ガックリと肩を落とす美神を気にせず、魔物たち(イームとヤーム)は童子たちと向き合う。


「きっ、貴様らっ!! こんなことをしてただで済むと思っておるのかッ!!」


緊張した表情で童女をかばいつつ童子が魔物を睨みつけた。

魔物たちは童子の視線をあまり気にせず軽く肩をすくめる。


『もうしわけねえですな、殿下。俺たちにも事情ってもんがあるんでさ」

「ぼ、僕たちを殺すのかッ!?」


童子の言葉にビクリと童女の身体が震えるが、魔物たちは逆に驚いたような表情になった。


『こっこここ!?』

『ご冗談を! いくら俺たちでもそんなだいそれたこたしやせんよ。

竜神王陛下の竜宮での会談が終るまで閉じ込めるだけでさ』


魔物たちは心外だと言わんばかりの表情で童子の言葉を否定した。

その表情からは嘘を言っているようにはみえない。


「ほ……本当か!? 僕は少しも怖くないぞ!! 嘘だったらただじゃおかんからな……!!」

『ほ、ほほほ本当なんだな』


緊張のあまり震えそうになる声で童子が尋ねる。

そんな童子に長身の魔物(イーム)はどもりながらも頷いた。


 ヴュンッ


『! だんな……!?』

「ご苦労! イーム、ヤーム!」


部屋に突然現れた魔物に、少し驚いた表情でモヒカンの――ヤームと呼ばれた魔物が声をかける。

そんなヤームたちに一言ねぎらいの言葉をかけたのはローブ姿の人物だった。


(!! こいつ……ただの魔物じゃない……!? 少なくとも小竜姫クラスの霊格……!!)


現れた新顔の魔物の力を瞬時に美神は感じ取った。

脱出の機会を窺っていたのに、とんでもない強敵が現れたのだ。

横島と童女が『アレ?』てな表情を浮かべたのにも気付かないほど美神は緊張する。

美神は内心の焦りを知らぬげに、魔物たちがローブの人物に笑いかけた。


『へっへっへっ、それじゃあ約束の礼の方は……』

「うむ! 受け取れ……!!」


ローブ姿の魔物がヤームに一言告げた途端、横島たちを含めて囲むように3個のオブジェが出現した。


 バシュバシュバシュ


『こっ……こりゃあ火角結界……!? だ、だんなっ!! これはいったい!?』


現れた板の様な物体に、驚いて説明を求めるヤームにローブ姿の人物は冷笑で応える。


「知る必要はない! 大人しく死ね!」


ローブ姿の人物は、ヤームに告げると瞬時に姿を消した。


『ア、アアアニキ……!! ど、どどどどーいうことなんだな!?』

『チクショー!! ハメられた……!! あの野郎ハナっから俺たちごと殿下を消す気だったんだ……!!』


あせり、騒ぎ、怒り出す魔物たちを無視して美神は周りを囲む結界に神通棍の一撃を叩きつけた。


 ゴキン


だが、まるで金属の塊を打ち据えたような音が響いただけで結界はビクともしない。


「なんなの、この頑丈な結界は!?」


あまりに強固な結界に美神は驚きの声をあげる。


「カ、カウントダウンしてるみたいっスけど……!?」


横島に言われるまで無く、こういう展開にお約束の数字表示が見えていた。

周りを囲む三枚の板のうち一枚の上に数字が浮かびカウントするように減っていく。


『こいつは中に閉じ込めた物を吹っとばす超強力な結界だ……!!』


あまりにも嫌な展開を、小柄なヤームが補足説明をしてくれた。


「なに!? 私まで巻き添えで死ぬわけっ!?」

「ひええっあと3秒ーー!!」


もっとも教えられても嬉しいわけでもない。

むしろ最悪の状況に美神は大声で怒鳴り、横島は焦りまくる。


時間切れ寸前の状況下で、横島はハッとした。

様々な経緯で鍛え上げられた生存能力が横島に生き残る術を囁く。

相手が結界なら自分には出来る事がある!! と。

この緊迫した状況で、頭のどこかで冷静な部分があることに感謝しながら横島は美神に向き合う。

同じく、この状況下でも諦めない美神の強い意志を宿した眼差しが 

『なに? つまらない事なら即座に殺すわよ?』と言っているのに怯まないように努力しつつ。


「こうなったら俺が蒼眼で!!」

「この土壇場にあんたはソレかーーっ!!」


 ぼぐぅ


ナイスな筈の提案は、美神の一撃で粉砕されたのだった。


 ドグワァァッ


美神の一撃で意識が無くなる寸前の横島の耳に爆発音が聞こえた気がした。




そしてその頃、小竜姫とおキヌちゃんは――

「あの……ここはいったいどこなのでしょう?」

なぜか大阪で道に迷っていた。




GS横島

 第四夜 その5 〜プリンス&プリンセス オブ ドラゴン〜 




『――こちらは突然大爆発を起こしましたシャングリラビル現場です』


アナウンサーらしき声が辺りに響く。


『ごらんのよーにビルは跡形もなくありません』


アナウンサーの説明に、あの爆発がどれほどの威力だったのか知らせている。


『爆発当時、除霊事務所以外には誰もおらず、通行人などにも被害は――』


爆発の規模にしては奇跡的とも言える人的被害の少なさをアナウンサーが淡々と読み上げる。


『GSの美神令子さんとアシスタントの横島忠夫さんの安否は、まだ確認されておりません』


唯一の犠牲者の可能性がある二人の名をアナウンサーは読み上げ、手にしたレポートをめくる。


『美神さんは高額の報酬を要求するGSとして知られており、警察では怨恨の線からも捜査を進めて――』


 ガンッ


「黙って聞いてりゃ人を悪徳高利貸しみたいにっ……!!

勝手なことばっか言ってんじゃないわよっ!!」


叩きつけ壊されたテレビの音と美神の声で、横島はゆっくりと目をさました。


「う……う〜〜ん」

「横島が気付いたぞ!」


まだボンヤリとする頭をふりながら身体を起こす横島に、童子が気付き声を上げる。


「あ、あれ!? ここは……? 俺たち死んだっスか……?」

「あんたと心中なんて……私がすると思う? 気が付いたんならさっさと手伝ってよ」


美神の答えに、横島は改めて辺りを見回す。

トンネルのような場所に水が流れていて、その脇の通路のような場所に横島は寝かされていたようだ。


「な……!? なんですかここは……!?」

「ビルの真下に通ってる下水道よ! こんなこともあろーかと緊急脱出用のシューターを、

ビルのオーナーに内緒で作っといたの!」


美神の言葉に『違法改築』などの言葉が横島の脳裏に浮かんだが、言葉にしたのは別の疑問。


「……良く間にあいましたね」

「運良く僕たちが天界の結界破りを持っていたからな!」


助かったのは嬉しいが疑問一杯の横島の呟きに童子が勢い良く答えてくれる。


「……よく3秒でそこまでやれたなーー」


もちろん無事だからこそ思うのだが、あの短時間でどうやったのか益々気になる横島だった。


「あんた何か不満でもあるの!? あんただけ置いてきても良かったのよ!」

「い、いや、私は生きてるだけでもーシヤワセでございます!」


美神の剣幕に、横島は『ただちょっと疑問に思っただけで……』と心の中で呟いて、考えない事にした。


横島が微妙な表情で静かになったので美神は下水道に浮かぶボートに声をかける。


「バッテリーの用意はできた?」

『い、い、いいと思うんだな』


返事をしたのはイームと呼ばれた魔物のひとり。


「あッ……! てめーら……!」

「ま、とりあえずその事はあとよ!」


横島が驚き、文句を言う前に美神が横島の言葉を遮り、ボートに乗り込む。


「とにかく乗って! こいつで小竜姫のとこに合流するわ!」


横島としては納得行かないまでも、状況が解決していない雰囲気に、おとなしくボートに乗り込む。


「……これもやっぱこんな事もあろーかと用意しといたんスか?」


とりあえずあまりにも準備のいい美神に横島が呆れたような声で尋ねる。


「まーね。ギャラ払えない客の持ち物を差し押さえたりとかは、たまにあるから」


サラッと返された答えに、『ほとんど悪徳高利貸し……』と思った横島は、

ある意味予想通りの返答にようやく納得した気分になった。


「あ、そー言えば、美神さんボートの免許持ってたんスね」


急発進して快調に走り出したモーターボートに、手持ち無沙汰の横島は何となく美神に話し掛ける。


「ダイジョーブよ。ボートってのは運転できるように出来てるから」


流石は美神さんだなぁと考えていた横島に、美神の奇妙な返答が耳に届いた。

聞き間違いかと横顔を覗いてみるが、『何?』という美神の視線に横島は判ったような気がした。


「……つまり持ってないんスね」

「ゲームなら得意よ。それにもう動いてるから問題なし」


それでも再確認してみた横島は美神の返答に出来る事なら、すぐさま降りたくなったのだった。


地下下水道は思ったより広く、モーターボートで直進する分には問題ない程度の広さがあった。

美神はいざという時のための脱出経路として用意していたので、出口はわかっていた。

このまま進めば河川に出る筈なので東京湾に抜けて、そこから小竜姫たちの元に向かえばいい。

と言う事で、ようやく本格的に一段落ついた美神たちだったが、先程の謎のローブ姿の人物が気になる。


「……さっきの魔物、ただ者じゃなかったわ。なんとかこれで裏をかければいいんだけど」


霊能力者の直感で、一筋縄ではいかない相手だと悟った美神が独り言のように呟いた。


「なんでこいつらも一緒なんスか……!? こいつらのせいで俺たち死ぬとこだったんスよ!!」


横島としては、ローブ姿の人物も気になってはいたが後部にいる敵だったはずの魔物たちの方が重要だった。


「最初に、アンタが逃げなきゃ、こんな事にならなかったかもしれないんだけど?」


だが、氷のような美神の声と視線に横島の額から汗が流れる。


「しかたなかったんやああっ!! 他に選択肢が無かったんやああっ!!」


叫びながらボートの縁に頭を打ち付ける横島。

そんな横島に僅かに美神は苦笑して、前方に視線を戻した。


『殿下……!! 申し訳ありませんでしたッ!!

俺……俺……利用されているだけとも知らず、大それた事を……!!』


その魔物たちのひとり、モヒカンのヤームが暑苦しい顔を涙で更にうっとおしくしながら童子に土下座していた。


「もうよい! 僕と、この女の機転があったとはいえ、

お前たちが連れ出してくれねば間に合わなかったであろう。

そんなことより、なぜこうなったのか話せ!」


ひたすら謝罪しつづけるヤームに童子は、罪は問わぬとばかりにヤームに告げ事情を聞く。

童女も童子の後ろで小さく頷き、静かに様子を見守っていた。




ヤームたちの話は要約すれば、職務怠慢で降格された元竜神族の下級官吏が

竜神王と、その子息たちを恨んでいた――いうなれば逆恨み的状態のところ、


『そこへ、あの者が現れやして、恨みを晴らし役人に戻れるチャンスだと……』


唆されて、あっさり引っかかったということだった。


「何? それじゃさっきの奴、竜神のエライさんだったの!?」

『正体はわかりやせんが、本人はそのように言っておりやした。

なんせあれほどの霊格、まんざらウソでもなかろうと信用したんでやす』


美神がローブ姿の人物の正体をヤームに聞くが、ヤームは確証は無いと言う。

そんなヤームに美神は呆れたような視線をヤームに一瞬だけ向けると顔を前に戻す。


「んな手に引っかかるなんてバカじゃないの?

竜神なんかやめていかがわしい新興宗教にでも洗脳してもらえば?」

『は……はっきり言うな……!』


美神の追い討ちをかけるようなセリフに、ヤームは居た堪れない気持ちのまま言うしかなかった。

だが、それくらいで美神の気分がよくなるはずも無い。

なぜならば。


「こんっなに支出がはげしい仕事は初めてだわ!

後片づけを考えただけでも頭痛い。

どーせ小竜姫は金なんか持ってないだろーし……

どーやって元とってやろう……!!」


その呟きを耳にして、横島は内心ドキドキしまくっていた。

なにせ、小判のこと知られたら全部取り上げられるのは間違いないのだ。


「とにかくまず、あの謎の竜神を血祭りにあげないと気がすまないわっ!

そのためにも早いとこ小竜姫とあわなくっちゃ……!」


とにかく今は、美神の注意は謎の竜神に向けられている。

なんとかここはしのいで左ウチワな人生を確保しなければと、横島は決意するのだった。
















夜:「日が沈んだので回収したこの物体……」

……………

夜:「干からびた物体を水を張ったドラム缶に入れて……」

……………

夜:「さらに、焼いた石を放り込んで、石焼なべ風にすれば良いな」

……………

夜:「ふぅ。いい感じで煮立って……」

ぐわぁあぢっばぁあちぃごべぇあつぅぐは……げへっごほっがはっ……し、死ぬかと思った。

夜:「やっと戻ったか。さっさと始めるぞ」

ちょ、ちょっと待ってください。今回はもう終ったのでは?(滝汗)

夜:「今回はすぺしゃる企画のため、後書きもあるのだ」

い、いや、ほら、特別企画の入り口の告知で止めときましょうよ、ね?

夜:「そうだな」

判っていただけましたか!

夜:「ヒントはタイトル、こやつが貼り付けられた事のある物体の形が入り口だ」

あー……告知するのはいいのですが、その手に持っている凶器は何でしょうか?

夜:「これか? ただのフライパンだぞ。まぁ多少灼熱して真っ赤になっているが」

多少ですか……

夜:「うむ! 夏らしくアツくいこうとおもってな」

もうアツいのはいやだぁぁぁぁ(絶叫)




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