「……つまり、妹が世話になったと言う事か」
「まあ……な」
ようやく事情を説明できた俺は改めて目の前の少年をみる。
年恰好は12、3歳ぐらい。腰辺りまでの鳩羽色の髪を後ろで縛っている。
よく見ると頭に角が生えているし刀と服装も……あれ? もしかして。
「おまえら、小竜姫さまの関係者か?」
びくっ
二人の身体が一瞬大きく跳ねるように震えた。
急激に顔色が変わり、明らかに怯えている。
特に少年の方は顔が蒼白を通り越して白に近い。
「おっ……おまえ、小竜姫を知っておるのか!?」
「やっぱりか。なんか似たような感じに視えたから……」
「さてはおまえは小竜姫の放った追手かああっ!! 近づくなー!!
小竜姫のお仕置きは過激なのだ!! 近づけばこの場で自害するぞっ!!」
「……なんか判らんが、違うから安心しろ……ってゆうか、刀をしまえ!!」
気が付けば俺は再び白刃取り状態、切りかかられている俺。
こいつ、言ってる事とやってる事が違うぅ。
「ほ、本当だなっ!? ぼ……僕は小竜姫なんかちっとも怖くないぞっ!!」
びくびくしながら言われても説得力はない、が……。
「だから、そのまま押し切ろうとするんじゃねぇー!!」
俺の絶叫が薄暗い路地裏に空しく響いた。
GS横島十夜
第四夜 その3 〜プリンス&プリンセス オブ ドラゴン〜
「おまえら竜神の子供か?」
「……なんだ、僕を知らんのか!? 僕は天龍童子! 竜神族の王、竜神王の世継ぎなるぞ!」
偉そうにのたまう少年……天竜童子。
「そして、こっちが天竜童女。僕の妹だ」
さっきから無言で俺を見ている少女……天竜童女。
さっきの俺と童子の死闘を無言で、と言うより止めようとしていたらしいのだが小声すぎて聞えなかった。
かろうじて口の動きに気付いた俺が童子に告げて一息ついたところだ。
一息ついでに自己紹介をしたのだが。
「王の世継ぎ? 偉そーなのは、その所為か……」
「無礼者っ!! 身分をあかした以上、頭を下げて殿下と呼ばぬか!」
偉そうにのたまう天竜童子を
ひょい
と小脇に抱え上げる。
「ま、ともかく小竜姫様が、おまえらを捜してんなら身柄を拘束しとけば美神さんが喜ぶだろう!」
「あ゛あ゛ーっ、放せーーっ!! いやだーーっ!!」
一転して半泣きになりながら叫ぶ童子。こうなったら威厳もなにもないな。
くいっ
「ん?」
ジージャンの裾を引かれて視線を向けると
上目遣いで小さく震える童女の姿。
むぅ……童子はどうでもいいとして、この子はかわいそうだな。
いっそ、童子を生贄に小竜姫さまに頼んで……
と、俺が考えていると雰囲気を察したのか童子が必死になってもがく。
「そ、そうじゃ!! おまえ、金は欲しくないかっ!?」
「!!」
いきなりの童子の提案に一瞬動きの止まった俺に差し出された童子の手には――
「こ、小判じゃねーか!!」
「遊ぶための軍資金じゃ! 昔、人間どもが奉納してきたものをくすねてきた!
家来になれば好きなだけやってもいいぞ!!」
受け取った小判はずっしりと重く、重さに比例して俺の心に幸福感を与えてくれる。
「好きなだけ……!? マジっすか!? すると……すると……一生左うちわかっ!? マジで!?」
俺の脳裏に様々な未来が浮かぶ。
これは人生のターニングポイント? ならば俺の取るべき道はひとつ!!
「なんなりとご命じ下さい」
瞬時に片膝をつき、臣下の礼をする俺。
「頼んでおいてなんだが……お前、結構邪なヤツだのう……」
頭の上のアオが一声鳴いた。
童子の呟きを俺は聞こえなかった事にした。
妹を気にしながらも、先を急ぐ天竜童子。
「まって……」
天竜童子の後を追う天竜童女。
おれは『デジャブーランドに行きたい』という彼らの願いを聞き、案内する事にした。
もちろん、小判をせしめた後は美神さんに突き出すつもりでいた。
まぁ、彼らにはその辺りは仕方が無い事と諦めてもらおう。
可哀想と思えなくも無いが、ココで見逃せば俺の命が危険に晒されるのだ。
この条件に、小竜姫さまが加われば俺の取るべき道など限られている。
と、そんな事を考えていたので、前を歩く童女と距離が開いてしまった。
「あまり急ぐとこけるぞ」
と童女に注意する。
その小さな体が横手から出てきた人影にぶつかった。
路地から出てきたのはマントを羽織った人影。
体をスッポリとおおうマントに顔までフードで隠した性別不明な姿。
一目見て怪しい人物だった。
突然現れた人物に、俺の勘が告げる!
アレは美人だ……と。
だが、正体不明な人物には違いない。
そして、こんなときに童子は気付かず先に行ってるし。
俺は慌てて童女の元に駆け寄る。
ガクンッ
駆け寄ろうとした俺の足元が何かに引っ張られた!?
「何だ!?」
あわてて足元を確認する。
にゃーにゃーにゃー
「……新手?」
しっかとしがみ付いている子猫が数匹。
にゃーお(すいやせん、だんな。こいつらは、あっしが送っていきやす)
アオが俺の頭の上で一声鳴くと、ようやく俺の頭の上から飛び降りた。
そして俺の足元に群がる子猫たちをつれて行ってくれる。
「だいじょうぶかい」
その声に顔を向けると、ぶつかった拍子に転んだ童女をフードの女性が立たせてくれていた。
「う……ん」
小さな声で返事をする童女。ビックリしてはいるが怖がっては居ないようだ。
俺は少し安心して童女の方に歩きだ――
にゃーにゃーにゃー
――子猫が離れるまで待ちながら様子を見ていた。
「そうかい……気をつけな」
そういって童女の体の砂埃をはらってやっている。
ふと、女性の視線が下を向いた。地面に落ちている札を拾い上げる。
「これはアンタのかい?」
「……うん」
小さく頷く童女に彼女は札を手渡してやる。
うーん、やさしいなぁ。ここからでは顔が見えないのが残念だ。
「大事なものなんだろう? ちゃんと持ってなよ」
そう言って彼女は去っていった。
去り際、彼女がこちらを見た気がしたけれど、顔が見えないので……気のせいか?
子猫たちから開放された俺が童女の側まで行ったときには既に彼女の姿は見えなくなっていた。
しかし俺の勘は益々彼女が美人であることを告げていたので、是非お知り合いに成りたかったのだが……残念だ。
なにせ童女が俺の服をつかんで離してくれないのだ。
子連れのナンパはただでさえ低い俺の成功率を更に下げるだろう。
今の俺のレベルではとてもじゃないが不可能だ。
彼女の去っていった方向をみながら、そんな事を考えていると、袖を引っ張られた。
「行こ……にいさまが呼んでる」
そういって童女に引っ張られて歩き出した。
と、向こうから童子が駆け戻ってくる。
「何をしておる! 愚図愚図せずに早く来い!」
偉そうにのたまう童子に軽く溜息を吐きつつ。
俺は童女とともに路地を抜けた。
で、俺たちがデジャブーランドに行ったのかといえば。
「横島! これは何じゃ? あっ、あれは……」
「にいさま……これ……」
デパートにいた。
まぁ、童子たちには珍しい事に加え、デパートの玩具売り場は子供達にとっては行きたいところの一つだろう。
デジャブーランドに向かう途中のデパートに童子たちが引き寄せられたのも仕方が無い。
「おれも昔は親父らにねだったっけ……」
結局買って貰えなかった玩具を思い出しながら、昔の自分を思い出す。
「人間の子供はいいのう……」
子供連れの親子を見て、そう呟く童子。
俺の視線に気付いたのか童子はぷいと横を向いた。
「とうさまは忙しいから……」
童女が童子の代わりに答えてくれる。
「そっか、おまえら寂しいんだな」
父親が竜神王なんて役職なら、子供と遊ぶ時間もなかなか取れないんだろう。
俺もウチは共稼ぎだったからその気持ちは少しはわかるつもりだ。
「……わかるつもりだが……照れ隠しに斬りつけんな!!」
「僕は別に寂しくなんか無いぞ!!」
くっ……白刃取りをチト失敗。
額から流血しながら俺は童子と暫しにらみ合う。
いいかげん勘弁して欲しいんだが……マジで下克上するぞ。
「……にいさま」
と、童女の声で俺と童子の対立はようやく収まった。
「……おしっこ」
もじもじしながら小さく呟く童女に俺と童子の二人の動きが止まる。
瞬時に……俺の脳に解決方法が浮かぶ。
まず、ココはデパートで。
デパートには公衆トイレが有って。
つまり問題は。
童女が一人ではトイレに行けない事なのであって。
良く考えると、妹の世話は兄が見るのが当然じゃねぇか。
いやー良かった、良かった。
コンマ2秒ぐらいで思考を終えると、童子に振り向き笑顔で促す。
もちろん抑えられない笑顔は、自分の身に降りかかる危険性を回避できるからだ。
「じゃあ、天竜童子……」
後の言葉は続かなかった。
居ない……もちろん童子だけが居ない。
「逃げやがったな!?」
くいっ
「……おしっこ」
タスケテ神様〜〜〜!!
て、神様いるじゃん!! しかも目の前に!!(涙)
結局……通りがかったデパガ(デパートガール)のお姉さんに助けてもらいました。
ありがとう、神様デパガのお姉さん。
出てきたデパガのお姉さんにお礼を言っていると、童子がひょっこり帰ってきやがった。
「おお、済まんな。僕も、ちと野暮用で……」
ぐりぐりぐりぐり
俺は無言で童子のこめかみに拳を押し付ける。
通称、梅干(グリコともいいます?)だ。
「いたたたたたっ。ぶ、無礼者!! 何おぉぉぉぉ」
ぐーりぐーりぐーりぐーり
いきなりの攻撃に非難の声を上げる童子を無視し、俺は更に無言のまま拳に力をいれる。
「いたっいたっいたたっ……わ、悪かった、僕が悪かった。だから……」
ようやく反省したらしい天竜童子を解放し俺は溜め息をつく。
童子は涙目でコチラを睨んでくるが、俺の方が『ある意味命がけなんだぞっ!!』と言いたい。
傍から見たら怪しいお兄さんに見られてしまうかも知れないし。
何より会わないとは思うが万が一、知り合いにでも会った日には―――。
「次、何処行くの?」
袖を引かれて嫌な想像から帰還した俺に、天竜童女がポツリと呟く。
「ああ、そうだな。そろそろデジャブーランドへ……」
天竜童女の言葉に、彼女の頭を撫ぜながら時間を確認。
――したところで天竜童子が焦ったような声を出した。
「あっ、アレは!? 鬼門か!? マズイぞっ、横島!!」
「どした!?」
「あいつら人間に化けているが、鬼門の二人じゃ!!」
天竜童子の指した方向には黒尽くめのスーツの……鬼門!?
「あれ、鬼門か!? じゃあ……って、美神さんも居るのでは!? て事は!!」
「そうだ、小竜姫が来ておるのだっ!! 急いでこの場から離れなくては……っ!!」
「俺も、この状況は非常にマズイ気がするので、その意見には賛成だ……っ!!」
逃げ出す童子&童女と俺。
『あっ! で、殿下!?』
鬼門の声が聞こえた気がするが、気のせいという事で無視だ。
俺は童女を小脇に抱えると、童子を先頭に一目散に逃げ出した。
夜:「本来なら恒例の時間なのだが……」
……………
夜:「流石に贋作は効いたようなので」
……………がはっ(吐血)
夜:「とどめの時間に変更する事にした」
容赦なしですかーー!?
夜:「なんだ? 結構元気でないか」
いや、たとえ瀕死でもツッコまずには居られない気がして……
夜:「安心しろ」
え?
夜:「楽には死なせん……いやむしろ生かそう」
死刑宣告よりもキツイ半殺し宣言ですか!?
夜:「ソレが嫌ならキリキリ書け……特に私の出番を」
あ、今、本音がべぎょ!?