本編の番外的な位置……と言うより補足の続きです。
後編、横島の回想からスタートです。
GS横島十夜
番外4 シロタマの質問 〜蒼眼 後編〜
その頃の俺は自分の『眼』の能力を使い色々なモノを見ていた。
ある程度なら制御できる能力で練習代わりに街を歩きながら、様々なモノを視ていた。
俺の眼の能力の前には、街行く人々は裸の王様状態。
意識を集中すれば見えないものは、ほとんどなかった。
今でもそうだが、霊は霊能力がある程度なければ相手にするのは危険だ。
霊を視る練習とは、悪意ある霊を視て近づかないようにすること。
それは目的の一つだったが、あの頃の俺は、人に憑いているモノを視ることの方が面白かった。
―――人より多くのモノが見えるなら楽しまなければ損だ―――
それが自分の『視る』能力にたいする俺の結論だった。
だから、その日もいつもの様に夕刻から街をぶらついていた。
補導の心配はなかった。補導員が何処に居るのか、文字通り視えるのだから。
そんな俺に声を掛けて来た者が居た。声をかけられたときは正直驚いた。
俺は『眼』の能力もあって人の気配には敏感な筈だった。
が、相手の方が霊的な能力が高いのか、気づいた時には男は何故か塀の上に立って俺を見おろしていた。
俺の風下、夜の闇の中、塀の上に立つシルエット。
その姿は、頭に布を巻き、肩に上着を掛け、手に何かを持った男だった。
「少年よ、君は自らの能力に溺れて本当の力の意味を知らないようだね」
彼は言った。
力とは使うべき時にこそ使うものだと。
異性に興味を持つ事は良いことだが、それに力を使う事は正しい事ではないのだと。
何故、俺の能力を知っているのかとの俺の言葉を彼は笑って受け流し
「君の力を私が知っている事は重要な事ではない」と告げた。
「例えば、君の『眼』は多くの障害を排して目標を視ることが出来るのだろう?
だが、それは真の覗き能力の使い方ではないのだ。
多くの困難に打ち勝ち、辿り付いてこそ女体の神秘に触れる有り難さが解ると言うものなのだよ」
彼は真剣な眼差しで俺を見据え話し続ける。
「更に漢の浪漫と言うモノも、そこには含まれているのだ。
それは見えそで見えないモノ、一瞬の煌きであるチラリズムに然り、
衣装によって雰囲気・フェチズムが刺激されるコスプレに然り。
女性が恥らいながら……あるいは大胆に脱いでいく様は、漢心に熱いモノが込み上げてくるというもの。
ところが、能力によって裸体の直接観賞など……羨ましい無粋にも程がある。
数多の試練、苦難を努力によって乗り越え打ち勝ってこそ、真の勝利を掴む事が出来るのだ。
それこそが真の漢の生き様というものだよ」
そう言って彼は俺に、漢の道を説き出した――。
どのくらい話を聞いていたのだろうか。遠くの方から誰かを呼ぶ声が聞こえて――。
「センセー……何処行っちゃったのかしら? 定例会で教会関係者と揉めたからって自棄になって……」
「む! いかん。美智恵くんか……帰らねば。さらばだ!」
遠くから聞こえてくる女の人の声に塀の上に立つ漢は何事か小さく呟くと、
俺に漢の道を説き終わって夜の闇に消えていった。
「先生、何処行ってたんですか。心配しましたよ」
「いやー済まない、美智恵くん。少し飲みすぎたようだ……」
遠くで話し声が聞こえたけれど、俺の耳には漢の生き様と言う言葉だけが響いていた。
「てな訳で、それから能力をそう言う事に使う事は控えたって訳だ」
話し終わった俺は、シロタマ、ピート、そして唐巣神父に目を向ける。
急遽、美智恵さんからの仕事の連絡で唐巣神父の教会で待ち合わせる事になった俺。
シロタマの希望もあり、二人を連れて教会まで行き、中途になった話を礼拝堂でピート達にも聞かせていた。
「漢の道ですか……(何か間違っているような気が……)」
額に汗を浮かべながらピートが微妙な顔で呟く。
「他にもセイギ無き能力は暴力だが、能力なきセイギは無力なりとか……他にも色々……な」
俺は言葉と共にあのときの事を思い浮かべた。
「その人が先生の先生でござるか?」
「先生っていうか……まぁ、あの頃の俺に影響を与えた人では有るな」
シロの質問に横島は少し考えて答える。
「で、どんな人だったの?」
タマモの質問に、いつの間にか用意されていた紙を受け取って俺はペンを走らせた。
「たしか……こんなだったかな?」
俺が紙にその人物の姿を描いて皆に見せる。
「これが、その人なの?」
「せんせい……この人でござるか……?」
「僕には、酔っ払いの男が頭にネクタイを巻いて肩に上着を掛け手に手土産をブラ提げているように見えますが……」
俺の描いた絵を見てシロタマ、ピートが微妙な表情と声で感想を述べる。
「しょーがないだろう? 絵は得意じゃないし、昔の事だし、よく覚えてねーんだから」
俺は苦笑しながら、そう言うしかなかった。
「あれ、唐巣先生? どうされたんですか? 顔色が悪いですよ」
ピートの声に振り向くと、唐巣神父は顔中に汗を浮かべながら固まっていた。
「どーしたんすか、大丈夫っスか?」
俺の声に、唐巣神父は固まった表情をぎこちなく動かし辛うじて笑みらしきものを作る。
「な……なんでもないよ、うん。気にしないでくれたまえ」
そういってギクシャクした動きで礼拝堂を去っていった。
俺達は顔に疑問符を貼り付けたまま神父の後姿を見送った。
「なんか変じゃなかった?」
「妙に焦ってたみたいでござるよ?」
神父の様子に首を傾げるタマモとシロ。
「どうされたんでしょうか?」
「俺の話に何か……」
心配そうなピートと話の中に神父が気にするような事があったのかと考え込む俺。
口々に言い合う俺達の耳に来客を告げる車の排気音が響き、俺達の話はそこで終わった。
この話は横島君の過去の話であり、決して某神父の恥ずかしい過去では有りません(笑)
いかがだったでしょうか? 半分勢いで書いた作品なので少し甘いかも知れませんが……
時間的には第三夜その6と、その7の間になります。