本編補足、西条が主役。

前半の続きです。




GS横島

 番外6 〜西条の呟き 後編〜




朝靄あさもやが煙る、とある山中。

ゴールデンウィークの早朝、僕は山の中に居た。

もちろん横島君がどんな特訓をしているかが気になった。

……のではなく先生がどんな特訓を横島君にするのかが見たかった為だ。

けっして横島君が気になったのではない。

僕は彼を認めていないのだから――。




少し離れた場所に先生と横島君が見える。

そして光に透かすと深い蒼にも見える髪の少女、優華が山肌の洞窟の前に居た。

先生の話す声が集音器(持参しました)越しに聴こえる。


「ココから入ってふもとの出口がゴールよ。その間にある罠を潜り抜ければいいの」

「……いざとなったら……ルシオラ……待機してる」


よく聞こえなかったが、洞窟内にはルシオラ?が待機しているらしい。

先生と優華の言葉に横島君が静かに頷くのが見えた。


「ほう……素人にしては度胸があるな」


横島君の態度に見直した僕は思わず呟きをもらす。だが――


「ん〜んんんっ! むぅーんん、んんんんぐぅーっ!!」


よく見ると……簀巻すまき? 猿轡さるぐつわ? 何故あんな格好を? 特訓の為?


「じゃ、死なないようにね♪」

「……兄さま……頑張って……」

「フンガぁーっ!!」


げしっ


僕の中に疑問が渦巻く中、横島君が蹴り込まれるように洞窟の中に入っていく。

横島君が入った事を確認した先生達は、麓に向って歩いて行った。

先生達の姿が見えなくなるまで待つと、僕は素早く辺りを見回す。

そして素早く移動、洞窟の入口を覗き込む。

中は暗く、覗き込んでも奥が見えない。

横島君の姿は既に無く、黒一色のような暗闇だけが見えるだけだ。

僕は懐中電灯を持って来なかった事を悔やみながら一歩、足を前に踏み出した。
















……筈の地面が無かった。


「うわゎわぉわぉぉぉぉ!!」


まるで映画の中に有りそうなスライダーのような洞窟を滑り落ち――

気がつくと僕は真っ暗な闇の中に座り込んでいた。

身体のアチコチが痛むが、大した事は無さそうだ。

こんな時は慌てる方が危険だ。僕は冷静に考える。

暫く動かずに居ると辺りの闇に目が慣れて来る。

洞窟のようだ。ひんやりとした空気が漂っている。

落ち着いて辺りを見回すと僅かに壁が光っているように見える。

それに何かが引き摺ったような痕……多分横島君だろう。

この暗闇の中、あの格好でどうやって移動したのか……不思議に思ったが、今は進む事を考えよう。

耳を澄ませば横島君らしい叫び声と何かが擦れるような叩きつけられるような音が聞えてくる。

僕は横島君の痕を追い慎重に歩き出した。






洞窟内であった事は良く覚えては居ない。

一歩歩くたびに、小石、岩石、矢、槍、腐った卵、パイなどが飛んできて。

何かが足に掛かったと気付いた時には頭上から小石、岩石、腐りすぎて別のモノに変わった卵、

油瓶、ヤカン、たらい、一斗缶が落ちてきた。

巨大な岩石が転がり落ちてきたり、

落とし穴槍衾やりぶすま付が待ち構えていたり、

通路に油が引いてあり足を踏み入れると直ぐに引火したり。

壁から槍が飛び出したり、跳ね飛ばされたり、ガスが噴出したり、水の中に落ちたり、電気で感電したり……

断片的な記憶は全て地獄のような光景しかない。

そんな場所で、横島君が簀巻き状態のまま、仕掛けられた罠を回避しているのが見えた。

ようやく横島君に追いついたと思った時、横から丸太やら石像やら押し寄せてきて――

ソレが僕が憶えている、洞窟内での最後の光景だった。






気がつくと僕は白井総合病院にいた。

這いずって山から降りて来た所を村人に保護されたのだという。

無意識の内に人の居る所に行こうとしたんだろう。

意識を取り戻した時には1週間が過ぎていた。

あとで聞いた話では少し前まで集中治療室にいて絶対安静だったそうだ。

入院期間は3ヶ月。幸いな事に後遺症は無いらしい。

意識を取り戻した僕は、家族や色々な人に怪我の原因を聞かれたが何も答えなかった。

なぜなら、横島君は入院どころか病院にさえ行って無いらしい。

怪我はしたらしいが家庭に常備している救急箱で直る程度だったというのだ。

この僕が横島君と同じ所に入りながら、僕だけが入院しているという事実。

それを他者に話すという事は僕が横島君に劣ると言う事を公言する事に他ならない。

そんな事をするぐらいなら死んだ方がマシだ。

僕のプライド、自信、築き上げて来たモノ、それ以上に僕にとって大切な何かが失われる。

それに比べたら多少奇妙な目で見られても黙秘を続ける方がいい。


僕にとって幸いな事にそれ以上の追求は無かった。

普段の行いが良い所為だろう。横島君ではこうは行かないだろうが。

僕は病院のベッドで横島君の活動報告書に目を通しながらそんな事を考える。

あの特訓(あえてそう言おう)を受けながら横島君は霊力開発が進まなかったらしい。

ただし身体的能力が高い為、令子ちゃんの荷物持ちとして側に居るとの事だ。

僕は動かぬ体を見つめながら考えた。

僕が彼に劣っているとは考えられないが、今の自分を鍛えなおす必要が有る事も事実だ。

今の自分に必要なもの――。


「経験と幅広い知識……」


呟いて考える。

あの死地特訓の御陰で僕の霊力は飛躍的に上昇していた。

おそらく死を垣間見た所為だろう。

感覚的にはプロのGSレベルは有るんじゃないだろうか。

多分GS資格試験も簡単にパス出来るだろう。

だが、今の僕に必要なのはGS資格じゃない。

多くの知識……そう、例えば魔術知識なんていいかも知れない。

僕は素早く脳内のアドレスから英国の知り合いをピックアップする。

向うは日本とは違った魔法技術体系がありオカルト事件も多くある。

僕が修行するには好条件だ。紳士の国でもある所も気に入った。

そして僕は頭に浮かんだ思い付きを実行に移すべく病院のベッドの上で計画を練り始めた。


そして僕は英国に留学という形で滞在した。

勿論多くの女性と親しくなった身持ちの硬い子は駄目だったが、オカルト関係の友人も多く出来た。

当然、僕もGSとしての修行を積み2年後、日本に帰国。

学年的には1年遅れてしまったが中学3年でGS資格を取得、そのままオカG見習いとして採用された。

そして学年が同じになった令子ちゃんと同じ六道学園に入学した。

まさかアノ横島君が六道学園の、しかも一般科に入学出来るとは思わなかったが。


「夏前の調査では、横島君の学力ではオカルト科でも入学できなかった筈だ。

先生の推薦状は断った筈だし……六道学園の事を考えると不正な手段で入学したとは考えられん。不可思議だ」


余りの不可解さを思い出し、口に出して呟いてしまった。

過去の回想から帰ってきた僕は苦笑しつつ考える。

今でも思う。

今でも僕が彼に劣っているとは考えられない……と。

見舞いの品の中に『美神美智恵&美神令子』のメッセージカードを見つけ微かに笑う。


「やっぱりこれは何かの間違いだ。偶々、不運な事故だ。令子ちゃんも僕の事を気にしてくれてる」


西条は2週間後の退院の日を思い溜め息をつく。


「まだ、勝負はこれからだ。最期最後に笑うのは僕だよ、横島君」


静かに告げる声と引き締まった横顔には不屈の闘志と自信が溢れていた。


「さいじょうさん、尿瓶しびんもってきたよぉ」


看護婦入室……カッコイイの台無し。











注意

この話は西条を救済する予定の話ですが最後まで判りません。

少しでも西条がいぢめられるのは嫌だという方は見ない方が良いです。


って付けるのを忘れた(嘘)

ネタバレになりそうなのであえて……西条ファンの方すみません。

私には西条救済は無理でした。

一応、西条の能力と人気の高さを出そうかなっと考えてたんですが……

いつか、活躍させられたらなぁ……とは思ってるんですよ。ホントですよ。

……これ以上は墓穴掘りそうなので……




【オチ】


しかし西条は気付かない。

西条の退院後、一人の少年が念の為の検査入院の為にココに来た事を。

そして、僅か1日の入院にも関わらず、大勢の人数が見舞いに来てくれた事を。

もちろん、美神親子3人、優華、ルシオラさん家の3姉妹、タマモ、シロは言うに及ばず、

ピート、タイガー、雪之丞、クラスメート男子と、男子に誘われたという建前で数名の女子が来た事を。

もちろん、六道冥子、小笠原エミが来て、美神相手に一悶着起りかけたのはご愛嬌。

もちろん西条は知らない。

『メッセージカード』や『お見舞いの品』だけが送られて来た自分との違いを(涙)




とどめさしちゃった……てへ♪




続く     戻る     目次