「はぁ……まさか、ここまで疲れる仕事だとは思わなかったわ」


美神は手荷物をテーブルに放り投げ、沈み込むように椅子に座る。

溜息とともに椅子に座り込む美神に、おキヌが気を利かせてお茶を入れる。


『でも、たいして強くなかったから怪我もしなかったし……』


おキヌが気を紛らわせようとするが、美神はゆっくりと首を振る。


「危険と疲労は別物よ。危険でも楽な仕事と、疲れるけど安全な仕事なら私は楽な仕事をするわ」


きっぱり言い切る美神におキヌは苦笑を浮かべて……ソファーに力尽きている二人に目を向けた。

ソファーの横には大きな――横島が背負うよりは少な目の荷物が2つ、置かれていた。


「せ……先生は、いつもこんな荷物を背負うているのでござるか……」

「手伝うなんて言うんじゃなかった……」


合流した途端、荷物もちに任命されたシロタマコンビはぐったりとソファーに寝そべっていた。

二人掛けのソファーに二匹の獣が大の字で寝そべっている。

うつ伏せで倒れ伏している二匹に美神が笑って声をかけた。


「あら、今日は少なかった方よ。それに報酬はあげたでしょ」

「うぅ……特上ステーキの栄養より消費が激しいでござるよ」

「特上油揚げのきつねうどんだけじゃ……足りない」


すでに顔を上げる力も無いのかうつ伏せたままシロタマたちの声が聞こえる。

そんなシロタマに美神は小さく苦笑する。


「ま、いくら人狼でもシロにはまだスタミナは無いか。速く走る事と重い荷物を運ぶ事は同じじゃないしね」


タマモに至ってはもとより体力不足だ。

それも考慮して荷物を分配したのだが、横島のようにはいかなかったようだ。


「こっちとしては安くついたからいいけど……」


ちなみに横島の時給より遥かに高い報酬(メニュー)だけれど、戦える人員と考えれば荷物持ちより高給でも仕方が無い。

もちろん、その戦闘を効率的にするには道具が――荷物持ちが必要なのだが。


「先生が居ないとは……」

「ヨコシマがいないんだったら行くんじゃなかった……」


二人の様子に、おキヌがホットミルクを淹れようと席を立つ。

美神はその様子をながめながら口元を笑みの形に歪めた。

もちろん、二人を手伝わせたのは美神だ。

シロには『横島はいつもこれ位の荷物を持ち除霊作業を手伝っている』といえばいい。

横島を師と仰ぐシロなら喜んで引き受けるだろう。

タマモは気紛れな部分が有るが、シロに対する対抗心で引き受ける可能性が高い。

更に前もって、食事に誘って『餌』を与えておけば更にいい。

ただし今回は、本当に予想外の仕事内容だった為、長引いて疲れたのは計算外だった。


「女子校生の鬱憤が霊障を起こす……楽で簡単な仕事だと思ったのに」


たしかに霊障を起こした悪霊は弱かった。

ただし、数が多かったのだ。

おかげで延々と単純作業な除霊を続ける羽目になってしまった。

恐るべし女子校、そして女子校生。

美神がそんな感想を浮かべながらお茶を一口。

と、おキヌが来客の名を告げて……美神はおキヌに聞き返した。

最初はおキヌに断りの伝言を告げるつもりだったのに、来た相手が――


「えっ!? 小竜姫!?」


自分で言った名前に、顔を蒼くする美神。


「ま、まさか……」


すぐさま美神の頭を過ぎったのは修行場の手抜き工事という、神様相手に普通はしない行いだった。


「どうしよう……きっと修行場を立て直すとき工事費ケチッたのがバレたんだわっ……!!」

『……そんなことしてたんですか』


あきれたようなおキヌの声も今の美神には届いてはいない。


「おキヌちゃん、お茶入れて、一番いいヤツ。あ、私が持っていくから……!」


おキヌに告げて、応接室の小竜姫をみる。

にっこり笑う小竜姫に美神は引きつった笑顔で応えた。




GS横島

 第四夜 その2 〜プリンス&プリンセス オブ ドラゴン〜 




「ひさしぶりに訪れましたが、ほんの200年で江戸の町もずいぶん変わりましたね」


そう言って珍しそうに辺りを見回す小竜姫。

もちろん美神は内心冷や冷やしっぱなしだ。


「ほほほほっ、どーもお待たせしちゃって。あいにくお神酒が切れてまして……」


言いつつ美神は、お茶をテーブルに置き小竜姫の正面に座る。


「お構いなく! 今日は忍びの用で来たのですから……」


そう言って、やや緊張の面立ちの小竜姫。

美神は僅かながら構え、小竜姫の言葉を待つ。


「実は……

私はとても困っているのですっ!!」

「ああっ!! ごめんなさいっ!! 何でもするから許してっ!!」


身を乗り出してテーブル越しに迫ってきた小竜姫に慌てて謝る美神。

そんな美神に小竜姫はホッと安堵の溜息をつく。


「よかった……!! 唐巣さんが外国に行ってて、あなたしか頼れる人がいなかったんです!」

「え? あれ? 手抜き工事の話じゃ……?」


ドキドキしている胸を押さえながら、美神は首をかしげた。






「竜神の王子と王女が行方不明!?」


小竜姫の言葉に驚きの声をあげる美神。

自分の手抜き工事の話ではなかったから驚きも一入だ

手渡された写真には12,3歳の少年と10歳前後の少女が写っていた。


「ええ。竜神王さまは今、地上の竜族たちとの会議のため、こちらに来ているのですが、

その間、ご子息たちを私にあずけて行かれたのです」


そういってうつむく小竜姫。


「それが、ちょっと目を離した隙に……」

「居なくなったという訳ね」


小竜姫が持参したビデオテープを見ながら美神は頷いた。

修行場の修繕ついでにセキュリティとしてつけた防犯カメラの映像が、

天竜童子たちの脱出劇を映し出していた


『フン! こんなこともあろうかと、父上の武器庫から天界最強の結界破りをくすねてきたのじゃ!』

……にいさま待って


ちなみに音声も収録されるので、声も聞こえる。

修繕費はケチったが使ったように見せるため機材をサービスしたのが役に立ったようだ。

と、美神が考えている間に、天竜童子と天竜童女は修行場の塀を乗り越え外に出て行く。

後は、鬼門の静止の声と、小竜姫に告げる声と、警報の音が響いていた。


「で、あわてて後を追ったのですが、人間の都は勝手がわからず……」


こまったように頬に手をあて目を瞑る小竜姫。


「ふーん。神さまも人間もガキは似たよーなもんねーー」


呆れたような声を出して美神は苦笑する。


「他に頼れる人が居ないのです! どーか探索を手伝ってください!!」


居住いを正し、美神に探索を依頼する小竜姫に美神は両手を組んでにっこりと笑った。


「OK! 神さまに恩を売る機会なんてめったにあるもんじゃないわ!」

「……なんとなくあとが怖いけど、よろしくお願いします」


即答する美神に小竜姫は複雑そうな表情でこたえた。






「でも、その前に……」

「なんですか?」


美神の言葉に小竜姫は首をかしげた。






『……我らの考証にケチをつけ、こんな妙なカッコウをさせおって……』

『みっともない……!』


黒い帽子とスーツ姿の鬼門が文句を言いながら歩いている。


「あんたたち、いつの時代の考証してんのよ!」


美神は呆れていいのかツッコンでいいのか迷っていた。

小竜姫の格好は一昔どころか、江戸時代まで遡る格好――いわゆる時代劇に出てきそうな服装だった。

当然のように事務所の外で待っていた鬼門たちも似たような格好だった。


「郷に入れば郷に従うべきでしょう! 美神さんの言うとおりになさい!」


鬼門の様子に小竜姫が鋭く注意をする。

美神に目立つといわれて、渋々着替えに応じたのだ。

もちろん小竜姫も美神が用意した服に着替えていた。

パッと見、女子大生のような服装は、横島が見れば『小竜姫さまがミニスカですか!?』と叫びそうだ。


『小竜姫さまも似合いますよ』

「からかわないでください! 私だって恥かしいのをガマンしてるんです!」


おキヌの『似合っている』という言葉も、小竜姫には恥かしい格好のことを言われたとしか思えない。


「魔物に見つかる前に早くお捜ししないとっ……!! 殿下、姫様……無事でいてください……!!」


それでも小竜姫は殿下たちの無事を祈りつつ街を歩いた。






「わっ!! わっ!! す、すごいっ!! あっ、てれびじょおんに色がついてるっ!!」

『小竜姫さま危険ですっ!! うかつに近づくと何が起こるか……!』


街を歩き始めて直ぐに周りの光景に騒ぎ始める小竜姫。

はしゃぐ小竜姫とは対照的に妙にオドオドしながら注意を促す鬼門たち。


「なんです、ここは!? 『コンチパ』!? お祭りの一種ですかっ!?」

「左から読むのよ、それは!」


小竜姫の質問に、美神は呆れたような声音で答える。

ま、神さまからみれば人間の進歩の速度はかなりのものなのだろう。

だからと言って、いつまでも小竜姫がこの調子のままでは話が進まない。


「そんなことより竜神の王子たちを捜すんでしょう? きょろきょろしてると自分が迷子になるわよ!」


美神の言葉にハッとして自分の行動を反省する小竜姫。


「あ。そ、そうでした! こんなところに、まだお小さい殿下たちがいると思うと……もう心配で心配で……!!」


気を取り直して小竜姫は顔を上げる……と。


「わ!? なんですかっ このハダカの女性はっ!? 『国天んらんい妻人』!? この中ではいったい何が……!?」

『良くわかりませんけど、大人の人しか見ちゃいけない映画らしいですよ』

「説明せんでいいっ!!」


驚きの声をあげる小竜姫におキヌが説明し、美神がツッコンむ。

小竜姫たちは放って置くと色んなものに興味を惹かれて立ち止まる。

ので、さっきから説明したり、注意したり、突っ込んだりと大忙しだ。


「それでは入ってみましょう!」

『大人の人しか見ちゃいけない映画ってどんなんなんでしょう!?』

「ちょっと待てい!!」


油断してると、とんでもない所に行きそうな小竜姫たちに美神は激しくツッコンだ。






『それにしても何て数の人間じゃ……!!』


鬼門たちが驚きの声をあげる。

鬼門たちが知る昔の日本ではお祭りでもなければ、こんな人数は集まらなかったのだろう。


「まったく! 人混みなんか大嫌いだけど、道路も渋滞する時間だし……」


美神としては車で行きたかったところだが、車が使えない以上、歩くしかない。

小竜姫の説明で、天竜童子たちがデジャブーランドを目指していると推測した。

だからこそ美神は一番早い方法で向かっているところだ。


「とにかくデジャブーランドに行きたがってたんなら、そこから捜しましょ! 電車に乗るからはぐれないでよ!」


一声かけて小竜姫たちに注意を促して――。


「え? しょ、小竜姫さま!? おキヌちゃん……!?」


人ごみのなか、辺りを見回すと鬼門たちだけが側にいるだけ。


「い……いきなりはぐれた……!!」


美神は、いきなり頭の痛くなる状況に呆然とした。
















夜:「言い残す事は無いな」

いきなりソレですか!? しかも尋ねるのではなく確認だし

夜:「貴様も某丘の上の磔台に某聖者のように縛られている割には余裕だな?」

はっはっはっはっ(乾いた笑い) 何を言っても逃げられそうに無いですから(血涙)

夜:「で、何か言う事は?」

えーと、引越しの作業が予定以上に掛かったのと、久しぶりに貯まっていた小説を読んで……

夜:「……それで?」

……え、えーと、一応書いてはいたんですが、本編より番外編が進んじゃって……

夜:「で?」

そ、それでですね、番外編はココで上げようか、他所の掲示板に一度投稿しようかなんて考えてまして

夜:「…………」

も、もちろん今も本編の執筆中に後書きを書いているわけですが……いや俺的には今週一杯GWなわけだし

夜:「なるほど」

わ、わかっていただけましたか!? いやー言ってみるもんですね

夜:「うむ。それに流石に槍の本物は手に入らなかったので……」

えっ!? 処刑中止!?

夜:「本物に似せた贋作(レプリカ)を用意した」

やぱしね……はぁ……みじけぇ夢ザクだっサクたなドス

夜:「(りそう)を抱いて溺死しろ」

いや、刺殺ですよ? これ……がはっ(吐血)




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