「よし、話はわかった! おまえたち、僕の家来になれ!」

『えっ……! な、なんともったいない……!』


ボートの後部で童子がイームとヤームに家来宣言する。


「おまえらも根は魔物ではないのであろう。家来になれば、これまでのこと父上にとりなしてやる!」

『あ……あ……ありがたきしあわせー!!』


童子の言葉にイームとヤームが感涙しつつ童子に感謝している。

傍から見れば時代劇のノリだ。


「どーじゃ横島!! わずか一日で家臣が、こんなに増えるとは

僕の徳はスゴいだろう!! 我ながら名君であるな!」


そんな背後のノリを聞きつつ、ボートの助手席にいる横島は考え込んでいた。


「ん? どうした?」


返事をしない横島を訝しげにみて童子が尋ねる。


「え。あ、いや、ちょっと考え事を……」


一瞬だけ美神の方を気にしつつ、横島が童子に返事を返す。

が、童子はその仕草にわかっているといわんばかりに頷く。


「小判のことなら心配するな! 家臣が増えてもちゃんと約束どーり……」

「わーっわーっ!!」


童子が『小判』のことについて話そうとするのを横島は大声をあげて遮る。


「? 何の話?」

「なんでもないっス!! ちょっと左ウチワ……じゃない、ウチワの話でっ……!!」


必死で誤魔化そうとする横島。

今の美神にバレたら間違いなく自分の取り分は無くなる。

自分自身の幸せのために横島は必死で考える。

良い考えはないかと何となく顔を向けた横島の視界に何かが見えた。


『!?』


少し遅れてイームも気付いた。


『どーした!?』

『い、今うしろで何か光ったんだな……!』


イームの様子にヤームが気付き、皆がその方向――背後に視線を向けた。


見えたのは空を飛ぶ巨大なヘビのような化物。

その大きく開けられた顎には鋭い歯が並んで見えた。


「な、なんなの、あの大口の化物(ビッグ・イーター)の大群は!?」

『あ……ありゃあ下等な魔竜の一種ですぜ!! 俺たちが助かったのがバレたんだ……!!』


美神の驚愕混じりの質問にヤームが驚きながらも答える。

ヤームの答えに美神は素早く操縦席にあるスイッチに手をかける。


「とばすわよ!! スーパーニトロターボブーストチャージャーON!!


ボッ……ドガン


美神の掛け声と共にボートが爆発的な加速を開始する。


「わーーっ!!」


急加速にあげた横島たちの声は、背後に迫る大口の化物(ビッグ・イーター)への悲鳴に変わる。


襲い掛かる大口の化物(ビッグ・イーター)に童子が応戦しようとするが疾走するボートの揺れで反応が遅れた。

だが、イームが角からの光線で童子たちに襲い掛かる大口の化物(ビッグ・イーター)を撃ち落す。


「大丈夫!! このまま振りきりましょう!!」

「み、美神さん!! 前っ!!」


その様子に美神は振り切れると見たが、横島の焦った声に前方を確認して僅かに目を見開いた。


「出口に鉄格子がっ!!」


横島の説明どおり、海に抜ける出口には鉄格子がしっかりと嵌っていた。


「まーかせて! ちゃーんとリモコンで開くように細工してあるんだから」


もちろん美神にぬかりは無く、用意しておいたリモコンを鉄格子に向け、カチとスイッチを入れた。


ピッという音ともに……なにも起こらない。


「あれ? あれ?」


なぜか疑問の声をあげる美神に横島たちの心に不安が満たされていく。


「でっ電池が切れてるっ!? 横島クン、単3電池とか持ってないっ!?」

「うわあああー!!」


とりあえず、横島には叫ぶ以外する事はなかった。




GS横島

 第四夜 その6 〜プリンス&プリンセス オブ ドラゴン〜 




ドゴォオオン


爆音とともに吹き飛んだ鉄格子。

爆発による煙のなかからボートが飛び出す。


「そなえあればうれいなしっ!! 私にぬかりはなくてよっ!!」

「電池さえありゃーそんなもん使わずにすんだっスよ!!」


悲鳴のような横島の声。


「それに……」

「どうせ壊すのであれば武器など無くても……」

『俺たちが壊しても良かったとおもうんだが……』

『お、おもうんだな』


横島の言葉に童女、童子、ヤーム、イームが同意する。

皆からの突っ込みに美神は何か言い返そうとして、ハッと上空を見上げた。

夜の海の上空。

宙に浮かぶ人影はゆっくりと手をかざすとボートに向けて力を放つ。

一直線にボートに向かって放たれた破壊の力が炸裂する。

爆音が宙に響いた。


爆煙から現れた、宙に浮かぶもう一つの人影。


「仏道を乱し、殿下達に仇なす者は、この小竜姫が許しません!!

私が来た以上、もはや往くことも退くこともかなわぬと心得よ!!」


剣をかざし、小竜姫は宙に浮かぶローブ姿の人物に相対する。


「小竜姫!!」

「しっ、しかもスカートをはいているっ!?」


童子と横島が驚きと喜びが混じった声をあげる。

微妙に意味が違う驚愕の声を背中で聞きつつ小竜姫は油断無く相手を見る。


「音にきこえた神剣の使い手……小竜姫。あんたも立派になったもんだね」


そんな小竜姫の様子に面白そうな声でローブの人物は告げる。


「私を知っている!? 竜族なのですか!? 何者です!! 名乗りなさい!!」


驚いた小竜姫の隙を突くように、ローブが小竜姫に視界を遮った。

遮られた視界の向こうからローブごと貫こうと繰り出される槍の一撃。

その奇襲ともいえる攻撃を、しかし小竜姫は素早く躱す。


「さすがにやるね、エリートなだけはある。でもね、そんなお上品な剣じゃあたしは倒せないよっ!!」


絶妙ともいえる攻撃を回避した小竜姫を前に、しかしローブを脱いだ魔物はニヤリと笑った。


『女……!?』

「しかもええちちしとるやないかっ!! 予想を上回るサイズだ!!」


相手の姿にヤームと横島が驚きの声をあげる。

もちろん驚いた内容は微妙にズレがあった。


「心配いらん!! 小竜姫が勝つに決まっておる!!」

「いや……かなり微妙だぞ。かなりええちちしとるうえに、年恰好は小竜姫さまと同じくらい。

ミニスカという武器が無ければ小竜姫さまにはツライ展開だっ!!」


童子の言葉に横島は小竜姫の不利を告げる。


「なんの勝ち負けを解説しとるかっ!!」


もちろんココで美神の拳でのツッコミはお約束だ。


『はい、これおみやげです』


そんな横島たちのいつもの様子に特に気にせず、おキヌがボートに現われた。


「ま……まーおいしそう……」


渡された『大阪名物』らしきお土産とおキヌのマイペースに気が抜けそうになるのを美神はこらえる。

小竜姫とおキヌが合流したとはいえ、状況が好転したとは言えないからだ。

背後からは大口の化物(ビッグ・イーター)が迫りつつある。


「こうなったら僕が……」

「ちょっと待て!」


飛び出そうとする童子に気付き横島は童子の肩を抑えて止める。


「離せ横島!」

「お前が言っても足手まといに成るだけだろう?

ここは大人しく俺たちと一緒に応援するのが一番だ」


諭すように、応援の大切さを説く横島に、だが童子は納得しない。


「僕は既に角が生え変わっている。もう大人だっ!!」

「どれ?」


童子の『大人宣言』に、横島はひょいと童子のズボンの前を引っ張ると確認する。


「まだだよな」


何故か一緒に覗き込んだおキヌと童女に横島が同意を求めると二人は微妙な表情で頷いた。


「角が生え変われば神通力がつかえる。小竜姫と二人ならば遅れはとらん!!」

「痛たたた……なにも殴らなくても……」

『いったーい』

「兄上……痛い」


童子の説明に俺たちは頭を押さえながら文句で答える。

まぁたしかに童女と比べて童子の角は形が違う。


「だからって危険には違いないだろう!? 小竜姫さまは童子をたちを守るために戦って――」


童子を説得しようとしていた横島は、ふと何かの気配に顔を上げた。


「なんだ!?」


見上げた夜空は既に陽が落ち星が見える。


「何……?」


気配に気付いて童子が顔を上に向ける。


「「上見るな!!」」


ずむっとばかりに2本の足が童子の顔面に着地する。


顔を上げるか上げないかの絶妙のタイミング。

きっと童子には何も見えなかっただろう。

手でスカートを抑えた二人の少女が落下のスピードと衝撃を全て童子の顔面に与えて、ふわりとボートに着地する。

そして顔に足型をつけた童子は、ふわりという感じでゆっくりとボートの縁まで移動すると、

縁に足を引っ掛け……ぼちゃんと落ちた。


「……って、落ちたー!? み、美神さん! バック、後退、戻ってください。童子が落ちたーっ!!」

え゛!? ってなんでひのめがココに!?」


背後の騒ぎに振り向いた美神が、ひのめの姿に少し驚きつつもボートを急旋回させる。


『で、殿下ーーっ!?』

『た、大変なんだな!!』


ヤームの叫びに、イームは童子に向かって腕を伸ばす。

と、波間に消えようとしている童子の足をかろうじて掴んだ。

が、急旋回を始めたボートの遠心力で童子を上手く引き寄せられない。

おかげで童子は身体半分を水中につけたまま宙吊りで引っ張られている状態だ。


「美神さん、童子が……」

「兄上……!!」

「し、仕方ないでしょ! そんなに急には方向転換できないのよ!!」


横島と童女の言葉に美神はなかば自棄になって答えた。






「あなたは……!! 竜族危険人物黒便覧はの5番!! 全国指名手配中、女蜴叉(メドーサ)!!」

「ほう、あたしを覚えていたのかい!! てっきり忘れられてると思ったよ」

「くっ……美神さん!! 殿下達を連れてここから離れて!!

彼女は邪悪な竜族の中でも……ってなんで戻って来ちゃうんですか!?

「しょーがないでしょ!! こっちも大変なんだから!」


大口の化物(ビッグ・イーター)も迫ってきている。

状況としては緊迫しているが、水上ではままならない。

結局大きく旋回して一周まわった形になった横島たちは、ようやく童子を引き上げた。


『殿下!? しっかりしてください!! 殿下!!』

『あ、あ、あ、た、大変なんだな』


見事におぼれて意識の無い童子に狼狽するヤームとイーム。

息はしているから溺れたというより気絶しているだけだろう。

結果、童子は飛び出さずに済んだわけだ。

役立たずが一人増えたともいえる。


『大阪でひのめちゃんとパピリオちゃんに会って……』

「それで今回のことを聞いて合流したって訳よ」


おキヌの言葉を引き継いでひのめが美神に簡単に説明する。

イームとヤームには美神がひのめとパピリオについて簡単に説明。

幸いな事にイームとヤームは大口の化物(ビッグ・イーター)相手が忙しく着地の瞬間は見ていなかったらしく、

童子が足を滑らせてという美神の言葉を素直に信じていた。

しっかりと目撃した童女は無言の美神の視線に沈黙した。

童子には悪いが、懸命な判断だと横島は思った。

もちろん横島に至っては見なかったことにしていた。

童子には気の毒だが。
















ま、間にあった?

夜:「今日はHP開設一周年であったな。どうりで……」

今日にUPするために頑張りましたよ?

夜:「まぁ必死だったのは貴様の形相を見れば理解できるな」

いやぁ、照れますね(笑

夜:「そして、ココしばらく更新が停滞していた事について……」

いやぁ、勘弁してください(泣

夜:「これから貴様の身にナニが起こるかは覚悟完了?」

……………(滝汗)

夜:「ま、先程までの貴様の必死の形相に応えて」

手加減して……

夜:「一撃葬り去って勘弁してくれよう」

一撃葬り去っての部分はツッコミ所ですか?

夜:「いや、貴様の死刑宣告なだけだ」

あー……宣告ですか。その手に光る凶器がいつにもまして禍々しく目に映りますよ(滝涙)

夜:「これか? ただのフライパンだぞ。まぁ前回にもまして更に灼熱させて真っ赤になっているが」

更にですか……

夜:「うむ! 夏本番に向けてアツくいこうとおもってな」

夏本番に更にアツいのは嫌だぁぁぁぁ(絶叫)




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