時間的には第二夜その6の最後、西条が無事に生還後、第三夜妙神山後ぐらい。

一応番外4あたりで退院してますから、その前の話です。

とりあえず、今回頑張って西条が主役の話を……。




GS横島

 番外6 〜西条の呟き 前編〜




白い天井。

白い壁。

白いシーツ。

白井総合病院。

僕の名は西条輝彦。

今、入院患者としてココに居る。


「さいじょーさん、またお見舞いの品が届いたよ」

「ありがとうございます。そこに置いといてください」


すこし東北訛りのある中年看護婦が、幾つかの包みを持って入室してくる。

手に持った包みは僕宛の見舞い品だ。

看護婦は僕の返事に、それを持って壁際に運ぶ。

そこには既に幾つかの見舞い品が積まれていた。


「さいじょーさん、モテモテだねぇ」

「いやぁ、それほどでもないですよ」


僕は看護婦に謙遜してみせると視線を天井に向けた。

看護婦は特に気にした風も無く部屋から出て行く。

静かになった病室に時計の針の音だけが響く。


僕以外、誰も居ない部屋。

僕以外、誰も来ない部屋。

僕以外、僕を見る者が居ない場所。


ココに居る事が不愉快だった。

ココに居る事が不可解だった。

ココに居る事が理不尽だった。


「なぜ僕が入院しなければいけないんだ……」


おもわず口から漏れる思い。

そのセリフに4年前の記憶が蘇った。

そう、確かアレも今頃だった――。




僕が中学2年の初夏。

その頃の僕の人生は順風満帆だった。

高貴な家柄に生まれた僕は、家柄に相応しい気品と知性を兼ね備え、更に霊能力まで有していた。

自分で言うのもなんだが、そんな家柄に生まれていても僕は平凡な家庭の子供を差別せず、

貴族ノーブルらしく対等に接し人柄も良いとの評判だった。

その頃、『西条輝彦』と言えば文武両道成績優秀才色兼備と褒め称えられる者の代名詞だった程だ。

当然、彼女の一人や二人どころかファンクラブまで有り、デートに追われる日々を過ごしていた。

そんな完璧な僕にも気になることがあった。

僕の一歳下、尊敬する美神美智恵先生の娘、美神令子くんの事だ。

妹の様に思っていた彼女だが、美しく成長する兆しが見え始め、僕としても異性として気になり始めた頃。

中学生になった頃から急に荒れ始めた。

なにが有ったのか判らないが、長く伸ばしていた髪を切り、まるで不良のような態度をとり始めたのだ。

僕としては彼女が間違った道を歩まぬよう注意したのだが上手くいかなかった。

彼女の母親、僕の霊能力の先生でもある美智恵先生は忙しく出張しがちだが、月に一度は娘の為に帰って来る。

僕はその日、美智恵さんに相談すべく彼女の家に向ったのだ。

だが、そこに居たのは横島十夜という得体の知れないどこの馬の骨とも知れぬ少年だった。

赤いバンダナをしたTシャツにジーンズの服装、特に特徴らしい特徴のない容姿の少年。

初めて会った時なぜか僕は、この平凡な家庭に生まれただろう少年が気に入らなかった。

だが、貴族としての教育が行き届いた僕は、表面上はにこやかに彼に対して礼儀正しく振舞った。

それなのに――。


「僕の名前は西条、西条輝彦。令子ちゃんの先輩だ。

今日は妹の様に思っている令子ちゃんの事で美智恵さんに相談が有って……」

「あ、その事なんだけど、令子の事はもう大丈夫よ。明日からマシになるはずだから」


珍しく美智恵先生が割り込んできた。

人の挨拶の途中に割り込むなんて、いつもの先生じゃないみたいだ。

そんな事を考えながら、僕は挨拶も返さない少年に目を向ける……居ない?


「……あ〜帰って良いっスか?」


玄関に移動して靴を履こうとしている少年が先生に声をかける。

無視された事、侮辱された事への怒りが瞬時に僕の内に満ちる。


「きみ……」

「ごめんなさい、横島君。もう少し令子の相手してやってくれる?

あの子ったら照れちゃって……ホント素直じゃないんだから……」


先生のセリフに僕の声と激昂が途切れる。

この少年が? 令子ちゃんを? どうやって? なんで? どうして?

そんな疑問が頭の中を渦巻き固まる僕の前を通り過ぎ――横島と呼ばれた――少年は奥の部屋に向った。


「……ああ、西条君。今日はわざわざ有難う。そう言う事だから心配しないで」

「あ……あの……」

動揺していた僕は上手く言葉が出なかった。が、先生には僕の視線で言いたいことは伝わった。


「え……あぁ、あの子ね。横島君、横島十夜君。君の2つ下、小学6年生よ。

この前こっちに引っ越して来た所なんだけど……」

「なんで……令子ちゃん……」


あの令子ちゃんが、ただの知り合いに会っただけで変わるわけが……。


「横島君、昔こっちに住んでた事があってね。幼稚園で令子と一緒だったの。

事情があって引っ越しちゃったんだけど、令子とは仲が良かったみたい。

あの子横島君が居なくなってから暫く元気が無かったから」


幼稚園の頃の友達。そんな奴がなんで今頃?

なぜ令子ちゃんはあんな平凡そうで顔もパッとしない少年を?

そんな思考が僕の中で渦巻く。

勿論表情かおには出さず、折角来たんだからと先生に入れてもらった紅茶を戴きながら

令子ちゃんと横島(既に呼び捨て)の事を考えていた。


ピンポーン


来客を告げる電子音が鳴り、先生が玄関に向う。


「あら、いらっしゃい。迎えに来たの?」


先生の声に顔を向けた僕は、玄関口の少女を見て少し目を見張る。

そこに立っていた少女は令子ちゃんに勝るとも劣らない美少女だったからだ。


「……そう。兄さまは……?」


その美少女は静かな声音で先生に横島の事を尋ねる。

顔立ちをみれば血縁関係にある筈がないと僕の直感が教えてくれる。

そして『兄さま』という呼びかけに含まれるモノも。

なんであんなに可愛い娘があんな奴の事を……?


「ちょっと待ってね……あ、横島君?」


先生の声に目を向けると、いつの間に近づいたのか、横島が僕の横を通り過ぎるところだった。

気付かなかった自分と気付かせなかった横島に愕然とする僕。

少なくとも素人の気配をつかめない筈は無いのに!?


「……西条って言ったっけ」


呆然としている僕に横島君(ちょっと見直したので君付け)が思い出したように振り返る。


「……あぁ、横島君だったね。先生――美智恵先生から聞いたよ。令子ちゃんの友達だったんだろう。僕は……」

「チャック開いてるぞ」

「へ?」


言われた僕は一瞬何の事か判らず間抜けな顔のまま固まってしまった。

横島君は一言告げると何も無かったかのように歩き去った。

僕は言われた事を反芻し、ゆっくりと視線を下に向ける。


「………………」


じーーー


僕は無言で素早くチャックを引き上げた。


「おのれ……横島クン……この借りは必ず!!」


どうしようもない怒りが僕に込み上げた。

それから数日後の事だ。

僕は令子ちゃんが先生の手伝いをするようになった事を知った。

もともと霊能力者としての素質は十分にあった令子ちゃんは直ぐに力の使い方を覚え、どんどん上達していった。

僕もオカルトGメンのバイトで令子ちゃんと共に居られる事が嬉しかった……のに。


「横島君が令子ちゃんの助手!?」


先生の言葉に内心の動揺を隠し、先生に尋ねる。


「そう……ま、私の助手が令子だから横島君は、その手伝いって所かしら」


先生の言葉に僕は不快感を隠しながら、気になっていることを尋ねてみた。


「横島君は霊能力が有るのですか?」


この場合の霊能力の有無は『役に立つレベルの霊能力』という意味だ。

有っても無くても一緒のレベルでは足手まといになりかねない。


「今のところ素人ね。まぁ……横島君の場合、霊能力なんて関係無いんだけど

……私としては令子の側に居てくれれば荷物持ちでも構わない訳だし……あの子の能力を考えれば……

「……先生?」


小さく呟く先生に不思議に思ったが、ソレを尋ねる前に先生が言った言葉が僕を驚かせた。


「潜在能力は高いと思うの。だから横島君を私が霊力開発特訓してあげようかと思って」

「先生が特訓ですか!? そんな価値が……いえ、それ程の能力が有るって言うんですか!?」


先生の言葉に少し表に動揺を出してしまう僕。

僕も訓練は受けた事があるが、先生の指導は的確で素晴らしいものだった。

その先生の特訓なのだ。僕も受けた事は無いが、噂ではかなり凄いらしい。

かなり素晴らしいモノの筈だ。それを……!!


「今度のゴールデンウィークにしようと思ってるから……」

「先生! 僕も……」

「あら、西条君は駄目よ。君は……」

「僕じゃ力不足だって言うんですか!?」


横島君に僕が劣るなんて考えられない。

顔も背も成績も家柄も財力も付き合った女性の数も僕が彼に劣るところは無い(調査済み)。なのに……


「そうじゃないのよ。彼、霊力は有ると思うんだけど表に出てないのよ。

つまり切っ掛けが必要だと思うの。今回はソレ用に用意したから西条君には役に立たないと思うわ」

「………………」


納得しかねる思いが顔に出たのだろう。

先生は笑って今度、訓練を見てくれる約束をしてくれた。

それでも僕は納得できなかった。

だから……。



















長くなったので分けました。

続きは近日UP予定……できるといいなぁ(爆)

この時点では、未だ西条救済の筈なんですが……

結果は見てのお楽しみという事で……




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