!』「すんませんっ小竜姫様!!」


小竜姫の言葉が終わらぬ内に横島の『影法師』が背後から小竜姫を襲う……が。


『私には、こういう技も有りますから』


そう言った小竜姫の身体が一瞬の内に光に包まれ……加速した。


『あっ!?』


横島の『影法師』が攻撃がした所には既に小竜姫の姿は無く、

一瞬にして移動した小竜姫に美神の『影法師』が薙ぎ倒される。


「何!? 今のスピードは!? あんなの防げる訳無いじゃない!!」


ダメージによろめきつつ美神は呆然とした。そこに小竜姫の追撃が迫る。


『もう一回!!』


小竜姫のスピードが再び加速状態になる。だが、その時『影法師』の思考が横島に逆流した。


『その程度のスピードで、』「俺を躱せると思うなー!!」


一瞬、横島と完全にシンクロした『影法師』が加速状態の小竜姫に追いすがる。


「『こんにゃろーっ!!』」


ガシッ


「え……あのスピードに追いついた!?」


美神の驚愕を他所に『影法師』は小竜姫を捉える。


『な、何!? えっ……ちょっ……やめて……!! くすぐった……』

『美神さんからセクハラ許可は出とるんやーっ! こんなチャンス誰が逃すかいっ、観念しーやぁ!』


攻撃と言う名のセクハラをかます『影法師』に横島の意識が戻る。


「はっ……俺は何をっ!!て、おおぉぉぉ感触が、ぬくもりが、匂いまでもが俺の五感に響き渡るぅーっ!!」


が、『影法師』から伝わる情報に絶叫するだけだった。

背後から抱き付き小竜姫をセクハラ拘束する横島の『影法師』。

小竜姫は振り解こうとするが、『影法師』の素早い動きを捉えられない。


『今の内やで美神さん。でも出来れば、もちょっと待って……』


どこまでも素直で正直な『影法師』のセリフに美神はにっこりと微笑んだ……額に青筋を浮かべて。


「……諸共に……滅びろっ!!

『ちょっとソコは……!!


美神の『影法師』の攻撃が小竜姫の身体を捉えたと思った瞬間、姿が消える。


「え?」


よく見ると『影法師』の足元に元に戻った小竜姫が背中に横島の『影法師』を貼り付けたまま屈んでいた。


「あーっずるいっ! 途中で元に戻るなんてっ」

「ずるしたのは、貴女でしょう!」

「特例として助っ人を認めるって言ったわっ」

「あれはさっきの試合だけです!」

「そんな事、何時言った!? 何時何分何秒何曜日!?」


すでに子供の喧嘩のようなレベルで言い返す美神。


「とにかく今のは無効ですっ! もう一度やり直します!」

『えっ。じゃ……じゃあ今の手柄は……俺の命がけの行動は無駄!? 水の泡!?

そんなんずるいっ! そんなん嫌じゃーっ!』

「あ……あっ、やめなさい! わ!?」


絶叫した横島の『影法師』が急に歪んだと思った瞬間、形が崩れスルリと小竜姫の服の中に入り込む。


「ああっ、なんて羨まし……じゃなくて……おおぉ俺の全身に小竜姫様の感触がぁ……っ!?」


スライムのように形を崩した横島の『影法師』が小竜姫の身体を文字通り這い廻った。


『ここかーここがええのんかー』「あぁぁぁぁぁー感触が……俺の身体中に感触がぁー」

「や……ソコは……」


絶叫する横島と煩悩暴走中の『影法師』。

小竜姫は必死で、もがくが服の下で蠢く『影法師』を捉える事は出来ない。


「ちょっ……ちょっとナニしてんのよ!」


あまりといえばあんまりな様子に美神が声を上げる。


『美神さんの勝ちやと言えーっ! せやないともっと凄い事するでー』


そんな美神さんの声に目的を思い出したように『影法師』が答えるが……


『あれ? なんや? 背中に……鱗か?』


『影法師』の声に小竜姫が慌てたように声を出す。


「それに触っちゃダメー! それは逆鱗げきりんと言って、それに触ると……」


小竜姫の言葉に美神の顔から血の気が失せる。


「逆鱗ってマサカ!? 横島君っ!! ソコに触れ……」

「わっかりました! 逆鱗っスね!」

『ここが弱点やな! よっしゃー! いくでー……ぽちっとな』

「「「あ」」」


美神が返答するよりも早く横島の『影法師』が小竜姫の逆鱗に触れた。




カッ


閃光が走り、竜体と化した小竜姫が出現。

その日、妙神山修行場は壊滅した。
















「……と言う訳で、めでたく修行は終了。無事パワーアップ完了したわけよ」

「つまり、お金でサイキック・パワーの総合的な出力を上げたと……」


溜息混じりの口調で美智恵が言う……が、美神は笑いながら答える。


「それ、唐巣先生も言ってたわ。『それでは殆どお金で能力を買ってきたようなもんじゃないか!? ひどいことするなー』ってね」

「違うの?」

真顔で尋ねる美智恵に真顔で答える美神。


「違うわ。お金が有れば誰でも買える訳じゃないし、そのお金も私がGSの仕事で稼いだお金。

つまりGSとしての私の実績、今までの積み重ねよ。それと引き換えですもの。立派な等価交換よ。

ま、地獄の沙汰も……て言葉も有るし神様だって……ね」


そういって嬉しそうに微笑む娘の顔を、美智恵は微妙な表情で眺めた。


修行から一月後。

美神除霊事務所の応接室で美智恵が美神の妙神山での事を聞いていた。

竜化して暴れる小竜姫を令子達は法円を出ても消えなかった『影法師』を使い止めた。

令子の『影法師』の霊力と幽霊のおキヌちゃんを弓と弦に、横島君の『影法師』を矢に使用。

鬼門のアドバイスで見事小竜姫の額に当て暴走を止め、小竜姫を元に戻した。

だが、竜になった小竜姫が暴れまわった所為で修行場は壊滅状態。

記憶が無かったとはいえ自らの行いに呆然とする小竜姫だったが、そこに娘が声を掛けた。

『修繕費用を出す代わりに――』ということで、小竜姫から最期のパワーを貰ったと言う。


「だって、こっそり直せばバレ無いって小竜姫に教えてあげたら、

『建物を作る能力が無いって……直すっていったいどうやって……』って言って彼女、困ってたのよ。

私がお金、50億を出して一週間程で直してあげる代わりに、能力を上げて貰ったんだから立派なギブアンドテイクよね」


娘の言葉を聞いて、呆れたら良いのか感心したら良いのか迷う美智恵だった。

娘が妙神山に行ったと知った時には驚いたが、無事帰って来て事の顛末を聞いた時にはもっと驚いた。

と言うか、むしろ呆れた。

結果が良かったから良いようなものの……そういえば――。


「結果で思い出したけど……」

「なに、ママ?」


美神が口に紅茶を運ぶ仕草を眺めながら美智恵は聞かねばならない事を口にする。


「横島君にはキスしたの?」

ブハッ! ごほごほごほっ……な……なにを……」


派手に噴き出し咽ている娘を楽しげに見ながら、口調も楽しげに美智恵が続ける。


「あら? だってそういう約束で横島君に手伝わせたんでしょ?」

「ど……どうしてソレを?」

「おキヌちゃんを責めないでね。私が無理にお願いして聞き出したから」

「………………」


顔を真っ赤にして押し黙る美神……紅くなった顔は咽た所為だけじゃないだろう。

そんな娘の様子を眺めながら、美智恵は自分のカップに手を伸ばす。


してない

「ん? なに?」


美神の小さな呟きを聞き返す美智恵。眼が楽しんでいる事を現すように輝いている。

美神の方は俯いて耳まで赤くなった顔を隠しながら答えるのが精一杯の様子で声を出す。


「だから……してないっていってるのよっ!」

「……令子、約束を破るのは良くないわ」


真っ赤な顔のまま怒鳴るように答えた美神に、美智恵は額に手を当てて大仰な素振りで嘆いてみせる。


「そんな事言ったって……横島のやつ、覚えていないんだもの!」

「覚えていないって……?」


疑問符を浮かべた美智恵に美神は説明する。


竜化した小竜姫を止める為、矢として使った横島の『影法師』だが、小竜姫と打つかったショックで気絶。

勿論、『影法師』のダメージは横島本体のダメージであり、横島も同じく気絶。

気が付いた横島はショックの為、記憶が朧げで――。






「美神さん……なんか俺、美神さんと約束してましたよね?」

「えっ……そ、そうだっけ?」


横島の言葉に内心ドキドキしながら惚ける美神。


「約束が有った筈っスよ……手伝う代わりに確か……き……なんだっけ? き……なんとか……」

「き……給料よっ! そう! お給料。横島君アルバイト探してるって言ってたでしょ。

これからも手伝って貰う事になるんだから、お給料をあげるって話だった筈よっ!!」


一気に捲くし立てる美神。勿論、何か言いたげなおキヌに視線で釘を刺すことも忘れない。


「あれ? そうでしたっけ……」

「そうよ!」


思い出そうとする横島に美神が勢い良く断言する。


「じゃあ……」


言い掛けた横島の言葉に美神の第六感が囁き、横島の言葉を遮るように一言。


「時給255円」

「に……にひゃくごじゅうごえん!? 時給っスか!? マジっスか!?」


驚愕する横島に美神は真顔で頷く。


「どうせ、今まで無料だったんだから……それとも無料が良いの? 私は別に構わないけど……」

「……それでいいっス……」


拒否権は無く、すでに決定済みの美神の言葉にガックリと項垂れる横島。

今までよりマシかぁ……。呟いて自分自身を納得させる横島の背に哀愁が漂っていた。






「……で、『キス』が『給料』に替わったわけね」


呆れたように美智恵が美神に視線を向ける。


「だ……だって、私の方から『約束はキスする事』なんて言えると思う!? 絶対無理よ! だって……」


ますます顔を紅く染めて小さく呟きだした娘に美智恵は嘆息する。


「昔に比べて少しは素直になったと思ってたのに……肝心な所で詰めが甘いと言うか……」


溜息と共に呟いた言葉が娘に届かなかった事を確認しつつ、意味ありげに微笑んで美智恵は美神に尋ねる。


「令子。明日の夕方、少し横島君借りるわよ」

「えっ……別にいいけど? 今の所、大きな仕事は入ってないし」


突然の言葉にきょとんとした顔をする娘をみて、美智恵は意味深な微笑を浮かべて告げる。


「明日は帰らないかも知れないから、夕御飯は……」

「ちょっと、ママ!? 帰らないって……?」

「言葉通りよ。そうね……朝帰りになるかも」


意味ありげに微笑む美智恵に呆然とする美神。


「あ……あさがえり……」


絶句する美神に悪戯っ子めいた眼差しで美智恵が尋ねる。


「気になる? じゃあ、手伝ってくれるとママ嬉しいな。勿論、無理にとは言わないわ」

「い……行くわよ。べ……別に気にしてなんか無いけど。そ……そう! 修行の成果を実感したいし。

うん、それだけよ。それだけだからねっ」


かわいらしい言い訳を言う娘に、しかし美智恵は忘れずに確認を取る。


「言っとくけど報酬は期待しないでね。嫌なら……」

「こ……今回はサービスしてあげる。で、場所は? どんな仕事?」


(偶には、これくらい焦っても良いと思うんだけど……)


内心の呟きを隠し、予想通り慌て始めた娘に満足げな笑みを向けると美智恵は仕事の話を始めた。











妙神山篇終了っス。こんな感じになりました。

今回はSSって難しいって再認識した話になりました。

とか言いながら第三夜はも少し続くんですが……


ちょっと忙しかったので更新が遅れました(一日だけですけど)が

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幸いな事に夜は今回不在のようです

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急いだので改訂に甘いところがあるかもしれませんが、ご容赦願いたく思います

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それでは、次回も楽しんでくださいね。感想も掲示板に是非!

ごとっ

ひぃぃぃぃ………ってアレ?

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気のせいだったようです。とりあえず夜が帰ってこないうちにこの辺で

そして作者は脱兎のごとく逃げ出した




続く     戻る     目次